ちょうど1年前に聴講してきた「旅行医学木曜セミナー」。 日本旅行医学会の主催で、会員以外にも向けて無料で開催されているもので、昨年の様子をレポートしてる経緯から事務局の方からのお誘いもあり、またまた出かけてきました。 参加者は40名位でしょうか。 メインは旅行業界の方々のようですが、今回はダイビングがテーマという事で、ダイバーも十数名参加してたようです。
中田氏が非常に苦労されて集めたデータの数々、中にはドキッとさせられるようなものも多々ありましたが、ニュースやダイビング雑誌で報じられる事故情報が全容を表してるものではない、というのは間違いない事でしょう。 しょせんは趣味のレジャーダイビング、されども事故が起きてしまった時には一体どんな事になってしまうのか、、、今後とも気を引き締めていかなくてはならないなと痛感しました。
日 時 2004年11月18日(木) 18:30〜20:00 場 所 東京体育館 第二会議室(千駄ヶ谷駅前) 参加費 無料 主 催 日本旅行医学会 講 師 「ダイビング事故とリスクマネジメント」著者 中田 誠 氏
プレレクチャー「航空機内におけるINVALID乗客の対応について」 KOREAN AIR 宣伝広報 岸田 茂氏 18:30〜19:00
- KOREAN AIRでの病気の乗客の取り扱い、乗務員の医療教育、機内に搭載されてる医療キットなどについて紹介。
- 伝染病や明らかに病気の兆候のある場合、他の乗客に危害を与える恐れがある場合などは、予約の取り消しや搭乗の拒否が出来て、身体的疾患を受けてる人などの場合、予約時に全ての関連部署の承諾を受けた上で、診断書と誓約書を提出して制限付きの搭乗許容となる。
- 車椅子は機内専用のもの、医療用酸素ボンベはKAL提供の物で大人1人分の座席料金がかかる、人工呼吸器はバッテリータイプを乗客が準備するなど、予約時に確認が必要。
- 乗務員は、応急手当、CPR、機内搭載医療装備の扱いなど、毎年教育を受けているが、急病人発生時にはまず乗客に医療関係者を探し、地上と連携しながら対応する。
レクチャー「スクーバダイビングの事故及びリスクマネジメント」 中田 誠氏 19:00〜20:00
- ダイビング事故の統計情報は、海保や警察で情報が集約されていなく、事故を隠そうという動きもあるため、実態を掴みにくい状況にある。中田氏が苦労して集めた情報によると、平成11〜15年の国内事故は241件にも上り、死亡率は44%と他のスポーツに比べて極めて高い。
- 一時期、事故多発が話題になり、安全対策が進んで事故が減ってるように見えるが、平成12〜14年頃は、実は海外での事故にシフトしてるだけである事が独自の調査で明らかになった。特に海外の事故は、現地公館に届け出しないと、外務省のデータにも残らない。
- 発生月別では、やはりシーズン中が多い。県別では、事故件数は沖縄より静岡が多いが、ゲスト比の違いから事故人数では逆転する、などの特徴が見られる。
- 死亡しなくても、脳や脊椎への障害が残ったり、植物状態になったり、減圧症から気力を失ってしまうなど様々な障害が残ったり、責任逃れする業者との対立などもある。
- 漂流事故では、男性では中高年、女性では若年層に発生が多い点に明らかな差異があり、特に中高年の致死率が高い。また漂流時、漂流者からボートやヘリがしっかり見えてるのに発見されないケースが多々あり、漁船のレーダーでも約500m、海保なら約1.8km離れてても発見できる「レーダー波反射フロート」の普及を計りたい。
- 中田氏がボランティアダイバーなどの協力を得て、手首タイプの市販血圧計を防水加工して、ダイビングプールで血圧と脈拍の調査を行った結果、やはり事故リスクの高い年代・性別に、水中の移動時より、むしろEn/Ex時に顕著な変動が見られた。
- OW講習中、イントラ対生徒数が1対3、はたまた1対2でも事故は多発し、約3千回に1回の死亡事故が発生している。また、業者同行時でも事故が増えており、即席イントラ・ガイドの弊害が懸念されるが、最高裁の判例から「常時監視義務、潜水計画責任」の原則が明らかになっており、プロとしての責任が追及される。
- リスクが低いショップとは、身元のはっきりした常勤者を雇う、プロフィール詳細を公開する、プロとして経験本数2,000本以上の人がメイン、請負仕事をさせない、リスクに関する説明責任を十分に果たす、事故時の被害者補償の内容が明確など、社会的責任経営(CSR)がなされている。
- 繁盛しているショップ、雑誌や指導団体で優良店と格付けされたショップが、必ずしとも良いとは限らず、安全配慮義務に関わる責任説明を果たさなかった場合、旅行代理店が賠償責任を問われる事も有り得る。
中田氏も「脅す訳ではないけど…」と最初に念押しをしてましたけど、残念ながら毎年少なからずダイビングの事故が発生し、年に20〜30名の方が亡くなってるのが現状です。 一旦事故が起きてしまうと、潜水医学に詳しい医師や対応の出来る医療機関の少なさ、緊急医療や捜索などにかかる膨大な費用と関係者への迷惑、減圧症などの長引く後遺症、精神的なダメージ、責任問題の追及に費やす労力、、、その大変さは言うに及びません。
特に離島や海外など、交通の便が良くない遠方で発生してしまうと、初期治療も、その後の搬送にかかる手間隙、手続きや後処理など計り知れず。 逆に近場の伊豆でも交通の便によっては、果たして救急車が来るまでどの位の時間がかかるのか、対応できる病院はどこにあるのかなど、決してあなどれません。
無理や無茶なダイビングがいけないのは当然の事ですが、年代や性別などによって一体どんなリスクが高くなるのかなど十分に認識しなくてはならないでしょう。 その上で、一般的に言われる安全対策のひとつひとつを確実に、例えばナイトを含めても1日3本以上は潜らない、飛行機搭乗まで24時間以上しっかり取るなど、より安全マージンを心がけていきたいものです。
なお今回紹介している内容は、事務局に掲載の承諾を得てますが、あくまで個人的な議事録で内容もかいつまんだものであり、詳細は中田氏の著書をお読み頂くか、もしくは日本旅行医学会のHPで後日報告されるレポートをご覧下さい。