天使で悪魔




暗殺姉妹の午後 〜旅は道連れ世は情け〜





  全ては次第に絡み合うだろう。
  今は、全てが独立している。
  しかしそれはあくまでまやかしだ。目を凝らし、事象を見極めればそれらが複雑に絡み合っている事が分かるはず。
  皇帝暗殺。
  全てはそこから始まる運命の連鎖。
  私はフィッツガルド・エメラルダ。運命に選ばれた女……らしい。
  運命、ね。
  
  まっ、楽しんであげましょうじゃないの。
  アイレイドコレクター・ウンバカノの狂気一歩手前の収集癖。
  再建されたっぽい闇の一党ダークブラザーフッドの刺客達。
  それらもこの情勢に、絡んでる。

  そう。
  全ては皇帝暗殺から動き始めた。
  その先はどうなるかって?
  そんなの、面倒臭くて考える気にもならない。
  私は私らしく、あるがままに生きていく。
  それで充分でしょう?





  ウンバカノの邸宅。ウンバカノの博物館並みのコレクションが所狭しと飾られた私室。
  マフィンを平らげ、紅茶を啜る様を見ている。
  誰のって?
  ミスタースポンサー、私のボスのウンバカノよ。この部屋の主。
  直立不動に立つ私を無視して、ボスはティータイムの最中。自分から呼び出した割には、お茶の時間は邪魔されたくない
  という我侭ぶり。親の顔が見てみたい。躾がなってない。
  「ジェルリン」

  「はい、ウンバカノ様」
  「このマフィン、なかなかだ。……次は最高に仕上げろ」
  「かしこまりました」
  散々食い散らかして言う事はそれかい。
  よくこんな男に仕えられるなぁ。
  私?
  私は、契約金50000でこいつと仲良くしてるけど……とても仕えれそうもない。
  ほら、私って人の上に立つ人物じゃない?
  ほほほー♪
  ティーカップもお皿も、全て銀製。趣味は悪くない。銀製かぁ、中々作りもいいし素敵な品じゃないの。
  あれ欲しいなぁ。
  デザイン素敵だし。私も自分用に、作ろう。お金なら有り余ってるし。
  ジェルリンは茶器を片付け、一礼して退室。
  ようやく本題に入れそうだ。
  「よく来てくれたな、私の有能なるトレジャーハンターよ。待ちくたびれたかな?」
  「はい。あんた飲み食いに時間掛けすぎ。このドジでノロマな亀め」
  「……」
  「冗談」

  「ま、まあいい」
  正直、時間掛け過ぎでしょうが。
  どこの英国貴族だお前は。
  お茶の時間に一時間も掛けやがって。いい加減、立っているのが疲れたわよ。

  せめて私に椅子を勧めなさい。まったく。
  「さて、次の仕事の準備が整った。……用意はいいかね?」
  「嫌です」
  「……」
  「冗談」
  「ま、まあいい
。今までの君の功績を総合的に評価すると、ただの墓泥棒でない事は証明されている」
  「それはどうも」
  「君ならもう少し、手の込んだ仕事もこなせるだろう。興味はあるかね?」
  「ありません」
  「……」
  「冗談」
  「で、では仕事を請け負う準備があるのだね?」
  「ええ、ボス」
  「実に結構っ!」
  一枚の、紙を私に手渡す。
  何かの遺跡が書かれている。いや、アイレイドの遺跡だろう。そこは分かる。でも、ここどこの遺跡だ?
  私は魔法学はマスターしてるけど、考古学はあまり得意ではない。
  ……。
  あれー?
  どこかで見たようなスケッチ……どこでだっけなぁ?
  「このスケッチを見てくれ。古い文献で《いと高き神殿》とだけ記されている。この場所を探して欲しい」
  「探して……ボスは場所知らないの?」
  「長年研究しているが皆目見当がつかないのだ。お手上げだよ。そもそも……」
  「マラーダ」
  「……?」
  「ここはマラーダというアイレイドの遺跡ね。確か、シロディール最東端にある遺跡のはずよ」
  そうだ思い出したっ!
  この間ター・ミーナと一緒に《遺跡クイズ》した時に見たわこの遺跡の絵。
  最近発見されたばかりの場所で、大学の調査団も入っていない未知なる場所。
  「……本当に?」

  「ええ、正しいはずよ」
  「君は実に博識だな。では、話を次のステップに進めるとしよう。その遺跡からレリーフを入手してきて欲しいのだ」
  「レリーフ?」
  「アイレイド文明は今なお謎に包まれている。アイレイド崩壊後、帝国がその歴史を奪うとともに、自分達の不必要な歴史は改竄し、
  闇に葬ったからだ。レリーフさえ手に入れば、知られざる歴史への第一歩となる。手に入れてきた欲しい」

