天使で悪魔







闇の一党 〜混沌の覇者〜







  単身で旧ブラックハンドを潰したフィッツガルド・エメラルダ。
  魔術。
  剣術。
  全てにおいて他の幹部達を凌駕していた。ある意味で流される展開の結果ではあるものの、幹部全てを撃破。
  聞こえし者にまで昇格した。
  最強の暗殺者。

  伝えし者アークエンに拾われ、幼少より激しい訓練を施されてきたグリン・フィス。
  先の騒動の際には別の任務中だった為に参戦出来なかった。
  闇の一党再起動後は新たに創設された称号『与えし者』に抜擢され、フィッツガルド・エメラルダ抹殺を命じられている。
  最強の暗殺者。


  ここは闇の神シシスの虚無の領域。
  混沌が支配する空間。
  闇の一党とフィッツガルド・エメラルダとの決戦の場として用意された、場所。
  最強を誇る二人の戦いの果てに残るのは、混沌の覇者は誰?






  「ぎゃっ!」
  「がぁっ!」
  「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……ぐふぅ……」
  ドサ、ドサ、ドサ。
  雑魚がまだしつこく居残っていた。絞りカスだ。
  闇の一党の雑魚暗殺者3名を斬って捨てる。神罰を使った消耗は回復。
  フィーちゃん絶好調♪
  どれだけの数で来ようと物の数ではない。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  粉砕っ!
  撃破っ!
  瞬殺っ!
  呼び方は何でもよろしい。
  群がる闇の一党の暗殺者達を吹き飛ばす。
  数を揃えれば私に勝てる?
  ……ふん。甘い。
  質が悪ければどれだけの数がいようと問題ではない。邪魔する奴は指先1つでダウンさ(北斗の拳のオープニングテーマ風味)。
  さて。
  「ふふん」
  死屍累々。
  全て沈黙した。……永遠にね。くすくす♪
  来世では身の程って奴を勉強する事をお勧めするわ。身の程さえ知ってたらここで死なずに済んだ。
  私は肩を竦める。
  「身の程知らずって社会問題よね」
  これで最後?
  これで終了?
  この領域は『フィーちゃん抹殺大作戦♪』の会場で間違いない。闇の一党が形成した準備した異空間。
  ウォーミングアップはそろそろお終い。
  本番をそろそろしましょうか。
  「ねぇ。殺ろうか?」
  「……実に結構……」
  私は立ち止まり微笑を浮かべる。
  柔和に微笑んではいるものの、視線は相手の動きを追う。
  油断出来ない相手。
  「聞こえし者の勅命によりお前を殺す。フィッツガルド・エメラルダ」
  「お手柔らかに」
  相手は黒衣のフードとローブを纏っている。
  幹部集団ブラックハンドの法衣だ。
  彼の名はグリン・フィス。
  階級は与えし者。
  任務は私の抹殺。つまり私専属の暗殺者なわけだ。私だけをどこまでも付け狙い、殺すのだ。……いらんな、そんな専属。
  「……」
  「……」
  すらり。
  お互いに鞘から剣を引き抜く。
  私の持つ剣は破邪の剣。
  相手の持つ剣はエルフ製のショートソードだ。何かの魔力剣なのだろう、淡く光っている。攻撃力云々は何とも言えないけど、相手は
  攻撃の手数重視の模様。小振りで細身の剣ならば素早い剣捌きが容易だ。
  「……」
  「……」
  じりじり。
  お互いに間合を詰めつつも、容易に詰め過ぎはせず。一定に保ったまま弧を描くようにゆっくりと動く。
  実力は拮抗している。
  少なくとも剣術に関しては私と良い勝負をするだろう。
  こりゃ疲れる戦いになるな。
  「……」
  「……」
  一度刃を交えれば最後、戦いはどちらかが戦闘不能になるまで続く事になる。
  戦闘不能の意味?
