『・・・はぅ、ただいま・・・』 お帰りなさ・・・ 『エアメールでぇす』 『・・・・・どぅも(^^;;』 こんな遅くに大変ですねぇ(^^;;
ご主人さまの帰宅とほぼ同時に配達された一通のエアメール・・・。
『・・・・・エ、エアメール・・・なんだよな?』 そうですね。
『・・・・・・・だ、誰からかな・・・?』 封筒に『 from yui 』 って書いてあるじゃないですか(^^;;
『・・・・・・・・・な、中身もヨコ文字だったらどうしよぅ・・・』 いいから早く開けて下さいよっ。 『・・・・・・はい(^^;;』
|
|
お兄ちゃん、お元気ですか? …って、まだ一週間しか
経っていないんだよね。
私のロンドン生活もいよいよスタートです。こちらのお
父さんとも、やっと照れずに話ができるようになってきま
した。音楽院での勉強はさすがに大変なんだけど、ここま
で来た以上、最後までガンバって、お母さんとの約束を果
たしたいなと思っているところです…。
あのね、今だから言えるけど…お兄ちゃんと暮らしたあ
のお家での思い出は唯の一生の宝物です。エヘ…ちょっと
かっこつけすぎかな?
それと、ビックニュースだよ! こっちのお父さんの話
だと、ちょうど1年くらい経った頃、日本に戻る予定があ
るんだって! エヘヘ!
そしたら唯、お兄ちゃんに逢いに行ってもいい? …駄
目だっていってもいくからね!
それまでにバイオリンの腕を磨いて、それからレディー
してのマナーも少しは身に付けて、それからちょっとダイ
エットもして、それから、それから…、とにかくお兄ちゃ
んをビックリさせるような素敵な女の子になって、登場す
るからね! 早くその日が来ないかなぁ…。もう、一年が
百年に思えちゃうよ。お兄ちゃんはどう?
唯とお兄ちゃん、今は離れ離れだけど、同じ気持ちで2
人で過ごす一年間なら、きっとあっという間だよね。お兄
ちゃん、ゆいの帰りをきっときっと待っててね。約束だよ。
こっちで撮ってもらった写真、ちょっと恥ずかしいけど、
一緒に入れておきます。時々、話しかけて下さい。唯がく
じけないように…。
P.S.
お兄ちゃんが最後に言ってくれた言葉、唯の心の中にい
つも聞こえてきます。
唯のたった一人の、大切な大切なお兄ちゃんへ …唯
|
|
手紙と一緒に入っていたのは、髪をおろして、すました顔でバイオリンを弾いているゆいお嬢さまの写真でした。
『元気にやっているみたいだな・・・』 そうですね。
『1年後か・・・・・・・・。その日が来るのが楽しみだな(^^)』 ご主人さまも、それまでに少しはまともな人間になっておかないといけませんね(^^;;
『あぁ・・・(T_T)』 あら(^^;;
そんなワケで、永らく続けてまいりました『ゆいお嬢さまの観察日誌』ですが、とりあえず、ひとまず、これで更新はお休みになります。
書き漏らしがあったり、更新が遅れたり、妄想が入りまくっていたり(^^;; と、しょうもない日誌でしたが、続けて来られたのも、偏に読んで下さっていた方々、感想等を送って下さった方々のおかげです。本当にありがとうございました。
・・・ではまたいつか、その日まで。・・・・・お疲れさまでした。
あれ? ご主人さま、なにウロウロしてるんですか? 『・・・あ、ロザリー。・・・ゆいがいないんだよ。しらないか?』 ・・・え?