  「了解、ボス」


  邸宅を出ると、1人の男がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
  平服姿。
  見る限り、物乞いの類ではなさそうだ。
  私に近づき、値踏みするように私を眺める。何だこいつ?
  ……。
  ま、まさか私の美貌に心奪われた?
  くっはぁー♪
  相変わらず罪ですなぁ、私のこの麗しい容姿。いずれ世界中の男どもは私にひれ伏すのは時間の問題です♪
  ほほほー♪

  「何か用?」
  「そう堅くなるなよ。あんたウンバカノに飼われてるトレジャーハンターだろ? 俺もさ。つまり、同僚ってわけだ」
  「それで、何?」
  「俺の名はクロード・マリック。奴の手駒の一つさ」
  「私はフィッツガルド・エメラルダ」
  「……」
  じっと私を見つめる、自称ウンバカノの手下。
  「何?」
  「あんた、前にアンガ遺跡に行かなかったか?」

  「いいえ。何で?」
  「いや、仕事を邪魔した奴の声にそっくりだからだ。まあ、気のせいだろうがな」
  アンガ遺跡?
  確か前にヴィンセンテの頼みで一緒に潜った遺跡ね。
  ナミラ信者とアーケイ信者が抗争してた場所。その最奥で確かトレジャーハンターの一団とぶつかった。
  ……。
  なるほどなぁ。
  あの時の奴か。あの時の、それなりに強い男がこいつか。なるほど、ウンバカノに飼われてるのか、こいつ。
  でも、ここで何してる?
  「一杯飲みながら、仕事の話でもしようや」
  「仕事?」
  「なんだあんた、自分だけだと思ってたのか? ……まあ、そう思っててくれても問題はないよ。俺は、そう、競争相手ってやつだ
  からな。ウンバカノはそういう暇潰しが大好きなんだよ。どっちが先に手に入れるか、それを酒の肴にする奴なのさ」

  「……ちっ」
  安く見やがって、あのアルトマー。
  競争させて、どちらの腕が上か天秤に掛けるつもりか。あの野郎、本当に金と暇が有り余ってるなぁ。
  暇潰し程度でこいつと争わせる腹か。
  ……ちくしょう。
  「来いよ。一杯飲もうぜ、奢るからよ」


  「ウンバカノに乾杯だ。俺達の懐がいつも温かいようにっ!」
  誘われた場所はタイバー・セプティムホテル。帝都随一のホテルであり、高級サロン。最上の社交場。
  オーナーはアルトマーのオーガスタ。絶世の美女と評判だ。
  ……私には劣るけどねー。
  「まあ飲め飲め」
  「飲んでるわ」
  昼酒嫌いだけど。
  ハチミツ酒をチビチビやりながら、私は同業者でライバル的な立場のクロード・マリックを観察する。
  意外に出来るわね、こいつ。
  隙が少ない。
  隙がない、わけではない。そこまでの玄人ではないものの、修羅場は潜り抜けてるわね。
  そこら辺の戦士より確実に強い。
  ……私には劣るけどねー。
  「それで、酔わせていやらしい事する気じゃないでしょうね?」
  「……」
  そう言うと、じろじろと私を眺める。
  「5年後にまた会おうぜ」
  今の私には魅力を感じないらしい。辛辣なお言葉、ありがとうございましたー♪
  ……ちくしょう。
  気を取り直して、話の路線を戻そう。
  「ウンバカノって、何考えてるの?」
  「さあな。俺は精神科医じゃあない。奴の精神構造までは分からんさ。……ただ、金払いはいい。それで充分じゃないか?」
  「なるほど」
  「それで今回の遺跡の場所、お前は知ってるのか?」
  「マラーダ」
  「そりゃすごい。よく分かったな。考古学に置いては、俺といい勝負だぜ。ヴァラス山脈にある、公式では未発見の場所だ」
  「ヴァラス山脈かぁ」
  「そこは知らなかったのか? ははは、感謝しろよ、俺に」
  「ええ。ありがと」
  ……このボケめ。
  ヴァラス山脈は、西だ。マラーダは東にある事ぐらい、把握してんだよ馬鹿め。
  真逆の方向教えるか。
  程度が知れてるなぁ、こいつ。
  「他に何か聞きたい事はあるのか?」
  「別に。……ああ、そうそう、貴方はこんなところで飲んでていいわけ?」
  「ハンデさ」
  「ハンデ?」
  「あんたがどれだけ強いのかは知らないが……トレジャーハンターとしては俺よりも劣るのは間違いないだろう? だからこそ俺
  はゆっくりと仕事をするさ。まっ、素人のあんたに対するハンデってわけだ」
  「そりゃ助かるわ」
  コップのハチミツ酒を飲み干し、私は席を立つ。
  確かに墓泥棒としては奴の方が腕は上。それは紛れもない事だ、私もそこは認める。
  まっ、ここは感謝して先行させてもらうとしよう。
  「じゃあね。ご馳走様」
  「ああ、またな。……意外な場所、意外な展開で会えるような気がするよ」
  「何それ。どういう意味?」
  「さてな」
  まずはラミナスに報告でもしておくかな。