  決まってるじゃない。死ぬって事よ。
  例え大怪我を負って動けなくなっても意味は同じ。だってそこで私はこいつ殺すし、逆バージョンでも然り。相手も躊躇わないだろう。
  「……」
  「……」
  やりにくい。
  やりにくいわ、こいつ。
  お仕事(暗殺稼業♪)に生きる真面目人間なのか、ただ無口なだけかは知らないけどやりにくい。
  せめて喋ってください。
  息詰まる戦いは嫌いだしテンションも下がる一方だ。それに私のペースに引き込めない。
  ふぅ。
  溜息を吐き、私は口を開く。
  もちろん会話中とはいえ油断するような馬鹿な事はしない。
  「ねぇ、グリン・フィス」
  「……」
  「せめて顔を見せてくれない?」
  「……」
  フードを目深まで被っているので顔の判別が出来ない。亜人系ではないだろう、少なくとも人間系かエルフ系だろう。
  顔半分は見えてるから分かるけどすごく色白。
  だとするとインペリアル、ブレトン、アルトマー、ボズマー、それのどれか。ダンマーやレッドガードではあるまい。
  ……。
  いや、まあ、種族なんざどうでもいいんだけどさ。
  相手は軽口にも乗らず。
  やりにくいなぁ。
  「あんたに足りないものを教えてあげようか?」
  「……」
  「ユーモア。それないと壊滅的な人生が待ってるわよ? ユーモアは人生に必須。おっけぇ?」
  「……」
  にっこりと私は微笑した。
  バッ。
  瞬間、同時に動いた。
  「はあっ!」
  「しゃあっ!」
  気合の声。
  その後に連続して響く金属音。刃を交える音。
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  数合斬り結ぶ。
  破邪の剣の威力は相手を上回っているものの、相手は相手で細身の剣の特性を最大限利用して俊敏に斬り返してくる。
  普通なら剣を叩き折れる。
  しかし。
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  響くのは刃交差する金属音のみ。
  折れない。
  やはり向こうさんも魔力剣か。それもかなり上等な奴だ。全力で斬り込めば折れるかもしれないけど、大振りの攻撃は回避されたら
  それまでだ。次の瞬間には斬り返されて私の命がなくなる。
  「やっ!」
  「……」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  互いに譲らず。
  双方激しい剣戟の応酬をするもののペースは崩さず。つまり、まずは様子見程度の戦闘だ。
  もちろん様子見での剣戟も普通なら死んでる。
  グリン・フィスは強いっ!
  こいつがラスボスでいいじゃん、こいつで終わりにしようよこの戦いっ!
  ……まだ後が続くんだよなぁ。それ考えるとゲンナリ。
  まあ、とりあえずはー。
  「たあっ!」
  「……」
  ブン。
  私の剣は空を斬った。
  まずいっ!
  冷静に見切ったグリン・フィスはそのまま突きの体勢に入り、繰り出した。必殺の一撃。
  避けられないっ!
  かといってこのまま相手を斬り返せないっ!
  ……ええい。ちくしょうっ!
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  左手で自分の足元に叩き込む。
  爆発と爆炎。
  そのまま相手に叩き込むのも一瞬考えたけど、こいつなら至近距離からでも避けれる気がした。その場合既に人間じゃないほどの
  脅威の身体能力だけど、グリン・フィスならやりかねないと思ったので足元に叩き込む。
  炎で視界が遮られる。
  ……お互いにね。
  双方の煙幕となる。視界を遮られれば戦闘続行は不可能。無理に敢行すると思わぬ攻撃で返り討ちなんてあり得るからね。
  煉獄のダメージ?
  ないわよ。
  私は魔法効かないし、相手にも煙幕以上の効果は期待出来ない。
  後ろに退くとしよう。
  仕切り直しだ。
  「げふっ!」
  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  何が起きたか一瞬分からなかった。私は無様な悲鳴を上げたまま後ろに引っくり返る。倒れる瞬間、脚が視界に移った。
  こいつ蹴りやがったっ!
  退かずにそのまま蹴りを叩き込みやがった。
  乙女の顔を土足でーっ!