『あ、わかった。きっと、かくれんぼでもしてるつもりなんだな。ふふふ、よぉし、まってろよぉ、ゆいぃ。おにいちゃんがすぐにみつけてあげるからね、ふふ、くふふふふふ・・・』 ・・・・・・・・・・・。(汗)
・・・とうとうホントに壊れたようです。
『まてまて、冗談だ、冗談っ。・・・突っ込んでくれないと困るじゃないか(^^;;』 ・・・冗談には見えませんでしたが。 『何故かリビングにクリスマスツリーが飾ってあったからね、ちょっと遊んでみただけだよ(^^;;』
いったい誰が飾ったんでしょうか(^^;;
なんだかさみしくなってしまいましたね。 『・・・あぁ。ほぼ日課になっていた事がいきなり無くなってしまったからな。なんと言っていいのか・・・、喪失感も大きいが、実は開放感も感じていたりする(^^;;』
あはは・・・(^^;; まぁ、無事完結して良かったじゃないですか。 『まぁな、途中で家出されて終了するケースもあるらしいからな(^^;;』
山村さんのトコロですか(^^;; 『まったく、ヒドイ話だ・・・。そもそも、ある程度山村さんのHPと進行をリンクさせながら進めて行くはずだったのに・・・(T_T)』
いったいどんな非道いことをしたんでしょうね(怒)。 『まてまて(^^;; 直接的な原因はマシントラブルらしいぞ。・・・まぁ、その前から多少やる気が失せていたみたいだがな(^^;; でも、ウチも充分日誌が滞りがちだったり、バナーをつくる約束破ったり(笑)で、全然人のことは言えない状態だけどね(^^;;』
はぁ(溜息)、もぅ日誌は勘弁して欲しいです・・・(T_T) 『ははは、大丈夫。リトラバ3rdの予定は、今のところ無いみたいだから(^^)』
・・・あったら、また始める気なんですか、ひょっとして(^^;;;;
ゆいお嬢さまが出て行かれて、その存在がいかに大きかったかをいまさらながら痛感しているご主人さま。 『・・・・・ゆいぃ(T_T)』 結局後悔してるんですよね(^^;;
ですが今日は、誰もいなくなったゆいお嬢さまのお部屋から、置き手紙を見つけていました・・・。
|
|
親愛なるお兄ちゃんへ
こんな手紙を残して行くことになるとは思っても見なかっ
たけど…唯は、唯なりに思ったことをお兄ちゃんに向けて
書いてみることで…
ダメだ、うまく書けないや。お兄ちゃんに会って、いつ
もみたいに話せばイイんだけど、今の気持ちのままじゃ、
きっと泣き出しちゃってちゃんと話せないだろうから、こ
うやって手紙にしてみます。これでも一晩、寝ないで考え
たんだよ!
まず、1年間、本当にお世話になりました。心から”あ
りがとう”って、たくさんの思い出を一緒につくってくれ
て”ありがとう”って、言わせてください−
オドオドしてた見ず知らずの唯を、お家に引き取ってく
れて、あのおじさんから引き離してくれた…
警察やお役所回りでつかれてた唯のこと、なだめたり、
はげましてくれた…
部活のことで悩んだり、落ち込んだりしてたとき、お兄
ちゃんが優しいアドバイスをくれたから唯がんばれた…
イジメ問題で悩んでたときも、お兄ちゃんが待ってるこ
のお家に帰ってこれるんだから大丈夫って、なんとか乗り
きれたんだと思う…
バイオリンのことや家族がいないってことでクヨクヨし
ちゃったときも、お兄ちゃんが話しかけてくれた、ほっと
する一言に、ずいぶん救われたてたんだ…
教育実習の竹内先生のことでハシャいでた唯のこと、あ
のときはちょっとうざったいなぁなんて思ってなかった?
唯ね、ほんとはちょっとお兄ちゃんにヤキモチ焼いても
らいたかったんだ…
実は夏休み、反町君のお家のファミレスでアルバイトし
てたんだ。お兄ちゃんには内緒にしてました。ごめんなさ
い。正直に言ったら許してもらえたんだろうけど、でも、
余計な心配、かけたくなかったの…嘘ついてごめんね。
そういえば学校では森川さんてコが中絶したこともあっ
たんだ。唯はあの頃、ものすごく精神が不安定になっちゃっ
てて…お兄ちゃんにも、きっとイヤなこと言ったり、変な
態度とったりしたと思う。決して、お兄ちゃんのことがい
やだったというわけではなかったの。いまだから言えるけ
ど…
関川君に告白されたときも、唯、ヘンな感じだったと思
う。
お兄ちゃんには恥ずかしくって言えなかったんだけど、
あの頃は男女の友情とか恋愛感情の事とか、そんなことばっ
かり聞いてなかった? 唯、ちょっと悩んじゃってたんだ。
文化祭のときはタコ焼きにハマッちゃって、一度、作っ
てあげたかったな。唯のタコ焼き、オイシーんだから…
マラソン大会のときは、ユキちゃんといろいろあって、
唯、ちょっとふさぎこんでたんだ…あの時も、唯一人では
立ち直れなかったと思う。お兄ちゃんがいてくれてよかっ
た。
バレンタインのときはたいへんだったんだよ… お兄ちゃ
んにはあんまり話せなかったけど、いろいろあって…へ
へ。
それと…唯が作ったチョコ美味しかった?
