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ウォレスとグルミット特集+1
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ウォレスとグルミット・シリーズの『ペンギンに気をつけろ』は、十二年前の'97年に県立美術館が、『危機一髪!』は、同じく'97年に自主上映団体のシネマサンライズが上映していて、そのときに観ているのだが、手作り感溢れるクレイアニメーションで、ここまで精緻な空間造形とスピード感の表現が果たせるのかと、ひたすら感心した覚えがある。そのことについては、再見しての印象が変わるものではなく、今やCG全盛期にあって、むしろ際立ちのほうが大きいように思った。 そして、今回初めて観た『ベーカリー街の悪夢』とのカップリングによって再見したことで、十二年前に観たときには然程に気を留めていなかったイギリス映画らしいブラック風味がいずれの作品にも立ち込めていることへの印象を深くした。 なにしろ『ベーカリー街の悪夢』は、連続殺人事件を扱ったサスペンス物仕立てなのだから、ウォレスとグルミットのユーモア系のキャラクター造形とは自ずと風味が異なるはずなのだが、その両方の持ち味を取り入れながらも、そのどちらにも傾かない風変わりなテイストというものを、演出の微妙な匙加減で巧みに果たしていたような気がする。相変わらず鈍くて能天気で幼児性の強いウォレスのキャラクター造形は、それはそれでいいのだが、吹替えを担った津川雅彦の口調がその性格付けを癇に障るほど強く出していたのが妙に耳障りで気になった。 十二年前に観た『ペンギンに気をつけろ』も『危機一髪!』も、殺人こそ出てこないが、どちらも犯罪ネタではあり、前者では最後にペンギンが収監されたし、後者ではグルミットが誤認逮捕で収監されていた。前者のペンギンのマグロウはずる賢い悪意に満ちていたし、後者のロボット犬プレストンの凶暴さは、なかなか徹底していた。そういった事々に対するウォレスの鈍感さも“人の好さ”では済まないものがあり、グルミットに対しての無頓着ぶりにも“鈍さ”を通り越したものがあって、けっこう手厳しい描き方だったようにも思う。そういったところが目立って、今回、イギリス映画らしいブラック風味が印象づけられたのだろう。 なぜか今回のプログラムに添えられていた『岸辺のふたり』も、確かシネマサンライズが過去に上映していると思うが、僕は観逃していたので、機会に恵まれて幸いだった。何十年もの時間をわずか8分で描き出す大胆な省略とシンプルで且つ豊かな描画の動きに唸らされた。 最後に年老いた娘が見たものが、“まどろみのなかでの夢”だったのか、はたまた“彼女の天寿全う”を意味していたのかは、観る人によって異なってこようが、僕は後者のほうを受け止めた。帰宅後、ストックから掘り出して探してみたチラシのStoryに書かれているような“現実としての奇跡”が起こったと、画面に観たままを受け止める人も確かにいなくはないと思うが、果たしてそんなに多いのだろうか。“天寿全う”ではなく“まどろみのなかでの夢”ということで言うならば、娘からあのように慕われ続ける父親であることは、それこそ、父親側からの夢のようにも思え、そこには、男性名であることが窺える監督・脚本・作画を担った作り手の願望があるように感じられた。 | ||||||||||
by ヤマ '09.12.22. 県立美術館ホール | ||||||||||
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