『海街 Diary ①~⑤』を読んで
吉田秋生 著<小学館 フラワーコミック>


 漫画単行本の①「蝉時雨のやむ頃」 ②「真昼の月」 ③「陽のあたる坂道」 ④「帰れないふたり ⑤「群青」を読んだわけだが、ちょうどこのあたりまでが映画化作品の描き出していた時間と重なるように思う。映画化作品を先に観た僕にとっては、驚きの一杯つまった原作漫画だった。

 物語的には、割愛部分のほかは実に忠実に映画化していることがありありと伝わってくるにもかかわらず、僕が映画日誌に記した部分のほとんどが原作漫画には出てこないことに感心しきりだった。

 すずを最初に寛がせた千佳の姿を端的に捉えていた覚えのあるカマドウマのポーズを二人して笑っていた様子を月の位置から家ごと捉えたカットが妙に心に残っていて、この構図は原作漫画にあるに違いないと思った記憶があるのだが、ものの見事に原作漫画にはなかったように思う。すずが洗濯物を干しながら姉のブラジャーを摘んで「おっきぃ」と呟いた場面も、幸が「お父さんの馬鹿!」だったことに対して、すずは「お母さんの馬鹿!」だった場面も、佳乃が「めんどくさいなぁ」と言いながら戻ってきた場面もなかった気がする。

 映画日誌にて言及するのは、それだけ強い印象を残しているということだから、そのほとんどが直接的には原作にないにもかかわらず、全体的には原作に非常に忠実な映画化だと感じさせるのは、それだけ深いところで原作世界を掴んでいるということに他ならない。本当に驚いた。

 三姉妹+異母妹を軸にした家族物語だという印象の強い映画化作品に比べて、原作漫画は、すずを軸にしたクラブメートや大人たちの人間関係を描いた側面が強く、そこにユーモアに留まらないコミカルさを随所に忍ばせた軽やかさのあるところが味わい深い作品だという気がした。映画化作品のほうは、もう少ししっとり感が強かったように思う。

 そういう意味では、原作の持ち味の最も味わい深いところを敢えて外して、異なる風味での味わい深さを果たしていた映画化とも言えるわけで、実に大したものだと思った。
by ヤマ

'16. 4.26. 小学館



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