『レーベンスラウム』というPBMをめぐる覚え書き
●企画前夜
まず、『レーベンスラウム1』(以下LR1)の話から。
私の負担が酷かったのがLR1でして、3日の泊まり込みは当然。土日も出勤して対応。その上で原稿料は微々たるモノでして、はっきり言って「割に合わない仕事」でした。
これを解消するために『レーベンスラウム2』(以下LR2)は「もっと楽にやろう」ということで、企画されていたわけですが(これはスタッフ、会社共に了承済みで始めています。私の勝手で始めたわけではないことを余計ですが付け加えます)、コンセプトデザインは林菜さんが行ってしまったため、私のアイデアは徐々に薄れてしまっていったことを、まず言っておくべきでしょう。
私が提供したアイデアしたのは「1984年、南北日本の祖国統一戦争。これに対して、アメリカとソ連が介入。極東緊張が一気に高まる。その頃、ドイツ欧州連合とソ連の間でも宇宙戦争の危機が高まっていく……」みたいな感じで、基本的に舞台は「東京の小隊〜大隊規模をPCがコントロール」とし、政治や世界情勢はNPC+プレイヤー投票。ドイツ軍のメインに「宇宙戦争」を与え、そこでドンパチしてもらおう、といったSF色の強いものだったのです。
林菜さんが「核はいかんよ」ということで、ドイツ・ソ連が宇宙開発でSDIを確立。これによって核による抑止力は極端に小さくなり、戦術転用が中心になってしまった世界で……といった具合。
……だったのですが、その後極端にLR1の状況に近づいてしまいました。
しかし、一方で一番の負担だった戦力表や戦況状況のシステム化などは、私がデザインした通りのまま(要するに決まっていない所が多数。私が考えていたのは「戦場限定の戦術タイプのゲーム」だったので、部隊そのものも切り札部隊が中心となっていました)。
もちろん、海軍やら戦略空軍やらに考えの余地は入っていません。
そうこうしているうちに社内では『デモンスリンガー2〜八葉姫の帰還〜』(以下DS2)がスタート。
片方の企画は半端のままですし、DS2に至っては営業許可が下りたものの、そこへの人手は無く、手弁当で仕事をするしかなかったわけです。
はっきり言ってやってられない状況でした。
●企画スタート
それでも、雪富、江マスターが頑張ってくれたので、スタートはできたのですが、林菜さんが戦略リアクションを書くことになって、大もめにもめ始めます。
雪富、江マスターは連絡をすれば、すぐに連絡が取れる奇跡的な管理体制を取っていたのですが、林菜さんは社長業もあったり、家族のこともあったりと、連絡が取れなくなると、ほぼ半日連絡が取れなくなるのです。
私が仮決定を下しても、「リアクション描写如何で変化する」しばしばあり、こうした点で管理が行き届かなくなってきます。
もちろん、私もDS2と一緒に仕事していますし、メシの種は他にもたくさんあって、大変な状況だったのです。
はっきり言えば、LR2の内容が私の思い描いたモノとずれた段階で、管理者を下りるべきだったのですが、会社の状況がそれを許してはくれなかったので、これは偏に反省です。
HD社当時の、リアクションが遅れる主な原因は、管理ができなくなっていた私のせいです。手を抜くことを失敗した結果であります。
これに関しては、本当に皆さんにご迷惑をおかけしました。ごめんなさい。
●企画内容の変化
私の思い描いていた図と、マスターの描く図がズレ、そしてプレイヤーのなぞる図もずれてきて、私の中で破綻が生じてきます。
管理が行き届かなくなった理由の主な点は、これに尽きます。
都市を取った取られたの戦争が、何故か師団単位で管理される総力戦に変化し、上層部は上層部でまとまらない『フンタ』の様相を呈し、LR1のシステムが複雑化しただけの結果が見えてきた段階で、かなり破綻が出てくるわけです。
そうすると、現場レベルのマスター(雪富、江)と、戦略レベルのマスター(林菜、武藤)の間で齟齬が生じるようになるわけです。
現場レベルとしては「細かい結果まできっちり出したい」となり、戦略レベルとしては「適当で済まして欲しい」と。
「適当で済ますとは何事か!」と戦術PCのプレイヤーさんには怒られるかも知れませんが、戦略レベルではそんなことが問題にならないようなレベルで右往左往が起こっていて、決められるのは戦略に属しながら戦術に大きな影響を与える作戦の是非ぐらいになってしまうのです(空母の損害、巡航ミサイルの影響、プロパガンダにおける民意の変化、国際世論の形成など)。
まぁ、単に林菜さんと私のオーバーワークが原因なだけですが。
こうなるとますます企画内容が変わってきて、私のゲームでは無くなってきてしまったわけですね。
まぁ、もっと手を掛けるべきだったのです。準備期間が短すぎました。会社がダメになっていたと気付けなかった。実に残念でした。
●宇宙軍に関して
先に述べたとおり『航空宇宙軍史』ゴッコも「しようと思えばできる!」みたいな感じの素地を残して、用意していたために数隻の宇宙戦艦ができあがってきたわけです。
それにすぐに気付いたプレイヤーさんも多かったようですが、情報戦=宇宙戦だったので、さっさと手を打って進めた独ソの独壇場になってしまい、結果的には情報戦優位だった自由陣営が、苦しめられることになったのは、なんともはや。
もう少し、その辺はコントロールしたかったですね。
あと、60年代には、実際に宇宙戦艦計画をソ連は持っていて、その素地があったから、その後の進め方次第では本当に宇宙戦争になっただろうなぁ、とも思ったりして、武藤礼恵的には一番妄想とクリエイトが楽しかったのが、宇宙軍だったのですが、まぁ、あのようなリアル80年代になってしまったので、これもやっぱりしょうがないなぁ、とも。
