天使で悪魔






フライシュヴォルフ







  フライシュヴォルフ。
  直訳すると肉狼。主な意味として挽き肉製造機を指す。





  ※今回の視点は三人称です。
  <真夜中は狼 〜後編〜>の展開をラミナスは知りませんのであしからず。
  また、今回の流れはオブリビオンの二次創作ではなく九龍妖魔学園紀の二次創作ですのでご了承ください。






  「……」
  ラミナスは困惑していた。
  周囲を包囲されているからだ。
  デッドアイ戦、別に逃げたわけではなかった。デッドアイには魔法は通じない。耐久力も半端ではない。
  一説では不死とも言われている。
  そんなデッドアイに対しての魔法アイテムを持ってくる為にあの場を後にした。
  早く戻らなければならない。
  魔術の天才とも言うべきフィッツガルド・エメラルダであってもデッドアイには苦戦するだろう。それだけではなく翁とその甥もいる(撃退をまだ知らない)。
  分が悪い。
  だから。
  だからラミナスはバトルマージ30名を率いて早々にも戻りたかった。
  現在バトルマージの数は激減している。
  黒蟲教団との戦いで半減している。
  また、遣い手の魔術師達の一部はブルーマや各支部の補充要員として出向いている。アルケイン大学にいるのは半人前が多い。故に被害が出るのを
  ラミナスは嫌い屋内に待機するように指示した。学者達も知識は長けていても戦闘に向かない者も多い。バトルマージを護衛としてつけた。
  その為率いているバトルマージ、それが現在動かせれる最大限の戦力。
  それが包囲された。
  取り囲んでいるのは金色の鎧の集団だ。
  場所はアルケイン大学の屋外にある講義場。普段なら学者が新米魔術師を集めて青空教室している場所だ。
  空には月と星。
  地には敵と剣。
  悪意はラミナス達を取り囲み、身動きすらさせない。
  敵の数は50。
  バトルマージ達も様々な激戦を超えてきた猛者達ではあるものの包囲されているこの状況はさすがに難しい。
  「何者だ?」
  何度目の問いだろう。
  だがラミナスの言葉に金色の鎧集団は誰一人答えない。
  ドワーフ製の鎧だ。
  「何者だ?」
  「……」
  誰も答えない。
  誰も。

  ぱぁん。

  何も答えない金色の鎧集団に対して、ラミナスは苛立たしげに両手を合わせた。
  ごぅっとすぐ近くの地面に魔法陣が出現する。
  召喚魔法だ。
  「貴様抵抗する気かっ!」
  「ドレモラ・ヴァルキンよ。我が意に応えて現世に……っ!」

  「アルケイン大学は我々レリックドーンが占拠したぁっ!」

  野太い声が響いた。
  その瞬間、金色の兵士達はばぁっとラミナスから離れて横一列に整列する。
  男がいた。
  ノルド。
  巨漢のノルドはタンクトップに迷彩ズボンという恰好で現れた。銀製のトンファーを左右の手に持っている。
  奴が指揮官だとラミナスは見て取った。
  そして頭の中で男の単語が瞬時に検索された。
  レリックドーン。
  それは悪名高き盗掘集団レリックドーン。
  「ようこそ。我がレリックドーン主催のパーティーへっ! げはははははははははははっ!」
  「レリックドーンか」
  ラミナスは呟く。
  彼はその組織を知っていた。
  アイレイドの遺跡を荒らして回る盗掘集団。しかしその組織の全容は詳細不明。今まで魔術師ギルドとは正面切ってぶつかった事がないものの、
  一時期アイレイドの遺産を買い漁るウンバカノの一環で繋がりがあると調査した(結局繋がりはなかった)。
  その盗掘集団がここにいる。
  だが何故?
  その真意がラミナスには理解できなかった。
  何故ならレリックドーンは盗掘集団であってテロリストではない。
  説明が付かない。
  「ぐはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ! 総員、配置に付けーっ!」
  ノルドの巨漢は叫ぶ。
  兵士達は無言で頷いて散開した。
  当然バトルマージ達を監視する兵力は残されたままだ。しかし流れが変わったのは確かだ。それを感じ取りラミナスは咳払いをした。
  「君は何者だ?」
  「俺か? 俺の名はマッケンゼンっ! レリックドーン支援部隊の司令官だっ!」
  「支援部隊?」
  怪訝そうな顔でラミナスは呟く。
  支援。
  それはつまり支援する対象がいるということだ。屍解仙・翁の一派の襲撃のドサクサに入り込んだとは思えない。あくまであの襲撃とは別口であり、そして
  レリックドーンは当然独自の作戦で大学に進撃して来たのは明白。
  支援される者はマッケンゼンと一緒に力押しをしてきた?
  それは考えにくい。
  だとすると手引きした者がいる?

