本日はこういう席に、お招きをいただきまして、たいへん光栄に存じます。なにぶん、初めてのことでございますので、ずいぶんとんちんかんなことや、とんでもないことを口走るんじゃないかと、われながらはらはらどきどき心配いたしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
まず、彦坂さんとはもう10年ほどおつきあいいただいておりますけれども、まとめて短歌作品に接しましたのは今回が初めてでございます。
『yoyo』という雑誌の中に短歌を発表されておられたはずなんですが、記憶にない。だいたい『yoyo』の最新号がきても自分の作品に誤植がないかどうか確認したら、あとはつんどく。というわけで、たいへんいいかげんでサイテーな読者であります。
最後まで通して読みまして、しまった、これはあたしの好みじゃない、と。
好みじゃない、というのはフェアじゃない表現だと思いますから、言い変えますと……。ポテトサラダが出てきました。とてもおいしいです。ハムもロースハムのいいものだし、きゅうりもおいしいし、ゆでたまごやたまねぎのみじん切りもちゃんと入ってる、おっ、なんだこれは、りんごの刻んだのが入ってるー。うー、絵に描いたようにいちょう切りになっているー。これはちょっと困ったぞっていう感じなんですね。
へんなたとえですが、人によってはりんご入ってようがピーマン入ってようが、全然気にならないでしょうね、そういう感じ。
それで、この歌集の中に入ってた刻んだりんごは何か、と申しますと、3つありまして、まずカタカナが多い。いやもう、この歌集はカタカナがキーワードだっちゅーのに、われながら無謀な発言をしております。
つぎに、「ですます」がわたくし、苦手ですね。さいごに、字足らず、が受け入れがたいと、彦坂さんがわざわざ、表現手段として選んでこられたのに、ポテトサラダのりんご扱いをしてまことに申し訳ありません。
それでは、サラダにりんごの刻んだのが入ってた問題はいったん、冷蔵庫の中にしまいまして、今回はこの『白のトライアングル』をまるごと一編の「愛の物語」として読みすすめてまいりたいと考えました。
これはまた、のちほどということで、とりあえずごあいさつの部は、ここまでにいたします。
カタカナで書いていいのは『戦艦大和ノ最期』と原民喜『夏の花』の中の『コレガ人間ナノデス』『ギラギラノ破片ヤ』一連のあのたぐい、と。じゃあ、最近でもSMAP『夜空ノムコウ』ミスチル『ニシヘヒガシヘ』はどうなるんだ? ううん、困ったな、あれはあれで今風って感じがするんですね。
ですます、と字足らずについてははせっかく定型のわくがあるのに、どうしてこうなっちゃうのかな、ってことですね。でもご本人はこれが必然です、とおっしゃるので、ははーっとひれふすばかりですね。
字足らずのかたちが5・7・5・7・5であるものが多い。これは何か次ぎにまだまだ続いていく感じがします。そういう必然なんだろうな。
自分の詩集のはなしで恐縮ですが『三角たまごのラブソング』というのですね。ほとんど姉妹関係にある、彦坂さんをおねえさんと呼ばせていただきたい。
「愛の物語」=『白のトライアングル』として読んだ場合
いささか、ワイドショー的に恋愛対象を探ってみようというこころみ
苦しい恋をしていらっしゃる、これを共有する楽しさ
恋をしている相手のかたはどんな男性か。
手が冷たい、やせていて長身、年下、二人で御茶ノ水周辺を散歩した、二コライ堂
リトグラフが好き、二人で画廊や美術館によく行く観念的な歌が多い。頭の中だけで組み立てただけでは、読んでてつまらない
もしや、この中にこの愛の対象となられるおかたがいると楽しい。
あやうい歌を発表するのにはいじわるな楽しみがある。他人がどう読むかを自分はうふふふって笑ってごまかしながら、ひそかに楽しむという趣向。
これには共通点があってよくわかる。
さいしょに「いやあ、やられちゃいましたねー」と電話で申し上げたところ
「あらうれしいわ」っておっしゃったんです。 彦坂さんの……