天使で悪魔






王者のアミュレット






  私はフィッツガルド・エメラルダ。
  現在、しがない囚人。ちなみに懲役30年。
  にも拘らず面倒が襲い掛かってきている。わざわざ牢獄まで、脱獄不可能な地下監獄までっ!

  何故に?
  これが持って生まれた運命なのかー?

  しかも今回は今までのケチな厄介とは格が違うスケールでかいぜ私はもう無理かもパトラッシューっ!
  はふ、こんな具合に精神崩壊支離滅裂する事請け合いっす。
  おおぅ。

  帝国最高権力者である皇帝ユリエル・セプティムが落ち延びて来たのだ。ここ、地下監獄に。
  私の牢の中に秘密の抜け道があるという。

  ……すげぇ。
  ……この時点でありえねぇ。
  謎の集団による王宮襲撃。
  わざわざ落ち延びなければならない状況に追い込まれたのだから、その理由はどちらかだろう。

  一つは圧倒的戦力だった。
  しかしこれはありえないだろう。ここは帝都、帝国のお膝元。しかも襲われのたは王宮、絶対に戦力はありえない。
  王宮近衛兵もいれば帝国最強の親衛隊ブレイズもいる。

  一声掛ければ一般帝都兵だってわんさかいる。
  武力では無理だ。
  だとすると、もう一つの理由の方か。
  謎の集団は王宮内に最初から多数入り込んでいた。
  そして手引きしたのだろう。
  普通に考えたら出たとこまかせの襲撃ではありえない。緻密な計算と計画。
  それを可能にする為の潤沢な資金。必要な人数。
  今まで兆候すらなかったのだろうね。皇帝がこんなわずかな共と落ち延びる状況なのだから。
  だとすると……。
  ……連中は何者……?



  地下監獄の私の牢の中に合った皇帝専用の秘密の通路。
  どうせ脱獄するつもりだったのだ。
  ちょうどいいちょうどいい。
  思い私はこっそりと付いていったのだが普通に牢を魔法で吹き飛ばし地上に通じる扉を消し飛ばして逃げた方が楽だった気がする。
  確かに地上で争っているであろう謎の集団と衛兵の修羅場に巻き込まれるだろうけど岩場より楽だ。
  「……もう、痛いなぁ……」
  涙目。

  足を摩りながら回復魔法を使い、治療する。囚人服のまま。足はサンダル。
  それに対して地面はごつごつの岩場で私はさっきから何度も足を擦り剥いた。地味に痛い。
  辺りは闇だ。
  前方に小さく……ああ、もうあんなに進んだのか。追いかけなきゃ。あれは皇帝達の松明の光だ。
  まぁ皇帝は照らしてもらうだけで自分では松明持たないだろうけどさ。
  私には明かりがない。
  魔法で明かりは点けられるけど……スポットライト浴びたぐらいに明るくなるとさすがに皇帝達に気付かれる。
  私は暗殺者集団ではないけど一応は囚人だ。
  何されるか分からないから、こっそり着いて行かなくちゃ。
  「うー、痛いけど頑張らなきゃね。……アダマス地獄に落とす為にね☆」