  既に毎度お馴染みの場所、アルケイン大学。知識の最高峰。
  そしてこいつもお馴染みの男だ。
  「マラーダ、か?」
  「そう。マラーダ」

  「調査団を送る手間が省けたな。フィッツガルド、ついでに調べて来い」
  「えー、私がぁー?」
  「人並みの生活を与えた私に対する恩返しをするのが、お前の役目だ。ハハハハハ、私の人徳の勝利だな♪」
  ……ちくしょう。
  こいつが既にお馴染みの、愚痴屋の中間管理職ラミナス・ボラス。
  相変わらず口が悪いなぁ。
  それも悪口は私限定。嬉しいのか悲しいのか……複雑ですなぁ。
  おおぅ。
  場所はラミナスの私室。
  ラミナスもまた大学ではそれなりに上位に位置する立場だから、それなりに広い部屋が与えられている。
  紅茶を啜りながら、私はラミナスの言葉を待つ。
  大抵、ラミナスからの任務はハンぞぅからの命令だからだ。私はある意味、ハンぞぅ直属。
  ハンぞぅ、とはハンニバル・トレイブンの事。……今さらだけどね。
  アルケイン大学評議長であり、帝国の元老院議員。
  さて。
  「フィッツガルド、お前はウンバカノをどう思う?」
  「狂信的なアイレイド賛美者」
  奴はコレクター。
  しかしその思想はコレクターを越えている気がする。奴とこれまで接して来て、得た感想だ。
  「それでラミナス、これからどうする?」
  「そうだな、一緒に食事をした後で……一緒に風呂でも入ろうじゃないか。女房もいない、今夜は2人きりだ」
  「すいません最近あんたの言動はエロエロで有名なんですけど」
  「失礼な奴だなお前は。お前なんかに欲情するか。この幼児体型めっ!」
  ……ちくしょう。
  「フィッツガルド」
  「何?」
  「この幼児体型めっ!」
  ……こいつ、しつこい。
  ……ちくしょう。
  「さて、お前を弄るのはこれぐらいにしよう。何事も切り替えが必要だからな」
  「そ、そうね」
  「この幼児体型めっ!」
  「……」
  「お前はこのままウンバカノの指示に従え。それがマスターのご意思だ。お前には苦労をかけると、仰っていたよ」
  「や、やだなぁ。こんなの何でもないって。ハンぞぅにそう伝えておいて」
  「分かった。伝えておこう」
  ガチャリ。
  「ただいま戻りましたー」
  陽気な声。
  ラミナスの私室に入って来たのは金髪の女性……いや、女性と言うには少し幼さが残る顔。アントワネッタ・マリーだ。
  誰に断るでもなく、椅子に座る。
  「アントワネッタ君、報告を」
  「はぁい。ウンバカノはフィーを完全には信じてないみたい。監視がついてたもの。……まあ、あたしが丁重に叩きのめしたけど」
  「乱暴だな」
  「でもここまでついて来られても困るでしょう?」
  「それもそうだが……」
  「後頭部に蹴り叩き込んで気絶させただけだし。暴漢にやられた、それで処理出来るでしょ?」
  「そう、だな。我々は何も関知していない、暴漢の仕業……まあ、それでよしとするか」
  ウンバカノは私に監視、か。
  その監視を監視する為に、私の身を守る為にアンが護衛についている。
  ふぅん。ラミナス、私を心配してるんだ。少し嬉しい。
  ただ……。
  「ラミナス、裏目に出たんじゃない?」
  皮肉げに私は笑う。
  「私の自叙伝、勝手に出すから」
  「何の事だ?」
  「身元が割れるじゃないの、私のさ」
  本を読めば私が魔術師ギルドに所属しているのを、アルケイン大学に在籍しているのを簡単に知る事が出来るだろう。
  それに私は闘技場のグランドチャンピオンでありレディラックの称号を持つ。
  少し調べれば本名ぐらい分かるし、それ以上も分かる。
  まあ、本名はウンバカノに告げてあるけど。
  ともかく魔術師ギルドと関連性がある。少し調べれば簡単に、露見するはず。
  「今頃ウンバカノに私の正体がばれてるんじゃないの?」
  「ふっ、やっと分かったか」
  「はっ?」
  「素性が知れればお前はウンバカノに始末される。……私の長かった苦しみの日々が、ようやく終わる。迷わず成仏しろよ」
  「鬼かお前は」
  相変わらず口が悪い奴。
  まあ、露見する事はないだろうけど。
  両親死んでから各地を転々としたし、オブリにまで転送されたりした為に既に戸籍なんか存在しない。
  大学に在籍しているものの、公式には一魔術師に過ぎない。
  特命任務を与えられる立場でもないし、他の魔術師達も《マスター・トレイブンの養女》とは認識されていないし知らない。
  よっぽど詳しく調べないと判明しないだろう。
  つまり、絶対に判明しないわけだ。
  何故って?
  アルケイン大学は閉鎖社会。部外者は立ち入れないし、調べようがない。
  私の立場を知る者は極稀。
  まあ、各地の支部長クラスなら私の立場を知ってるだろうけど……そこまで気にしてたら、仕方がない。
  さて。
  「それでこの先、どうする?」
  「マラーダに行き、そのレリーフとやらを手に入れ……」
  「ここに持ち込む?」
  「いや、その必要はない。入手したらそのままウンバカノに渡してやれ」
  「だけどいいの?」
  「どういう意味だ」
  「あいつの思惑知らないけど……ただのコレクターじゃない場合、私が奴の計画を遂行しているようなものでしょ?」
  「その見極めはこちらでするよ。おそらくは、まだ問題ない」
  「本当にただのコレクターならどうする?」
  「本当に、そう思うか? お前はどうだ、フィッツガルド。奴はただコレクターだと思うか?」
  「さあね、分からない」
  ただ狂信的なのは確かだ。
  そこら中から買い漁ってる。いくら金が余ってる、いくらアイレイド時代の遺産が好き……にしても少々度が過ぎているのは
  確かだろう。
  コレクターなのか、それとも……。
  「見極めは、ラミナス、そっちに任せる。私は任務をこなす。それでいいよね?」
  「あまり無茶はするなよ。無理だと思えば、撤収してくれて構わない。大学は全力でお前を護る覚悟がある」
  「……ラミナス……」
  少し、感動。
  「ウンバカノの魔の手から護る為にお前を連続殺人犯にでっち上げ、地下監獄送りにして永遠に収容してやるから安心しろ♪」
  「すいませんそれは私の人生は監獄で終わるという事ですか?」
  「刺客の心配はなくなる、つまりお前を護る為だ。ぐっじょぶ♪」
  ……ちくしょう。
  「ねー。あたしはどうすればいい?」
  「アントワネッタ君は……そうだな……」
  ラミナスは少し考え込み、確認する。