  「……死ね」
  倒れている私に剣を繰り出す。
  なるほど。
  炎の煙幕で視界が遮られて剣を使えない、何故なら不用意に繰り出す剣は弾き飛ばされる可能性がある。だから相手は剣は
  使わずに体術で来たわけだ。私の意表を衝けるしね。確かに思い込んでた、相手は退くとね。
  ちっ、なかなか頭も切れる。
  ブン。
  唸りを上げてグリン・フィスの剣が降って来る。危うく破邪の剣で受け流し、左手を相手に向ける。
  「ちっ」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  至近距離でまともに洗礼を受けたら即死する。……魔法耐性を増幅していない限りはね。
  さすがにそれをギリギリで回避するのは嫌だったのだろう、グリン・フィスは大きく飛び下がった。ようやく間合が保たれる。
  私は立ち上がって構えた。
  「やるわね、あんた」
  「……」
  剣を持ち直す。
  ある程度の間合を保って魔法連打でもいいけど、こいつの能力が未知数な以上あまり軽率な振る舞いは出来ない。大抵の相手なら
  そのまま力で捻じ伏せるけどこいつにはそれが適応されない。能力が拮抗しているからだ。
  ほぼ互角(完全にとは言わない。だって私が勝ってるもの♪)の相手に能力のごり押しは却って裏目に出る。
  ……はぁ。
  ……面倒だなぁ。
  神罰なら一発昇天は確実だけど……問題ブーストしている間が無防備になる。
  こいつなら難なく間合に飛び込んで私をバッサリと殺っちゃうだろう。
  つまり神罰は使えないって事だ。
  厄介だなぁ。
  バッ。
  相手が動いた。
  まるで地面を滑る様に私に肉薄してくる。
  右手では剣を構え、左手は蒼く淡く光っている。ゼロ距離用の魔法かっ!
  「シシスの冷たい手」
  「くっ!」
  ブン。
  刃の一撃を回避し、さらに左手も回避。触れさえしなければ発動しない。それは私も心得ている。
  執拗にグリン・フィスは追撃。
  しつこいっ!
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  さらに。
  「煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄ぅーっ!」
  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  グリン・フィスに連打。
  相手の身のこなしが俊敏過ぎるので直撃はないものの、爆風までは防げない。
  動きを止める。
  今だっ!
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  直撃。
  やったか?
  ぶわっ。
  爆炎と爆煙の中からグリン・フィスが飛び出してくる。
  回避した?
  ……いや。
  確かに直撃は受けたらしい。身に纏っているブラックハンドの法衣はボロボロとなり、フードはなくなっている。
  銀髪のインペリアルだった。
  白い肌は透き通るように美しく、そして冷たい。
  何より表情は冷え切っている。
  こいつユーモア足りてない。
  「シシスの冷たい手」
  「ちっ」
  よける。
  よける。
  よける。
  執念深く私を左手で触れようとする。当然ながら右手には剣があり、剣も繰り出してきている。厄介な奴だ。
  どうあっても『シシスの冷たい手』とやらで私に触れたいらしい。
  青く光る左手。
  私は魔術師、大体は何の魔法かは見れば分かる。
  冷気の魔法かな。それもゼロ距離のね。触れない限りは発動しない。ついでに言うなら……あれは冷気に何かの魔法を付与してる
  わね。つまりは複合魔法。何を織り交ぜているのかは知らないけど……まあ、触れないに越した事はない。
  バッ。
  私は大きく飛び下がった。
  飛び下がる際に煉獄を放って牽制。大きく間合いを取る。このまま魔法の連打で始末してやるっ!
  「ふふふ」
  「……」
  再び仕切り直し。
  お互いに致命的な傷はないものの……そもそも無傷ではあるものの、疲れる戦いね。傷はなくとも消耗はしていく。疲れた。
  冷たい視線を私に投げ掛けるグリン・フィス。
  冷たい、冷たい目だ。
  ここがどういう空間なのかは知らないけど漆黒の闇が横たわる混沌とした領域。
  混沌の世界の勝者は誰?
  混沌の世界の覇者は誰?
