天使で悪魔
情報の対価
何事にも対価は必要になる。
何事にも代価は必要になる。
この世に無償のモノなんて存在しない。
何かを得る為に何かを失う。
それが世界の常なのだ。
スカイリム解放戦線。
闇の一党残党。
詳細な情報が分からないけど手を組んでいる節がある。どっちも既に絞りカスの様な状況だけど手を組まれると面倒だ。
当事者は嫌だなぁ。
これが他人事なら少し遠くから物事を見れるけどさ。
やれやれ。
翌日。
スキングラードの城から使いの者が来た。フォルトナ達が住むのであれば屋敷は狭過ぎる。だから新たな屋敷を探していたんだけどそれが見つかったの
かもしれない。伯爵に適当な物件がないか依頼しておいたのだ。
ああ。
それともラミナスが調べてる事が判明したのかな?
何調べてるかは知らないけど。
ともかく。
ともかく私は城に向った。
服装は鉄の鎧に雷の魔力剣。完全装備だ。
伯爵の使いは武装してくるようにと伝言を伝えたからだ。
武装ね。
何かあると見るべきかな?
私は城に向かう。
「それで伯爵、何の話?」
すぐに伯爵の私室に通された。
既にメイドのアルゴニアンとも顔馴染みだ。すぐに通された。ラミナスは私室にあるソファに座っていた。
何かの資料に目を通している。
私が来ても何も言わない。
なるほど。
まだ調査は完了していないようだ。……まあ、何の調査かは知らないけど。
つまり呼び出しは伯爵絡みか。
そして物件の話ではあるまい。わざわざ武装してくるように言ったのだからね。武装云々を聞いた時から覚悟はしてたけどさ。
それで今回はどんな厄介ごと?
「伯爵」
「君を呼んだのは他でもない。実はラミナスが調べている事に関係がある……わけではない」
「はっ?」
「しかしまったく無関係ではない。このままで私の身が危ないのだ。対処せねばならない」
「意味が分からないんだけど」
「実は情報を提供する前にその対価を支払ってもらいたい」
「私の体?」
「全裸になったところで性的魅力が欠片もないのに馬鹿か君は」
「すいませんそこまで言われたら私は首括る必要があるんですけど」
……ちくしょう。
相変わらず口が悪いなぁ。
だから友達いないんだ。
「それで何? それなりに忙しいんですけど」
「うむ」
闇の一党&スカイリム解放戦線の混成軍に狙われるのにさ。
茶化されるだけなら切り上げたい。
もちろん、伯爵が力を欲しているのであれば貸してもいいと思ってる。しかし簡潔にして欲しい。用件を促す。
「何をすれば?」
「近くの洞穴に吸血鬼どもが住み着いた。自我が崩壊した獣どもに過ぎん。私が排除してもいいのだが帝都から厄介な連中が出張って身動きが取れん」
「厄介な連中?」
「高潔なる血の一団の吸血鬼ハンターどもだ」
「ああ」
帝都の秘密結社ね。
吸血鬼ハンター達は基本的にその組織に属していると見て間違いではないだろう。
何故?