  よし。元気出た。
  人間目的があると俄然やる気が出るわねー。
  それに足も治したし。
  まあ、また擦り剥くの時間の問題だけどさ。
  ともかく私は歩き出した。ゆっくりゆっくりと。皇帝達に気付かれないように。
  秘密の抜け道。
  最初はアイレイドの遺跡だった。有史以前の文明国家。帝都はそれを再利用した都市。
  地下に手付かずの遺跡が眠っているとは聞いてたけど、そこを抜け道代わりにしてるとはね。アイレイドの遺跡はさらに天然の洞窟、下水道に通じ
  その下水道の排出口は帝都の塀の外に通じている。
  皇帝達は帝都の外に逃げる気らしい。
  どこまで逃げる……あー、一応可哀想だから『一時退避』という言葉にしてあげるかな。まっ、どこまで行くかは知らな
  いが外に出るのは間違いない。着いて行けば脱獄簡単なわけだ。
  ……で、足擦り剥いてるから分かってもらえると思うけど今は天然の洞窟の部分。
  ちくしょう。
  白魚のような足が、切り刻まれるーっ!
  これも全部アダマス・フィリダの所為だ。しかしそんな奴を帝都軍総司令官にしたのは……。
  「あっ、私が皇帝殺せば帝国終わってあいつ職失うじゃん。……その方が楽しいかな?」
  もしくは私が皇帝になってアダマスをリストラ?
  いやいや手っ取り早く死刑を宣告?
  うー、地下監獄に死ぬまで幽閉するのもなかなかそそりますなぁ。
  悩む根本が違うと言うなかれ。
  私だったから脱獄出来るからいいのよ。一般人ならまず確実に監獄で腐るわよ冗談抜きに。
  お仕置きは必要なのさ。二度と間違えない為にね。
  まっ、二度と間違えようがないんだけどねぇ。
  くすくす。
  「でも一応、皇帝には恨みないからなぁ。運命論者みたいであんまり好きじゃないけどさ」

  ……?
  あれ、明かりが止まってる。
  うん、私どんどん近づいてる。足を止めた。
  明かりは遠ざからない。
  その時、耳が金属の交差する音、触れ合う音を捉える。これは戦闘かっ!

  私は走った。
  ここで皇帝が死んだら、皇帝が死んだら、皇帝が死んだらっ!
  「きっと私の所為になるぅーっ!」

  脱獄してるし秘密の抜け道私の牢の中だし一応『偽衛兵』だし私が内通してると見られても否定出来ないっ!
  さすがの私も皇帝殺しのレッテルは嫌だっ!
  牢屋行きー、では済まなくなる。十中八九公開処刑っ!
  それだけは嫌だーっ!
  「皇帝、死ぬなら脱獄終了してからよ今ここで死ぬなーっ!」



  レノルトの剣が真紅のローブの人物を切り裂く。
  皇帝直属の親衛隊であり諜報機関でもあるブレイズは『アカヴィリ刀』と呼ばれる細身の刀(日本刀)を使う事
  で有名。その剣、相手を切り裂く事ゼリーを切るが如くっ!

  「ボーラス、陛下を護れっ!」
  「はい、指揮官っ!」
  ブレイズは強かった。
  私が駆けつけた時、もちろん、隠れてはいるけど、レノルトともう一人の名無しブレイズの二人で五人の敵をあっという間に蹴散らした。
  敵も弱くない。
  だけどブレイズの腕は際立っている。