  「……」
  「……」
  魔法の連打での始末とはいえ闇雲に放てば簡単に回避されて間合に飛び込まれるだろう。
  最初の一撃が肝心。
  有利に戦闘を運ぶ為にも焦りは禁物。
  剣を鞘に戻す。
  魔法戦には移行するとしよう。剣はさほど必要ではない。間合に飛び込まれても居合いで片がつける事が出来る。
  何でも出来る私。
  てへ♪
  「ん?」
  「……」
  相変わらず無言のグリン・フィスの左手には再び蒼い光が灯る。
  シシスの冷たい手とかいう魔法か。
  この間合で?
  ふん。近づけるとでも思ってんのか。私はそこまで優しくないわよ。消し炭にしてやるっ!
  「煉……っ!」
  「シシスの死への囁き」
  ごぅっ。
  嘘っ!
  冷気の塊が……飛んで来るっ!
  私は回避する間もなく直撃して吹っ飛ぶ。グリン・フィスは一直にこちらに駆けて来る。
  そういう事か。
  散々ゼロ距離魔法に専念していたのは私を欺く為か。戦術は相手の思い込みを利用するところにある。こいつ頭良いなー。
  それにしても……。
  「くっ」
  痛くはない。
  びっくりしたけど痛みはない。
  ググググググっ。
  何とか身を起こして片膝を付くものの、それ以上動けない。体の感覚がない。どうやら冷気の魔法に麻痺が付与されているらしい。
  おそらく先のゼロ距離魔法にしてもそうなのだろう、多分ね。
  動けない。
  「くっ」
  相手は迫る、迫る、迫って……。
  「死ね」
  「くっ」
  麻痺はまだ解けない。
  光る刃。
  与えし者グリン・フィスの手にある刃は私の脳天目掛けて振り下ろされる。その様がスローに映る。
  別に恐怖を与える為に動作を緩めているわけではない。
  ゆっくりと見える。
  ゆっくりと。
  ゆっくり。
  そして刃は無情にも私の頭に振り下ろされた。麻痺はまだ解けない。
  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  脳天に振り下ろされた剣は私の石頭で弾かれる。
  「なっ!」
  初めて。
  初めてグリン・フィスの顔に動揺が浮かんだ。戸惑いかもしれない。
  刃は折れた。
  半ばから折れた。
  この時、ちょうど私の麻痺が解けた。
  この瞬間を逃す馬鹿はいない。
  「はあっ!」
  居合い。
  鞘から勢いよく、稲妻が奔るが如く刃が放たれる。瞬間、私の破邪の剣がグリン・フィスの腹を薙いだ。
  しかし浅いっ!
  退く速度、つまりは相手の反応が早かった。
  腹は薙いだものの致命的ではない。もっとも動き回れるほどの傷でもない。
  私は追撃。
  「シシスの死への囁きっ!」
  「煉獄っ!」
  相殺。
  激しい音を立てて蒸気と化す。
  私は止まらない。
  蒸気に突っ込む、そしてグリン・フィスもそれを見越していたのか蒸気の中へ突っ込んで来た。お互いの手にある刃と刃。
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  絡み合う刃。
  「ちっ」
  「くっ」
  私は上段から繰り出す。
  相手は下段からだ。
  そして……。
  「な、なに?」
  ザシュッ。
  「お終いよ。これでね」
  私の刃は相手の体を切り裂いた。グリン・フィスは強かったけど、問題がある。剣が途中で砕けていたからだ。相手はそれを知っての
  上での剣戟をしていたのだろうけど、やはり普段の感覚が抜け切らない。
  受け止める事が出来ずに切り裂かれた。
  その場に膝を付くグリン・フィス。
  最強の暗殺者に相応しい実力だった。
  「これでお終いのようね」
  「くっ」
  「あんたの敗因はユーモアがないから。ユーモア手に入れて出直しておいで。……来世でね」
  「シシスの冷たい手っ!」
  「煉獄っ!」
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  至近距離の一撃。
  相手の手の内は読めている、触れられる義理はない。
  容赦なく煉獄を叩き込み吹き飛ばした。
  「ふふん」
  煙が収まった時、姿はどこにもなかった。
  吹っ飛んだらしい。
  跡形もなくね。
  「なかなか使えるじゃないの」
  石頭で剣が砕けるはずがない。あれはの魔法。竜皮(暗殺姉妹の午後 〜不運の報酬〜参照)という魔法。一分間ドラゴニアンと同等
  の防御力を得るられる魔法。入手元は迷惑魔術師アンコター。
  一度発動すると二十四時間使用出来ないし、持続時間が短いので使い勝手は悪いものの……うまく使えばこの通りだ。
  実際、グリン・フィスの意表を衝いた。
  ただまあ次に使えるのは二十四時間後。つまりこの戦いでの奥の手の1つは消えたわけだ。
  さてさて。
  「次行くか次に」
  与えし者グリン・フィス、撃破。



  与えし者グリン・フィスを下し、私は幸運の老女像を目指す。
  何故?