簡単よ。
シロディールにおいて唯一吸血鬼の遺灰を高額で買い取ってくれる組織だからね。もちろん属している者に限るけどさ。
どんなに大義名分があろうとも食えなくては意味がない。
だから。
だから吸血鬼ハンターを名乗る者は換金手段として高潔なる血の一団に属する。
もちろんその際に義務が生じる。
そして統制を取るのだ。
私は元締めのローランドと懇意だ。簡単に片が付くだろう。伯爵が私のコミュを知って依頼しているかは不明だけどさ。
「それで?」
「奴らは純粋に洞穴の吸血鬼を始末しに来ただけだが……私が動けば妙な人目を付くだろう。もしかしたら別の特命があるのかもしれん。いずれにしても
吸血鬼も吸血鬼ハンターもこの街には相応しくない。少なくとも私が与り知らない連中はな」
「結局どうして欲しいわけ?」
「排除しろ」
「どっちを?」
「どっちもだ」
「ふーん」
「別に君に犯罪を犯せといっているわけではない。吸血鬼どもを排除したらハンターも去るだろう、もちろん全て力で排除しても構わん。ただしその場合は私の
衛兵達が君を逮捕する可能性もある。しかし私はそこには関知しない。そこは自己責任で頼む」
「それはつまり街にいなければいいわけよね?」
「そうだ」
吸血鬼ハンターを追い出すのは容易だ。
そして吸血鬼の駆除もね。
けし掛ければいい。
簡単よ。
「いいわ。私に任せて」
私は微笑した。
スキングラードの街に出る。
……。
……結構面倒なのよね、城と街の往復。
他の都市ならまだ楽だけどスキングラードの城は小高い丘にある。防衛の要衝だからかは知らないけど都市と城はかなりの距離がある。
移動だけで一苦労だ。
まあいい。
依頼は依頼だ。
何の情報かは知らないけど気になる。
対価を支払って聞くとしよう。
さて。
「ここか」
私は街の名士だし衛兵達も私が伯爵と懇意なのは既に知っている。
ちょっと聞き込めば簡単に分かった。
吸血鬼ハンター達の宿舎が判明。
随分楽が出来た。
顔が売れてなかったら自分で調べなきゃいけないからね。
そういう意味では楽だ。
私は吸血鬼ハンター達の宿屋を訪ねた。宿屋は大抵は酒場も兼ねている。一階の酒場に吸血鬼ハンター達はいた。
もちろん見知った相手ではないけど見ればすぐに分かる。吸血鬼ハンターは……少なくとも高潔なる血の一団に加盟している吸血鬼ハンターは指に組織が
支給した指輪をしている。そいつらは指輪をしていた。
昼間から酒を飲んでいる。
良いご身分で。
私は連中のテーブルに近付いた。
「ハイ」
「……?」
「ここにリーダーは誰?」
「あんた誰さ?」
女が口を開いた。
ふぅん。
他の連中はこの女の部下だろう。彼女に対しての視線には敬意がある。それに雰囲気も他の面々よりも勝っている。
多分リーダーだ、このレッドガードの女性はさ。
「私はフィッツガルド・エメラルダ」
「……そう。あたいはエスレナ。吸血鬼ハンターさ。それで? どうしてあたい達が吸血鬼ハンターだと分かった?」
「同業者だからよ」
「同業?」
「ローランドは元気? 高潔なる血の一団のハンターなんでしょう?」
「あたいは会員番号8番。あたいより番号が上じゃないのは分かってるんだ。命令はやめて欲しいもんさね」
「会員番号」
ふぅん。
番号が少ないほど上の立場になるのか。つまり先輩後輩がきっちりしてるらしい。
そして彼女は1番から7番まで見知っているのだ。
私は指輪を見せる。
私のは指輪は特別製でプラチナ製(高潔なる血の一団参照)。何故なら私は名誉会員だからだ。
途端にエスレナは顔色が青くなる。
他の面々もだ。
「失礼しましたっ!」
「いいわ。別に」
おお。
この指輪ってここまで威力があるの?
ふーん。なかなか便利かも。
「この街に来たのって吸血鬼狩りよね?」
「はいっ!」
「聞き込み順調?」
「いえっ!」
……。
……そこまで威儀を正すほどの威力?
なんかすげぇ。
高潔なる血の一団の雑用をこなしたけど、それが今報われてるわけね。なかなか使えるこの展開。そしてあっさりと片が付きそうだ。
よしよし。
スカイリム解放戦線とか闇の一党の残党が出てきたけど、それなりに良い事もあるみたい。
よかったよかった。
「血殻の洞穴を探りなさい」
「血殻の?」
「そこに吸血鬼度もが巣食っているわ。もしも人手が足りないなら人数を貸すわ。私は手伝わないけどね。そんな事したら貴女の顔を潰す事になる。
討伐のリーダーは貴女、つまり私は介入しない方がいい。人手は足りてる?」
「はいっ!」
「そう」
エスレナ達はそれなりに凄腕のハンターらしい。
手助けはいらない模様。
それならそれでいい。
ちなみに貸すべき人数は戦士ギルド、暇しているゴグロン。だけど要らないようだから紹介は不要だ。
「情報、ありがとうございましたっ!」
「いいえ」
問題解決。
さて、城に戻ろう。
これにて吸血鬼ハンターの一件完了。
ハンター数名を率いていたエスレナとかいう女性は私の言葉であっさり退いた。つまり街中での聞き込み調査をやめた。
私が吸血鬼は付近の血殻の洞穴に潜んでいる事を教えたからね。
そっちに向った。
……。
……しくじる?