  「陛下、制圧完了しました」
  「レノルト指揮官」
  「はい、陛下」
  「この秘密の抜け道を敵は知っていた。おそらくは罠に嵌ったのではないか?」
  ピンポンピンポンピンポーン♪
  正解です。
  皇帝君に10点プラスします。
  物陰に隠れながら私は皇帝の推察が正しいと思った。その考えは間違ってない。ここに誘い込まれたようなものだ。
  ここなら衛兵達の邪魔もない、少数精鋭のブレイズと言ってもここにいるのは所詮は三人だ。
  数で圧倒すれば皆殺しにする事も容易なはずだ。
  敵さんは皇帝側の動きを完全に予測している。
  行くも退くも地獄だ。
  「陛下、参りましょう。我々が護衛します。ご安心を」
  「しかし……」
  「ご安心を。我々ブレイズを舐めて喧嘩を売ってくるのはこいつらが初めてではありません」
  随分と豪放に言い放つ事で。
  しかし彼女もおそらくは皇帝のそれが杞憂ではない事が分かっているはず。
  職務上、口には出せないでしょうけど。
  「指揮官、次が来ますっ!」
  「ボーラス、陛下の護衛をっ! ……お前は私と共に行くぞっ!」
  「はっ!」
  いい加減名無しブレイズの名前も呼んでください。
  気になるじゃん。
  真紅のローブの集団の五名が走ってくる。
  何の構えもなく一直線に走ってくる。
  ……?
  「馬鹿がっ! 死に急ぐかっ!」
  レノルトは剣を上段に構えて迎え撃とうとして、喉から血を噴出してその場に倒れた。
  何ぃっ!
  既に真紅のローブの集団ではない。
  突然全身が赤く光り出し、光が収まった瞬間に真紅の異形な鎧の集団に変化していた。途端速度が上がり隙を突く形でレノルトの喉を突き刺したのだ。
  あれは武装召喚っ!
  デイドラ装備。
  悪魔達の世界オブリビオンの武具や防具。こちら側に引き込むのは、マスタークラスの魔術師でも容易ではない。
  しかし、しかしだ。
  一時的に召喚し身に纏うのはそれほど難しくはない。
  それでもかなり熟練の召喚技術が必要だが。
  武具&防具本来の能力も高く、身に纏ったものの身体能力も上昇する。
  あの連中、一定期間とはいえブレイズを凌駕している。
  「ボ、ボーラス、来るぞっ! 陛下を護れっ!」
  「はっ!」
  超人と化した暗殺集団が飛び掛ってくる。手には黒光りのする、異界の剣。
  キィィィィィィィィンっ!
  おそらくブレイズ新人であろうボーラスは防ぐのみで次第に後退していく。名無しブレイズは交戦中に背中から刺されその場に崩れ落ちた。
  皇帝自身剣を抜いているものの剣の腕を確かめようとは思わない。
  「死ね皇帝っ! 暁の到来の為にっ!」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  皇帝の飛び掛った異形の戦士は雷を浴びて吹き飛んだ。
  ボゥ。
  武装召喚は消え元のローブの姿に戻る。
  死んだら解ける、か。
  タタタタタタタタタタタタタタタタタっ。
  私は走り、レノルトのアカヴィリ刀を走り様に拾い、突然の乱入者に呆気を取られている敵を斬り殺す。一斉に私を見て、優先順位を変えたのだろう。
  無言でこちらに突進してくる。
  「いい標的ね。煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  ふん、馬鹿め。
  焦げて死ね。黒煙が立ち込める。
  ぶわっ、と煙を突き抜けて三人の異形の戦士が私に鋭い突きを繰り出してくる。
  レジストしたっ!
  敵の一人の一撃が私の左肩を切り裂くがそのまま戦士も動きを止めた。
  私の剣が胸元を貫いてる。
  これで三匹目っ!
  そしてこれでお終いよっ!
  「煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  全滅。
  ふん、二発は耐えられなかったらしいわねぇ。
  「ちくしょう。私痛み我慢するの苦手なのに」
  肩の傷を治療しながら私はボーラスの方を見た。
  レノルト、名無しは死んでいるらしい。
  この先どうする?
  どう考えても分が悪い。
  つい最近まで死霊術師の集団とドンパチやってたけど真紅の集団は桁が違う。
  規模は知らないけどやってる事のスケールは違いすぎる。
  死霊術師は魔術師ギルドに取って代わる事。
  それに対して真紅は皇帝を殺そうとしている。しかもその質は恐ろしく高い。武装召喚出来るレベルの奴が5人。

  さてさて次は何が来る?
  屍と化した真紅のローブの人物の遺品をあさる。身元が分かるようなものは何も所持していないようだ。
  おっ、なかなか良いローブね、これ。
  質が良い。
  「あー、そーだ」

