『ピッチ・パーフェクト』(Pitch Perfect)
監督 ジェイソン・ムーア


 ア・カペラという言葉は、四十年前の十代の時分に山下達郎から仕入れた覚えのある代物だが、わりと惹かれるものがあって、テレビで特番があると時々観たりするし、九年前だったか、ゴスペラッツのコンサートに大阪まで出向いたこともあるので、本作でも大いに歌唱を楽しんだが、思い掛けなくも、ジェシー(スカイラー・アスティン)がお気に入り映画としてベッカ(アナ・ケンドリック)に薦めていた数々の超有名作に並んで一つだけ聞き覚えさえなかった『ブレックファスト・クラブ』という映画がやたらと気になってしまった。タイトルさえ記憶にない映画が、最後のバーデン・ベラーズのステージで、とても重要な役割を果たしていたからだ。

 映画全体としては、笑いのセンスが自分と合わないし、物語の運びも今ひとつだったような気がするのに、圧倒的なア・カペラ・パフォーマンスの見事さとアナの魅力で補って余りある作品だったように思う。オーディションに遅れて訪れたベッカのパフォーマンスの鮮やかさに感心した。また、マイレージ、マイライフのときには気付かなかったけれど、なかなか胸も豊かそうで大いに目を惹いた。強がりや背伸び感がキュートに映る女性像を演じて活き活きしてくる個性のように感じる。

 だが、僕が最も気に入っている場面は、初めてリードを取らせてもらったベッカが“Just the Way You are”を歌っていた夜のコーラス場面で、ベラーズの面々が次第に笑顔になりつつ仲間としての絆を得ていく感じというものが端的に表れていた気がする。友だちを作ることができずに音楽だけを友として来て、一人で語るDJを志していたベッカが初めて仲間というものの手応えを覚える場面を観ながら、大学時分のキャンパスライフというのは、人生のなかで最も“Just the Way You are”を認め合える機会だよなと改めて思った。背を向けたまま、背筋を伸ばして半身に体を捻りながらステップを踏むアナの後ろ姿が、とても愛らしかった。

 他方で、若さに見合ったというか、少々度の過ぎたお下劣感が笑うに笑えない場面も多々あって、リーダーのオーブリー(アンナ・キャンプ)が派手にゲロをまき散らす場面には『スタンド・バイ・ミー』['86]を思い出したりしたが、録画再生場面も含めて三度も繰り返すのは流石にやりすぎだと思った。とはいえ、いい場面がいっぱいあった。音楽というのは、やはりいいものだ。




推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1943203016&owner_id=3700229
by ヤマ

'15. 6. 4. TOHOシネマズ1



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