■ スローダイビングのススメ



悲しいかな、シーズン中には毎週のように起きてしまうダイビングの事故。 ここ2〜3年の減圧症患者の急増は驚くべきペースであり、ダイビングの事故で毎年20〜30名もの方が亡くなってしまっています。 私の知り合いで減圧症になってしまった人も何人かいますし、10年潜ってると、実際にCPR(心肺蘇生)の現場を目撃してしまった事も何度かあります。

減圧症の増加は、ダイコンや水中デジカメの普及で、より長く、より深く、1日に本数をより多く、潜るようになってきたのが、その一因とも言われています。 事故の原因は様々ですが、油断、過信、無謀、無知など、本人の自覚次第で防げるものも少なくないと思います。

そこで誠に勝手ながら「スローダイビング5ヶ条」を策定いたしました (^^ゞ  私自身、今一度戒めるのはもちろんですが、ぜひ皆さんも心の片隅に留めていただき、より安全に末永く、ダイビングを楽しんでいただければと思います。

  スローダイビング 伍箇条

壱、基本に忠実であるべし。
弐、余裕を持った計画を立てるべし。
参、ガイドとは意思疎通を行うべし。
肆、断る勇気を持つべし。
伍、情報収集に努めるべし。


1.基本に忠実

何事も基本が肝心ですが、ダイビングにおいてももちろんそうで、基本を怠ったために事故に繋がったケースも少なくないようです。 本数を重ねるごとに、ますます初心に返るべきではないでしょうか?

2.余裕を持った計画

ダイビングはいくら癒し系とはいえスポーツである事には変わりなく、運動量にして300〜400kcal程度を消費し、特にEn/Ex時には血圧や脈拍が大きく変動すると言われています。 常日頃からの摂生と、軽めの運動でよいので、最低限の体力維持を心がけるようにしたいものです。 また、全身にかかる水圧など、水中に潜るという非日常的な行為はやはり肉体的にはストレス状態であり、直近にはせめて1〜2回はプールにでも行って、頭まで水に漬かる事、低たい水に晒される事、口呼吸、浮遊感など、少しでも頭と体を慣らしておく事をお勧めします。

潜りに行く日程を決める時、土日や祝日、長期休暇のピーク時は、渋滞や混雑のストレス、ガイドもフル操業で個々のお客への気配りが行き届かない、ツアー料金も高いなど、あまり良い事がありません。 サラリーマンにはなかなか難しいかもしれませんが、ピークを1日でも2日でもずらしてみると、殆どマンツーマン状態で、よりリラックスして潜れたりします。

潜りに行く場所やポイントは、全体的な深さ、流れの速さ、地形の複雑さ、その時期の透明度や水温など、ダイビング雑誌やホームページなどで確認し、自分の力量やダイビングスタイルに合ったところを選ぶようにしましょう。 また、万が一の事故発生時、事故現場から病院までどういう経路や手段で搬送が可能で、どれ位の時間がかかってしまうのかなど、決して無視できない問題であり、特に離島や海外に行く場合、より安全マージンを高く取るよう、そして忘れずに保険を掛けておくよう、心がけたいものです。

出発の準備は、仕事にメリハリをつけて余裕を持って行い、特に前夜は心身共にリラックスし、睡眠時間を十分に取るようにしましょう。 睡眠不足は、うっかりミスを引き起こすだけではなく、免疫力低下などから、減圧症や耳の障害などのリスクを高めかねません。

飛行機での移動は、機内が乾燥してて脱水状態になりやすく、さらには深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)、つまり座りっぱなしでは血栓が出来やすい状態になりがちです。 出来るだけ到着日には潜らない事、止むを得ず潜る場合、「機内でも十分に水分を補給する事」=「トイレに立つ回数が増えて座りっぱなしにならない」ように心がけましょう。

飛行機で帰る場合には、最後のダイビングから最低でも18時間、極力24時間以上開けられるよう、最後のダイビングは浅めのポイントを選ぶようにして早めに終えるようにし、そもそもフライトは遅めの便を選ぶようにしましょう。 短い航路などで機内を与圧調整して1気圧に保たれてる場合、当日に潜っても大丈夫と勧めるサービスも少なからずあるようですが、、、トラブルで調整が効かなかった場合、どうなってしまうかは言うまでもない事です。

車の場合、例えば伊豆からの日帰りでは、どうしても高度400m以上の高所移動が避けられません。 渋滞があるから少しでも早く帰りたいという気持ちも分かりますが、潜水後の休憩時間を十分に取り、少しでも窒素を排出してから帰るようにしましょう。 宿泊して翌日は早めに潜り終えて、ゆっくり帰るようにするか、そもそも高所移動のない電車で行くのも手ではないでしょうか?

