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『夕陽の群盗』(Bad Company)['72] 『ロイ・ビーン』(The Life And Times Of Judge Roy Bean)['72] | |||||
監督 ロバート・ベントン 監督 ジョン・ヒューストン | |||||
製作当時にちょうど百年前となる十九世紀後半のアメリカン・アウトローの生き様を描いた同年作品を続けて観る機会を得た。先に観た初見の『夕陽の群盗』は、1863年のミズーリ州、南北戦争の真っ只中、国も個人もまるごとアウトローというか理不尽極まりないなか、敬虔な信仰者の青年が、まるで人権を無視した北軍の徴兵を忌避する逃亡生活に入りながらも悪事は決して働かないと誓い努めつつも、わずか三ヶ月で銀行強盗に押し入るまでを描いた、なかなか含蓄のある作品だったように思う。 理不尽で当てにならないことではまるで同じでも、自分が芯から大事にしているもの【戦死した兄の形見の時計】の価値を誰よりも認め尊重してくれたという一点で、政府の権力や宗教の権威よりも、悪童ジェイク・ラムジー(ジェフ・ブリッジス)を選ぶことにする、育ちのいいドリュー・ディクソン(バリー・ブラウン)が世間を学んでいく過程に納得感のある運びと人物造形だったような気がする。 政府の取る音頭に乗せられて西部開拓に挑んで酷い目に遭ったと言いながら西部を捨ててきた開拓民の男から、連れの女ミン(モニカ・ヘンリード)を買わないかと誘われ、値段交渉をしている際に「買ってガッカリは嫌だな」と言われたことに対して、ミンが着込んだ服のボタンを外して何枚も脱いで開けた胸のカットを飛ばしていた場面の繋ぎの不自然さは、オリジナルの編集ではなく、NHKの施したもののような気がした。その一方で、十一歳の少年が頭を撃ち抜かれて倒れる場面はカットしていないバランスの悪さが笑止千万というか、情けなかった。ヘンに細工は施さないほうがいいに決まっているが、カットするなら女性が開けた胸よりは、少年が後頭部を撃ち抜かれる瞬間のほうだろうと思わずにいられなかった。 南北戦争であれ、西部の無法地帯であれ、青年の悪党化であれ、諸悪の根源が政治にあるという描き方、とりわけ徴兵制度に焦点を当てた描き方は、米軍のベトナム撤退前年における反ベトナム戦争運動の高まりという製作当時の状況を背景にしているのだろう。 すると「これはニューシネマの頃の秀作西部劇だったと思います。育ちのいいバリー・ブラウンは本作の後自殺してしまいましたね。」と教わり、吃驚した。バリーは、演じたドリューと違ってジェイク・ラムジーとの出会いのようなものが得られなかったということなのだろうか。また、「封切りのタイミングかどうかはわかりませんが、京都のコマゴールドで観ました。『クレイマー・クレイマー』の脚本家ロバート・ベントンの監督デビュー作ですね。新人監督の秀作という意味で、特に記憶にあります。」との声も寄せられた。 翌日観た『ロイ・ビーン』は、セオドア・ルーズベルトが大統領になる二十余年前から始まる物語だったから、まさしく製作当時の百年前ということになる。こちらは公開時に観た覚えがあるのだけれども、とても実在の人物を描いたとは思えない破天荒でエキセントリックな物語に、どこまでが本気でどこまでがふざけているのか、何とも掴み処のない映画だとかなり失望したような記憶がある。なにせ判事を自称するロイ・ビーン(ポール・ニューマン)が、自身の振りかざす正義の名のもとに悪党を次々に処刑して、縛り首にした男たちから収奪した財を充てて町を豊かにしていきボスとして君臨するという伝説めいた話を、シンボリックな熊のペットを印象づけて語っていく作品なのだ。そして、己が支配する町の名や店の名に憧れの女優リリー・ラングトリー(エヴァ・ガードナー)の名を冠する我が物顔の挙句に遂には町を追い落とされ、二十年後に意趣返しに戻ってくる。 だが、『夕陽の群盗』と続けて観てみて、改めて“現在の物差しでは測れない善悪を超えた生き延びるための力の論理に支配された社会”のなかでの美学というか矜持を描いた作品だったことに想いが及んだ。BSプレミアムシネマの番組編成の妙だと感心するとともに、今なおアメリカンスピリットに脈々と流れる“力こそ正義”の源流を見せられたような思いが湧く。その力の拠り所が武器と強面から、弁護士のかざす契約書面や法律書に移り、さらには露骨に財力に替わっていく過程が社会の近代化と呼ばれるものでもあったわけだ。 再見しても前半については、いかにもジョン・ヒューストン監督作品らしい怪作ぶりに、笑いを取りに来ていることは判っても笑えず、いささか倦んできていたのだが、ロイの娘ローズの誕生と妻マリー(ヴィクトリア・プリンシパル)の死あたりから徐々に面白くなったような気がする。二十歳のローズを演じたアラサーのジャックリーン・ビセットが美しく凛々しかった。そして、アンディ・ウィリアムスの歌う♪Marmalade, Molasses and Honey♪を懐かしく聴きながら、存外悪くない作品だったのかもしれないと思い直しつつ、あの呆気にとられる熊の姿のインパクトは、もしかすると映画化もされたジョン・アーヴィングによる『ホテル・ニューハンプシャー』['81]でのスージー・ザ・ベアに影響を与えているのかもしれないと思ったりした。 | |||||
by ヤマ '25. 2. 3,4. NHK BSプレミアムシネマ録画 | |||||
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