『ペイネ 愛の世界旅行』(Il Giro Del Mondo Degli Innamorati Di Peynet)['74]
監督 チェザーレ・ペルフェット

 定例の合評会の課題作として八十日間世界一周['56]とカップリングされたアニメーション映画だ。かねてより気になっていた作品だったので、これが『ペイネ 愛の世界旅行』かと思いながら観賞した。

 戦闘から原爆投下へと続くシルエットの下を、手を繋ぎ逃げるように走っていく“恋人たち”を映し出すタイトルバックから、最後に平和と愛は夢でしかないのかとクレジットされる、夢想の花咲くアニメーション映画を観ながら、今ひとつ物足りない印象が残った。手元にあるリバイバル公開時のチラシに記された時代を超えた“愛のメッセンジャーたち”と出逢う旅。という惹句にもかかわらず、僕には、時代を超えては響いて来ずに、数多の引用の仕方が些か安っぽく感じられ、これなら、カップリング映画『八十日間世界一周』['56]のほうが、遥かに時代を超えた映画的妙味に溢れていると思った。

 ラブ&ピース、反戦平和を謳い上げ、いかにもフラワーチルドレンを象徴しているような作品で、そういう意味では当時の同時代性を鮮やかに掬い取りながらも、敢えて時空を超えることで描き出そうとしたと思しき普遍性については、作中に引用されていた文化芸術の数々に肩を並べるには至っていない気がした。だが、エンニオ・モリコーネによる主題曲のA Flower Is All You Needは、『八十日間世界一周』のヴィクター・ヤングによる♪Around The World♪に負けず劣らず好かった。

 ただ今回、カップリングで観たからこその気づきもあって、「あ、ペイネにもヴェルヌが出てくるんだ」と思っていたら、わずか90分足らずの作品でインターバルと来たから、あ!っと思った。それで「只の世界一周では済ませられない」とばかりに時空を超えたのかと得心したわけだ。

 そこで合評会では、『八十日間世界一周』がなければ、『ペイネ 愛の世界旅行』も生まれなかったのだと主張したところ、『ペイネ 愛の世界旅行』の作中にネモ船長とノーチラス号が登場するのは『八十日間世界一周』への敬意でありオマージュだったのかとの賛同が得られて愉快だった。

 ネットでは知り合いからイタリア映画は昔から上映時間に関わらずインターバルのある作品多いようですとの指摘も受けたが、そういう話も確かに仄聞したことはあるけれども、寡聞ならぬ寡見にして、90分足らずの作品では僕自身はインターバルのない作品のほうにしか出会ったことがない。誰が何に基づいて「多い」と断じているのか釈然としていないなか、上記については、僕がそのように感じて得心したに過ぎない。

 あ!っと思った契機はインターバルだったが、ほかにも旅の初めのほうでのスペインに割いてる割合の大きさだとか、インドではないが奇祭への言及だとか、珍妙なるニッポンも含め、いろいろ繋がる形で触発されるものがあったことからも、僕のなかでは『八十日間世界一周』にインスピレーションを得た作品だという気がしている。ペイネの絵をどういう形で物語化しようかと検討したなかで生まれた着想だったのではなかろうか。製作者に問う術もなく、僕自身は研究者ではなく一介の愛好者に過ぎないし、個人的にはその当否正誤なんぞ、どうでもいいのだが、そのような連想を抱かせてくれたカップリングが、何とも楽しかった。
by ヤマ

'22.12.13. DVD観賞



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