  ガサゴソ。
  真紅のローブを剥ぎ、暗がりにダッシュ。
  あんな野暮な男どもに肌など見せてたまるか。
あんな野暮とはボーラスと皇帝の爺を指す。
  着替え完了。
  これでどっから見ても皇帝暗殺目論む暗殺者の一員♪
  ……。
  ……駄目じゃん。
  「へへへー。どーう? 似合うー?」
  「ふざけてる場合かっ!」
  「ふざけてはないわよ、ボーラス、だっけ? 悪いけど私は脱獄してるだけだから別に偉大なる皇帝陛下様に命を捧げるつもりはないのよ。ああ、今
  助けたのは特別。今後は期待しないで勝手にやってて」
  「貴様っ!」
  熱血漢なのだろう。
  暑苦しい奴。
  ボーラスが何かを叫ぼうとした瞬間、名無しブレイズが息を吹き返した。
  喘いでいる。
  おー、さすがはブレイズ。なかなかしぶとい。死に損なってやんの。
  「……ううう、ちくしょう。ボーラス、その女も暗殺者の仲間だ。殺せえっ! うげはぁっ!」
  血を吐きながら凄まれても怖くない。
  てか、大丈夫?
  ボーラスが駆け寄って応急手当を始める。こいつらまさか魔法が使えないのか?
  ……。
  ……はあ、私のお人好し。
  「退きなさい。私が回復魔法かけてあげるわ」
  「そ、そうか、頼む。では自分は陛下の警護に専念するとしよう」
  「ご勝手に」
  ひゅん。ひゅん。ひゅん。
  言い終わらない間に何かが風を裂き通り過ぎた。
  矢だ。
  漆黒の彼方から無数に飛んでくる。
  私は警告を発する。
  「ボーラスっ! そのおっさん護りなさいっ!」
  「へ、陛下、こちらにっ!」
  幸い隠れるところは多い。
  岩陰に非難する皇帝とボーラス。私の側でぎゃあ、と短い断末魔が聞えた。名無しブレイズは額にまともに受けて仰け反ったまま動かない。
  脈取らなくても絶命してるのは分かる。今度こそ死んでる。
  再び矢が空気を裂いて飛んでくる。
  ひゅん。ひゅん。ひゅん。
  「ちっ」
  絶命した名無しブレイズの体を掴み、盾代わりに使う。
  屍に無数の矢が刺さった。
  「囚人、貴様っ!」
  ボーラスが非難の声を上げる。
  やかましい。
  奇麗事言って死んだら意味がないだろうに。
  「煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  続け様に三発ほど闇に向って放つ。
  爆発音が響いた。
  数十秒、私は矢だらけになっている名無しブレイズの死体を床に転がした。どうやら敵は沈黙したらしい。
  念が入ってるわね。敵さん。
  「どういうつもりだっ! 仲間の屍を盾に使うなどっ!」
  「仲間じゃないもん。それに生きてる者を盾にしたわけじゃないわ。その辺の区別はしてるわよ」
  「そういう問題じゃあないっ!」
  「じゃあ何? 仁王立ちになったまま華々しく死ねば褒めてくれるわけ?」
  「やめよ、二人とも」
  押し問答を続ける私達の間に皇帝は割って入った。
  確かに、意味がないものね。従う。
  別にボーラスが間違ってるとは言わない。私との考え方の違いなのだ。仲間ならまだ埋まる可能性もあるけど私は部外者。
  溝は埋まるわけないし埋めるつもりもない。
  「ボーラス、しばし休息が欲しい」
  「はっ、では自分は警戒しております。……おい、お前も来い。陛下の休息の邪魔をするな」
  「いや。そなたには話がある。ボーラス、下がれ」



  皇帝は岩場に腰を下ろした。
  疲労の色は濃い。
  わざわざご指名された私も近くに腰を下ろした。
  なんなのさ、この展開は?
  まさか私を護衛に任じるブレイズになれとか言い出すんじゃないでしょうね?

  胸元の真紅のアミュレットを手で弄くりながら皇帝は静かに口を開いた。
  「私には未来を予知する能力がある」
  「じゃあどうして襲撃予知できなかったのよ?」
  「完全にではない。私個人の事ではない。世界の事を、漠然と予知しているのだ。そこで私はお前を見た」
  「夢への出演料、高いわよ?」
  「お前は運命を信じるか?」
  「信じない」
  即答。
  運命なんてあってたまるもんですか。そんなものを人生の土台として考えると、自分の存在が儚く思えてくる。
  どんな成果も結果も意味を見失う。
  運命なんて私は信じない。運命なんて存在しない。
  「私は見た。そなたはオブリビオンの門を閉ざす使命を持っている」
  「ありえない」
  一笑に付す。
  理論上、ありえない。オブリビオンの門とは、タムリエルとオブリビオンを繋げる次元の扉。
  「知らないの? 魔力障壁があって繋がる事はないんだって定説よ?」
  「物事は定着すれば次第に定説となりいずれは常識となる。しかし、しかしだ。それは真理ではない。この世に絶対にありえないという事柄はないのだ。
  運命に導かれし女よ。この世界に絶対など存在しないのだ。そうではないか?」
  「いいえ絶対はあるわ。。人は絶対に死ぬ」
  「そう。人は死ぬ。私も死ぬだろう。おそらくここで」

