『ジェームス・ブラウン ~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(Get On Up)
監督 テイト・テイラー


 蔑ろにされることもチヤホヤされることも好まず、一目置かれるくらいの程のいいポジションを求める生き方をしてきた僕からすると、強い上昇志向を持ち、ショービジネスの苛烈な世界で好悪の両極と浮沈の激しさに揉まれながら、稀有なる天賦の才によって生き抜けたタフな人生は圧巻以外の何ものでもないが、憧れを誘われるよりも労いの気持ちのほうが勝るような観後感だった。それにしても、五十路半ばという今の僕と変わらぬ年頃にもなって、ジェームス・ブラウンが発砲事件を起こし、警察とのカーチェイスの果てに逮捕されるなどという乱行を働いているとは思わなかった。

 実は、僕自身は彼の歌そのものには余り惹かれていない。“ファンクの帝王”と呼ばれた勇名や『ゲロッパ!』['03](井筒和幸監督)のタイトルにも引用された大ヒット曲Sex Machineは流石に知っているが、『ゲロッパ!』の西田敏行同様に、なんとも暑苦しく押し付けがましいキャラクターが苦手なのだ。同じマシーンならJBの♪Sex Machine♪よりはミラクルズのLove Machineのほうがよほど好きだが、ステージ・パフォーマンスとしてのダンスのインパクトとホーン・セクション及びカッティング・ギターの醸し出す歯切れと厚みは確かに凄いと思っていて、本作では、それらのところが実に鮮やかに映画化されていて見事だった。とりわけ、ジェームス・ブラウン本人の歌唱する数々の歌に完璧に合わせていたチャドウィック・ボーズマンのパフォーマンスに大いに感心した。

 警察沙汰を繰り返し、結婚・離婚を重ねた彼の人生において最も重要な人物は、黒人のボビー・バード(ネルサン・エリス)と白人のベン・バート(ダン・エイクロイド)の二人だというのが作り手の解釈なのだろう。刑務所から救い出し、リトル・ジュニアからジェームス・ブラウンとしてミュージック・シーンで活躍する道を開き、「フェイマス・フレイムズ」時代からのメンバーのなかで最後まで音楽をともにし、親交を保ったボビーがいなければ、ファンクの帝王が生まれることはなかったに違いない。そして、黒人歌手を食い物にすることなくビジネスパートナーとして尊重することでショービジネス界での大輪の花を開かせたベンともども、なかなか味わい深いキャラクターに造形されていたように思う。
by ヤマ

'15. 9. 2. あたご劇場



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