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『エッシャー 視覚の魔術師』(Escher:Journey Into Infinity)['18] | |||||
監督 ロビン・ルッツ | |||||
代表作の一つ『DAY AND NIGHT』のジグソーパズルを自分の部屋に置いてあるモーリス・C・エッシャーは、お気に入りのグラフィック・アーティストだから、四年前の公開時から気になっていた作品なのだが、観る機会を得ないままだったところ、思わぬ形で目に留まった。何を観賞したことで挙がってきたのだろうと思いつつ観たところ、ありがちなアート・ドキュメンタリーとはスタイルの異なる、なかなか興味深いものだった。 エッシャー自身の一人称語りで、来し方や自作について述べるなかに、九十代になる彼の長男ほかの人々の証言が挟まれるという珍しい形態だった。主には、長男や家族から得た証言や資料をもとに一人称語りに構成したのだろう。 最初は建築の道に進みながら、師に才をイラスト方面に見いだされ、その道に転じることを勧められたとのことだった。彼がイタリアで暮らしていたことは知らなかったから、ムッソリーニ率いるファシスト党に長男が入れ込んでいくのを恐れて離れたと言っていたことに驚いた。敷き詰め模様と訳されていたテセレーションに傾倒する契機は、アルハンブラに旅して触れた“タイル貼り模様”だったとのこと。連想好きで、連なりのイメージを好み、“限りある平面のなかでの終わりなき循環”を求めて創作に耽っていたらしい。バッハの音楽との共通点を自身の言葉として語っていたことが興味深く、自身のビジョンを描き得た作品は一つもないと述べていたことが印象深かった。 版画やイラストレーションでは果たせない循環の動きを現出させる映像の妙味やエッシャー自身が版画制作を行っている作業中の記録映像が目を惹いた。改めて、実にwonderfulな作家だと思った。wonderには、不思議の意も驚きの意も共にあるが、その両方を共に具象化させて、数多のクリエイターたちに刺激と創造を促す影響力を遺憾なく発揮していることを雄弁に映し出していたエンドロールが圧巻だった。 そして、映画の冒頭と最後に登場する CSN&Y のグラハム・ナッシュが本人から直接聞いた言葉として語っていた「自分は芸術家ではない、数学者だ」との言葉が、これまた視覚の魔術師に相応しく、面白かった。 | |||||
by ヤマ '23. 2.28. GYAO!配信動画 | |||||
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