  そこから妙な気配を感じるからだ。
  どのみち私を殺す為の空間。敵さんも隠れてばかりもいないだろう。決着を付けたいのはお互い様だ。
  禍々しい気配を発して私を招待している、まあ、そういう事でしょうね。
  途中、私の前に立つ雑魚はいなかった。
  打ち止めなのだろう。
  ここに至って出し惜しみする必要はないのだから、多分そういう事だ。
  幸運の老女像までもうすぐだ。
  その時、私の前にある人物が立ち塞がる。
  そうね。
  こいつもいたわね。

  「待ってたわよ、フィッツガルド・エメラルダ」
  「あんたか」
  冷笑。
  相変わらず悪趣味な服装ねぇ。
  深紅のドレスに無数にルビーを散りばめている。紅に紅、合わない取り合わせだと思いますけどね、私の美的センス的には。
  闇の一党のアマンダ。
  こいつも出て来たか、まさにラストバトルに相応しい。
  決着は付けないとね。
  「夜の母とかいうマリオネットを叩きのめして以来よね。元気してた?」
  「相変わらず生意気な女っ!」
  「お互い様よ」
  「ふん」
  「そういえばあんたの階級は聞いてなかったわね。階級は何?」
  「私は集いし者アマンダ様よっ!」
  「はっ?」
  集いし者?
  また妙な階級ねぇ。
  旧ブラックハンドにはない称号だ。新ブラックハンドには新ポストとして、与えし者と集いし者があるらしい。
  まあ何でもいいわ。
  「で? 何を集わせちゃうわけ?」
  「ズィヴィライっ!」
  ぼぅっ。
  青鬼のような風貌の悪魔が召喚される。
  毎度のお馴染みのズィヴィライってわけだ。なるほど、集いし者とは別次元から悪魔を召喚魔法で集わせちゃうって意味か。
  確かにアマンダはアルケイン大学の一流召喚師と張り合えるほどの技量を持つ。
  なるほどなー。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  粉砕っ!
  「で?」
  「くっ! 相変わらず生意気ねっ!」
  「この期に及んでズィヴィライの召喚しか芸がないなら出て来るんじゃないわよ」
  「ふふんっ!」
  バッ。
  アマンダ、印を切る。
  ふぅん。
  奥の手があるらしい。でもそれをわざわざ私が待ってやるなんて保証はどこにある義理がどこにある?
  回答。保証も義理もありません。
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  問答無用で叩き込む。
  爆発して炎が散る。
  「ちっ」
  私は舌打ちをした。今までまともにこいつに魔法を叩き込んだ事はなかったけど……なるほど、あの無数のルビーは魔法耐性を増幅
  しているようだ。原理としては私と同じ。エンチャントした装飾品の効力で魔法が効かない。
  ならばーっ!
  「はあっ!」
  斬り込む。
  ブン。
  剣は空しく空を薙ぐ。刃受ける直前にアマンダは大地に溶け込み消えたのだ。
  一瞬とはいえ私は動揺した。
  そりゃそうだ。
  そんな裏技見た事も聞いた事もない。しかし察する事は出来る。
  ここはこいつらの領域だ。
  闇の一党に有利に働くのは当然だ。地の利は向こうにあるというわけだ。ならばその地の利を実力で捻じ伏せて、血糊にしてやる。
  くすくす♪
  「闇の神シシスの兵隊よ」
  「……」
  声がする。
  どこだ?
