『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(Crimes Of The Future)['22]
監督・脚本 デヴィッド・クローネンバーグ

 変態映画の粋を観たような気がした。『ヴィデオドローム』['82]と『クラッシュ』['96]を合わせて過激にブロウアップさせた作品だったような気がする。流石のクローネンバーグで、とても齢八十を前にしての映画とは思えない。その現実離れしているのに生々しいという稀有な映像の強度とおぞましさに恐れ入った。ラース・フォン・トリアーの映画よりも痛そうだったけれども、ラースのように病んでいるようには感じられないところが面白い。

 近未来における加速進化症候群の臓器摘出パフォーマンス・アーティストのソール・テンサー(ヴィゴ・モーテンセン)のパートナーであるカプリースを演じていたレア・セドゥの裸身は、フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊でも目を惹いた覚えがあるが、実に綺麗だと思った。

 それにしても、臓器フェチにしても開腹マゾヒズムにしても、流石に想像も及ばない領域で半ば呆然と観るしかなかったが、異端であることによって政府に目を付けられるのはありがちなことだとしても、ソールは何ゆえ政府側のスパイを務める気になったのだろう。やはり自分だけは安全域に置いておきたいとの保身ということなのかと思いつつ、妙に釈然としなかった。政府に目を付けられ、暗殺される人体改造急進派のラング(スコット・スピードマン)のような目には遭いたくないとしても、主人公の人物造形とするのは相応しくない気がした。


 半年余り前に同じ劇場で観たストップモーションアニメマッドゴッドもまた、些かおぞましいグロテスクなイメージの連射に半ば呆れながら感心しつつ観た作品だったが、根底にあるのは、汚物と蹂躙だったような気のする同作に比して、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、エロスと悦楽を謳い上げている点が目を惹く。

 クローネンバーグによる実写作品を観ると、『マッドゴッド』を観た際に言及した実写作品の『武器人間』が改めて気になってきた。
by ヤマ

'24. 1.14. あたご劇場



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