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コップ最後の日 (1994/04/30)

コップが全座席化工事を開始する前の、最後の試合となったノリッジ戦のレポートです。



 ■マッチデイ

いよいよ試合当日。朝の9時過ぎに町中に出たところ、試合開始は3時だったのに、なんとその時間から既に町中は赤一色、つまりリバプールのキットを身につけたファンがリバプール市の中心街でショッピングをしているのです。市内のショッピングセンターを、赤い人々が歩き回っている姿はなんとも感動的でした。

The Kop誌、コップ最後の日の記念号

12時ちょっと前にアンフィールド入りした時には、開門前だというのに既に、スタジアム近辺には赤い人々で満杯。プログラムショップやみやげ店で列を作り、ゲート前に列を作り、シャンクリーゲートで記念写真を撮り、ヒルズバラ・メモリアルで黙祷を捧げており…。

私もそれらを一通り済ませ、ゲート前でフラフラし始めたのが1時ちょっと前のことでした。ゲート前では次々にファンが垂幕を持って現れ、記念写真のポーズを取っていました。中にはスコットランドの正装をした2人組がシャンクリーの垂幕を持って行進していたものもありました。

そうこうしているうちに、シャンクリーゲート方向からファンのざわめきが聞こえました。なんと!なんと!ケニー・ダルグリーシュが車で参上!!おおっ!と思っていたところで、丁度私がふらふらしていた付近に駐車したのです!ケニーが車を下りた瞬間、周囲にいたファンが一斉に「ケニー!」と合唱(ちなみに、私も一緒に叫んでおりました)。

ケニーがスタジアム内に消えて行った後で、隣りにいた人達が「まさか、グレアム・スーネスも来るんじゃないだろうな?」「まさか!どの顔を下げてくるんだ!ケニーは特別」と言っていました。

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 ■スタンドへ

1時10分頃にメインスタンドのゲートが開いたので、私も入場しました。あらかじめ調べた通り、コップがよーく見える席でしたが、試合開始2時間近く前だというのに既にコップは90%くらい埋まっており、立っていたファンは、旗を振り、垂幕を掲げ、合唱を始めていました。

メインスタンドに入ってきたファンは、皆コップの記念写真を撮っています。言うまでもなく、私もコップの写真を撮りまくりました。コップではスコットランドの国旗、アイルランドの国旗、ウェールズの国旗、勿論リバプールの旗、シャンクリーの垂幕、そしてなんとエバトンの旗もはためいていました(surprise,surprise!)。

3方のスタンドには人がまばら、グラウンドは芝があるだけ、という時間から、コップの歌は次から次へと続きました。3方のスタンドに入場してくるファンは、皆コップに見入っていました。報道陣営もコップの前に陣取り、カメラを回し続けていました。
今日の試合の主役はコップであることは誰もが知っていました。

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 ■記念式典

エキシビジョンのU-11の試合が終わり(この試合中には既にコップは本格的な応援を開始していました)、2時40分に「コップ最後の日」の記念式典が開始されました。

スタジアム中が起立して、元アンフィールドのヒーロー達の入場を拍手で迎えました。ケニー・ダルグリーシュの時にはスタジアム中から「ケニー!」という声と特別大きな拍手が。その後で、コップが「シャンクリー・コール」を始めた時に、故ビル・シャンクリーの奥さんが、ジョー・フェーガン、ボブ・ペイズリーの奥さん(ペイズリーは病気のため欠席)の3人が入場。スタジアム全体から暖かい尊敬の拍手を受けていました。…ちなみに、スーネスの姿は当然のことながら、ありませんでした。

突然、今では危険行為として禁止されているスタンドの中での炎が、コップの中で2つ点りました。かつてのコップには不可欠だったものとして「コップの歴史」でも紹介されていた風景でした。「危険行為」であることは誰もが承知している中でのこの懐かしい風景、スタジアム係員も警官も動きもせずに見守っていました。スタジアム中のファンは一斉にコップの炎の写真を撮りました。

You'll Never Walk Aloneの合唱の後、選手が入場。キックオフの時にはコップは真剣な応援体制に入っていました。つまり、他人の視界の邪魔になるような旗や垂幕は姿を消し、グラウンドに注目、そして歌。

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 ■試合

試合結果は1-0でノリッジが勝ちました。以下はリバプールのラインナップです。
James, Jones, Nicol, Ruddock, Dicks, Redknapp, Clough(Hatchison 71分),Whelan, Barnes, Fowler, Rush

暫く出場チャンスがなく、移籍の噂もしきりに出ていたナイジェル・クラフが久々の登場でしたが、ブレーキになってしまいました。ナイジェルにボールが渡る度にスタジアム全体がため息。リバプールはスタートは良かったのですが、ナイジェルがパスを乱しているうちにノリッジが調子を掴み、動きが良くなってきました。リバプールはニール・ラドック、ジェイミー・レッドナップ、ロビー・ファウラーがそこそこの良いプレイを見せてくれましたが、全体的にまとまらないプレイとなってしまいました。「ボールを持ったら一番近くにいる赤いシャツにパスを出せ」という伝統のフットボールをしていたものの、その赤のうち数人が、持ったボールを失ってしまうという場面が所々に見られました。

この試合のリバプール側の優秀選手デヴィッド・ジェームスはノリッジの、特にジェレミー・ゴスの猛攻撃を、思い切った判断と良い動きで阻止、No.1の位置を正当付けてくれました。ノリッジは守りも攻めも非常に良かったです。というところで35分にコップの目の前で得点したのはジェレミー・ゴスでした。ジェームスの頭上を抜く鮮やかなゴールでした。