合唱コンクールのとき、唯なんかがみんなをリードして
ガンバれたのも、お兄ちゃんに褒めてもらいたかったから。
ちょっとでもイイところ、みせたかったからなんだ…
先パイが卒業するときもいろいろ相談しちゃったけど、
唯、ホントはお兄ちゃんに気にしてもらいたかったんだ…
もっと唯のこと、見て!唯のこと、好きになって!って思っ
てたんだよ…
−−本当にいろんなことがあったんだね、お兄ちゃん。
たった1年という時間だったのに、唯は、お兄ちゃんのお
かげで少しだけ大人になれたような気がします。唯、わかっ
たんだ。お兄ちゃんは、ワザとあんなこと、言ってくれた
んだって。思い上がりだったら恥ずかしいけど、でも、そ
うだよね? 初めて会ったときの、オドオドしてた唯だっ
たら、きっといつまでもお兄ちゃんに甘えっぱなしだった
かもしれないけど、ずっと一緒にいたがったかもしれない
けど、唯はもう、抱えきれないくらいの素敵な思い出いっ
ぱいもらったんだから…それを持って、明日からは自分の
足で歩いてみようと思います。唯がんばってみるよ!
そして、ありがとう…。 遠いイギリスの空の下で心細
くなっちゃうといけないから、お兄ちゃん、私のこと、唯
のこと、絶対忘れないで…またいつか、ここに帰ってきて
もいいですか? お兄ちゃん、唯のこときっと待っててく
れると思うからさよならは言いません。大好きなお兄ちゃ
んへ…
P.S. お兄ちゃんとの思い出に、唯の大好きなこのお家で
撮った写真、置いていきます。
| |
『・・・・・はぅ(T_T)』 ・・・やっぱり解っていたみたいですね、・・・良かったじゃないですか。
『まぁ、自らそう仕向けたとはいえ、あのままでは救いが無さ過ぎるもんな・・・。ちょっとだけ気が楽になったよ・・・。でもなぁ・・・(T_T)』
手紙を何度も読み返して、深い溜息をつくご主人さま。・・・それにしても、ご主人さまが一人で騒いでいるだけかと思っていたのですが、思いの外結構想われていたんですね(^^;;
夕べはご主人さまもゆいお嬢さまも、かなり遅くまで起きていたみたいです。私も、なかなか寝付けませんでした。今日で、ゆいお嬢さまがおみえになって、404日目・・・。
暗い表情で帰宅してきたご主人さまを待つ、物語の終焉・・・。
『おかえり・・・。ゆい・・・、待ってたんだ』 『・・・・・・・・・・』
『おにいちゃん・・・。・・・もう、おにいちゃんじゃないよね・・・・・。昨日の事・・・、嘘じゃないよね・・・?』 悲しげに目を伏せるゆいお嬢さま。 『・・・・・ああ』
『じゃあ・・・、ゆい、行くね』 まとめてあった荷物を持ち、玄関に向かう二人・・・。
『・・・おにいちゃん、覚えてる?』 靴を履きドアの前に立ち、ご主人さまに話しかけるゆいお嬢さま。
『ココで、・・・叔父さんに連れて行かれそうになった時、ゆいのことホントの妹だって言ってくれたこと・・・。ゴメン・・・、つまらないこと言って・・・・・』 答えられる筈もなく、うつむくご主人さま。
(・・・そうだな。・・・そうだよな、なんて勝手なヤツなんだろ。・・・最低だな、私は・・・。ゴメンよ、ゆい・・・)
『・・・でも、ゆい、・・・おにいちゃんの気持ち、わかってるつもり。ゴメン・・・、これ以上言わない・・・』 ・・・思わず顔を上げ、ゆいお嬢さまを見つめるご主人さま・・・。
『・・・ゆい、行きます。泣かないよ。おにいちゃん、元気でね』 『うん・・・、ゆいもな』
『おにいちゃんがどぅ言おうと、ゆいのおにいちゃんは、おにいちゃんだけだから。・・・いってきます、おにいちゃんっ』 笑顔を作ってみせ、背を向けかけたゆいお嬢さまでしたが・・・。
『・・・・・・・最後に一言だけ聞かせて・・・。ゆい・・・、ロンドンで・・・、音楽院で、大丈夫だよね・・・?』 不安そうな瞳で問いかけるゆいお嬢さまに、微笑んで答えるご主人さま。
『もちろん、大丈夫だ』
『ありがとう。・・・行ってきます(^^)』
まぶしい光の中に消えていくゆいお嬢さま。(演出です。今何時?と言うツッコミはナシ)
『がんばれよ〜、ゆい〜っ(涙)』