  「本当に監視に顔は見られていない? 叩きのめした時も?」
  「うん」
  「ならば、フィッツガルドに同行してくれると助かるのだが。トレジャーハンター仲間という設定で、どうだ?」
  「フィーと一緒に冒険、やったぁ♪」
  ふぅ。
  聞こえないように、溜息。
  随分と賑やかな旅路になりそうね。場所は未開の地にある、マラーダ。遥か東の地だ。
  経路は二つ。北を行くか、南を行くか。
  ストレートに東に行ければいいんだけど、帝都はルマーレ湖に囲まれている。陸路でストレートに東は無理。
  南で行けば、ブラヴィル、レヤウィンという都市を経由……駄目、遠回り。街道が無駄に入り乱れてるから難路だしね。
  北ね、北で行こう。
  帝都をまず街道沿いに北に出て、ロクシーという宿屋を経由、そこから街道を南に折れて、ブラヴィルの真東まで南下、そこから
  東にジャングルを分け入って進み最近作られた街フロンティアを拠点とし、遥か東にあるマラーダを目指すとしよう。
  よし、旅のプランはおっけぇ。
  「じゃあアン、行こうか」
  「うん。愛の逃避行に向けて、レッツでゴー♪」
  「……ま、まあ元気出して行きましょう」
  このノリ、疲れる。
  姉を気取るならもう少し姉らしく振舞って欲しい。そしたら私だって、少しは気が楽なんだけどなぁ。
  やれやれ。
  「フィッツガルド、もう出発するのか?」
  「ミスタースポンサーは退屈しているらしくわざわざライバル差し向けてくれたのよ」
  「ライバル?」
  「それなりに強い奴なの。まともに戦えば勝てるけどね。特定の条件下で挑まれるとやり辛い。場数は向こうが上みたいだし」
  クロード・マリック。
  以前、アンガ遺跡で対決した時は暗闇だった。そういう状況での戦闘では向こうの方が強い。
  ヴィンセンテがいたから事無きを得たけど、サシの勝負だったら負けてた可能性もある。
  戦いが常に正攻法、常に自分のペースとは限らない。
  やりようによっては完全無欠の私ですら負ける可能性だってある。クロードは、そういう意味でやり辛い。
  トリッキーと言うのかな。
  命の為なら冷静に退ける奴だし、能力もそれなりに高い。私の方が強いけど、あまり相手はしたくない。
  夜襲とか奇襲とかされると、必ず勝てるとは言い難い。
  それなりの腕はあるわけだし。
  「そのライバル、多分成果を横取りすると思う」
  「根拠は?」
  「女の勘」
  「じゃあ当てにならんな。お前のは、オカマの勘だ」
  「お、女よ私は最初からっ!」
  「貧乳のくせに生意気だ」
  ……ちくしょう。
  「フィーは巨乳だよ。あたし、フィーの胸に飛び込むと幸せになれるし。とっても柔らかい、温もりだよ。自信持ってね、フィー」
  「お姉様ラブー♪」
  むぎゅー♪
  抱きつく私。
  貧乳貧乳貧乳と、ラミナスに言われ続けてきたっ!
  なのにお姉様は私を巨乳と言ってくれる。ああ、アン、貴女は私の価値を正当に評価してくれるのねー♪
  「お姉様愛してるー♪」
  「くっはぁー♪」
  「……すまんなフィッツガルド、それにアントワネッタ君。その、妙に怪しい雰囲気は、何だ?」
  姉妹なんだけど……まあ、色々とあるのよねぇ。説明すると長いから省くけど。
  ラミナスは何も知らない。そりゃそうだ。話してないし。
  しかし思うのは……。
  「アンあんたどうしてここにいるのっ!」
  「うっわフィーってば今頃その反応? まったく鈍感なんだからぁ。でもそんなフィーは一晩で5回は確実の敏感肌です♪」
  「いや数字の意味分かんないから」
  エロなのは、何となく分かるけど。
  ラミナスが説明する。
  「お前がウンバカノへの潜入任務で帝都を離れていた際に、お前の私室で寝起きしていたんだ」
  「はっ?」
  「どこから入り込んだかは知らないが、不法侵入者には違いない……だからバトルマージに引き渡そうとしたら彼女はお前
  の義理の姉だと名乗ってな。お前の事を非常に詳しい。思い出してみればスキングラードでお前と一緒のところも見たしな」
  「スキングラード……ああ、あの時か」
  そういえば以前スキングラードで一緒の時、ラミナスと会ったわね。
  色々とあって紹介はしてないけど。
  「彼女曰く、得意分野は隠密と暗殺。……暗殺は笑える冗談だがな、ハハハハハハハ」
  ……いや冗談じゃなくてそれマジですから。
  姉は闇の一党ダークブラザーフッドの元暗殺者。それも凄腕です。
  「お前繋がりというのは紛れもない事実。長方も得意だと言う。だからお前の監視を頼んだ」
  「ウンバカノが私を信頼してないから、その護衛?」
  「いやお前が犯す軽犯罪を立証する為の、監視だ。万引き三回、恐喝二回……ふぅ。お前もこれでおしまいだなっ!」
  ……ちくしょう。
  ともかく、アンはそういう感じで現在、魔術師ギルドに加担しているらしい。
  それにしても無謀な事を。
  本来なら、警備担当のバトルマージに問答無用で叩きのめされても文句は言えない。
  「だけどラミナス、これ越権行為でしょ?」
  「何の事だ?」
  「とぼけないでよ」
  「ふむ」
  ウンバカノがアイレイドの遺産、つまり魔道文明の遺産を集めている。もしかしたら悪用するかも、そしたら魔法繋がりで魔術師
  ギルドの弾圧に繋がるかもー……そんな理由で、潜入と調査。少し手が込みすぎてる。
  魔術師ギルドは公的機関ではない。捜査の権限は基本、ない。
  これがまだ、ウンバカノがこちら繋がりなら内偵もいいだろう。しかし何の関連性もない。
  動くなら、帝都軍が動くべきで私達じゃない。
  何故、ここまで警戒する?
  「不服か、フィッツガルド、この命令が」
  「命令の出所はハンぞぅでしょ? ……なら問題ない、私は何でもするわよ? 何でも言ってよ、ラミナス」
  「こ、このふしだらなブレトン娘めっ!」
  「エロは含まないわよこのボケーっ!」
  「ちぇっ。あたし、期待しちゃった」
  「ややこしくなるからお姉様は黙っててっ!」
  ……すでにややこしいけどね。
  ……ちくしょう。
  「ウンバカノを調査するのは、それなりに訳がある」
  「そのココロは?」
  「今回の任務が終わったら話すとしよう。それでいいか?」
  「いいわ。それでラミナス、今回の報酬は?」
  「私の笑顔だ♪」
  「……やっぱり……」
  「あたしはー?」
  「金貨100枚支払う用意があります。満足頂けると、幸いですな」
  アンには現金支給かよ。言葉遣いも丁寧だし。
  ……ちくしょう。





