『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
総監督 新房昭之

 原作としてクレジットされる岩井俊二監督による実写作品『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を観たのは、ちょうど二十年前のことだ。『undo』との二本立てを県民文化ホール・グリーンで観た。なかなかいい作品だったとの覚えはあるものの、映画日誌も綴っておらず、内容的にはすっかり忘れていたばかりか、なずな(声:広瀬すず)を演じたのが誰かも思い出せない始末だった。

 だから、初見作品ともあまり変わらないわけだが、当時、部屋に吊るすモビールはあっても、本作で印象的に繰り返し映し出される風力発電の風車が出て来ていたとは思えない。適度に、今風にアレンジしているのだろう。だが、おそらくエッセンスは何も変わっていないのではないか。天空に映える形で大きく丸く見えるものが横から見ると平べったくなるという点で取り上げられたに違いない風車の“徐に回転する動き”が何となく、千葉県茂下ならぬ「もしも」のこととしての繰り返しを想起させる点でも、なかなか作品に合った装置だと感心した。

 下から見上げることしかない打ち上げ花火を横から見たらどう見えるかなどというようなことをふと思うだけではなく、一大事として仲間内で討議するばかりか実際に観て確かめようとすることができる年頃というのは、少なからぬ数の男性にとって、遠く懐かしい実に特別な時期だという気がする。そのような年頃にある男の子が抱いている女性への憧れや眩さというものが、とてもよく描かれていたように思う。わけもなく惹かれる女先生や同級生女子に対するそういったものが、本作の最後に空から落ちて来るキラキラした破片のように降り注いでいた頃の懐かしさを擽られるように、ノスタルジックに美しく心に響いてきた。

 奇しくも今年は、久しく下から見上げることがなく高台にある自宅の表に出て、専ら横から見ることしかなくなっていた打ち上げ花火を、鏡川べりで久しぶりに下から見上げて観覧したところだった。二十代初めに某女と見上げて以来となるほぼ四十年ぶりの“下から見る花火”だなどとの感慨深い思いを八月に味わっていただけに、奇遇のようなものを感じた。

 それにしても、本作のような映画は、女性の目にはどのように映るのだろう。あまりピンと来ないのではないかという気がしてならない。男の愛すべき馬鹿さ加減の原点を鮮やかに結晶化して映し出しているように感じたのだが、ここのところを愛すべきと感じるか他愛ない幼稚さと感じるかの違いは実に大きいように思う。
 
by ヤマ

'17. 9.24. TOHOシネマズ6



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