滝のような涙を流しながら、手を降り続けるご主人さま。ゆいお嬢さまの姿が見えなくなっても、いつまでも、いつまでも・・・。
(このページの更新は、もう数日続く予定です)
・・・今日、・・・遂にゆいお嬢さまのお父さんが訪ねてみえました。
『ただいま』 『今、お風呂だよぉ』(エコー) はいはい(^^;;
ピンポ〜ンっ (びくっ)『・・・・・・・・(ごく)』 ・・・お客さんです。
玄関に現れた日焼けした男性・・・、この方が、ゆいお嬢さまのお父さん・・・。
『初めまして、唯の父親の、五郎と申します。・・・唯は?』
(アンタの名前なんて、どぅでもいいよ・・・)『・・・・・今、お風呂に入っています』
『そうですか・・・。まず、・・・あなたには、なんて感謝していいのか・・・。本当にありがとうございます。お話は、担任の木下先生からお聞きしました。本当に、申し訳ない。私が至らないばかりに・・・』 今までのお礼、お詫び、・・・そして、会話は本題に・・・。
『あの子をロンドンの音楽院で学ばせることが、別れた妻の供養にもなるかと思い、・・・勝手なお願いと思いますが、どうか、私に罪ほろぼしをさせてやって下さい』 『勝手なことをっ・・・』 喉まで出かけた言葉をなんとか飲み込み、そのまま黙り込むご主人さま。・・・重い時間にしばらく包まれる二人。
(わかっている・・・、わかっているさ・・・。私がなんて答えればいいのか・・・。・・・ゆいにとって何が幸せか、それは私にもわからなかったけど・・・、でも、決めたんだ。決めてたんだ・・・、答えは・・・)
『・・・わかりました。・・・明日、唯を行かせます』 静かな口調で答えるご主人さま・・・。
『ありがとう。あなたみたいな方に出会えて、唯も幸せだったと思います』 (・・・ウルサイよ・・・)
『それでは、明日改めて、唯を迎えに来ます。では、失礼します』
居間に戻り、ゆいお嬢さまがお風呂から出てくるのを待つご主人さま。
(来るべき時が遂に来た、か・・・。夢のような楽しい時間も、とうとう終わり・・・。わかっていたさ・・・。ゆいの夢・・・、バイオリン・・・、こんなところで・・・)
やがて、お風呂から戻ってくるゆいお嬢さま。ご主人さまの姿を見つけて話しかけてきました。
『・・・ねぇ、おにいちゃん。おにいちゃんに話したいことがあって・・・』 しかし、ゆいお嬢さまの言葉を遮るご主人さま。
『さっき、お父さんが来たよ』 『え? また〜、冗談ばっかり(^^)』 『お父さんがロンドンに留学させてくれるそうだ』 『え・・・?』
真剣な表情を崩さないご主人さまの御様子に、流石に冗談でないことに気付くゆいお嬢さま。
『ゆい、・・・お父さんとロンドンに行って来なさい』 おそらくまだ状況が理解できていないゆいお嬢さまに、たたみかけるご主人さま・・・。
『・・・イヤだ。・・・ヤだよ。・・・何で・・・今頃、ホントのお父さんって・・・。私の家族・・・、目の前にいるおにいちゃんだけだよ』 『本当の家族と暮らすのが一番だ』
『本当の家族は、おにいちゃんじゃないっ』 混乱し、取り乱すゆいお嬢さま。・・・・・やがて、大きな溜息を一つつき、ゆいお嬢さまをじっと見つめるご主人さま・・・。
『・・・・・なに? ・・・言いたいことがあったら言ってよ』 『・・・・・・・・・・』
『・・・ゆい、絶対この家、出ていかないから・・・』 涙ぐむゆいお嬢さま。
『バイオリンなんてどうでもいいんだからっ』 『・・・・・・・・・・』
『ゆい、お母さんとの約束なんて、どうでもいいんだからっ』 『・・・・・・・・・・』
泣き出したゆいお嬢さまを前に、なにかに堪えるように歯を食いしばるご主人さま。 長い沈黙の後、絞り出される言葉・・・。
『おまえがいるとめいわくなんだ』
『・・・・・・・・ホントに?』
『・・・ああ』
『おにいちゃんのバカっ』(ばたんっ)
『・・・・・・・・・・許してくれ、・・・ゆい』 ・・・ご、ご主人さま。
『・・・・・しばらく、一人にしてくれ・・・』
・・・ご主人さまのお取りになった決断も、解らないではないのですが・・・。本当にそれで良かったんですか?