残念ではあります。
あ、あとミールの位置は、衛星軌道上にあるはずです。
つーか、何処と言われても(笑) 機動要塞ですし、自由に動けますから(そんなに激しくはできないけれど)。
衛星軌道上のスペースプラットホーム(対地核弾頭搭載)がミールですから。
どっちかっていうと『ニュークリアエスカレーション』のスペースプラットホーム(MXミサイル×6)といった具合です。落として核爆発すると多分、人類が滅びます。
まぁ、さすがにそこまで核武装は進んでいませんでしたが。
デブリ掃除は、まぁ、独ソが協力すればそんなに難しくはない……と思います。何か『ステルヴィア』の宇宙船みたいなので、ひゅこひゅこ掃除して欲しいなぁ、と個人的は思います。
んで、外宇宙に向けてロケットでスポーンって捨てるの。
●スパイもの
内容としてはあんな感じでOKでした。
初心者マスターを鍛えるためのブランチであり。
逆転・威信ポイント獲得! ブランチであり。
HD的ビジネススタイルの延長線上であり。
まぁ、そんな感じです。
個人的に「清王朝の遺産」+「水爆」っていう取り合わせは好きでした。
何かジャッキー・チェンとか暴れそうで(笑)
●良かった話
何か、私のダメだった話とかばかりじゃあエンターテイメントに欠けるので。
良かった話も。
とにかくロールプレイが良かった。
化かし合いが凄かった。
パスポートを出さないで罠をかいくぐった、って何だよ!(笑) 何だかネット88とか蓬莱とか、あるいは私にとっては禁句(笑) ですが『朧月都市』を思い出すほどの面白さでした。
あと。
プレイヤーが生き生きしているのが分かる。
LR1がその素地を作ったのでしょう。
LR2は濃くなかった人が濃くなった。
勉強してきた。
理論武装がしっかりしている。
まぁ、そのお陰でいわゆる厨なPCもポップしたりしたけれど、それは許容範囲内と思います(マスター側が、強い裁可を下さなかったのも原因ですが、まぁ、そこは武藤流とはいかないようです。はっきり反発されています。厨を断罪することは)。
SLG方面に関しては、もう文句の付けようの無いモノも多く。
あと、神の視点=GMだからなんでしょうね。
「そんなに心配しなくても、そっからアソコまで転用するには4日かかるから、問題ないって」とか「おいおい……そんなに突っ込ませて。うーん……自由陣営が可愛そうだなぁ(笑)」とか「え! そ、そんな海路通るの……それは、全滅でよろしいですな?」とか。
まぁ、私の回答が100%採用されたことは無く、やんわりと削られて60%ぐらいだったりするわけですが。
兎も角、実にこちらも楽しまれていた。みんな凄い。
コミュニティに関しては……まぁ、対立構造をベースとしたゲームである以上、強調と裏切りのゲームなのは言うまでもなく。
その裏切りも、ゲームとしての裏切りなのか、人間性の問題なのか、まぁ、その辺は悲喜交々なのは、皆さんがよく分かっているでしょうから、言うまでもありません。
でも、ゲームだから。
されど仲良し、で。
●んで、これからのコミュニケーションゲーム
まぁ、こっからは馬鹿話。
MMO版の『銀英伝』。何でもイゼルローン司令が居なくてトールハンマーが発射できず、正面突破でイゼルローン陥落! という笑い事のようなことが起こっていたそうで。
まぁ、これはLR2とか参加していたら、あるいはマスターになっていたら、絶対にそんな風にMMOは作らないだろうなぁ、と思った出来事でした。
でも。
コンシューマー業界にはコンシューマー業界の意地ややり方があるので、こちらからはノウハウをお教えするつもりは無いです。昔、売り込みにいったせいで、コンシューマー業界の方は極端にアナログゲーム業界のことを敵視しているそうでして。
向こうもノウハウを聞かないでしょうね。
そうなると気付けないでしょうね。
MMOみたいなゲームがゲームではなく、コミュニケーションツールだっていうこと。
MMO、何本か遊んだわけですが。
コミュニケーションツールだっていうことを忘れて、色々仕掛けているので空回っていたり、単調だったり、まぁ、楽しいんだか楽しくないんだかって感じです。
趣味程度で止めるのが関の山のゲームばっかりです。
残念ではあります。
その一方で、私に作らせて欲しい! という欲はありますが、業界の人からは「やめとき」と止められてしまいます。
コミュニケーションツールっていうのは、ビジネスにならないでFAっていうのがコンシューマー業界の回答らしいです。
んなことは、無い、っていうのは、自分の肌で感じたことでして。
これはこれで絶対に儲けになる。
会社は儲けて。
ユーザーは楽しんで。
いいことだらけになるんだけれど。
まぁ、今の私の話では画餅以外の何物でもない。
あと、正確な数値は出ない。
出るわけ無いですよ。
感情的な揺らぎと共通概念の場を提供するビジネスなんですから。
数字が出ないとお金は出ない。
何となくの説得力はあるけれど、決定打はない。
っていうか、決定打を付けたらそれが売りであって、コミュニケーションツールが売りっていうことは無くなってしまうんですがね(笑)
まぁ、その辺は分かってもらえそうにありません。
もう少し。
私が賢(さか)しい大人になったら。
上手く話ができるんでしょうが。
今はこれが精一杯。
まぁ、そんな感じです。
でも、これで終わった訳じゃなくて。
また、新しいモノが始まってきている……そんな気がします。
その時、多分また会えるんじゃないかなぁ、って思います。
んでは、その時。
別の世界でお会いしましょう。
ではでは。
武藤 礼恵
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