天使で悪魔






過去の話





  過去は過去。
  固執し過ぎると身を滅ぼす。

  追憶に浸る程度が丁度いい。






  それはリアルな人形劇。
  どろどろとした宮廷の陰謀劇。
  私はそこにいる。
  もっとも誰も私の姿は見えていないし私の声は聞こえていない。ただただリアルな劇は続いていく。
  皇帝ユリエル・セプティムの妻である皇后の命令でブレイズは1人の女性を毒殺。
  そのブレイズの名はジョフリー。
  ……。
  ……どこかで聞いたような(参照王者のアミュレット)……?
  確か前にボーラスから聞いたような気がする。
  うーん。
  ジョフリーねぇ。
  誰だっけ?
  まあ、私が聞いた名前のジョフリーと同一人物かは知らない。ボーラスの言ってたジョフリーとは会ってないし。
  つーか会う気ないし。
  ワインに毒を仕込まれて毒殺された女性はフィラネラル第三夫人。要は皇帝の側室。
  皇帝の寵愛を受け過ぎたが為に皇后の逆鱗に触れたらしい。
  第三夫人は死亡。
  皇后の命を受けて毒殺したジョフリーとかいうブレイズは出世。皇后の後押しで皇帝直属の親衛隊ブレイズを纏める立場となる。また皇帝に対してのご
  意見番的な存在となり実質後継者問題にも口出しできる立場となった。誰だか知らないけど出世したものね。
  私の目の前で展開は倍速で進んでいく。
  何なの、これ?
  ここは確かアイレイドの遺跡のはず。いや<遺跡のはず>ではなく遺跡の中なのだ。
  この遺跡は私に何を見せたがっている
  この遺跡は私に何を……。



  次に気付くと家の中に居た。
  家の2階。
  何故2階と知っているのか、その答えは簡単だ。ここは私が育った家だ。
  目の前でめまぐるしく展開は進んでいく。
  これはあの時の光景だ。
  あの時、それは私が孤児になった日のこと。
  冷静に私は見ている。
  ……。
  ……冷静はおかしいかな?
  そうね。
  おかしいのかもしれない。
  取り乱すべきなのかもしれない。
  ただ、私は色々と悲惨で陰惨な展開を生きてきた。おそらくオーガに非常食として飼われたり邪教集団にオブリビオンに送られてサバイバルした人生を
  歩んでいるのはこの世界に私だけだと思う(笑)。
  そういう人生だからこそ。
  そういう人生だからこそ私はどこか醒めている。
  もしくは感情の何かの一部が欠落しているのかもしれない。
  ともかく展開は進む。
  下の階では悲鳴と絶叫、そして血の匂いと死の気配が漂っている。そしてそれは2階にも忍び寄る。
  「見つけたぞっ!」
  血が滴る剣を持った盗賊風の男が階段を上がってくる。
  このあたりの記憶は曖昧。
  最終的にこの盗賊を私が階段から突き落として殺す、それは覚えてる。まあ、正当防衛だろう。その辺は裁判になっても勝てます。……たぶん。
  過剰防衛になるのかな?
  まあ、ともかく殺すという展開は覚えているけど盗賊が何を言ったかまでは覚えてない。
  5歳だったし。
  それに展開が展開だからね、冷静に細部まで覚えている方がおかしい。
  盗賊は叫ぶ。
  「フィラネラルの遺児、世が世なら皇女ではあるが……望まれていない以上、死んでもらう」
  刃を持って迫る盗賊。
  ……。
  ……ああ。盗賊じゃないのか。さっきの台詞からして刺客?
  そうね。
  そうかもしれない。
  そして推測されるのは私が皇女ということになるのかな。
  驚かないのかって?
  まあ、別に。
  夜母とか闇の神シシスとか虫の王マニマルコとかと付き合ってたら自然と驚くということに関しては麻痺してきます。それに自分の素性に興味はない。
  私は私。
  過去も前歴も知ったことじゃあない。
  それでも、まあ、多少は驚いたけどね。おてんば皇女のフィーちゃんです(笑)。
  この後の展開?
  この後は幼い私が盗賊を階段から突き落とす→盗賊死亡という流れ。
  だけど今の今までただの物取りだと思ってた。
  目の前の展開が事実であるのならば。
  ふん。
  私の人生狂わしたのは帝国でありブレイズであり皇帝ということになる。こんなことならあの時、皇帝の傷口ぐりぐりしてやるんだったな。
  今この瞬間に私の帝国嫌いは憎悪へとランクアップっ!
  テロでもしてやろうかしら?
  光が満ちる。



  「何の意味がある? 何の?」
  ゆっくりと。
  ゆっくりと私は目を開く。
  遺跡の中にいた。
  どこの遺跡かは分からないけどアイレイドの遺跡内部なのは確かだ。どの遺跡も無機質な感じは変わらない。
  どこまでも冷たい石造りの内部。