私には、御自分の気持ちにもゆいお嬢さまの気持ちにも嘘を付いた、カッコつけに・・・・・、でも・・・(溜息)。
ゆいお嬢さまが、このお屋敷におみえになって、今日で402日目です。
『ねぇ、おにいちゃん・・・』 『な、なに?』 ゆいお嬢さまの格好が、結構遅い時間にもかかわらず普段着なコトから、なにかしらイベントに繋がる事を察知して神妙な顔で答えるご主人さま。
『えへへっ、私、決めたんだ(^^)』 『・・・な、なにをかな・・・?(汗)』 『何を決めたかは秘密だよ。今度お話しするね(^^)』 『・・・そぅか』
『あ、・・・それと、明日でレッスンもおしまいなんだけど、・・・ゆい、少しだけバイオリン巧くなったんだ。おにいちゃん、聞いてくれる?』 『え? ・・・弾いてくれるの? も、もちろんっ、聞かせて欲しいぞっ』
『うん、じゃあ、弾くね』
ゆいお嬢さまが、初めてバイオリンの演奏を披露して下さいました。優雅な弓さばきから紡ぎ出される、優しい音色・・・。
『・・・天使・・・、か・・・』
バイオリンを奏でるゆいお嬢さまを見つめながら、小さくつぶやくご主人さま。木下先生の言葉を思い出していたんでしょうか・・・。
・・・やがて、演奏を終え、小さく会釈するゆいお嬢さま。立ち上がり大きく拍手しながら絶賛するご主人さま(^^;;
『えへへ、緊張しちゃったぁ。・・・でも、おにいちゃんに聞いてもらって、お母さんも喜んでくれたような気がするよ』 『・・・どうして?』 『うふっ、別に、なんとなく(^^)』
『あ、ねぇ、おにいちゃん、・・・アルバム見ない?』 『・・・え? あ、あぁ。そうしようか』
ゆいお嬢さまの突然の申し出に少し戸惑うご主人さま。・・・その後2人でアルバムをご覧になっていました。
ラクロスの写真、初詣、遊園地、修学旅行、文化祭、・・・本当に色々なことがありました。
・・・つい先日行われたマラソン大会。そこでアルバムの写真はおわりでした。次の真っ白なページを開いたままなんとなく黙り込む2人。
『・・・・・もぅこんなに写真、溜まったんだね。ゆいとおにいちゃんの思い出・・・』 『そうだね・・・』
『ねぇ、おにいちゃん・・・、ゆいのこと何があっても、絶対に忘れないでね』 『あぁ・・・、もちろん』
『うん、約束だよ』 『約束だ』
『うん。ゆいもおにいちゃんのこと、絶対忘れないよ。・・・えへへへ、なんかしんみりしちゃったね。ゴメンね、おにいちゃん(^^)』
思いがけず素敵な時を過ごせて放心気味のご主人さま。・・・でも、ゆいお嬢さまが『決めた』ことというのは、いったいなんなのでしょうか・・・? 『・・・・・ガダニーニを手放すつもりなのかも知れないな・・・』 ・・・・・・・・・・。
『今日ねぇ、レッスンに木下先生が来たよ』 『・・・へ、・・・へぇ』
『木下先生まで言うの。『ロンドンの音楽院はいい』 って。世界の才能が集まってるんだって。ゆいくらいの歳の子もいっぱいいるそうだよ。日本じゃ考えられないよね、だいたい、ゆいがそんな天才に混じって通用するハズないよ。おかあさんじゃあるまいし・・・、ねぇおにいちゃん?』 『そんな事は無いと思うよ、・・・私も』
『えへへっ(^^)』
『・・・・・・・・はぁ(溜息)』 落ち込んでてもしょうがないですよ(^^;; 『・・・・・うん、わかってはいるんだけど、・・・ね(T_T)』
『・・・いよいよ週末になるな』 そぅですね。・・・父親のこと、黙っていていいんですか? 『いゃ、私自身は言った方がイイと思うんだけどね・・・、そんな選択肢すら出ないし(^^;;』 むぅ・・・(^^;;