後半に入って、リバプールは多少立ち直りが見えた場面もありましたが、ロニー・フィーランが惜しい場面を逃し、ラッシュが得点チャンスを掴みながら同点ゴールを得ることが出来ぬまま、試合は押し詰めに。遅過ぎたと思えた頃にナイジェル・クラフに代わってドン・ハッチソンが登場、リバプールは全体の動きが良くなったのですが、今度はスティーヴ・ニコル辺りでブレーキが見え始め、結局得点できずに1-0のままコップ最後の試合は終了しました。

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 ■コップの応援風景

ノリッジのジョン・ディーハン監督は、コップに敬意を表して、トスに勝っても後半のコップ側の攻撃をリバプールに譲る、と試合前から宣言していました。少なくとも、コップが目の前の得点に拍手を送るチャンスがあったことはせめてもの慰めでしょうか。そうです。コップは相手チームの得点に対しても拍手を送るのです。

コップが試合中に歌を止めたシーンは全くなかったことは言うまでもありませんが、ノリッジの良いシーンにも拍手を送り、リバプールには特に大きな励ましの声援を送り、よほど消極的なプレイ以外にはブーイングはしません。この試合では見られなかったのですが、一方的な試合になっている時などにはユーモア溢れる応援(?)で笑いを作る場面も歴史的にあったそうです。有名なものには、霧が深い中での試合で、アンフィールド・ロード側(コップと反対側)でリバプールが得点した時に、コップは得点者が誰なのか判らず、「得点者は誰?」とアンフィールド・ロードに歌って質問したそうです。すると、アンフィールド・ロードのファンは「トミー・ヘイトリー」と歌って答えたそうです。

もう一つ、歴史的に有名なユーモラスなシーンを。リバプールが大量リードをしていた試合で、コップは突然、「アンフィールド・ロードのファンは座りなさい」という具合に、歌を歌って順番に他の3方のスタンドのファンに着席・起立を命じたそうです(当時のアンフィールド・ロードは立席だった)。その後で、なんとコップは貴賓席に向かって「貴賓席は立ちなさい」と歌ったそうですが、もっと驚いたことに貴賓席が一斉にコップに従って立ったそうです。で、最後にコップが一斉に座り、スタジアム中が立場(?)を逆転して終わった、という結末です。

さて、この試合ではメインスタンド(私の席の周辺)も参加しました。メインスタンドのファンが一斉に「聖者が街にやってくる」を合唱。コップが驚いて我々の方を見ている姿が見えました。そこでコップはすかさず同じ歌を歌って返してくれました。

コップが試合中に「You'll Never Walk Alone」を歌う姿があまりにも感動的で、思わず写真を何枚も撮ってしまいました。歌声は写真には写らないということは知っていたけど。

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 ■さようならコップ

ノリッジのリードで迎えた後半、リバプールの選手の登場の時にコップは大きな拍手。続いてノリッジの選手が登場した時には同じくらい大きな拍手を送りました。試合終了のホイッスルが鳴り、リバプールがやぶれた瞬間には、コップは勿論、他の3方のスタンドのファンも起立しての大きな拍手。スタンドのファンの拍手が鳴り止まないうちに、選手は両手を掲げてファンに感謝。

嬉しかったのは、ノリッジの選手が全員、コップに向かって感謝を表明しに行ったことでした。すると、コップは「ノリッジ、ノリッジ」と合唱。リバプール Echoに紹介されていた有名な場面、リーズが優勝した瞬間の「チャンピオン、チャンビオン」の合唱の場面が目に浮かぶような気がしました。

選手が立ち去り、コップの歌とファンの拍手が続いている中、スタジアムの係員が垂幕をグラウンドに敷き始めました。何かと思って見ていたところ、リバプールの選手が再び登場してきて、その垂幕をスタンドに向かって掲げました。「FROM ALL THE PLAYERS THANK YOU! WE'LL NEVER WALK ALONE」。選手が90度ずつ回転しながら垂幕を4方のスタンドに向かって掲げ、また盛大な拍手。

その時点で試合終了30分くらい経過していましたが、誰も席を立った人はなく、見るとノリッジのファンも殆ど全員が残ってリバプールの選手に拍手を送ってくれていました。

選手は最後にコップに近寄って感謝の挨拶をした後で退場、その時に私もスタジアムを出て帰途に着きました。道を歩くファンの中には、ノリッジのファンとリバプールのファンが仲よく話しながら歩く姿もありました。帰途に着くファンは皆、笑顔を浮かべていました。その後のニュースでは、試合終了後2時間もの間、コップは最後のコップに立って歌い続けたそうです。この試合の結果はリバプールの敗戦でしたが、この日の勝者はコップだったことに疑いを抱く人はいないでしょう。

後談:アンフィールドを出て(観戦スタイルのまま)空港に向かう途中、市内で道行く人々に何度か声をかけられました。「試合はどうだった?」とか「良い試合だった?」などと。弱くなったリバプール、降格スレスレまで行ったエバトン。それでもフットボールはマージーサイドの生活そのものだということがひしひしと感じられました。私にとってコップの最後の姿は、一生忘れられないだろうと思います。

Kop最後の日のマッチプログラム。その試合の日に買ったものです。今はアンフィールドのミュージアムにも展示されている。

Kop最後の日の記念品は、「写真集・記念品」の「リバプール (1990年代)」で紹介しています。(開く)

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