『喜びも悲しみも幾歳月』['57]
監督 木下恵介


ヤマのMixi日記 2011年12月23日22:10

 上海事変の勃発した昭和7年から本作制作時点の昭和32年まで、ちょうど25年の銀婚となる間の夫婦の歳月を描いた映画を初見して、決して有沢(佐田啓二)のように、禁欲的で篤実な人生を歩んできているわけでもないくせに、また、生まれ出る娘の助産経験も戦時体験も息子を亡くした経験もないのに、思いのほか響いてくるものがあったのは、単に僕がこの秋に娘の結婚式を迎え、結婚生活も30年目を行っているからとばかりも言えないような気持ちになったのは、なぜだろう。

 第二子の長男光太郎(中村賀津雄)を不良仲間との抗争で亡くした際に有沢が、息子を刺した犯人への怨恨を一言も漏らさずに、このようなことが起こる社会状況のほうを嘆き、そこに怒りの目を向け、ただ真面目に仕事に精出し、家族のことしか眼中になかった自分を恥じて、これからは、政治や社会にももっと関心を向けないといけないと悔悟していた姿が印象深かった。昭和30年代の映画だけのことはある。

 有沢夫妻と同時代を生きてきているわけではなくとも、そういう昭和的色彩というものが、僕に響いてきたのだろう。

 思えば、僕の生年は昭和33年だから、ラストでカイロに向けてハネムーンを兼ねた船旅に出た雪野(有沢正子)が ハネムーンベビーに恵まれれば、僕と同い年になるわけだ。されば、有沢の妻きよ子(高峰秀子)は、僕の祖母の世代ということになる。生まれは昭和ではないけれども、戦前戦中戦後を昭和の母としてくぐり抜けてきた女性の靭さと喜びに感銘を受けた。

 そして、娘夫婦の乗った豪華客船の夜間航行を灯台守として見送る喜びを、霧笛と汽笛の交換とともに描き出した場面にすっかりやられてしまった。確かに何一つ恵まれた役得などなさそうな厳しく辛い職務の灯台守だけに、有沢夫妻の得られた掛替えのないひとときが本当に輝いて見えた。

 戦争末期、本土襲来を受けるようになった際に、灯台が標的にされたことやそれによって殉職者が相次いだ事は、この映画を観るまで、ずっと知らずに来ていたことだ。

 映画の有している記録性というものが本当に侮れないと思うのは、おそらく現在は改築改装によって姿を変えているであろう各地の灯台の姿をくっきりと捉えていた映像や、白い灯台を緑の葉で被ってカモフラージュしていた様子を映像に留めている希少性ばかりではないことを改めて教えてくれるからだ。


*コメント

2011年12月24日 08:28
(Puffさん)

映画の舞台になった安乗埼灯台は訪れたことがあります!
大王崎の帰りに寄ってみたのですが、その時までは
ここが映画の舞台になったとは知りませんでした。
今は灯台の周辺は公園になって整備されていますが、
映画の中ではかなり厳しい環境だったのではないでしょうか・・・?

映画は未見なので機会があれば観てみたいです!


2011年12月24日 10:51
ヤマ(管理人)

三重県は津市に一度だけ行ったことがありますが、
灯台を訪ねたことはないですねー。
映画では、次席になっていた有沢が出張中の台長に代わって
灯台記念日制定の祝賀行事の挨拶をした灯台でした。

もう戦後になっていて、大きくなった子供たちから、おそらく
バイトで買ったと思われるマフラーとハンドバッグのプレゼントを受け、
その見立てを褒める場面があったように思います。

んで、ちょっと「灯台記念日」を検索してみたら、こんな記事がありました。

海上保安庁が1949(昭和24)年に制定。
 1869(明治元)年のこの日、神奈川県横須賀市に日本初の洋式灯台である観音埼灯台が起工された。
 制定当初は、洋式灯台の導入が文化の先駆けの意味が強かったことから、11月3日の文化の日に先駆けて1日を記念日としたとされていた。しかし、1970(昭和45)年の『灯台百年史』の編纂の時に、観音埼灯台の起工日が11月1日であったことが判明し、これが灯台記念日の日附の由来とされるようになった。海上保安庁でも「文化の日先駆け説」と「観音埼灯台起工日説」の両方を併記して広報して来たが、後者の方が一般的に紹介されるようになってたことと、1948(昭和23)年に灯台80周年記念行事が行われていたことが判明したことから、2000(平成12)年より、由来を後者のみとし、実施回数も明治元年からの通年表示とすることになった。
http://www.nnh.to/11/01.html

でも、この映画が製作された1957年時点で、式典挨拶のなかで
有沢が記念日制定の由来を後者によるものだと紹介していました。
映画の有している記録性の思わぬ効用というのは、
本当に随所にあるものだと改めて思いました。
編集採録 by ヤマ

'11.12.23. あたご劇場



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