  帝都を出て、私達は街道を北に。
  街道は次第に東に緩やかに曲がっていく。一応、帝都から延びる街道は西、北、南の三本。
  エイルズウェルは素通りした。
  以前、透明化事件のあった村だ。そこで宿泊しても良かったけど、まだ日は高い。
  皇帝暗殺後は情勢が悪化し、街道とはいえ完全に安全ではない。日が落ちれば、賊どもが跋扈する。
  もう少し行けば宿屋がある。今日はそこに泊まるとしようか。
  シャドウメアの脚力は素晴しいまでに、力強く、速い。
  私とアンを乗せて走っても、一向に衰える気配もない。むしろいつもより速い?
  女2人のお尻の感触で喜んでるんじゃないでしょうね?
  馬冥利に尽きる状況らしい。
  このエロ馬め。
  アンも別の馬を乗る、という事も当然考えたけど……普通の馬だと日程は確実に遅れるだろう。
  シャドウメアは不死の馬。
  死ぬ事もなく、疲れも感じない。おそらくは死霊術の賜物なのだろう。ルシエンがどういう経緯でこの馬を手に入れたかは
  知らないけど。この世界の法則の全てから解き放たれた、闇の名馬。
  そのくせニンジンは大好きというお茶目さも兼ね備えた私の愛馬。
  アンが普通の馬に乗って付いて来るとなると、その馬の休息やらで時間は食う。だから、シャドウメアに二人乗り。
  今、私達は平服。
  平服というか一応、旅用に丈夫な服を着込んでいる。剣は腰に差してあるけど、鎧等の荷物はシャドウメアに括りつけてある。
  バランスよく二つに分けて括ってある。長旅だ。鎧着こんでは行きたくない。
  シャドウメアは重量なんて気にしない、パワフルに2人を乗せて爆走する。
  アンは?
  ……アンはー……。
  「むふふー♪」

