クレギオン#1〜遙かなるアーケイディア

クレメント家夜話〜我々は星と共に生きる

◎クレメント家とは
 『ネットゲーム'88』はプレイヤー同士のネットワークを0から組み上げるゲームだった。『蓬莱学園の冒険!』は前作で創り上げたネットワークをフルに活用したゲームだった。そして3作目の『クレギオン』では、今までとは違うことがしたかった。既存の仲間で集まって数に物を言わせるプレイはつまらない。いわゆるベテラン・プレイヤーの数の暴力は避けたかった。かといって、新たにネットワークをつくる根性も気力も残っていなかったし、まがりなりにも“ネットワークRPG”を名乗る作品に交流もしないで参加するつもりもなかった。
 そこで「クレメント一族」というグループを提案した。クレメントという名前は、ありきたりではないけれど珍しくもなく、仰々しくもない。それに英語ではクレメント、フランス語ではクレマンという読み方も判っていた。これが重要。つまり、英語名でもフランス語の名前でも対応できるということだ(そのうち、クレメンティーノなんていうイタリア系も出てきたりしたくらい)。
 設定としては「辺境宇宙の開拓初期からの一族であり、あらゆる星系に散っている。互いに連絡を取り合い近況を報告し合うことは多いが、協力して何かをすることはない大家族」くらいの意味合いだった。
 つまり連絡しあうけど、グループとしてアクションをかけるつもりはありませんよということ。それで何の意味があるかというと、近況と称して各シナリオの様子を報告しあい、また「この宇宙に親戚が存在する/自分のPCはこの世界に突然現れたわけではなく、親兄弟もいれば子供もいて、それがみんなそれぞれに生きている」という感じを出したかったのだ。数に頼んで「でっかいことをしよう」なんて気は毛頭なかった。ぼくのしたことは、網の目のようになった家系図を整理し続けることと、届けられる近況報告をまとめたこと。そして一族のPCの1人が戦死したとき、その遺児の引き取り手を捜し回っただけだ。
 それでも、この一族はけっこうな数になった。そしてそれなりに手慣れたプレイヤーが集まったため、結果的にはなまじ協力し合うより大きな足跡が残せたし、マスターもプレイヤーも意図しなかった意外なドラマも生まれた。この一族の分家らしい一派は、後に小説版クレギオンにてマフィアとなって登場している。
 ここでは、そんなクレメントの一族たちのうち、記録が現存している者の足跡を紹介していこう。

アーケイディア
 伝説に伝わる楽園の星。アレイダ宙域に存在するはずと伝えられ、探索が進められているが、いまだかって発見されたことのない星。そこには<小さき神>が存在し、人類を導いているともいう。アーケイディアの発見と到達こそがこのPBMの第一目標であり、また人類の進化と<小さき神>について問いかけることがこのPBMのテーマであった。
◆リン・R・クレマン ゴーグルがトレードマークの恒星間文明学者にして冒険少女。コルスール学会の<星の間サロン派>のリーダー的存在。対立するコルスール学会と宇宙教教会を橋渡しするべくアーケイディア研究会を立ち上げ会長となり、実際のアーケイディア探査隊のにおいても中核となってアーケイディア星に降下する。
「やめて! お父さまーぁぁっ!」
◆ジェームス・クレマン ディーラン市立大学考古学教授。リンの伯父。アーケイディア研究会の副会長。
◆シルヴィア・クレメント フォート・ビストニアス医大超心理研の一員。サイコメトリー能力者としてパプテスマ遺跡の破片でサイコメトライズしたり、精神体となってアーケイディア訪問するなどアーケイディア発見に貢献した。
◆シノニム・クレマン 心理学者。ルーン・シュタイナーと共感者の存在に気づき調査する内に、アーケイディア探索をおこなっていたライアーのアーケイディア調査組織<アクセ>に取り込まれメンバーとなる。
◆シモーヌ・クレマン ライアー軍人。<アクセ>の中核メンバー。アーケイディア探索を巡るライアーの内部抗争に巻き込まれるが、これを乗り越え、ライアー人にもアーケイディアの土を踏ませることに成功する。