  「マッケンゼン」

  頭の中でラミナスはレリックドーンの行動を把握しようとしていると、マッケンゼンの背に言葉が投げ付けられた。
  声。
  それも聞き覚えのある声。
  誰だろう?
  ラミナスはその声の主を思い出そうする。
  マッケンゼンはその言葉に振り向いた。
  「誰だてめぇ?」
  「我はファントム」
  「げははははははは。何だお前かよ。その装束だから誰だか分からなかったぜ、久し振りだな」
  「ああ」
  仮面舞踏会で使用されるような、顔の上半分を隠す仮面を身につけたマントを纏った存在が現れる。
  ファントムはラミナスを一瞥しただけで巨漢のノルドに視線を戻す。
  体格から推定すると細身の男。
  声はノイズがかかったような異質の声。
  「お前が支援部隊を指揮して来るとはな。マッケンゼン。会うのはモロウウィンドの一件以来か?」
  「もうそんなになるか?」
  「ああ」
  「だが、また、こうしてお前と組めるとは嬉しいぜ。秘宝の場所は分かったのかよ?」
  「まぁな。優れたボクが手に入れられないものはない」
  「ぐへへへへ。さすがだな」
  「それよりも秘宝を手に入れるまで騒がれると面倒だ。部隊はどれぐらいでアルケイン大学を完全制圧できる?」
  「15分だ」
  「9分だな」
  冷たい視線をマッケンゼンに向ける。
  豪放を絵に描いた様な巨漢のノルドは少し身震いをし、妥協案を出す。
  「わ、分かったよ。それじゃ、13分でどうだ?」
  「いいだろう。それじゃあ秘宝の場所へ案内しよう」
  「その前にお利口ぶってる魔術師どもが恐怖に慄いている姿を見たいもんだなぁ」
  「マッケンゼン」
  「何だ?」
  「シュミット卿の命令を忘れたのか? 
ボクたちの任務は九龍の秘宝(くーろんのひほう)を入手……」
  「いいじゃないかよ。略奪も殺戮も楽しまないとな」
  「……」
  「それに俺様は獲物が泣き叫ぶ声を聞かないと盛り上がらないんだよ。俺様が闇の一党ダークブラザーフッドにいた頃から今日まで何でフライシュヴォルフと
  呼ばれているか知ってるだろ? 盛り上げるのはイベンターの務めだぜ? げへへへへっ!」
  「……」
  フライシュヴォルフ。挽肉製造器というような意味。
  2本のトンファーで獲物をズタズタにする戦法をマッケンゼンは好んでいた。
  「さあパーティーに行こうぜっ!」
  「行くんならお前だけ行くんだな」
  「つれないな。じゃあお前はどうするんだ?」
  「ボクは先に地下に向かう」
  そのままファントムは振り返りもせずにその場を去った。
  マッケンゼンは肩を竦める。
  「まったく魔術師ってのは真面目すぎていけないぜ。……なあ、お前もそう思うだろ?」
  突然話を振られてラミナスは戸惑うものの今得た情報を素早く纏める。
  「九龍の秘宝とは何だ?」
  「んんー? 知らないのか? ……こいつは驚いたっ! まあ、アークメイジが代々伝えてきた秘事らしいし雑魚のお前らには分からないんだろうな」
  「アークメイジが代々?」
  「そうさ」
  だとすれば納得がいく。
  そしておそらくフィッツガルド・エメラルダも知らないだろうとラミナスは思った。あのごたごたの中でそこまで先代が伝え切れているとは思えない。
  「だがその秘事を何故お前達が知っている?」
  「そんなことは知らねぇ。俺様はあくまで実戦部隊担当だからな。シュミット卿の命令さ」
  「シュミット卿?」
  「ふん」
  マッケンゼンは鼻を鳴らした。
  これ以上は無駄話に付き合うつもりはないらしい。兵士の1人に叫ぶ。
  「結界はどうなってるっ!」
  「ファントム様が中心となって大学内に結界が張り巡らせてある状態ですっ! 大学の大半の建物は結界で隔離してありますっ!」
  「よぉしよし。じゃあここにいる連中が動けれる全部だな?」
  「そのようです」
  「おいっ! ここにいる連中を一箇所に集めろっ!」
  「了解しました!」
  「ぐふふふふふふふ。挽肉パーティーの始まりだぜっ!」