長期ツアーの場合、毎日毎日ひたすらに潜り続けるのではなく、潜らない日を設けて「完全な窒素排出」をするように心がけましょう。 せっかくのリゾートなのですから、ただただのんびりしたり、ぶらりと観光したりする事も、潜る以上に価値のある事だと思います。


3.ガイドとの意思疎通

耳抜きがしにくい、中性浮力に自信がない、エアーの消費が早い、船酔いや波酔いしやすいなど、少しの不安が大きな事故に繋がらないとも限りません。 まずは申込書にきちんと書いて申告する事、ブリーフィングの時にきちんとガイドに再確認するようにしておきましょう。 また、潜って体調不良を感じたら、すぐにガイドに相談するようにしましょう。

ピーク時や現地大手サービスを利用した場合など、ブリーフィングで初めてガイドと顔を合わせて5分もしない内に潜降、という事も有り得ます。 これは極めて恐い状況であり、「水温は?」など、分かってる事でも敢えて質問したりして、少しでも会話をするようにしましょう。 ちょっとした会話でも、人はそこから様々な情報を得る事が出来ます。 相手の事が少しでも分かれば、ガイドにもこちらの事を少しでも印象付ける事ができれば、ひとつの安心材料になるでしょう。 もちろん、一緒に潜るメンバー同士においても同じ事で、例えば全然知らない別グループの人たちと一緒に潜る時、自分がその人たちにどれだけ気配りするかを考えれば。。。

迷惑がられるのは嫌だからと変に遠慮して黙ってると、例えば耳抜きの苦手な人の場合、皆がサッと潜降してしまって1人残され、下から怪訝な顔で見られて焦る程に耳が抜けにくくなり、無理やり潜降したら耳を痛めてしまった、というのはありがちな話。 特に耳の障害で平衡感覚をなくしてしまうとパニックに陥りかねないので、注意しなくてはなりません。

エアーの消費が早いのは格好悪いからと黙ってたら、スキップ呼吸や息ごらえを続けて頭痛などのトラブルを起こしてしまったり、普通は排気の勢いを見てガイドも気付くのですが、、、最悪エアー切れで急浮上という事にも。 ガイドも最初から分かっていれば、浅めのポイントにしたり、コース取りを考えたり、アシスタントを側に付けたりと、色々と手を打ってくれるはずです。

一緒に潜るメンバーも最初から分かっていれば、準備や潜降に時間がかかっても待っててくれますし、色々とサポートもしてくれるでしょう。 逆に理由も分からず待たされたりする方が、不安に思ったり、腹立たしかったりします。 海の中では意思の疎通は極めてしにくく、またブリーフィング時にはあまりゆっくり話してる時間もなく、後になればなるほど言いにくくなるでしょうから、伝えるべき事は申込みの時点から早めに伝えておくべきでしょう。

4.断る勇気

体調が良くない時など、勇気を持ってキャンセルするようにしましょう。 やっと休みを取って、せっかく時間とお金をかけて来たんだから、という気持ちは十二分に分かりますが、1本の無理なダイビングが、その後の数ヶ月、下手すれば何年にも渡って日常生活に支障をきたすような事になってしまっては、元も子もありませんから。。。

また、最近はレアものを求めて、平気で30m以深に誘うショップも少なくありませんが、ただのこのこついて行くのではなく、自分の力量、好み、体調などのマイナス要因を考慮し、断るべきものは断るようにしましょう。 アシスタントがいれば、途中の水深で一緒に待たせてもらったり、深場に行かないチームに換えてもらう事も出来るはずです。

昔のリゾート地では1日2本でのんびり潜ってたのが、最近はどこも1日3本がデフォルトになってきてるように思います。 これも皆が行くからと何も考えずに行くのでなく、ポイントの好み、最大水深、水面休息の時間、体調などから、潜るポイントを取捨選択して本数を控えるなど主体的に判断しましょう。

夜の酒の席も大きな問題です。 その土地の美味しいもの、開放的な雰囲気などから、ついつい呑んでしまいがちですが、睡眠不足や脱水状態が良くない事は先にも書いた通り、節度を持って呑むようにして下さい。

5.情報収集

潜水理論、潜水医学ともに、まだまだ歴史の浅いものであり、状況は日々変わっています。 例えば、浮上速度は18m/分と言われてたのが、今では10m/分以下が推奨されている、最大水深10m以浅でも減圧症は起こり得るなど、知らなかったでは済まされない事も多々あります。

専門書籍やホームページに限らず、セミナーや講演会など、情報源は沢山あります。 まさに百聞は一見にしかず、文章で読むのと、実際に話を聞くのとでは大違い。 ダイビング雑誌のイベント情報などをよくよく見ると、シーズンオフにはそういった催しが多く開かれてるようですので、少しでもアンテナを高く、視野を広くするように心がけましょう。

また、サンゴの白化、海洋汚染など直接関係する事はもちろんですが、陸上の汚れはいずれは海に注がれるものであり、いちダイバーとして環境問題全般にも広く関心を持つべきではないでしょうか?

  スローフード、スローライフ、
 そしてスローダイビング

楽しみ方は人それぞれであり、
 あせらず、のんびりと

ダイビングは生涯の趣味に
したいものです
 

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