  「何故お前は動揺しない何故否定しない」

  声が響く。
  男だか女だか分からない異質な声。あまり聞き心地の良い声ではない。
  どこから声が聞こえてるんだろ。
  うーん。
  よく分からない。
  部屋全体から聞こえる。まるで遺跡が喋っているかのよう。
  部屋の中をよく見ると白骨が散乱していた。
  1人分ではない。
  無数にある。
  無数に。
  墓場?
  そうかもしれない。
  解釈にもよるけどアイレイドの遺跡はある意味で霊廟という説もある。
  ……。
  ……まあ、視覚的には完全に墓場よね、アイレイドの遺跡。
  少なくとも生活感はない。
  現在人がいるいないではなく、アイレイドの遺跡の内装は生きる者が暮らすには適していない。こんなところで暮らしてたら鬱になる。
  壁見てるだけで冷え冷えとするし。
  さて。
  「私にどうして欲しいわけ?」

  「この遺跡モルグの存在定義は過去を見せる事だしかし誰もが否定した誰もが否定して自己の殻に閉じ篭ったそこにある骨はその名残だ皆ここで死んだ」

  「ここで死んだ?」
  白骨を見る。
  よく分からないけどここはハシルドア伯爵に異世界に封じられた遺跡モルグらしい。
  そして遺跡そのものが意思を持っている?
  信じがたい話だ。
  だけど、まあ、古代アイレイド文明は大抵何でもありだったらしいし、これはこれでよくある話なのかもしれない。……多分ね。自信はないですけど。
  ともかく。
  ともかくこの遺跡は人に嫌な過去すらも見せる場所ってことなのかな?
  で否定した人を逃がさずにここで殺すわけ?
  正確には餓死させるのかな?
  ……。
  ……意味分からんな、この遺跡。
  おそらくは懺悔の場というか過去を乗り越える為の試練の場としての意味合いなのだろうけど、何の意味があるんだろ。
  そして思う。
  白骨のザギヴはここに立て籠もり、ハシルドア伯爵に遺跡ごと封印されたけど……何の事はない、どっちにしろここで死ぬ結末だったってわけだ。
  奴は死んだのかって?
  死んだんでしょうね。
  この白骨の中に<白骨のザギヴ>がいると見るのが筋だろう。本当の意味で白骨になったってわけだ。
  だとすると思念で指示出してるっていうのは嘘ね。
  多分手下の誰かが派閥を乗っ取る為のデマカセなのだろう。
  あーあ。
  下らないな。派閥を敵に回したから先手を打って親玉の白骨のザギヴを始末しに来たのに実はとっくに死んでました?
  下らない、下らない話です。
  やれやれ。
  
  「お前は過去を乗り越えた過去を受け入れた何故だ何故だ何故だ私は考えねばならぬ考えねばならないそしてそれを理解してこそ私は成長するのだ」

  「んー」
  どうやらこの遺跡、過去を否定しなかった私の存在定義が理解出来ていないらしい。
  思うに精神的に成長し続ける遺跡なのかもしれない。
  生きている遺跡。
  そうなのかもしれない。
  ……。
  ……しかし何故にアイレイド文明ってこんな意味の分からんものを造るんだ?
  謎の先人ですな。
  まあ、どうでもいいけど。
  「成長ねぇ」
  今回生き延びた私という存在を学び精神的に成長し続けるのだろう。
  その果てにどうなるかは不明。
  まあいい。
  遺跡からブツブツと声が響いてくるけどよく聞き取れない。
  勝手に成長なり勝手に学習なりすればいい。別に私は意思を持つ遺跡の家庭教師をここでするつもりはない。
  帰る。
  ハシルドア伯爵の力の恩恵で私はここから帰る事は可能。少なくとも白骨のザギヴのように白骨化するまでここに滞在しなければならないという道理はない。
  というかなんか収穫あったかここに来て?
  ない気がします(汗)。
  まあいい。
  「帰ろ」
  そして……。



  「ん」
  気付くと燦々と輝く太陽の下にいた。心地の良い風が私の頬を、草原を吹き抜ける。
  どうやらシロディールに戻ったらしい。
  空気が気持ち良い。
  空気が美味しい……。
  「げほげほっ!」
  むせる。
  空気が粉っぽいんですけどっ!
  灰が舞っている。
  灰?
  「あらあら。殺し損なった奴がいる」
  「はっ?」
  ゆっくりと。
  ゆっくりとした足取りで人影がこちらに近付いてくる。
  少女だ。
  緑色のローブを着込んだダンマーの少女だ。
  少女は言う。
  「全部燃やして灰にしたつもりだけどまだ残りがいたんだ。少しは楽しめたらいいね、お互いに」
  「子供?」
  「子供と思ったら灰になるよ。私は黒魔術師ハーマン、よろしく」
  「ふぅん。それで?」
  「今から殺しますのでよろしく」
  「はっ?」
  「Fireっ!」