『池田先生、『ロンドンはいいよ』 って言うんだよ。『おかあさんと行ったことあるからよく知ってるよぉ』 って、ゆい言ったんだけど、『旅行に行くのと暮らすのは違うんだ』 ってまじめな顔しちゃって・・・。へへっ、確かにロンドンで暮らすのって素敵だよね』
『霧の都ロンドンか・・・。素敵な所なんだろぅな。・・・もちろん私は旅行ですら行ったことないけどね(^^;;』
『でもっ、ゆいはこの街が一番好きだよ。亜美もカズもいるし、なんと言っても、おにいちゃんがいるもんね、えへっ(^^)』 『・・・・・ゆ、ゆい・・・(T_T)』
・・・それにしてもご主人さまが壊れやすいというか、ゆいお嬢さまが壊し方をよく知っていらっしゃるというか・・・(^^;;
今日のゆいお嬢さまは、また一段と御機嫌のようです。
『今日、池田先生と一緒に弾いたんだけど、なんか、別世界にいるみたいだったよ(^^) なんて言ったらいいのかな・・・、言葉では言い表せないや。明日もレッスン楽しみだよ、えへっ(^^)』
『・・・・・別世界、か・・・』 まぁ、仕方ありませんよ(^^;; 『・・・・・・・・・・』
・・・・・そぅいえば、今日のゆいお嬢さまは 『ハンドベルの練習、頑張ってるよ(^^)』 とかおっしゃっていましたが・・・、まさか今年もクリスマスに行うハンドベルの練習に参加しているとか・・・(^^;;
『うぅ、あたま痛い・・・(じんじん)』 やれやれ(^^;;
『今日はちょっとだけだけど、お母さんと同じ音、出せたんだぁ。すっごくうれしい(^^)』 『よ、良かったねぇ』
『えへっ、涙出ちゃったよ。ジョーンズさんも、『ブラボー、ブラボーっ!』 って、拍手してくれたんだよぉ。明日のレッスン、楽しみ〜』
『・・・・・・・・・・(ぐてっ)』 今日は忘年会の影響でダメダメなご主人さまでした(^^;;
相変わらずレッスン続きの日々が続きます。
『ねぇ、おにいちゃん。ホントに、バイオリンって楽しいよ(^^)』 『そぅなんだろうね、ゆいの様子を見てるとホントにそう思うよ』
『・・・あ、でも、ゆいやっぱり留学なんてしないからね』 『そ・・・、そぅか・・・』 『でもね、せっかくの機会だから、練習はがんばるよ(^^)』 『・・・・・うん、ガンバレよ』
結局、ゆいお嬢さまのお父さんの事を伝えられずに苦悩しまくるご主人さま(^^;; 『まてまて、機会すら与えられてないんだぞ(^^;;』
『ただいまぁ』 ご主人さま、お客さんですよ。 『え・・・』 ・・・そ、そんなイヤそうな顔しないで下さいよ(^^;;
『度々すみません、木下です。・・・実は、今日はお兄さんに重大なお話があって・・・』 『・・・はい』
『・・・実は、私もずっと、唯ちゃんの本当のお父さまを捜していたのですが、唯ちゃんのお父さまから、今日連絡が入って・・・』
先生の言葉に、複雑な表情を浮かべるご主人さま・・・。やっと本当の父親に連絡がついた。それは、望んでいたことであり、・・・でも、いつしか恐れていたこと・・・。
・・・先生の話によると、ゆいお嬢さまのお父さんは、医師で、現在南アフリカの赤十字キャンプにいるそうです。電話も無いような所で、最近になってようやくお母さんの事を知った、ということらしいです。
『・・・それで、私、・・・唯ちゃんの事、お話ししたら・・・・・、勝手してすみません。ロンドンへの留学の話を・・・・・、そうしたら、お父さま、是非実現したいと・・・』
別に悪い訳では無いのに、申し訳なさそうに話される先生。
『ゆいは、・・・・・ゆいは本当に幸せになれるのでしょうか・・・』
ご主人さまのつぶやきのような問いかけに、表情をふっと緩めて答える先生。
『唯ちゃんの、バイオリンを弾いているときの姿、見たことあります? ・・・まるで、天使のようですよ』
