立場を超えた一体感
 『だれもがクジラを愛してる。』(Big Miracle) 監督 ケン・クワピス

高知新聞「第169回市民映画会 “実話基にした秘話2作”」
('13. 2. 4.)掲載[発行:高知新聞社]


 1988年10月に起こった実際の出来事は日本でも報じられたようだが、二十余年を経て既に私の記憶にはなかった。実話に基づきつつも、モデルとなった各人が架空名で描かれた本作は、アラスカの地で氷海に閉じ込められた3頭のクジラの親子の大規模な救出劇だ。さまざまな立場の人々がそれぞれの思惑で参画し、その共同作業に携わるなかで生まれた“どでかい奇跡”(原題)を描いている。

 環境保護団体の活動家レイチェル(ドリュー・バリモア)から捕鯨を非難されているイヌピアト族は、これ以上の捕鯨権の侵害を予防するために救助へと転換し、環境破壊活動として資源開発を非難されている石油採掘会社社長マグロウ(テッド・ダンソン)は、企業のイメージアップを狙う。メディアのキャスターやレポーターは、思いがけなく世界中の注目を浴びることになった事件の特報をものにすることでキャリアアップを狙い、除氷マシンの発明家たちは千載一遇のPRチャンスだと駆けつけ、州知事から大統領に至るまでの政治家は、選挙民からの支持を慮って特命を連発する。その勢いが圧巻で、少々危ういくらいなのだが、現実がまさにそうなのだろう。

 対立する利害のいずれにも与さず、党派色を排して、それぞれの立場のいずれをもやや風刺的に寸描するに留め、もっぱら難儀な共同作業の遂行を追っている。そのなかで、思惑や立場を超えた共感と一体感が時として生まれるのが人間で、そこが素敵だった。モデルとなった幾人かの実際の写真が垣間見られるエンドロールもお楽しみに。

by ヤマ

'13. 2. 4. 高知新聞「第169回市民映画会 見どころ解説」



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