  「なら何で生きようとするのよ。おかしいじゃない。運命なら、今すぐ死ねばいい」
  「マーティン」
  「いえ。私はフィーだけど?」
  「私の最後の息子だ。彼を見つけ出し君は彼を皇帝に据えなければならない」
  「だから私は運命なんてっ!」
  「いずれ全てが重なり合う、私の言葉の意味も分かるだろう。だから、だから今は信じなくていい。ただ心に留めよ私の言葉の意味が分かるその時まで、
  君は忘れてはならない。君は全ての人の命を握る、運命の者だ」

  「真っ平よっ! 私に命令できるのは私だけっ!」
  「それでいい。君は君らしく生きよ。それでいいのだ。それで、全ては報われる。私もな」

  「あんた変なモノ食べた? それとも恐怖で頭おかしくなった?」
  「私は見たのだ。君のその姿を。いずれ君も気付く、自身の役割を。私もこれで自分の役割を終えるだろう。君に会い、伝える、これで私の役割は終わった」
  カタン。
  物音、そして近くに潜む気配……。
  「何者っ!」

  「ひぃぃぃぃぃっ!」
  殉職した指揮官のアカヴィリ刀を声のした方向に向ける。
  ボーラスも馳せて来て構える。
  闇の中から出て来たのは囚人服を着たアルゴニアンの男性。
  「あんた誰?」
  「あ、あっしはジョニー・ライデン。真紅の稲妻と呼ばれる予定のフリーの盗賊でござんす」
  「盗賊? 盗賊がここで何してんの?」
  「そ、その……」
  「答えないとトカゲの刺身にするわよ? どうする、ボーラス?」
  「手荒い真似はしては駄目だ。殺すならすっぱりと斬るべきだ」
  こいつなかなか荒っぽい奴かも。
  職務に忠実な熱血漢のブレイズの新人(多分)ボーラス。
  嫌いじゃないけど苦手なタイプ。
  トカゲは完全に怯えながら、それでも卑屈な笑みを浮かべながら話し出す。
  ……。
  ……こいつの話す内容?
  特に意味はない。聞いてみると大した意味はないわね、これ。
  上の方、地下監獄の方では平穏を取り戻しつつあるらしい。このアルゴニアンはドサクサ紛れに牢の外に出て、私の入ってた牢に抜け穴らしきものが
  あったのでそこに入り、ここまで来た。要はそれだけ。つまり純粋に脱獄してここに迷い込んだだけらしい。
  なるほど。
  ほんとに大した奴じゃないわね。
  ケチな泥棒らしい。
  「どうするの、ボーラス。私は部外者だから決め兼ねるわ。判決をどうぞ」
  「失せろ」
  「だってさ。まっ、精々殺し屋どもに殺されないようにね」
  「そ、そんなどうかお助けくださいよ姉御ー」
  誰が姉御だ誰が。
  このまま戻れば再び牢屋に逆戻り。このまま進んでも暗殺者達に殺されるかな。あー、そもそも外に出る道順知らなければ結局は野垂れ死にか。
  私が同行しようとしている理由もそれだし。
  「まっ、いたらいたで役に立つんじゃない?」