  「すいませんお姉様私の胸を揉んでますものの見事に揉んでますリズミカルにパワフルにエレガントに」
  むにゅむにゅ♪
  私にしがみ付く振りして揉みまくるエロ姉。
  ……ちくしょう。
  「シャドウメア、アンを振り落とせーっ!」
  ヒヒーンっ!
  私の指示に、激しく嘶きシャドウメアはスピードを増す。
  『うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
  ドサ。ドサ。
  主すらも落として街道を爆走する愛馬。
  あの馬めぇ。私すらも振り落として街道を爆走していきやがるぅー。
  ……ちくしょう。

  ……。
  こんな道中を繰り広げながらも、ようやく街道沿いにある宿屋ロクシーに到着。日は落ち、既に夜だ。
  宿屋ロクシー。
  マレーンという女性が切り盛りしている、安酒場を兼ねた宿屋。
  「いらっしゃい」
  「ハイ。マレーン」
  顔見知り。
  彼女の依頼で以前、この宿のすぐ裏手の《苔石の洞穴》に巣食ってたレイリン叔母さん率いる死霊術師達を一掃した。

  「ああ、あんたか。あの節はどうもね」
  「いいのよいいのよ、一生感謝してくれれば。政権変わる度に謝罪と賠償してくれれば問題ないわ。お隣同士、仲良くしましょ」
  「……そういう政治絡みの発言やめた方がいいよ……」

  「そう?」
  今夜の客は、私とアン、それとおっさんだけだ。
  前に来た時はかなり繁盛してたのに。
  ……待てよ?
  私、クロード・マリックとここで一度会ってるぞ、確か。そう、確かレイリン叔母さん討伐の際にあいつもここにいた。
  マレーンに、どうしてあいつに頼まないのって聞いたら、トレジャーハンターだから畑が違うとか言われたような……。
  聞いてみよう。
  「ねぇ、クロード・マリックって知ってる?」
  「クロード……ああ、常連だよ。ついさっき、来たよ」
  「はっ?」
  「一杯引っ掛けに来たんだよ。仲間連れて、すぐに東に向ったよ」
  「ふぅん」
  なるほどなぁ。
  なかなか素早いじゃないの、ハンデとか言って私を油断させ、出し抜くつもりか。それとも罠を張り巡らせる?
  まっ、私はゆっくり行くわ。
  先を越されたら……ふふん、奪うまでだ。
  「フィー、あたし眠たい」
  「今、部屋借りるから待って」
  部屋は幸い、二部屋空いてる。マレーンに部屋代を先払いし、軽い食事と飲み物を頼む。
  街道沿いとはいえ都市から離れている。
  食材や調味料は限られあまり食事は期待できない。でもここお酒は良いのが多いのよね。私はハチミツ酒。アンは……。
  「アンは何飲む?」
  「んー、ワイン」
  「アンはワイン党なんだ。……そーいやゆっくり二人で飲んだ事、なかったわよね」
  「いいよ別に。……今夜は2人っきりで、一つのベッドで愛を語り合うんだから♪ ……あっ、一部屋キャンセルお願いねー」
  「なっ!」
  勝手に一部屋、キャンセルするアン。
  抗議しようと思うものの、別の客が来てその部屋を借り受ける。
  これで今夜は、アンの毒牙に掛からない為に激しい攻防戦が繰り広げられるのだろう。
  ……ちくしょう。






  翌朝。起床は朝の6時。
  朝食をたらふく食べて、私達はロクシーを後にした。

  靄が立ち込めているものの、街道を進む分にはそれほどの影響もない。シャドウメアの脚力も衰えない。
  ここが他の馬とは違うところだ。
  常に一定のスピードを維持出来る。旅程は狂う事なく、滞りなく、軽やかに旅は続く。
  途中、何度か休憩。
  シャドウメアの為?
  まあ、休憩する度にシャドウメアに水とニンジンあげたり、体を優しくさすったり洗ってあげたり労わってるけど、一番の理由は
  私達だ。お尻が痛い。街道とはいえ、必ずしも安定した道ではない。
  デコボコな道もある。
  そんなところをシャドウメアが走ったら当然、振動がまともに私達のお尻に直撃する。
  長時間の乗馬は無理。

  「ふぅ」
  草原に横になり、伸びをする。
  本日、何度目の休憩だろ?

