「裁量労働制」とは、労働基準法で定める「みなし労働時間制」の一つです。
この制度が適用された場合、労働者は、実際の労働時間とは関係なく、
労使間であらかじめ定めた時間働いたものとみなされます。
労使間で、1日のみなし労働時間を9時間と定めた場合(法定内8時間、時間外1時間)、
例え、12時間働いても、残業手当は1時間しかもらえない事になります。 |
<労働基準法>(労働時間)
第三十八条の三 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合が
ないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に
就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
第1号 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び
時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする
業務(以下この条において「対象業務」という。)
第2号 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
(第3〜6号 省略)
第三十八条の四 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べる
ことを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、
当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で
定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における
第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。
第1号 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の
方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない
こととする業務(以下この条において「対象業務」という。)
第2号 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働した
ものとみなされることとなるものの範囲
(第3〜7号 省略) |
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労働基準法でも、ご覧のように、一般の人には難解で解らない文章で書かれてしまっています。 |
それでも、「裁量労働制」が採用できる職種には厳格な決まりがあります。
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある職種であることが条件であり、
その職種は行政(厚生労働省)が決めます。 |
(1)専門業務型裁量労働制
(労働基準法第38条の3 「労使協定」で詳細を決定)
・新商品、新技術の研究開発の業務
・情報システムの分析、設計の業務(SE)
・取材、編集の業務
・デザイナーの業務
・プロデューサー、ディレクターの業務
・コピーライターの業務
・公認会計士の業務
・弁護士の業務
・建築士(一級建築士、二級建築士又は木造建築士)の業務
・不動産鑑定士の業務
・弁理士の業務
・システムコンサルタントの業務
・インテリアコーディネーターの業務
・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
・証券アナリストの業務
・デリバティブ商品の開発の業務
・税理士の業務
・中小企業診断士の業務
・大学での教授研究の業務
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(2)企画業務型裁量労働制
(労働基準法第38条の4 「労使委員会」で詳細を決定)
事業運営上の重要な、企画・立案・調査及び分析を行う労働者が対象 |
「労使協定」や「労使委員会」で締結・決議した事は、「労働基準監督署長」に届け出をしなければなりません。 |
なお「裁量労働制」が採用された場合でも、
深夜労働や休日出勤の割増・時間外手当の支払いは免れません。 |
現在の日本の労働環境で、この制度が、果たして労使ともに納得いく形で運用されているかは、甚だ疑問です。
実際は、1日9時間労働(みなし残業時間1時間)と想定した「裁量労働制」の場合でも、
会社が繁忙ならば、該当労働者が皆、10時間〜12時間以上働いている場合があります。
いや多いのが現状ではないでしょうか。これでは、ただサービス残業が合法的になってしまっただけです。
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本来は、「裁量労働制」の調査審議・意見討議を行う「労使委員会」等で、法律を逸脱する問題点を解決しなければなりません。
しかし、大企業ではこの原則を貫いている紳士的な会社も多いですが、数十人程度の中小企業では「労使委員会」の実態が無く、
労働者が問題点や不満を言える雰囲気にはありません。「労使協定」も形だけ。よって、いたずらに合法的サービス残業が増えて
しまっている現状があります。
また、この制度が適用された場合、働く人が、長時間労働に悩まされ、労働基準監督署等に相談しても合法的な部分もあるため、
なかなか解決に向け前進せず。また、事実上のサービス残業の賃金を支払ってもらうのも非常に困難なケースもあります。 |
確かに、残業手当を稼ぐために、だらだら生活残業をする労働者が存在するのも問題であります。
しかし、本来の目的であるはずの、効率・生産性が良い働き方に必ずしもなっていない現状を踏まえ、
今一度、政治の方で考えてほしい問題であります。 |
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