  「闇の神シシスの軍隊よ」
  「……」
  声がする。
  どこだ?
  「我が声を聞き届け、立て。我が声を聞き届け、立て。我が声を聞き届け、立て。立て、立て、立て立て立て立て立て立て立て立てっ!」
  「……」
  次第に熱の籠もる声。
  隣から聞こえるようで遥か遠くにいる感じもする。
  少なくとも気配は感じない。
  気配を遮断している?
  アマンダの実力かこの領域の特性なのか。
  いずれにしても面倒だ。
  私は待つしかない。
  アマンダの攻撃を待つしかない。
  言葉の内容からして召喚系なのだろう。つまり相手の出方を待てる。いきなり攻撃魔法叩き込まれわけではない、相手の出方を待つと
  しよう。真の出来る女は慌てない動じない戸惑わない。
  何が来ようと捻じ伏せる。
  それだけよ。
  「闇の神シシスの精兵ダーク・ガーディアンよっ! 立てぇーっ!」
  「なるほど」
  ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!
  鳴動。
  漆黒の大地を突き破り……いや、漆黒の大地が盛り上がり、次第に人の形を成す。
  それは鎧を着込んだスケルトン。
  以前シェイディンハル聖域で見た事がある特別製のスケルトンだ。
  実力は知らない。
  しかしこの場面でわざわざ召喚するのだ、強いのだろう。
  それに……。
  「魔力の無駄遣いしやがって」
  取り囲むガーディアンは30体は下らない。
  なるほど。
  つまりこれは……私はの消耗が目的か。アマンダ自身は姿を現さない。高みの見物というわけか、良いご身分ですこと。
  「ちっ」
  いちいちチマチマ潰すのは趣味じゃない。
  一気に潰す。
  本日二回目だけど魔力は自然と回復する、特に支障はない。
  ……。
  まあ、魔力を爆発的に高める事によりキャパシティを遥かに超えるのは……あまり体にはよくないけど、仕方あるまい。
  ここで使わないとむしろ危険な感じもする。
  確固撃破の場合遅れを取るかもしれないからだ。
  仕方あるまい。
  コキコキ。
  首を回して骨を鳴らす。
  「ふぅ」
  さて。やるか。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  魔力が爆発的に高まる。正直な話、火を付けたら大爆発しそうな感覚。……もちろんそんな事はないけどさ。
  精神的にも高まる。高揚感。
  そして……。
  「神罰っ!」
  
バチバチバチィィィィィィィィっ!
  蒼い雷撃が踊り狂う。
  その場にあるモノは全て粉砕される。
  全て?
  全てだ。
  「はあはあっ!」
  膝を付きたいものの、付かない。
  兵隊は潰したけどアマンダはどうしたのだろう?
  「はあはあっ!」
  気配はしない。
  一緒に吹き飛んだのだろうか?
  ……。
  それはそれでありえる。
  しかし空間を渡って回避した可能性もある。アマンダ、多分空間転移も出来るのだろう。シロディールにはない魔道技術だ。だから私に
  は何ともいえないけど、逃げた可能性もあるし吹き飛んだ可能性もある。
  ともかく。
  ともかく私は息を整えた後で歩き出す。
  目指すは幸運の老女像。
  「残りの幹部は7人」
  全部消す。
  全部。
  「はあはあ。どんな奴が来ても潰す。……そろそろ闇の一党、煩わしいしね。終わりにしてやる」
  混沌の領域。
  闇の一党が蔓延っているもののそれももう終わる。
  どうして言い切れる?
  それは簡単よ。
  何故なら……。


  ……私こそが混沌の覇者……。














  幸運の老女像。
  その周辺の大地は漆黒に包まれている。……いや。大地ではなく水だ。漆黒の水。
  その水の中に佇む七つの影。
  「ここまで来る、か。面白い。……フィッツガルド・エメラルダ、引導を渡してあげるわ。ふふふ」
  フードを払い除け、金髪の少女は微笑む。
  アントワネッタ・マリーは薄く微笑した。