『レッド・スパロー』(Red Sparrow)
監督 フランシス・ローレンス

 すっかりサバイバル女優が板についているジェニファー・ローレンスだから、彼女の演じるドミニカが最後に勝ち残ることに異議はないのだが、サバイバルに至るプロセスがあまりに苛烈で、勝ち残ったくらいでは観ていてカタルシスが得られなかった。作り手は、そのことを見越して電話越しのグリーグを聞かせてくれたのかもしれないが、CIA工作員ネイト(ジョエル・エドガートン)から思い出の曲が送られてきたくらいでは、観る側の心持ちは癒されなかったような気がする。

 くノ一ばりのレッド・スパローの訓練がひたすら性的強靭さを鍛えることにあって、格闘訓練が全く描かれなかったのは、いささかバランスが悪かったように思う。かろうじて鍵破りの訓練があっただけのような気がする。

 結局のところ、ドミニカをレッド・スパローに引き込んだのは、ロシアの保安局次長たる叔父(マティアス・スーナールツ)の企みだったのか、将軍(ジェレミー・アイアンズ)の指示だったのかは判らなかったが、彼女がバレリーナの道を断たれる顛末自体が、仕組まれ記録されたものだったから、首謀者は二人のうち、どちらかなのだろう。だが、叔父だとすれば動機とメリットが不明だし、将軍だとするとどうして彼女に目を付けたのか不可解で、また、ネイトを襲わせることへの疑問も残る。二転三転させて最後にどんでん返しを仕掛ける細工のための細工のように感じられたことが、ジェニファーの果敢なまでの熱演にもかかわらず、また『カサブランカ』['42]ばりの夜の空港での別れを演出したにもかかわらず、観る側のカタルシスには繋がらなかった一番の理由のような気がする。

 それにしても、冷戦時代に専らソ連を悪役にしていたハリウッド映画がソ連崩壊後は影を潜めていたのに、冷酷無比なる悪役の叔父に、いかにもプーチンを思わせるキャスティングを施してロシアの諜報員養成所の悪辣ぶりをいかんなく描き出し、スパイ活動の現場に出ても、ロシア諜報機関内部のセクハラのほうが、敵対するアメリカCIAの諜報活動よりも遙かに質の悪いものとして描かれる時代になっていることに、悄然としてしまった。ちっともカタルシスが得られなかった一番の理由は、もしかすると、こちらのほうなのかもしれない。何だかいかにも気の悪い映画だった。




推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1966112383&owner_id=3700229
 
by ヤマ

'18. 4. 7. TOHOシネマズ8



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