『・・・でも、彼女が生活のためにバイオリンを手放そうかな、って言ったとき、とても、悲しい顔をしていました・・・』 『・・・・・・・・・・』
その後、先生がお帰りになっても、しばらく玄関に立ち尽くしているご主人さま。部屋から出てきて声を掛けているゆいお嬢さまにも気が付いていない御様子でした。
『・・・おにいちゃん、どぅかした?』 『あ、・・・あぁ、・・・実は、お父さん・・・』 『・・・おにいちゃん、ゆいはお父さんじゃないよ? ヘンなおにいちゃん。あ、そうだっ、池田先生に褒められちゃった。なんか上手くなった気分だよ。バイオリンってこんなに楽しかったんだぁ。もうちょっとでお母さんの音、出せるかも、うふふっ(^^)』
『・・・・・ゆい』 『え? なに?』
『・・・バイオリン、・・・好きか?』
『うん、ゆいの宝物だよ。バイオリンは、ゆいのお母さんとの、たった一つの絆だもん(^^)』 『・・・・・そぅか(^^)』
『うん(^^) ・・・でも、ゆいには宝物がもう一つあるんだよ。・・・なんだと思う?』 『・・・・・?』
『おにいちゃんだよ。えへへっ(^^)』
言えませんでしたね・・・。 『・・・・・あぁ・・・(溜息)』 ・・・どぅなさるおつもりなんですか? 『・・・・・ワカラナイ・・・』
『バイオリンの練習、心を入れ替えて頑張ってるのだ』 『まてまて、そんな某伊集院メ○のような口調で喋っちゃいかん(^^;;』 バ、バカボ○のパパじゃなかったんですか(^^;;
『・・・やっぱり、お母さんのバイオリン、いい音で弾いてあげたいもん』 『がんばれよ(^^)』 『ありがとう、おにいちゃん、えへへっ』
『調子よさそうだな・・・』 楽しそうですね(^^) 『・・・やっぱり才能、あるんだろうな・・・』 ・・・・・・・・・・。
ゆいお嬢さまは、今日もレッスンでした。・・・・・一日中レッスンって、大変でしょうね(^^;;
『今日ね、ジョーンズさんが私のガダニーニ弾いたんだけど、すっごくキレイな音だすんだぁ。お母さんみたいに・・・』 『そぅか・・・』 (ガダニーニってなんだっけ?(^^;;)(お母さんのバイオリンですよ。・・・すっごく高価なんですよ)
『・・・ああいう人に弾いてもらった方が、楽器って幸せなのかな・・・?』 『ないない、それはない。ゆいに弾いてもらった方が絶対イイってば(^^)』 『ふふ・・・、気を使ってもらってありがと。えへへっ』
『ふふふ、どんなに上手くても『24歳バイオリニスト』の演奏なんか聞くもんかぁ(-_-)』 やれやれ(^^;;
『ねぇ、おにいちゃん』 『ん、なに?』
『おにいちゃんって、どんなタイプの女の子が好きなの?』 『う〜ん、やっぱりゆいのような明るい女の子がいいなぁ(^^)』
『あ〜もぅ、からかっちゃヤダぁ。そんなこと言ったら、ゆいおっきくなったらお嫁さんにしてもらうぞぉ。なんてね、うそ。えへへっ(^^)』 『ハハハ』
『ウソなのか(^^;;』 あたりまえですよ。 『はうぅ・・・(T_T)』
今日も御機嫌なゆいお嬢さま。
『へへへ〜(^^)』 『?』 『・・・へへへ〜、わたしねぇ・・・やっぱりなんでもないっ。ヒミツっ、へへっ』
『・・・なにか良い事でもあったのかな?』 なんだか妙に嬉しそうですねぇ。
『レッスン頑張ってるよ。そぅだっ、今日カズがねぇ・・・・・、あ、いい、ゴメン。えへへっ *^^*』
『なんか、赤くなってたぞ・・・』 う〜ん(^^;;
『今日もバイオリンのレッスンに行ってきたよ。・・・やっぱり、プロの指導はハードだね、へへ・・・』 『あまりムリしないようにな(^^)』
『そぅだっ、今日は先生と一緒に来日してる、ジョーンズさんっていう人にも教わったんだけど、まだ若いんだよ、24歳なんだって』 『ふ、ふ〜ん・・・』 (^^;;