ニブノス−ライアー戦役
 物語としての『クレギオン#1』は、軍事大国ライアーが隣接するアレイダ宙域の都市国家間の紛争に介入する形で始まり、このPBMの表向きのメインストーリーとなった。以後、分裂していた小都市群が手を取り合い、NAFとして団結して戦い、敗北し、そしてまた復興していく姿が描かれることとなる。
◆サラーフ・ファルディーン <リベルテ>を旗艦とするNAF第1艦隊司令官。妻のブリジットはジェシー・クレメントの孫。ケルベロス沖会戦、スライダル脱出戦などに参加。車輪作戦ではライアー主力を引き出す囮となり<リベルテ>と共に沈む。
「車輪は巡れば前へと進むものだ。我々の屍を礎としてニブノスはより良き未来へと前進してくれる」
◆カーク・キッペンベルグ <リベルテ>艦長。カミーユの甥にあたる。ファルディーン提督の片腕として困難な任務を遂行した。ちなみに<リベルテ>を撃沈した方の艦にもクレメントはいた。
◆イヴァン・コシュキン ニブノス人実業家。新生ニブノス艦隊の旗艦となった重巡<リベルテ>をデネヴから買い付けるなど反ライアー工作に奔走。戦後はアレイダ長期開発銀行の立ち上げに参画。
◆アーサー・R・クレメント 自由貿易商ギルドのギルドマスター。<暁の鷹>船長としてライアー商船隊に参加したが、ライアーの新型戦闘機を持ち逃げしてNAF(ニブノス連邦の前身)へ売り飛ばし、ライアーに追われる身となった。
「運が悪けりゃ死ぬだけさ」
◆リリス・コーネリアス・クレメント ニブノスの御用商人。
◆アマン・ホークウィンド ドワイト・クレマンの孫。ニブノス軍パイロットとして活躍。アーサーに新型機奪取の話を持ちかける。
◆アイーシャ・ファルディーン ファルディーン提督の一人娘。敗戦後、ニブノスの内務委員長となり、帰還兵受け入れを指揮する。
◆ピンダース・クレマン 傭兵部隊<ランゲマルク>としてライアー軍に参加。901大隊長としてパール・シティやスライダル・ポイントなど諸都市を攻略。ニブノス戦役後はユークレーマーの叛乱やメネディアの救国委員会クーデターを鎮圧。
「英雄になる必要はない」
◆ウィリアム・クレメント ブレドム王国列公会議員。シュムバ伯。蹄鉄派。外務卿としてライアー・ニブノス紛争の調停に奔走。ライアーの同盟国としての務めを果たしつつもアレイダ諸国の一員としての一線を守り抜く。後に内務卿として公安機関の再編をおこなった。
「私の主張はライアーとの対立をめざすものではない。だがブレドムがアレイダの国である以上、ライアーとは別の道を歩むべきと言っているに過ぎない」
◆ヴァレンタイン・フェブラリー ブレドム王国海軍艦長。通称<行き遅れ>。ニブノス紛争においてはライアー軍の補給線警備に専念し、軽巡1、駆逐艦1、突撃艦5を撃沈。戦後上級少佐に昇進、子爵位を得る。調停後は平和維持活動を任務とした。ジェシーの孫娘。
アレイダ長期開発銀行
 アレイダ周辺各国や民間企業から出資を受け、それを原資にアレイダ宙域の復興や開発を進めるための活動に資金を提供していこうというもの。もともとは共通の経済基盤を提供することによる人類文明圏の統合を計ろうという主旨でブレドムのジョセフが提唱。政争に専念するため彼の手を離れた後はライアーのオニールが引き継いだ。オニールはこれを先が見えたヴォータン計画(ライアーの武力によるアレイダ支配計画)の保険として、また財閥資本を背景に勢力拡大するラスドア大公派に対抗するジーベック総統派の巻き返し策として利用した。長銀の運営にライアーは口を出せず、パールシティに設置された本部の下、アレイダ諸国がタルガ・テラフォーミングやファルケン岩礁開発をおこなう原動力となったが、その資金の30%はライアー資本によるものだった。
◆ジョセフ・クレマン・ヴァンスタイン ブレドム王国列公会議員。外務大臣。アレイダ長期開発銀行の提唱者。パイル派との政争に打ち勝ちブレドム政界の主導権を握る。
