『パーフェクトブルー』(PERFECT BLUE)['97]
監督 今敏

 三十年近く前に観て日誌にセル・アニメーションの作品をそう多く観ているわけではないが、それにしても今やこのくらいの水準まできているのかと驚嘆させられた作品であると残している映画が配信されたと知って、さっそく観てみた。記憶にある映像からすれば、あまり画質が良くないように感じられたのは、昨今のアニメーション作品の映像の美しさに馴染んでいるからなのだろう。なにせインターネットが最近流行ってるアレ?と言われ、オタクが不気味がられていた時代の映画なのだから、ある意味、当然のことなのだろう。

 しかし、今観ても、バーチャルとリアルの越境を描いて全く色褪せないスリリングな怖さを映し出していて恐れ入った。キーワードは、三度繰り返される台詞幻想が実体化するなんてあり得ないだ。最初は、アイドルから女優に転身した霧越未麻【声:岩男潤子】が出演したドラマで、人気女優の恵理【声:篠原恵美】が演じていた主役の台詞として。二度目は、未麻のマネージャーである元アイドルのルミ【声:松本梨香】の声で未麻の見る幻想のなかで。そして、三度目が麻宮を演じていた恵理が役疲れしていた未麻に掛けた言葉としてだった。

 女優として配役された高倉陽子を演じ、ネット界に開設されていた「未麻の部屋」を覗き観つつ、ストーキングの恐怖に怯えるなかで神経が苛まれて行く未麻の姿が印象深い。三十年近く経って更に技術革新を遂げているICTが個人を苛む度合いは、標的が著名人に限らない拡散を見せているし、幻想と現実の越境どころか、悪意ある虚偽虚言が現実を動かすデマゴーグの拡散を招いているように思う。

 それはともかく、アイドルが所属グループを抜けることを“卒業”などと言うのは、AKBからだと思っていたのに、AKB登場に七年先駆ける本作に出て来て吃驚した。'97年となれば、モーニング娘。結成の年のようだから、かなり早い時点での用法だということになる。同時代で過ごしてきているのに、全く人の記憶というのは当てにならないものだと改めて思った。
by ヤマ

'25. 3.29. Netflix配信動画



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