太陽の大きさ

back

90°-Aの三角比

数学史の話を通して、三角比に興味をもち、単元の有用性を感じることや、

具体例を通して様々な見方考え方を体験することが、この教材のねらいである。

①太陽までの距離は月までの何倍か

「地球から太陽、月までの距離の比」を最初に求めたのは、アリスタルコス(BC310年~)で

ある。アリスタルコスはユークリッドの弟子で、初めての科学的天文学者であり、それまでの

勝手な想像から離れて、観測をもとにした天文学を

はじめて確立した人である。

地球から見ると、図1のように、太陽と月はほとんど同じ

大きさに見えるが、地球と太陽の間に月が入って日食が

起きることなどから、月の方が太陽よりも近くにあると

推測できた。そこでアリスタルコスは、太陽は月までの距離の何倍くらいなのかを求めることに

挑戦した。

まず、月は太陽とは違い自ら光を発しているわけではなく太陽の光を反射していることは、

月が満ち欠けすることからたやすく想像できた。月が半月の時は、太陽のちょうど真横に光って

いることだから、そのときの月と地球、太陽の位置関係は、図2のように、大きな直角三角形に

なると考えた。

よってアリスタルコスは、

「月~地球~太陽」の角度を測り、

87度であることから、

「地球~月の距離」を1とすると、

「地球~太陽の距離」=1/cos87°

 =1/0.052≒19.11となり、

「地球から太陽の距離」は「地球から月の距離」の約19倍になるとした。

この求め方を考えるとき、1/sin3°という考えがでると、cos87°=sin3°であること

を扱うような展開にすることができる。

話を歴史に戻すと、アリスタルコスはこの証明を当時の王ヒエロンへの書簡の中で行っていて、

それまでは太陽は月の3倍の距離と思われていたので、「いかに太陽が月に比べて遠いか」を

力説していた。しかし、実際は19倍どころか、約400倍にもなる。これは、実際の

「月~地球~太陽」の角度が、約89度51分(89度51分=(89+51/60)度=89.85度)であった

からであり、これによると、「地球~太陽の距離」=1/cos89.85°=1/0.002618≒382倍と計算

できる。当時の測定精度が追いつかなかったわけだが、アリスタルコスの考え方はすばら

しかったといえる。

また、アリスタルコスはさらにこれらから太陽の重量は地球の254倍と計算した

(実際は約33万倍)。

アリスタルコスは「地球よりもはるかに重い太陽が地球のまわりを回っている(天動説)は

不自然だ。地球の方が太陽のまわりを回っているのではないか。」と論じ、最初の地動説論者

となり、後のコペルニクスにも影響を与えたといわれている。


※厳密には「地球~月の距離」は約38万km、「地球~太陽の距離」は約1億5千kmだから、

394.7倍になる。よって、これでも精度は低いが、89度52 分にすると、89.866・・度になり、

(1/cos89.866…)≒1/0.002327=430倍になってしまい、1分角度が違うだけで大きく変わって

しまうので、この測定法ではこれくらいの誤差は仕方がないと思われる。

②太陽の大きさを求める

時間に余裕があったときのおまけの話である。

上の図1を見ると、太陽と月はほとんど同じ大きさにみえる。

そのことを利用して、太陽の大きさを求めてみる。月の直径を3500kmとする。

太陽と月の見かけの大きさが同じであることから、

図3のようなモデルが書ける。

よって、⊿BPC∽⊿AOCとなるので、

PB:OA=PC:OC=1:382

PB=3500÷2=1750kmより

OA=1750×382=668500km

よって、太陽の直径は約1337000kmである

ことがわかる。実際の太陽の大きさは約1390000kmであり、まずまず近い値が得られる。


※実際は、太陽と月の地球からの距離比は15000万:38万=394.7:1、太陽と月の大きさの比は

1390000:3500=397.1:1であり、完全に同じ大きさにみえるわけではない。

(参考資料)
[1]中宮寺薫(1994),『数学通になる本』,オーエス出版社.
[2]中里孝(2003),「相似な図形「相似の利用」(見かけの大きさ)」,学習指導案.