◆オニール・クレマン ライアー軍フラードル駐留軍司令。プレイヤー同士で伊豆山中までボタン鍋を食べに行った際の四方山話の中で「そういえば各国の要人にクレメントがいるようになったけど、ライアーの高官にクレメントっていないぞ」の一言から誕生したPC。みんなで金を出し合い、キャラをデザインし、とにかく「ライアーの中でエラクなる」ことを目的に集団プレイされた(大勢のプレイヤーが1人のPCをプレイすること)。
探査船<グレイッシュ・デュー>関係
 回想録執筆中のウェービー・ショア船長の指揮下、アレイダ全域を踏破したグレイバール船籍の探査船<グレイッシュ・デュー>にまつわる冒険。いわゆる本筋とは関係なく、あちこち物見遊山で飛びまわるだけのシナリオのはずだったが、なぜか各シナリオの中心部を縦断する展開となった。まずいきなりグレイバール軍とバイシール海賊の激戦下のビクタリー・ロックを突破。その後もタルガ、スタメナII、ニブノス、ウィンズローと駆けめぐりながら、エイドリアン通信社のブリクストン研究所のデバイス製造施設を発見したり、インテックシステム破壊に関与したり、難民船を援助したり、遭難船の乗員を救助したり、船客としてインテック・システム技術者ブリューアン博士やエイプリル・アンダーソン、ゲイル・ボッジオらを迎え入れ目的地へと送り届けたり、最後にはちゃっかりアーケイディアに到達するという荒技を披露した。
◆カミーユ・クレマン 一族の最長老にて現役の傭兵。77歳。通称<おばあさま>。<グレイッシュ・デュー>の保安責任者。
◆キース・クレマン <グレイッシュ・デュー>の奇術師。…いや奇術師が本職ではなかったはずだが、いつの間にか本職を忘れられてしまった。
◆ラメラ・グラナ 博物学者として<グレイッシュ・デュー>に乗り込む。クレメント奨学生出身。
◆ディアナ・カーディフ 惑星学者。リリスとは従妹関係。
◆サラ・クレメント 凄腕の女船医。得意はナイフ(メス)投げ。
◆ソフィア・クレメント・アヤセ 人類の精神進化に思いをはせた超心理学者。ウィリアムの養女。共感者ゲイルを知り、その生き方を見届ける。
「彼らに一方的に罪をかぶせて殺してしまったら、皆が不幸なまま決着がついてしまう」
共感者
 惑星タルガにはびこった麻薬は人々の命を失う一方、数名の子供たちに超常の力を与えた。人の心を読み、そして操る力。すなわち共感者。
 彼ら共感者となった少年少女は成長し、手を取り合って宇宙の秩序を震撼させる陰謀に着手した。すべての人々が平和に暮らせる統一された世界を生み出すために…。
◆ヴァージル・C・クレイフェル リリスの兄。悲観主義の探偵。カナリー・スポルコフの護衛としてタルガに向かい、そこでタルガの悲惨な現状を目の当たりにしリ・ヒューマニスト運動にタルガの孤児泣訴委の人員派遣を要請する。彼にとって共感者は憎むべき敵だった。
クレメント・ファミリー
 当初の設定では、クレメントは単なる辺境の旧家にすぎなかった。しかしクレメントの名前が宇宙のあちこちで目立つようになると、それにともない悪い噂もまた広まっていった。クレメントはマフィアであると。
 クレメントの者たちは懸命に説得し説明した。
「マフィアなんかじゃありません。そりゃあちこちの国の政界や軍の上層部に親戚はいますし、マフィアやギャングみたいに悪い仕事に手を染めた人もいないわけじゃありませんが…」
「それをマフィアっていうんです」
◆シニョラーニ・クレメンティーノ カミーユの弟で実はマフィアのボス。勝手にエリナの許嫁を決め、押しつけようとする。
◆エリナ・キティス・クレメント・カミイ フラードル市の少女まんが家。リ・ヒューマニスト運動の広報部員として「海と大地の祭典」のイメージ・ガールとなり、またNATSIが完成させた巨大女性型ロボットの名付け親となる(命名:エリナル)。
「クレメントって、マフィアの?」
「あの、マフィアじゃないんですけど」
「大手の仕手グループよね」
「仕手でもないんですけど」
「そうだっけ? フォート・ビストニアスでエイドリアン通信社の乗っ取りを企んでるって聞いたわよ」
「ちがうんです、ちがうんですぅ〜」
 クレメントの名声回復に尽力した…と言うより、風評に翻弄された人。

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