『海を飛ぶ夢』をめぐって
映画通信」:ケイケイさん
たどんさん
ヤマ(管理人)


 
-------掲示板での談義(No.5600 2005/05/16 22:52)より-------

(ケイケイさん)
 ヤマさん、こんばんは。
 「チラ見」で見逃さずに済んだこの作品、今年一番でした。

ヤマ(管理人)
 ケイケイさんの心にラモンの心が入ってきていたからと映画日記にお書きでしたものね。そんな作品を観逃さないで済んだことに拙日誌が役立ったとは、何とも嬉しい話です。

(ケイケイさん)
 ヤマさんの映画日誌のラモンと神父の論争によって、この作品の主題が、寝たきり障害者の尊厳死という一般論にあるのではなく、ラモンの自死という厳にパーソナルな問題であることが明示されるとともに、の部分なんですが、そうなんですよね〜、冒頭にテレビ出演したラモンが、「これはラモン・サンペドロの考えで、他の障害者全ての考えではない。」と言ってましたよね。ヤマさんがお書きの、障害者を全てひとくくりにしたくない演出なのだと思いました。

ヤマ(管理人)
 そうなんです。そこがこの作品の品格なんですよね。
 引用なさっておいでのラモンの台詞だけで済まされてたら、それが作り手のスタンスの明示とまでは言い切れないように僕は感じたんじゃないかと思いますが、あの障害を負った神父との対照というのは、テレビ出演時での台詞を補強して余りあるモノでしたね。ちょっと痺れましたよ。

(ケイケイさん)
 ただあの神父さん、ちょっとカリカチュアしすぎというか、テレビでラモンの家族を批判するのは、ちょっと度が過ぎた演出かと思いました。

ヤマ(管理人)
 何事も功罪ともにありますからねー。でも、あれがあるからこそ、家族の憤りがあって、マヌエラの「あなたはやかましい」が出てくるのだし、実際を知らずに思い込みと決めつけで物事を見、真意は他にある神父の欺瞞性が強烈に浮かび上がってくるわけで、僕にとっては効果的でした。

(ケイケイさん)
 私はキリスト教はわかりませんが、欧米では聖職者がテレビに出て平凡な市民を批判したりするんでしょうか?

ヤマ(管理人)
 欧米でなくたって、学者とか議員とか有識者とされる立場の人が一市民(時に平凡とは言えない市民だったりもしますが。)を批判することは割とありますよね〜。イラク人質事件の時にしても、そうでしたし、神戸の小学生殺人事件のときも、少年の家庭や両親のありように対する批判的な言質がメディアで流れましたよ。

(ケイケイさん)
 マヌエラの子供の年齢からすると、結婚の時はすでにラモンは四肢麻痺だったのかと思います。

ヤマ(管理人)
 なるほど。ハビの歳はその点では微妙ですが、確かにそれはありえますね。

(ケイケイさん)
 それを承知で兄のホセと結婚したのでしょうね、与える愛に恵まれた女性だと感じました。

ヤマ(管理人)
 なるほどねー、それを承知で結婚するマヌエラなればこそ、あり得たあの家族なんですね。
 四半世紀も世話を続けられたっていう長さもそうですが、拙日誌に綴ったようにフリアやロサを惹きつけるだけの人間的深みをラモンが四半世紀の間に培い得たのは、彼女の存在あってこそのことだろうという部分が最もすごいことだと思います。

(ケイケイさん)
 ロサに対して姑のような嫉妬を見せるのが、何だか微笑ましかったですね。

ヤマ(管理人)
 姑ですか(笑)。なるほどねー。

(ケイケイさん)
 「ラモンの思う通りに」の言葉は、介護現場で働く友人から聞いた言葉と重なりました。「自分がしたい介護をするのではなく、介護される人がして欲しい介護をするのが基本」と言っていました。

ヤマ(管理人)
 介護に限らず、心掛けたいことですね。
 でも、子供を育てる過程では、必ずしもそればかりではいけない面があるように、オールマイティでもないところが心掛けとして難しいとこです(笑)。

(ケイケイさん)
 ラモンの介護で彼の家族は時間を失いましたが、かけがえのない物も、いっぱい彼からもらったのではないでしょうか?