『えへへっ、バイオリンのレッスン、ホントに楽しくなって来ちゃった(^^)』 『良かったっスね(T_T)』 やれやれ(^^;;
今日からゆいお嬢さまは、バイオリンのレッスンだそうです。 『が、学校は? (^^;;』 お休みになるようですねぇ(^^;;
『バイオリンの先生、池田先生って言うんだけどぉ、なんかイギリスの紳士ってカンジで、シブイんだよ。えへっ、ゆい、バイオリン弾くのって、やっぱり楽しいよ。先生の指導は厳しいけど、頑張ってみるね(^^)』
夜、帰宅されたご主人さまに嬉しそうにお話しになるゆいお嬢さま。バイオリンが大好きなんですね、やはり(^^)
『はぅ、ただいまぁ・・・』 今日はまたずいぶんヨれてますね(^^;; 『なんだか最近疲れが抜けなくってね・・・』 『あ、おかえりなさい。おつかれさま』 『ただいま、ゆい(^^)』 (何でこの時間に普段着なんだ? ・・・いつもならとっくにフロ入って部屋着になってるのに・・・)
『じゃあ、お風呂はいるね』 『あぁ、ゆっくり温まっておいで』
ゆいお嬢さまがお風呂に入り、ご主人さまも着替えてくつろぎかけた頃、意外な来客がありました。
(ぴんぽ〜んっ) 『はいはい・・・(がちゃ)・・・あ・・・』
そこに立っていたのは、30代くらいの女性でした。・・・お会いするのは初めてでしたが、ご主人さまも私も見覚えがありました。アレは確か合唱コンクールの時の写真・・・。
『初めまして、私、唯ちゃんの担任の木下と申します』 『は、はじめまして・・・』
『唯ちゃんの保護者の方ですよね。唯ちゃんからお話は聞いてます。今日は急にお邪魔して、すみません。お兄さんに、折り入ってお話がありまして・・・』
・・・お話というのは、もちろんゆいお嬢さまの事でした。なんでもゆいお嬢さまの学校の校長先生が、ロンドンの音楽院の方と付き合いがあるらしく、ゆいお嬢さまに留学の話を持ちかけてくれているらしいのです。とりあえず、ゆいお嬢さまの才能を確かめてみたいらしく個人レッスンをしたいそうなんですが・・・。
『じゃあ、本当にお邪魔しました。これからも、唯ちゃんの良いお兄さんでいてあげて下さい。それでは、失礼します』
その後、しばらくご主人さまと話をされた後、先生はお帰りになりました。『・・・・・・・・(溜息)』 少しして、ゆいお嬢さまがお風呂から戻って来ました。
『あれ? お客さん来てたの?』 『あ・・・、あぁ、木下先生がみえた。留学の話を聞かせてもらったよ』 『そぅ・・・。木下先生が来たんだ・・・。でもね、ゆいロンドンなんか行かないよ。おにいちゃんとずっと一緒に暮らすんだから』 『ゆい・・・、で、でもまだ行くと決まったワケじゃないんだし、レッスンしてくれるって言うんだから、とりあえず受けてみたら?』
『そぅだね・・・。そぅだよね。どぅせ、ゆいそんな才能無いよ。えへへ、自意識過剰だったね(^^;;』
『・・・・・ロンドンかぁ・・・』
ゆいお嬢さまがお休みになられてから、一人居間でつぶやくご主人さま・・・。どぅなるんでしょうね・・・。
12月になりました。 『今日からBGMもかわってるな・・・』 なんだかなつかしいですね。 『あぁ、もぅ一年経っちゃってるんだもんな』 早いものですね(^^)
『ねぇ、おにいちゃん』 (あ、元気がない・・・(^^;;)『ど、どぅしたの?』
『・・・留学って、どぅ思う?』 『う〜ん・・・、本格的にバイオリニストを目指すなら、やはり本場で修行できれば最高だろうね・・・』 『・・・そぅかなぁ・・・』
『どぅしたの?』 『え? ・・・ゆいにはゆめのゆめだよね、ゴメンね、ヘンな話して』 『・・・・・・・・』
留学・・・ですか。
|