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『ガメラ 大怪獣空中決戦』['95] 『ガメラ2 レギオン襲来』['96] 『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』['99] | |||||
監督 金子修介 | |||||
ガメラ対ギャオスで復活した平成ガメラシリーズを再見するのは公開時以来だから、第一作『大怪獣空中決戦』は、ほぼ三十年ぶりだ。前例なき非常事態における中枢判断というものが、如何に覚束ないものであるのかということと併せて、本格的な攻撃能力行使の危うさを端的に描出していたように思う。その点では、コロナ禍を経、ウクライナ戦争にかこつけたショック・ドクトリンにより、台湾有事などとぶち上げて先祖返りしたように富国強兵を謳い、政商が暗躍する軍産国家に向っていると感じられるほどに軍備増強に邁進している今、公開当時以上に示唆深い作品になっている気がした。 朱鷺より貴重そうだという理由でリスクを顧みず「閣議決定」としてギャオス捕獲・ガメラ抹殺の政府方針を下し、人々の生命よりも己が功名心を優先させる有力者なる環境庁審議官斎藤(本田博太郎)と、ギャオスを実際に目撃し「あれが犯人なら、おいたちの仕事じゃなか」と言いながらも、被害を防ぎたい一心で最後まで最前線に踏み止まる大迫刑事(螢雪次朗)との対置が効いていたように思う。政府側はとにかく捕獲優先なものだから、三体飛来した人喰いギャオスの全てを福岡ドームに誘い込む前から筋肉弛緩弾の砲撃を加えたりして、みすみす一体を逃していた。 また、環境問題への言及も怪獣映画の伝統として怠りなく、ギャオスが卵を産み付ける東京タワーの倒壊から抱卵に至るまでの描出が鮮やかで、目を惹いた。それとともに、昭和ガメラと交信できるのが少年だったことに対して、平成ガメラでは少女になっているところに時の流れを感じた。 翌年の第二作『レギオン襲来』では、前作で長崎県警の刑事だった大迫が前歴を引き継いだまま、北海道で警備員をしているところから始まるのが意表を突く趣向なのだが、彼ばかりかガメラの巫女とも言うべき草薙浅黄(藤谷文子)も登場し、佐竹一等陸佐(長谷川初範)も姿を見せ、鳥類学者長峰真弓(中山忍)の上梓したギャオス本まで映し出されるのみならず、折れた東京タワーのショットが現れる程なのに、前作で批判的に描かれていた政府が全く出て来ず、官房長官(徳間康快)の会見を報じるTV画像のみになっているところに、同じ脚本【伊藤和典】・監督【金子秀介】コンビによる裏メッセージが込められているように感じられる入念さがある気がした。 そして、前作でもそれなりに威容を披露していた自衛隊の奮闘・健闘ぶりというものが、実に丁寧に描き出される。昔の怪獣映画における、怪獣パワーの引き立て役でしかなかった、玩具のごとく蹴散らされる自衛隊とは雲泥の違いを見せるようになったのが、平成ゴジラ・ガメラからだと改めて感じた。渡良瀬二等陸佐(永島敏行)が序盤で言う「箍が外れてようが、腐ってようが、それを守るのが私らの仕事」との台詞が印象深い。 前作のギャオス東京タワーに相当する形で目を惹いたのが、同じ特技監督【樋口真嗣】による仙台での炭化ガメラによる仮死状態で、後の『シン・ゴジラ』['16]の凍結に繋がるものだった。三宅邦子のオロナインから大村崑のオロナミンCに金板ポスターが変わっていたことも目に留まった。また、いま観ると、小型レギオンの群れにミニオンを思ったりすることが可笑しかった。それにしても『エイリアン』の影響力は大きいものだと改めて思う。 第二作の三年後になった第三作『邪神<イリス>覚醒』は、確かに邪神覚醒であったが、同時に大迫(螢雪次朗)覚醒、綾奈(前田愛)蘇生の物語だった気がする。それにしても、是非もないとはいえ、恨みという負の感情の、妬み以上のタチの悪さを思わずにいられない。晴らしようのないものを抱え囚われた魂の救いのなさを、ある意味、痛烈に描いていたような気がする。綾奈が守部君(小山優)に「ごめんなさい」を繰り返して済むような話ではなかった。 特撮技術は前二作を軽く凌駕しているように感じながら、第一作のギャオス東京タワーや第二作の炭化ガメラのような形で目を惹くショットがないように感じられたのは残念だったが、何だか自衛隊広報映画のようにも思えた前作の趣を脱しているところが好もしかった。だが、二年の後に今度はゴジラに転じた金子監督作品『ゴジラ・モスラ・キングギドラ/大怪獣総攻撃』['01]では、自衛隊は正規軍隊としての国防軍になっていたことを思い出した。 それにしても、倉田真也(手塚とおる)は、何を以て比良坂綾奈と草薙浅黄に共通点が多いと断じていたのだろうか。それはそれとして、再登場した斎藤環境省審議官(本田博太郎)が「なぜ、こうも立て続けに日本は怪獣に襲われるのか」と深刻な顔をしつつ、「私、省内ではすっかり怪獣の専門家になってしまいましてね」とニンマリしているのが、何とも可笑しかった。そして、札幌では警備員だった大迫が東京のホームレスの露天商から立ち直っていく姿が嬉しかった。また、仲間由紀恵がイリスに体液を吸い取られて干からびる名もなきキャンパーの役で出ているのが目に留まり、驚いた。 公開時に観たときは、第二作>第一作>第三作の評価順だったものが、今回まとめて再見すると、第一作>第三作>第二作の順になったことが興味深い。 | |||||
by ヤマ '23. 6.28. DVD観賞 | |||||
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