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原作漫画『この世界の片隅に』(上・中・下)を読んで | |||||
こうの史代 著<双葉社>
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GWに帰省して来た長男家族の孫息子に『お~い!竜馬』を読んでやってたら、妙に漫画を読みたくなって、こうの史代 著 『この世界の片隅に』(上・中・下)<双葉社>を読んだ。最も気掛かりだったのは、映画日誌の冒頭に記した「いがんどる…」が原作にもあるのかということだったが、見事に下巻「第35回20年7月」の1頁目(P55)にあり、P58でも再出していた。 すずが右手を失くしたことへの周囲の対応に関連しての言葉だったのだが、映画で僕の心に残っているのは、すずの兄の戦死に対して皆人が立派なことだと賛辞を贈るなか、実の妹までもがそれに同調してしまわざるを得なくなっていることに対して、すずが、ある種の憤慨を以て呟いたセリフだったような気がしている。兄要一の死が伝えられた中巻「第24回20年2月」(P99)に出てこなかったので、てっきりこれは映画化に際しての脚色部分かと思ったのだが、下巻に出て来て却って驚いた。出て来てはいるが、映画化作品が僕の記憶通りだったとすれば、脚色には違いない。そして、僕は映画化作品の「いがんどる…」のほうがいいように思う。 今回、原作漫画を読んで思ったのは、映画化作品は、原作漫画が生々しく強度の高い場面を尽く避けて描いている“原作の企図するもの”を充分以上に尊重したうえで、原作よりも少しばかり生々しいニュアンスを描出することに怯んでいなかった果敢さに対する敬服のようなものだった。原作漫画を本当に深く読み込んだうえでの映画化だったような気がする。 作品タイトルに繋がっていると思しき、白木リンの「誰でも何かが足らんぐらいで この世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ すずさん」というセリフ(中巻P41)が、下巻「第33回20年6月」(P42)でも再出していたが、リンのこのセリフについては、映画化作品でもそうだったような気がしている。 それにしても、先に映画化作品を観てしまった僕にとっては、すずのセリフは全て、のんが発声してこそのもののように思え、改めて映画化作品の出来栄えに、心惹かれる想いが湧いた。 |
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by ヤマ '18. 5.10. 双葉社単行本 | |||||
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