『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージを読んで
村木厚子 著<日経BP社>


 十三年前に母校の「2011ホーム カミング デー講演会」で聴講した2学年先輩の村木さんの講演から三ヶ月ほどして刊行された著作だ。

 タイトルにある通り、働く女性たちに向けて書いたものだから、「はじめに」の後に付した「私の履歴書」に続く【第一章 「あきらめない心」の原点】として「人見知りだった私が労働省に入るまで」「がむしゃらだった20代」「結婚そして出産、子連れ赴任」から【第二章 仕事の軸が見えてきた】の「女性たちのネットワークに助けられて」「家族の絆」「仕事で生きた育児体験」「昇進のススメ」「つながって見えてきた自分の仕事」によって、彼女の辿ってきた苛烈なワークライフバランスを凌ぐ知恵と工夫が綴られていて、著者としては、こちらのほうが本題なのだろうという気がした。

 だが、面白いのは、やはり断然、逮捕後からの【第三章 逮捕、拘留を支えたものは】による「逮捕そして拘留されて」「心のつっかい棒は娘たち」「折れない心の秘密」だった。そして【第四章 釈放・復職、そして今後のこと】「やっとすべてが終わり、復職へ」「今、思うこと」を記して「おわりに」としていた。

 印象深く、また共感至極だったのが國井検事にたいした罪ではないと言われ、たいした罪とは何かと問うた際に殺人とか傷害ですと言われて返したという「偽の障害者団体の金儲けの手伝いをした」なんていう情けない罪を犯すくらいなら、恋に狂って思い余って誰かを刺したと言われるほうがよほどましだP173)との反論のなかにある物差しの真っ当さと自分が大切にしてきた価値観を守り抜きたい、そんな思いでしたP173)という彼女の矜持だった。そして、無罪判決に至る方向性を決定づけたフロッピーディスクの日付の件に最初に気づいたのが村木氏自身だったこと(P209)に改めて感心した。凄い方だ。

 微罪だと言いながら検事調書への署名を拒んだことで半年以上の拘置所での取調べを余儀なくされ、ようやく保釈を認められた彼女の保釈金は、1千5百万円だったそうだ。それに加えて、弁護士費用や面会に来る家族の交通費など、かかった経費を合わせると相当な金額になっていました。なんとか支払いを済ませることができたのは、カンパが集まっていたおかげです。支援していただいた方にはいくら感謝をしてもしきれません。 逮捕されると仕事はできませんから、当然、収入は断たれます。私も逮捕後は「起訴休職」という扱いで、もちろん無給です。我が家は夫も働いていたので、まだなんとかなったと思うのですが、もし、私が一家の大黒柱だったら、果たして何年かかるか分からない裁判を乗り切れていたかというと自信がありません。収入が断たれるうえに、弁護士費用など諸経費も大きい。そこに不安があると、信念を貫き通すことも難しかったかもしれません。法廷という場で闘って無実の罪を証明するには折れない心が大切ですが、折れない心を支えるのが、弁護士というプロの助けと家族、友人など支援者の存在、そして、経済力なのだと思いました。もし、それがなければ、人ひとりの人生が180度変わっていたかもしれない。そう思うと恐ろしくなります。えん罪事件は決して起きてはならないことです。P225~P226)との言葉が重く響いてきた。

 先ごろ起こったばかりの大川原化工機事件のことを思わずにいられない。共同通信の竹田編集委員による論への地元紙の見出し('23.12.30.)は「塚部検事は辞職すべきだ」となっていた。
by ヤマ

'24. 4.16. 日経BP社



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