独断的JAZZ批評 688.

THOMAS ENHCO
フランスに現れた「新たな凄い才能」
"THE WINDOW AND THE RAIN"
THOMAS ENHCO(p), CHRIS JENNINGS(b), NICOLAS CHARLIER(ds),
日野 皓正(tp on A,I), 仙波 清彦(percussion on D,G)
2010年8月 スタジオ録音 (HAPPINET : HMCJ-1007)

凄い才能だと思う。17歳にしてファースト・アルバムをリリースし、このアルバムは3作目。弱冠22歳にしてのリリースだ。
フランスのもっとも権威ある賞、DJANGO賞の最優秀新人賞を昨年受賞している。幼少からバイオリンとピアノを習い、クラッシクにもジャズにもトライ。エリート中のエリートという触れ込みに加え、甘いマスクで「ジャズ界の貴公子」とも呼ばれているらしい。
確かに、これは凄い才能だと思うし、弱冠22歳ともなれば今後の成長が更に楽しみでもある。

@"LOVE" JOHN LENONの書いた有名曲だが、5拍子で演奏している。まったくといって良いほど違和感のない演奏。指摘されるまで変拍子とは気がつかないのでは?ENHCOのピアノの音色が美しい。粒立ちのはっきりした音色だ。サポート役のCHRIS JENNINGSのベース・ワークも素晴らしい。
A"AUTUMN LEAVES" 日野のトランペットが加わる。日野の演奏を聴くのは何十年ぶりのことになるだろう?それこそまだ渋谷に「オスカー」というライブ・ハウスがあった時代だからお里が知れてしまう。印象としては、当時のヒノテルに抱いていたイメージとほとんど変わらない。
演奏自体は正攻法で奇を衒うようなアレンジはない。
B"LA FENETRE ET LA PLUIE (THE WINDOW AND THE RAIN)" ENHCOのオリジナル。アルバム・タイトルにもなった瑞々しい曲だが、後半にかけて激しく高揚感を増していく。
C"MORNING BLUES" 超高速のブルース。これだけ速く弾けるというのもひとつの才能だ。
D"YOU'RE JUST A GOHST" 前曲に続いて、この曲もENHCOのオリジナル。このアルバムではHを加えて、全部で4曲のオリジナルを提供しているがコンポーザーとしての才能も秀でている。ここでは仙波の鼓(多分、鼓でしょう?)が加わるが、これが面白いアクセントになっている。
E"MY ROMANCE" ヴァイオリンに持ち替えての演奏。ベースとのデュオ。この演奏がまた素晴しい。ヴァイオリンをピチカートでも演奏しているけど、半端ないね。加えて、録音が素晴しい。ベースとヴァイオリンのアコースティックな生音を見事に再現している。
F"SOFTLY AS IN A MORNING SUNRISE" 前曲に引き続き聞き古されたスタンダードナンバーを演奏しているが正々堂々として、変に奇を衒ったりしていないのがいいね。このピアニストだったら何を弾いても人並み以上でしょう。
G"RIYAZ" ベーシスト、JENNINGSの曲。東洋的な香りのする演奏に仙波のパーカッションが加わる。後半部に挿入されている色彩感覚溢れる仙波のパーカッションが素晴しい。
H"OPEN YOUR DOOR" 
I"ALL THE THINGS YOU ARE" ヒノテルのペットが時にしっとり、時に鋭く陰影を作る。
J"LES PARAPLUIES DE CHERBOURG (I WILL WAIT FOR YOU)" 最後は哀愁を帯びたピアノを奏でる。

フランスに現れた「新たな凄い才能」 未だ22歳というからこれからどんな風にブレークしていくのか本当に楽しみだ。こういう若いプレイヤーがどんどん輩出してくれればジャズの世界もまだまだ捨てたもんじゃない。
このアルバム、ヒノテルや仙波という異色の取り合わせもあってとても楽しめる。ピアノにとどまらずヴァイオリンのトラックも素晴しい。
このTOMAS ENHCOは日本でのツアーを何回かやっているそうだが、今年、3月のツアーは東日本大震災の影響で中止になったらしい。生を聴けなかったのは心残り。次の機会には是非、行ってみたい・・・ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。併せて、録音のよさも指摘しておこう。   (2011.04.17)

試聴サイト :  http://diskunion.net/clubh/ct/detail/XAT-1245560010



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