ヤマ(管理人)
 これも何事においても言えることですよね。何かを得ることは同時に何かを失うことですし、何かを失うことは同時に何かを得ることだと思います。大事なのは、得失それ自体ではなく、その得失をどう受け取り、活かすか、ですね。

(ケイケイさん)
 生まれたときからラモンと一緒の甥のハビが、家から離れる彼と別れ難く、一生懸命車を追いかける姿から、そう感じました。

ヤマ(管理人)
 そうでしたねー。
 拙日誌にも綴ったように献身的とまでは決して言えない平素であったことがその姿と違和感なく映るようしっかりと人物造形がされてましたね。


-------ケイケイさんの掲示板に転じて(7月13日(水)23時45分)-------

ヤマ(管理人)
 ケイケイさん、こんにちは。
 報告が少々遅くなりましたが、先の拙サイトの更新で、こちらの『海を飛ぶ夢』をいつもの直リンクに拝借しております。

(ケイケイさん)
 こちらこそ、いつもありがとうございます。

ヤマ(管理人)
 拙掲示板にも書き込みをいただいた作品ですが、ケイケイさんのように、ラモンの父や兄、甥への言及の占める割合が相対的に多いと感じられる感想はかなり珍しいのではないかと目を惹くと同時に、家族主義とも言うべきケイケイさんらしさに改めて感銘を受けておりました。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。家族が4人であろうと8人であろうと、ひとり介護される人がいるのは、大変なことですよね。それぞれの立場の葛藤、ラモンへの愛を、静かに描ききっていて感激しました。

ヤマ(管理人)
 ホセの妻への遠慮を御指摘の部分や、ラモンが父親には直接には明言していないことに目を留めておいでの部分、特に印象深く拝読しました。

(ケイケイさん)
 地味な扱いでしたが、兄ホセは立派な家長だったと思います。
 妻のマヌエラは大変だったでしょうけど、ロサへの厳しい態度などからも、ラモンを心から愛していたと思います。血を超えてというセリフにもあるように、息子のように愛していたと思います。もしかしたら彼を支えることが、自分のささやかな生きがいになっていたかも知れません。

ヤマ(管理人)
 同感ですね。

(ケイケイさん)
 彼女を見ていて、生まれ持った与える愛に恵まれた人に感じました。当然夫のホセはそれを感じて嫉妬しますよね。でも言えない。これが二人の間に生まれた息子なら言えただろうことが、妻は自分の下に嫁してきたばかりに、義理の弟の面倒をみるはめになった、だから言えない。それが爆発するのが、尊厳死を頑なに望む弟への「俺たちはお前の奴隷だ」の言葉だったり、息子を捉まえての説教だったりするんですよね。本当に静かに、隅々まで家族の心が丁寧に描かれていた作品だと思います。

ヤマ(管理人)
 さすがのお酌み取りですねー。まさにそのとおりだったろうなぁ。

(ケイケイさん)
 ところでヤマさんは、奥様に「お前は子供のほうが俺より大事なんやな。」と仰ったことがあります?

ヤマ(管理人)
 あちゃ、イタいとこ突いて来はるなぁ(苦笑)。

(ケイケイさん)
 やっぱり(笑)。お母さん仲間と話をすると、「お父さんも子供とおんなじやもんなぁ」という嘆きは、ポピュラーなんですよ。
 「子供のほうが俺より大事」って、ご主人様方よく仰いますよね(笑)。うちもよく言ってましたよー。今でも時々言うもん(笑)。その度に何を子供みたいに・・・と思いながら機嫌を取ってました。

ヤマ(管理人)
 僕は、一度も「お前は子供のほうが俺より大事なんやな。」なんて口にしたことなし!!! って威張りたいところですが、確かに口にはしたことがないものの、僻んでるとこ見透かされてましたねー。

(ケイケイさん)
 えらーい。うちなんか最近これに、「どんなに大事にしても、子供なんか離れていくねんぞ。お前には俺しか残れへんねんぞ。」と脅迫されてるのに(笑)。

ヤマ(管理人)
 そして、ケイケイさんのなさったのと同じように機嫌を取ってくれるってことで、気づかれてたんやという忸怩たる想いと何や嬉しい気分に見舞われたものでした(たは)。

(ケイケイさん)
 ごちそうさまです(笑)。ヤマさんの奥様は私と同年代だと思いますが、これくらいからですね、男を立てるというか操るというか(笑)の分岐年齢は。

ヤマ(管理人)
 まぁ、そんな調子で、僻みもコロリとひねられてましたよ(苦笑)。夫って、そんなもんです、大概(笑)。

(ケイケイさん)
 最近はそうでもないみたいですよ。患者さんのお姑さんの話を聞いたら。
 夫のほうが嫁の顔色を見るとか(情けない)。私も息子たちに、「お嫁さんをもらっても、お母さんみたいにすると思ったらあかんで。」って言い聞かせています(悲しい・・・)。最近は妻の浮気を知っても、許す夫が多くてびっくりする時代錯誤な私ですが(笑)、まだ感想は書いていませんが、『イン・ザ・プール』で、浮気嫁に怒れない夫に代わり、「腐れ売女!」を連呼する松尾スズキが痛く気に入ったので、覚えているうちに、早く書くつもりです(笑)。
 だから、この作品を観たら、そういう軽口叩けるの、幸せなことなんだなと思います。女の人が夫に同じことを言ってなじるのは聞きませんが、森茉莉は言ったそう。それで実のお母さんにめっちゃめちゃ怒られたそうです。母親の言うことじゃないって。でも茉莉さんタイプのお母さん、これから増えるかもですね。