  妙なモノを拾った。
  アルゴニアンの盗賊だ。
  トカゲは外観で年齢が分からない。正確に性別もだけど、ジョニーと名乗るトカゲは私より二つ上だ。姉御呼ばわりされるっていう事は私、ふけてる?
  私の武装はアカヴィリ刀と真紅のローブ。
  トカゲは『こいつに武器は必要ない』とボーラスが決め付け、無手。
  確かに戦闘タイプではない。
  もちろんそれ以上にボーラスからしてみれば暗殺者の仲間かもしれないという疑問がある。
  私は除外らしい。
  さっき皇帝を結果として助けたから。
  ふむ。甘いわね。
  確実に殺す為に仲間犠牲にしたのかもしれないという設定は思い浮かべないのかな?
  まあいいですけどね。
  「しかし何故連中は待ち伏せを……」
  さっきからボーラスは一人ブツブツと愚痴ている。
  暗殺者達に待ち伏せさせたのが疑問らしいけど私にしてみれば疑問でもなんでもない。
  帝都の地下を網の目に貼り巡っている下水道は天然の洞窟に、帝都地下に眠るアイレイドの遺跡に、そして王宮の地下に繋がっている事を知っている。
  常識、とはいかないかもしれないけどまず周知の事実。
  「姉御」
  「何で私が姉御なの、あんたの」
  「いや自分弱いですから。姉御みたいな強い人の庇護がなくちゃ」
  「庇護する気はないわ」
  「そんなぁ」
  そこにボーラスが口を挟む。
  緊張やら仲間の死やらで次第に口調が乱暴になってきている。自分で気付いてるのかな?
  まだまだ青い。
  「こいつ状況次第では敵側に寝返るかもしれん。ここでやはり始末するか」
  「じゃあ私はどーすんのよ?」
  「君は、違うだろ? さっきだって陛下を……」
  「はあ」
  私は足を止める。
  そして誰でも陛下を護りたくなーると言いたげなボーラスに文句を言う。立場が違うし考え方も違うけど、それを一方的に押し付けられても困る。
  別に皇帝好きじゃないし。
  「あのね。私だってあの連中が皇帝殺しは自分達でやりましたと全部自分の手柄にしてくれるなら、そんで私とは喧嘩せずにはいさよならが可能なら
  あんたら殺して首を渡してるわよ。一番手っ取り早そうだしね」
  「な、なんだとっ!」
  「はっきり言うけど私は帝国嫌いなの。無実で30年ここで腐れと言われたのよ」
  それから皇帝を指差す。
  「それも全て運命だなどとアホな事また言ったら殺される前に私が殺してやるから覚悟なさい」
  言いたい事を言って私はすっきり。
  ふぅ。
  人間やっぱり我慢は体に毒だわ。まっ、空気完全に凍り付いてるけど。
  ボーラスが何か言う前にジョニーが小声で言った。
  「姉御、前方に誰がいるでござんす」
  前方?
  別に何も見えない。
  「確かなの?」
  「本当でござんす。あっしは職業柄夜目が利くもので」
  「ボーラス、松明貸して」
  「あ、ああ」
  「それと道順は正しいの?」
  「ああ。後はまっすぐだ。そうすれば下水道に出られる。下水道に出たら左に進めば、塀の外になる」
  「じゃあここで連中蹴散らしたら別れましょ」
  止めようとするが、私は取り合わない。とりあえずは切り抜ける事を考えよう。
  この洞窟を抜ければ下水道。
  私ならここで総力戦で一気に片付ける。下水道からならいつでも上に出られるからだ。つまり逆を言えば帝都軍に介入される可能性が高い。
  真紅の集団はそろそろ勝負を決めたいはずだ。
  私はスケルトンを召喚。
  スケルトンに松明を持たせて、先行させた。私達はそれよりも少し離れて歩く。
  「ジョニー、数は分かる?」
  「二十ぐらいでござんすかねぇ」
  二十対二。
  皇帝とトカゲは除く。
  普段なら特に問題はないけど、問題はその二十の中にどれだけ武装召喚出来る奴がいるかって事ね。それによって苦戦を強いられる可能性も高い。
  バチバチバチィィィィィィィィィィっ!
  無数の雷が松明の明かりの方に降り注ぐ。
  最弱のスケルトンはそのまま粉々となり、松明は黒焦げとなり辺りは闇に包まれた。笑い声が起きた。連中、私達が、というか皇帝を殺したと思っているのか。
  まだまだ甘いな。
  「煉獄ぅっ! 裁きの天雷ぃっ! 絶対零度ぉっ!」
  私は三属性の魔法を連打。
  総力戦の為に闇に伏せていた真紅の集団を出鼻から挫くべく、吹き飛ばす。
  どの程度果てたかは分からないけど少なくとも半分は逝ったはず。ボーラスは瞬間、アカヴィリ刀を抜き放ち突っ込んだ。
  「陛下の為にっ!」
  ってボーラス。
  あんたは馬鹿かっ!
  皇帝の護衛どうするのよ突っ込んでどーすんのっ!
  「暁の到来の為に」
  ……っ!
  その声に振り向くと異形の戦士が皇帝に迫っていた。ジョニーがいない。あいつがこいつか、敵かっ!
  「はぁっ!」
  「邪魔だ、虫けらっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  澄んだ金属音。
  私の上段の攻撃を軽く受け流す異形の戦士。
  受け流しながらも続け様に斬って返した。
  うおっ!
  危うく顔面空竹割りにされるところを私はよろめきながらも避ける。体勢が崩れたと見て猛攻。

  キィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィンっ!

  次第に捌き切れなくなる私。
  つ、強いぞジョニー。
  剣の腕では私は負けるつもりはないけど、正直パワーが違う。
  元々の腕力も違うし、今は武装召喚の効力で基礎能力が増強されているはずだ。
  多少動揺していると、唐突にぴたりと、異形の戦士は止まった。いや、手足をバタつかせている。
  何でだろ?
  「姉御っ! 今でござんすっ!」
  ジョニーの声。
  よく見ると異形の戦士の体に何かが纏わり付いている。何か、目に映らない、まるで擬態化したような……。
  あっ、そうかっ!
  「はぁっ!」
  「うおおおおおおおおおおおお……っ!」
  すっぱりと首を刎ねると武装召喚は解けて首なしローブの男に。
  トカゲのジョニーは勝ち誇った顔して具現化した。
  ある特殊な星座の元に生まれた者には『月影』と呼ばれる能力を身につけているという。
  その能力は透明化。
  魔法とは違う、生まれながらの天賦の能力。
  ジョニーはその『月影』を使える『影座』の生まれのようだ。
  「やるじゃん」
  「姉御の為なら何でもするでござんすよ」
  「どーだか。私が殺されたら自分の身が危ないからでしょうが」
  「はは、はははー」
  図星か。
  まぁそんなもんだろう。
  だけど危なかったな。前方の二十はそうすると囮か。あっちに気を取られている間に、本命が皇帝を静かに暗殺する手筈だったようだ。
  悪くない作戦。
  それに確かに強かった。
  ジョニーがいなかったら正直危ない。
  まあ、皇帝諸共消し飛ばしてもいいなら魔法で始末したけどね剣よりも魔法の方が私の得意分野であり剣はあくまで趣味の領域です。
  ボーラスの方も大丈夫なようだ。
  もちろん私の先制攻撃で半数近く屠ったわけだけどボーラスも善戦してる。
  吼える度に敵の悲鳴が響く。
  さすがはブレイズ。帝国最強は伊達じゃない。
  「皇帝の爺、大丈夫?」
  「……」
  ドサッ。
  それは突然だった。一瞬状況が理解出来なかった。
  私の脳はそれが分からなかった。
  皇帝の胸から一本の剣が生えていた。そしてそれが引き抜かれた時、糸を失った操り人形の如く崩れ落ちた。
  えっ?
  「ふはははははははははっ! これで暁の到来が来る、ふははははははは……はぐぅっ!」
  高笑いは最後まで続かなかった。
  ボーラスの投げたアカヴィリ刀が深々と真紅の男の脳に串刺しとなっていた。
  不覚。
  伏せていたのはもう一人いたのか。
  ちくしょう。
  その場にボーラスは頭を抱えて倒れこんだ。
  嗚咽が聞える。
  無理もない。
  皇帝直属の親衛隊ブレイズは皇帝を護る事が出来なかったのだ。
  「……み、見える……オブリビオンの門が開くのを……」
  皇帝は弱々しく呟いた。
  まだ生きてるっ!
  私は回復魔法を施すべく、皇帝の胸元に手を当てようとした時、何かを手渡された。
  真紅のアミュレット。
  「王者のアミュレットを、私の最後の息子に渡すのだ。そしてドラゴンファイアを灯せ。今、タムリエルは薄氷の上にあるも同然だ世界は静かに崩壊し
  つつある。君はオブリビオンの門を閉ざさなければならない」
  「離しなさいっ! 今はそれどころじゃ……っ!」
  「望む望まないに関わらずいずれ君はその理由を知るだろう。その意味を」
  「離せっ!」
  「……せ、世界の運命は君に……委ねられ……」
  力なく、私を掴んでいた手が力なく離れた。
  皇帝ユリエル・セプティム。崩御。



