『夢二』['91]
監督 鈴木清順

 前日に観た森田芳光監督による『ときめきに死す』['84]は、まるでピンと来ず、小島に向かって湖水を進む手漕ぎボートを遠くから回り込むようにして追って捉えた水面の映っているカットがやや目を惹いたほかは、あまり面白味を感じることなく観た。

 その『ときめきに死す』のヒロイン梢ひろみ(樋口可南子)と相通じる透明感というか、現実感や生々しさを欠いたヒロイン脇屋巴代を演じた毬谷友子が印象深く、クールというよりは陰鬱なナイフ遣いの駄目殺し屋の工藤とは対照的な、陽性のなかに死の影を宿している、ナイフならぬ筆遣いが手も足も達者な竹久夢二を演じた沢田研二の自堕落な道化ぶりが似合っていたからか、思いのほか面白かった。四十三年前に観たっきりの『陽炎座』の松田優作よりもよかった気がする。

 紙風船の舞うオープニングから、いかにも清順調の外連味たっぷりの画面に目を奪われ、次にどのような画面が現れるか興味津々だったが、4Kデジタル完全修復版だけあって実に鮮やかな色彩を楽しみながら、各カットを一幅の絵画として楽しむ展覧会のごとき映画だとの思いを強く持った。それを果たしたいが故の画家夢二であり、色とりどりの女優をアレンジしたいが故の多情夢二だったように思う。

 その点では、彦乃を演じた宮崎萬純も悪くはなかったが、やはり毬谷友子が好い。広田玲央名の演じたお葉は、発禁本「美人乱舞」より 責める!['77]の日誌でも触れた関本郁夫監督の『およう』では作品タイトルになっていた女性だが、本作では、彦乃・巴代と対照的な好位置を得ながら、やや精彩を欠いていた気がする。

 画面を観ていて、ふと同時期の『コックと泥棒、その妻と愛人』を想起した場面があったので、どちらが先だったのか確かめてみたら、グリーナウェイのほうが二年早かった。
by ヤマ

'24.11. 1. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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