さあ、それはどうかな。彼女らの力量は知らないから何とも言えない。けどわざわざローランドが吸血鬼討伐に送り出した連中だ。それなりには強いだろう。
まあいい。
彼女らの成功はどうでもいいのだ。
あくまで二の次。
私の使命は吸血鬼ハンターを街から追い出す事。
街中で連中が動いていると依頼主であるハシルドア伯爵の身が危ない。吸血鬼領主が吸血鬼ハンターを追い出したがっているのは当然の行為。
ともかく。
ともかく吸血鬼を討伐したら連中は戻ってこないだろう。
休息の為に戻る?
それはあるだろうけど吸血鬼討伐した後なら、わざわざ街中で嗅ぎまわる事はない。
いずれにしても任務達成。
私は城に戻った。
「ご苦労だった」
城に戻るなり伯爵は賛辞の言葉を述べた。
私は何も言っていない。
まだ報告してない。
ふぅん。
密偵を放って私を監視していたわけか。なかなか用意のよろしい事で。
ここは伯爵の私室。
例によってラミナスがいる。どうやら彼はここで匿われているようだ。……まあ意味は分かる。謹慎抜け出したラミナス。評議会の命令を無視した。
つまり裏切り者。
まあ、そこまで派手な騒ぎにはならないかもしれないけど伯爵のところにいるのがばれるとまずいだろう。
何故?
だってハシルドア伯爵は魔術師ギルドと同盟しているとはいえ現在は評議会に睨まれてる。
死霊術師と通じているのではないかってね。
そんな人物の元にいる。
あまり好印象を評議会は抱かないだろう。
だから。
だから籠もっている。
外に出ない限りはばれる事はあるまい。これが他の都市ならともかくスキングラードは機密性の高い都市だ。徹底している。私室にいる限りは大丈夫だ。
さて。
「片付けてきたわ」
「ご苦労」
「それで?」
私は伯爵を促す。
情報とは何か。それが気になる。
ラミナスが口を開いた。
彼が説明する?
「フィッツガルド」
「何?」
「この犯罪者め」
「はっ?」
「片付けてきた、つまりは吸血鬼ハンターをデストロイしたのだろう? スタァァァァァァァァァァプっ! お前は罪を犯したっ! 私の玩具になるか奴隷にな
るかを選ぶがいいっ! ふははははははははは生涯エロの対象として苛めてやるぞこの犯罪者めっ!」
「変態かお前はっ!」
「ちっ。失敬な奴だ」
「……まったく」
パチパチパチ。
その時拍手の音が響いた。伯爵だ。微笑を浮かべていた。
「ラミナス、我が友よ。君のユーモアにはいつも敬服する」
「伯爵閣下。ありがとうございます」
ユーモア?
ユーモアなのか?
というか私が何か喋れば『馬鹿か君はっ!』と返って来るのにラミナスの場合は好意に値するユーモアなのかっ!
なんか腹立つなぁ。
……ちくしょう。
「そ、それで? 報酬は?」
「私の笑顔だ☆」
「い、いや、そうじゃなくて」
話を元に戻して欲しいものだ。
ラミナス、突然顔を真面目に引き締める。
「フィッツガルド。真剣な場面では真剣になる、それが社会人の常識だろうが。……やれやれだよ、まったくな」
「すいません私が悪いんですか?」
……ちくしょう。
「まあいい。実は魔術師ギルドは厄介な場面に直面している」
「厄介?」
「今までは情報が封鎖されていた。評議会も実際には何も知らん。全てはアークメイジ、カラーニャ評議員、そして私が握っていた。あまりこの情報は組織に
とっても良くないものでな。全てを公表したら魔術師ギルドの混乱はこの程度では終わらなかった。おそらく組織は崩壊しただろう」
「……」
「お前にまで情報を下ろさなかったのすまなかったと思ってる。しかし……」
「いいよ、別に」
公私は分けるべきだ。
それは私も分かってる。ラミナス達の配慮は正しい。
私はあくまで組織の駒でしかない。
それにアークメイジの養女だからといって機密を全て洩らすのは良くないと思う。だからその配慮は正しい。
「では話を進めよう」
「うん」
「次は街中で羞恥調教だな。よし、外に出るぞ☆」
「アホかボケーっ!」
「だから真面目な時は真面目になれ。まったく」
「すいません私が悪いわけ?」
「当然だ。この乳なし娘め」
関係ないだろうが。
……ちくしょう。
「今まで死霊術師達が動いていたな。あの連中は全てある巨大組織の下部組織だ」
「下部組織?」
「そうだ」
「つまりレイリン叔母さん……」
「レイリンもセレデインも下部組織の首領に過ぎなかった」
「ファルカーは?」
「ファルカーか。奴はその大規模な組織が送り込んだ監視役であり指揮役だ」
「その組織は何?」
「黒蟲教団」
「そんなの聞いた事がないけど……」
「詳細は我々も知らない。しかし全ての死霊術師全体を統べる大規模な組織。知っての通り魔術師ギルドには隠れ死霊術師や元死霊術が多い。つまり
潜在的に魔術師ギルドは敵を抱えている事になる。評議会にも入り込んでいる可能性もある」
「まさかっ!」
「事実だ」
「……」
絶句した。
話がでか過ぎる。
「私が組織を離れたのはその為だ。どこまで味方か分からん状況だ。評議会は機能していない」
「どうして伯爵の下に?」
「伯爵は『奴』を嫌っている。そういう意味合いで組めると思った。事実、同盟を結んだ。今後は伯爵とともに独自の動きを取る事になる。……助けてくれるか?」
「いいわ。でも『奴』って誰?」
「奴は奴だ」
ハシルドア伯爵が呟いた。
疲れてる?
