『クレッシェンド 音楽の架け橋』(Crescendo - #makemusicnotwar)['19]
監督・脚本 ドロール・ザハヴィ

 分断と敵対意識を煽る風潮が世界的に広がってきている時代なればこそ、本作のような作品は、広く観られるべきだと思った。ややステロタイプな人物配置と描写が気になりはしたけれど、映画における説得力の点でも、やはり音楽の力は偉大だと改めて思う。

 ラストの♪ボレロ♪の響きが次第にクレッシェンドしていくエンディングなぞ、もうお誂え向き以外の何物でもないのだけれども、陳腐より納得感のほうが優るのは、やはり楽曲の力だという気がする。同様に、♪四季《冬》♪の激しさにしても、♪新世界より♪第2楽章の抒情にしても、実に判りやすい形で用いられており、本作がどのような客層を意識して撮られた作品であるかを明確に語っていたように思う。

 観賞後に読んだ、表の掲示板に貼り出されたプレスシートによれば、監督・脚本を担ったドロール・ザハヴィは、本作に登場したイスラエルのテルアビブ生まれとのこと。ドイツ映画らしく、パレスチナ・イスラエル問題のみならず、ユダヤ・ナチスの件にも触れていて、遺恨の歴史の残した今に続く過酷と不毛を率直に描いていればこそ、その超克に向かう理想主義的な取り組みの値打ちと困難が沁みてくる気がした。

 本作にはモデルとなった楽団があって、1999年の設立以来、今なお活動を続けているらしい。そのウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団を作った世界的指揮者のダニエル・バレンボイムは、作中のエドゥアルト・スポルク(ペーター・ジモニシェック)とは違って、両親がナチスドイツの収容所関係者ではなく、アルゼンチン出身のユダヤ人ピアニストだから、モデルになったのは楽団の存在だけで、物語そのものは、オリジナル・ストーリーなのだろう。

 今どきの映画らしく、スポルクがコンサートマスターに指名するのは、技量ではイスラエル人青年のロン(ダニエル・ドンスコイ)に劣りながらも、タフなメンタリティを培ってきているパレスチナ人女性バイオリニスト、レイラ(サブリナ・アマーリ)であったりする。メンバーのキャラクター配置にしても、劇的な恋愛事件の勃発にしても、いかにもフィクショナルな構成なのだが、現在も緊張関係の続くイスラエル・パレスチナ問題の根深さとシビアな現状を折り込んだ作品であることが素直によく響いてくるのは、実在する楽団に材を得たこと以上に、ドロール・ザハヴィがテルアビブ生まれであることによるような気がした。
by ヤマ

'22. 7.10. あたご劇場



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>