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『ゴンドラ』(Gondola)['23] | |||||
監督・脚本 ファイト・ヘルマー
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見送るつもりでいたのだが、二十三年前に渋谷のイメージ・フォーラムで『ツバル(Tuvalu)』['99]を観たっきりのファイト・ヘルマー監督作だと知って矢庭に観に行く気になった映画だ。開幕早々の画面と色合いの美しさに快哉を挙げた。サイレント映画ではなく無声映画でもない無台詞映画なのだが、ユーモラスでイマジネーション豊かな画面を連投するなかで意味深長なものを窺わせる、なかなかの快作だったように思う。 霊柩車仕立てのゴンドラ【ロープウェイ】で意表を突いて始まった本作は、どこか三十四年前に観たチェコ映画『ひなぎく』['66]の二人を想起させるニナ(ニニ・ソセリア)とイヴァ(マチルド・イルマン)の繰り広げる張り合い、じゃれ合いのなかで時折見せるいがみ合いが、なかなか愉快だった。二人が職場に持ち込む遊び心を看過できない上司(ズカ・パプアシヴィリ)がそれを咎めようとしたことで墓穴を掘る話だったように思う。 共通の敵ができることで結束力は高まるし、そもそも二人は職務に怠惰なわけではない。ゴンドラに乗り込む老婆が抱える籠の中の卵をかたにとってでも無賃乗車は認めない精励ぶりを他方で見せつつ、搭乗勤務の合間のチェスに興じたり、制服をコスプレコスチュームに着替えたり、ゴンドラそのものを船や火星行きロケットに飾り立てて張り合ったり、セクシュアルな戯れや音楽に興じたりしていただけなのだ。 働きながら遊んだり楽しむことを是としない管理者は古今東西にありふれているが、優越的ポジションからそれを抑圧しようとすると、とんだしっぺ返しを受けることになるのは、政治権力とエンタメ表現の関係でも同様だと思う。ドイツやジョージアの現況はどういう方向に向かっているのか気になってくるような触発力が本作にはあったように思う。上司の愚行によって壊れてしまったゴンドラや駅舎が新世代の後継者によって再び蘇る姿を描いて終える作品を観ながら、ふとそんな気がした。少なくとも我が国は、何事につけ非常に窮屈で息苦しい世の中になってきているような気がする。 | |||||
by ヤマ '25. 2.24. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター | |||||
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