若者の精いっぱいの生
 『わたしを離さないで』(Never Let Me Go) 監督 マーク・ロマネク

高知新聞「第166回市民映画会 見どころ解説」
('12. 2. 6.)掲載[発行:高知新聞社]


 こういう映画こそスクリーンで見る必要があると思わずにいられないような、静謐で端正な画面によって綴られる世界。そのシュールさに驚かされた。28歳という自分の年を1994年に呟いていたキャシー・H(キャリー・マリガン)と共に育ったトミー(アンドリュー・ガーフィールド)とルース(キーラ・ナイトレイ)という、3人の若者を描く。

 近未来SFだとか、時空を超えたファンタジーだとかではなく、78年の寄宿舎学校での生活と85年のコテージでの共同生活が描かれるのだが、52年に医療として解禁されたことで67年にはクローンによる臓器移植で人間の平均寿命が100歳を超えたというこの作品の世界を、見る側がすんなり受け入れられるか否かで随分と受け止め方が異なってくるような気がする。

 パラレルワールドとして描いているふうでもない無造作感に独特のものがあり、クローンとして課せられた移植義務による短い生涯を前提とした生を受容した中で、精いっぱいに生きる若者の姿が哀切なタッチで描き出される。

 先行きに対するどうしようもない行き詰り感の中で生きている感覚の強い人には、響いてくるところの大きい作品だろう。同時に、怒りは無論のこと、絶望でも諦観でもない彼らの受容に対して、違和感を覚える人もまた多い気がする。

 だが、限られた時間の中で生きることを余儀なくされている点では、人の宿命にコピーとオリジナルの違いはない。そこに想像を及ばせることが、鑑賞する上での一つの鍵となりそうだ。

by ヤマ

'12. 2. 6. 高知新聞「第166回市民映画会 見どころ解説」



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