  赤々と輝いていた王者のアミュレットは今はもう輝き失せている。
  皇帝が死んだからだ。
  ドラゴンファイアを灯せ、それは新たな皇帝を奉じろという事だ。
  皇帝として認められるとアミュレットは輝く。
  つまりそうして初めてタムリエル全土を支配する皇帝として認められるのだ。
  まっ、皇帝即位の儀式のようなものだ。
  「ボーラス」
  王者のアミュレットを私は彼に手渡した。
  世界の命運。正直、私には重い。正直、初めて会った爺にそー言われたところでピンと来ないし酷な頼みを聞く気はない。
  ボーラスほど悼んでもない。
  私は帝国のずさんな法律の犠牲者なのだ。
  「……君は陛下の遺言を聞く気はないのか?」
  「さぁ?」
  あの爺の遺言で行くと、彼の言う預言とは全て成り行き任せだ。いずれそこに行き着く、みたいな感じの戯言に過ぎない。預言として信じる価値すらない。
  私が私らしく生きていても皇帝の遺言聞くぜーと力んで生きていてもいずれ重なり合うものらしい。
  皇帝の未来視した、未来に。
  その時はその時だ。
  だが今は聞く気はない。というかそもそも聞く気はない。悪いけどね。
  「君」
  「何、ボーラス?」
  「コロールに行く事があったら、ウェイン修道院に寄るといい。ジョフリー様がいる」
  「ジョフリー?」
  「レノルト指揮官の前任の指揮官だ。今は修道院で余生を送っている」
  「私が行くその心は?」
  「君をブレイズに推挙するように私が進言するからだ。君は強い。そして気高い。この先、混迷の時代が来る陛下はそれを見越していた。そして君は選ば
  れし者。陛下の予言した……」
  「私はそんな人物じゃない。悪いけどね」
  人差し指を口に当てて、しぃぃぃぃっという仕草。
  運命云々を語られたくはない。
  嫌いなのだ。
  運命もそれを騙る運命論者も。
  運命で片付けられるなら頑張る意味がない。
  「じゃあね。ボーラス」
  「姉御、あっしもついていくでござんす」
  「別に付いてくる必要ないわよ」
  「しかし色々とお世話になった……」
  「なら用意して欲しいモノがあるのよ。弓矢と黒い服。……あっ、フード付きで。ナイフもあればいいな。鋭利なやつ」
  「……? 殺し屋でもなさるんで?」
  「さぁ?」
  皇帝直属の親衛隊員ボーラスと分かれて、私は歩き出した。
  道が違う。
  彼は皇帝最高帝国絶対な奴だ。
  悪い奴じゃない。
  暑苦しいから友達には敬遠だけど。
  嫌いじゃないけど好き嫌いだけで運命とか言うのを背負い込むにはね、理由としては軽い。
  それに皇帝陛下、悪いけど選ばれし者はまずアダマス・フィリダ暗殺に手を染めようと躍起ですけどそれは問題なしですか?
  あははは。
  そう考えると笑える。
  こんな私が世界を救う英雄候補?
  まあいい。
  いつか運命とやらに私の歩む道が重なり合ったならばその時はその時考えるとしよう。
  「あっ。ボーラスに私の名前、言うの忘れてたな。まっ、いっか」
  もう、会う事もないだろうし。