  あーあ。瞬間移動の魔法とか開発されれば楽なのになぁ。
  「フィー、今日はどこまで行くの?」
  「そうねぇ」
  隣に腰を下ろしたアンが、私に尋ねる。地図を広げてみるものの、この辺りに村落はなさそう。
  盗賊どもが巣食ってる砦を実力で奪う?
  まだ日は高いものの、寝床の心配はしておくに限る。野郎なら野宿もいいだろうけど、私達はうら若き乙女だ。極力避けたい。
  美容に悪いし。
  「フィー、ここって……地図でどの辺り?」
  「そうねぇ。ああ、ここよここ。懐かしいなぁ、前にゴブリン戦争で来た場所の近くだ」

  スカイリムだかハンマーフェルだかハイロックだか忘れたけど、そこから移住してきた開拓者がこの辺りの土地を買った。
  異常なまでの格安価格。
  しかしそこはゴブリンの部族同士が抗争する、戦場だった。
  当然、帝国の当局は知ってて売りつけた。
  生活が立ち行かなくなった開拓者を、当時帝都軍巡察隊に所属していた私が華麗に優雅におしとやかに解決。
  詳しくは第一話「ゴブリン戦争」を参照に♪
  ほほほー♪

  あれから、結構経ってる。農場として形は成り立ってるはず。
  ゴブリンどもは私が一掃したし。
  「アン、今日はクロップスフォードに泊まろっか」
  いつでも訪ねておいで、遊びに来ておくれ、と言っていた気がするし。一日ぐらい泊まるだけなら嫌な顔もされないだろう。
  私達はシャドウメアに飛び乗る。
  ロクシーのマレーンの時もそうだけど、人助けが役に立ってる。結局、その恩は自分に返ってくるものらしい。
  世は情け、ね。
  私達は街道を爆走するシャドウメアの背の上で揺られながら、しばらく無言。
  仲違いした、わけではない。
  そうそう喋る話題もない。無尽蔵の話題はないのだから。
  しかしこれはこれで気まずい。
  「ふぁぁぁぁぁ」
  しきりに欠伸をするアン。それを話のきっかけにしよう。
  「眠たいの、アン?」
  「眠たい」
  「あんなに早く寝たのに? ……ああ、ベッド堅過ぎて寝辛かったんだ。部屋狭いし。でも一部屋解約したのはあんたよ?」
  「……フィーが悪いんだ」
  「はっ?」
  「何もしないって言ったから、安心して寝てたのに……起きたらあんな格好にされてるなんて……」
  「いや意味わかんないから」
  「もう、フィーのいけずぅー♪」
  ……なんなんだこの女は。エロエロか。
  誤解のないように断っておくけど(誰によ?)昨夜は何もなかった。
  そもそもこの子、口で言うほどエロエロではない。純粋に、精神的に幼いと思う。私に抱きついたまま寝てただけ。
  家族とか姉妹とか、この子きっと知らないんだろうね。
  ま、まあ、たまに行為のある夜もあるけど。
  でもそこは別にそれほど気にしてない。
  別に私がそっち属性、というわけじゃない。愛情表現の一つだと思ってるし、生理的欲求の一つでもあるわけだから、別にそこは
  卑下しないし厭らしい事だとも思わない。
  また、しばらく無言。
  もしかしたらアンはシャドウメアに揺られながらウトウトしているのかも知れない。
  もうすぐクロップスフォード。
  おお、なかなか立派な農場に育ったじゃないの。遠目で、見える位置だ。
  その時、こちらに向かって走ってくる馬が視界に入った。乗ってるのはカジート。私達の姿を認めると進行方向を塞ぐ形で止まる。
  追いはぎか?
  「やあ、親友じゃないですかっ!」
  「はっ?」
  馬に乗ったカジートが、フレンドリーに声を掛けてくる。
  緑の法衣のカジート。
  「あれれムラージ、お仕事?」
  「おお、アントワネッタ・マリーも一緒ですか。ははは、仲良く旅行ですか、親友」
  以前は私を毛嫌いしていた闇の一党ダークブラザーフッドの元暗殺者。
  私が奪いし者に就任すると今までの無礼を撤回し謝罪、ルシエンの命令を無視してシェイディンハル聖域の面々を見逃し、救う
  と私を親友と呼んで敬慕している。
  調子がいいのか根が素直なのか。まあ、多分両方だろう。
  それにしてもこんなところで会うなんてね。
  ……仕事?
  アンは今、確かにそう言った。仕事って、何?
  「ネコさん、ここで何してるの?」
  「配達の仕事を始めたんですよ、手紙とかそんな類の。速達する必要のある手紙を運ぶのは結構需要があるらしく順調ですよ」
  「はっ?」
  「おや親友、彼女から聞いてないのですか?」
  「うん」
  「実は……」
  聞くと、現在私の家で暮らしている元暗殺者達は配達の仕事を始めたらしい。
  暗殺の仕事柄、間道にも通じている。
  何故なら、暗殺対象を先回りする際に地理に精通しておく必要があるからだ。その地理に精通しているというスキルを生かし、手紙
  などをスピーディーに配達する会社を立ち上げたらしい。
  事務所はサミットミスト邸。
  そういえばオチーヴァ、聖域から持ち出したお金でサミットミスト邸を買い取るとか言ってた気がする。
  ただ、あくまでサミットミスト邸は事務所で、相変わらず私の家であるローズソーン邸で暮らしているらしい。
  「じゃあ親友、まだ仕事の途中だから」
  「ええ、またね」
  カジートは馬で疾走。
  なかなか良い商売始めたものね。手紙の配達、今までそんな仕事は存在しなかった。
  皇帝が死に、情勢が不安定な折に街と街を繋ぐネットワークになる。ふぅん。なかなか商売上手。結構なお金になるわね。
  この仕事を軌道に乗せ、確立させれば莫大な利益を生むはず。
  今頃、日光浴びれない吸血鬼のヴィンセンテ以外は街道を走り回ってるわけだ。
  その時、ふと、思う。
  「つまりアン、私はあんたから逃げれないわけだ」
  冗談交じりに、肩を竦める。
  街道を繋ぐネットワークは、私の家の居候暗殺者に握られていると言っても同義。
  どこへ行っても、連中に遭遇する可能性は高い。張り巡らされている情報網。
  「そうよフィー、貴女は私のもの♪」
  「はいはい」
  「ねぇ、フィーは昔の生活、懐かしくない?」
  「昔?」
  「たまにシェイディンハル聖域の暮らしが懐かしくなる。あの時は、ずっとフィーが側にいたもん」
  「アン?」
  「何でもない。さっ、いこ♪」