ヤマ(管理人)
 それで言えば、僕自身は言われたことないけど、「仕事のほうが」ってのは、妻の側の常套文句らしいやないですか(笑)。

(ケイケイさん)
 私もそんなこと言いませんよー。遊びならともかく、働けば、お金余分に持って帰ってくれるのに(笑)。以前数家族でキャンプに行ったとき、髪が寂しくなる一方の夫が私に「お前は俺がハゲても悲しくないのか!」と、気にしない私を怒るという話を先輩奥さんにしたところ、皆さん鼻で笑い「ハゲてあんたの給料が半分になったら悲しいけど、つるっぱげになって、給料倍になったら嬉しいって言ってやり。」と言われました(笑)。もちろん夫にそんなことは言ってません、ハイ。

ヤマ(管理人)
 ケイケイさんの「家庭の微妙な空気」というものへの感度のよさは、流石のものだと改めて感心してました。「一番愛したのはフリア、心を許し母のように甘えたのはマヌエラ、堅い友情を結んだ“尊厳死を支える会”のジェネ」「尊厳死のパートナーとして、最後の女性に選んだロサ」って列挙されると思わず羨みが先に立ってしまう(笑)ほど、多くの女性から愛されてましたねー。

(ケイケイさん)
 男性はうらやましいですよね。バラエティに富んだ美女ばかりで(笑)。

ヤマ(管理人)
 かといって、ラモンのようにモテても、四肢麻痺にはなりたくありませんが(笑)。でも、認知症よりはマシかなぁ。ボケるのってイチバン怖いですよ、僕。

(ケイケイさん)
 最近仲良くしている患者さんが、ちょっとそれっぽいんですよ。すごく心配しているんですが。

ヤマ(管理人)
 さて、本題に戻りますが、「尊厳死がテーマですが、本当に人を愛するとはどういうことかも、テーマになっている」というのは、まさしくそのとおりだと思いました。

(ケイケイさん)
 ラモンも自分の周りの人全てを愛していたから、尊厳死を望んだんですよね。

ヤマ(管理人)
 介護してくれている家族たちの老いを気遣ってましたものね。

(ケイケイさん)
 兄さんに何かあっても、自分では家族は養えないと言っていましたもんね。ここは、長年介護されても、養うということが頭に残っているのは、養うということは、男性の尊厳なのかなぁと、ちょっとウルときました。
 言い換えると、彼がいままで頑張ってこれたのは、周りの確かな愛をしっかり受け取っていたからですね。

ヤマ(管理人)
 借りとか負担掛けとして気後れしたり、避けたりするのではなく、きちんと受け取る力っていうのも、徳のひとつで、器ですよね。

(ケイケイさん)
 これ難しいと思う。こちらは無償の気持ちなのに、あまりに気を使われすぎて、返って気持ちに負担をかける人っていますよね。気を使っているのだから、相手の善意は痛いほどわかるし。これも長い人生の宿題のひとつですね。
 うーん、ずっと前に観たのになんぼでも書けるなぁ(笑)。やっぱり今のところ今年の一番ってこれかしら?

ヤマ(管理人)
 年末をまた楽しみにしています(笑)。ありがとうございました。


-------掲示板での再開談義(No.5893 2005/10/07 21:31)より-------

(たどんさん)
 拝読させていただきました。

ヤマ(管理人)
 ようこそ、たどんさん。ありがとうございます。

(たどんさん)
 私も一応女性であり母なので、介護するマヌエラへの感情移入が大きく、「やかましいわ」のたった一言に、いきなりポロポロと涙が出てしまい、自分でビックリしちゃいました。

ヤマ(管理人)
 実に力のある一言でしたものね〜。論理に拠らない説得力を備えた一言なので、理より情に作用してくるんでしょうね。

(たどんさん)
 突然の感覚だったもので(笑)狼狽したのですが、ヤマさんの日誌を読ませていただき「ここ泣き所」とお墨付きをいただいた気分で、ホっと胸をなでさせていただいちゃいました。

ヤマ(管理人)
 お墨付きだなんて恐縮しちゃいますが、数あるシーン・台詞のなかで、僕には強く印象に残った台詞であり、シーンだったのは間違いないです。確かに、ちょっと本筋とは違うところでの話なのかもしれませんが、僕の日誌は、専らこの作品が啓発映画といかに訣別しているかについて綴ってますねぇ(苦笑)。

(たどんさん)
 ごちそう様でしたー●/

ヤマ(管理人)
 こちらこそ、です。
 この作品については、間借り人の部屋の過去ログにケイケイさんとの対話が残っています(No5600〜)ので、それを御覧いただくとまたなお面白いかと思います。いずれ編集採録してみようかなとも思ってますが。
by ヤマ(編集採録)



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