伯爵の顔には疲労があった。シロディールでも屈指の魔術師がここまで疲労に襲われる。
その相手は誰だ?
「伯爵、奴って誰なの?」
「帰ってくるのだ」
「返ってくる?」
「すべての死霊師の王が戻ってくるのだ。虫の隠者も虫の従者も奴の忠実なる配下。魔術師ギルドの腐敗により奴の勢力は増すばかりだ。つまり」
「つまり?」
「つまり虫の王マニマルコの帰還だ」
深夜の帝都。
神殿地区。
人通りの絶えた街並みを黒衣の一団が立っていた。
全員松明を持っている。
……。
……いや。
1人だけ松明ではなく奇妙な杖を持っていた。
異様な一団だ。
「猊下。どうなされました?」
「……」
黒衣の女性が恭しく囁く。
奇妙な杖を持つ男は、アルトマーの老人は笑みを浮かべる。温かみの欠けた笑み。冷たい視線は松明を持った別の一団に向けられていた。
帝都軍の市中巡察隊だ。
その一隊が黒衣の集団を取り囲む。
数は30名。
多い。
それもそのはずで皇帝暗殺を機に治安は悪化の一途を辿っている。帝国兵のシフトは増大している。
そして巡察の人数も。
帝都兵の1人が口を開いた。この一隊の隊長だ。
「通報があった。お前達は何者だ?」
『……』
誰何の声。
だが黒衣の集団は黙殺する。それが癇に障ったのか、隊長は荒々しく続ける。
夜勤続きで疲れている。
その為自然と口調は荒くなる。
「取り調べる。詰め所まで来てもらおうか」
『……』
「貴様が頭目かっ! 来いっ!」
アルトマーの老人に手を伸ばす。
腕を掴もうとしたのだ。
だが……。
バァチっ!
「くぅっ!」
隊長は思わず身を退いた。
老人の体に触れようとした瞬間、全身が痺れたのだ。
部隊は一斉に剣を引き抜く。
敵と見なしたのだ。
微笑を浮かべながら老人は呟いた。
「選ぶがいい」
「な、何?」
「余に屈服するか、それともあくまで戦うか。いずれかを選ぶがいい」
「戯言をっ! 帝都軍に対して何たる暴言……っ!」
「余が何をしに戻ったと思う?」
「何を言っている?」
「魔術師ギルドに取って代わる? 親愛なるトレイブンならそう思うだろう。しかし小さい。実に小さい。その程度の為に余がシロディールに本気で戻ったと?」
「貴様何を言って……っ!」
「余は王である。この国は王を欲している。その為に余は戻ったのだ」
「こいつを斬れっ!」
「余は虫の王マニマルコ。帰って来た。余は帰って来たのだっ!」
虫の王の帰還。
それは死霊術師のさらなる活性化。ついに本格的に動き出す。
今までのような小競り合いではなく。
大規模な戦闘に移行する。
そして。
そして、それは決戦の幕開け。
虫の王が帰って来た。
この世界に再び不幸と絶望を撒き散らす為に。
……虫の王が帰ってきた……。