  「また、遊びにおいで」
  「ええ、どうも」
  バーセル・ガーナンドさんは深々と私達に頭を下げ、出発を見送ってくれた。
  彼がこの農場の大黒柱。
  娘と、その娘婿の三人で切り盛りしている。
  快く彼らは泊めてくれた。そしてその翌日が、今だ。私達はシャドウメアに乗り、農場を後にした。

  クロップスフォードで、私達……というか、私は歓待を受けた。
  何しろ故郷で家財や土地を全て売り、シロディールで夢を叶えようと全財産を農場に注ぎ込むものの、そこはゴブリンの
  抗争の場所だった。

  二進も三進も行かなくなっていたところを、救ったのが私。
  感謝してもしきれないだろう。
  別に恩着せがましく振舞っているのではなく、一般的な話。
  農場の経営は順調らしく、特産品はカボチャ。
  歓待を受けた翌日。
  私達はシャドウメアに揺られて、カボチャで満ち満ちたお腹をさすりながら冒険者の街フロンティアを目指す。
  ……当分、カボチャは見たくない。
  「フィー、昨日のカボチャ料理……」
  「言わないでっ!」
  「そうだよね、カボチャ尽くしで正直もうあたしも食べ飽きたよ」
  おいしかった。
  おいしかったけど……カボチャカボチャカボチャっ!
  カボチャのグラタン、カボチャステーキ(薄く切って焼いてステーキソースをかけたもの)、カボチャのサラダにカボチャのパン、
  飲み物はカボチャジュースでデザートはカボチャのパイ……などなどなどなどっ!

  あそこまでカボチャで攻められると正直、胸焼けする。
  「フィーって色んな人を助けてるんだね」
  「トラブルメーカーなだけよ」
  「だけどこんなにのんびりと進んで、いいの?」
  「問題ないわ」
  おそらく、クロードは既にフロンティアには入ってるだろう。
  マラーダに行くには、あの街を拠点にした方が動きやすいからだ。常識があれば、普通なら誰でもそうする。
  クロードの思惑は分かってる。
  大方、私が手にしたレリーフを横取りする寸法だろう。
  そう簡単に行かせるものか。
  ゆっくりと時間を掛けて進み、フロンティアで無駄金使わせてやる。
  万が一、私の想像が違っても問題はない。その場合は私が奴のお宝を横取りするまでだ。
  「まっ、お姉様、ゆっくりと行くとしましょう」
  「そうだね。新婚旅行だもんね。今夜は寝かさないゾ♪」
  「いや絶対違うから」
  「えーっ!」
  「えーっ、じゃないっ!」