天使で悪魔







招かれざる者






  それは別の地方の組織。
  それは別の地方の者達。

  彼ら彼女らは越境して来た。
  本国での大敗を覆すべく帝国の本拠地である帝都のあるシロディールに逃れて来た。
  招かれざる者。






  二度狙われた。
  闇の一党ダークブラザーフッドの残党に私は狙われた。
  今までの経緯から見て小競り合いでしかないけどね。はっきり言って数も質も劣悪。あの程度の数で私を殺せるものか。
  ただの残党でしかない。
  ええ。
  残党です。
  今さら闇の一党の再起動はありえない。既にあの組織のシステムそのものを破壊した。
  既に闇の神シシスも夜母も力を失った。
  幹部集団ブラックハンドは壊滅。

  再起動?
  ありえません。
  闇の一党の復活はもうありえない。つまりあの連中はただの残党、それも残党内で主導権争いをしている一派に過ぎない。動員力が少な過ぎるし。
  狙いは私の首。
  私を殺せば残党内で大きな顔が出来るのだろう、多分。
  殺させてやるつもりはない。
  慈善家じゃないしね。
  連中の都合で、連中の立身出世の為に殺されてやるほどお人よしではない。
  返り討ちにしてあげますとも。
  返り討ちにね。
  まあ、今までどおりの流れよね。
  敵=デストロイ。
  簡単な方程式であり極めて明確な処方箋だ。
  始末します。

  ただ問題もある。
  ノルドだ。
  闇の一党とはまた異なる存在だと私は見ている。つまり闇の一党残党と手を組んでいるのだろう。
  私が始末したノルドの男の口振りからすると闇の一党と対等の立場にあるらしい。
  熊と鮭の紋章の男。
  それは一体何者?
  それは……。






  「スカイリム解放戦線?」
  「そうですよ。妹よ」
  夕食の席でヴィンセンテは事も無げにそう断定した。
  熊と鮭の紋章。
  それがスカイリム解放戦線のトレードマークらしい。……どこかの土産物屋の店員かと思った、あんな紋章だし。木彫りの熊とか売ってそうだ。
  それにしてもあの過激派どもか。
  シロディールに来ていたのか。
  「厄介な」
  私はハチミツ酒の入ったグラスを口に傾ける。
  ごくり。
  おいしいなぁ。
  スキングラードの城壁の外。西部での戦いの後、私は家に舞い戻った。だって夕食時だったし。
  戦い終わって帰宅。
  で夕飯時にこの事を皆に報告、手にした物証を持って帰ったってわけだ。我が家のルールで食事時全員集まるのが慣例だし。街にいる限りはね。
  ともかく皆知らなかった。
  この紋章の正体をね。当然私も知らなかったけど、ヴィンセンテは知っていたようだ。
  さすがは知恵袋。
  「私もスカイリム解放戦線だと思います」
  「エイジャ?」
  淑女なノルドのメイドは恭しく答えた。
  ああ。
  彼女はスカイリム生まれなのかも。
  確かに。
  確かにスカイリム解放戦線はノルドの本国であるスカイリムでは広く浸透している組織だ。概要は知らないけど私もその名は知っていた。まあ、紋章まで
  は知らなかったけどさ。スカイリム独立を目指す過激は集団。それがスカイリム解放戦線。
  だけど何故シロディールにいる?
  連中の組織の規模はさほど大きくはない。
  少なくともシロディールに手を伸ばすほどの戦力はないはずだ。
  何故ここにいる?
  何故……。
  「おや妹よ。まさか知らないのですか?」
  「何を?」
  「スカイリム解放戦線はスカイリムで大敗を喫しました。完全に駆逐されたのですよ。そして越境。シロディールに逃げ込んだわけです」
  「マジで?」
  「ええ」
  何て迷惑な連中だ。
  ヴィンセンテ曰く生き残った幹部連中はスカイリムを捨ててシロディールに逃げ込んだらしい。
  越境してね。
  スカイリム限定で活動し、スカイリム独立だけに固執していた組織がシロディールに逃げるとは帝国軍も想定していなかったらしく簡単に越境して
  シロディールに入り込んだのではないかというのがヴィンセンテの見解だった。
  ふぅん。
  なかなか面白い情報だ。
  私が闇の一党&ブラックウッド団と遊んでいる間に時代は動いていたらしい。
  ただそれに関わる理由はないぞ?
  関わるつもりもない。
  闇の一党の残党に襲われる理由は分かるけど、どうしてスカイリム解放戦線に組している奴が私を狙ったのだろう?
  偶然?
  そうかもしれない。
  そうじゃないかもしれない。その場合が厄介だ。明確に私を狙っているのであれば面倒だ。
  うーん。
  だけど狙われる理由はないぞ?
  「フィー、まさかそいつらの女の子に手を出したから狙われてるんじゃないよねっ!」
  「アホかボケーっ!」
  「よかったぁ。フィーは私一筋だもんね☆」
  「……」
  疲れる。
  疲れますとも。
  アンの相手はやめよう。脳が麻痺してしまう。
  さて。
  「狙われる理由ねぇ」
  「ないのですか、妹よ? 連中は執念深い。執拗です。ただの偶然か、それとも……」
  「明確な理由?」
  「そうです」
  「ないわ、ヴィンセンテ」
  奴らに手を出した事はない。
  私が闇の一党とブラックウッド団と戦ってた頃にはまだ連中はスカイリムにいた。つまり関りようがない。私はシロディール限定で動いてたわけだし。
  うーん。
  闇の一党の残党とただ提携しているだけかもしれないな。
  それはそれであると思う。
  どちらも残党だから手を組んで勢力拡大を目指してた。それだけの可能性もある。
  ……。
  ……あれ?
  ちょっと待てよ。
  確かブラックウッド団の本部にいた帝国の将軍は……確かヴァルガとかいう奴はスカイリム解放戦線に組しているとか言ってたな?(ヒスト参照)。
  まさかその繋がりか?
  どこでどう知ったかは知らないけどシロディールへの潜伏ついでに私を狙ってる理由はそれ?
  ありえるなぁ。
  トカゲの姉が口を開く。
  「心当たりがあるのですか、フィッツガルド」
  「……そうみたい」
  「スカイリム解放戦線とは今まで接した事はありませんが連中は容赦がないと聞きます。くれぐれも気を付けてくださいね」
  「ありがと、オチーヴァお姉様」
  「貴女の恋人のアントワネッタ・マリーのお腹の中には貴女の子供がいるんですし無理しないように」
  「なっ!」
  そんな私の絶句と同時に家族達は席を立つ。
  手にはグラス。
  オチーヴァの音頭で家族達はグラスを高く掲げた。

  「フィッツガルドとアントワネッタの門出を祝して。乾杯っ!」
  『乾杯っ!』

  ……すいませんそれって何のショートコントですか?
  仕込みありますよね?
  絶対存在してますよねシナリオ。
  喜ぶアン。
  「わーい☆」
  「……」
  沈黙を保ち続ける私。
  その時私は心の底から思うのだ。
  この流れは既に固定ですか?
  ……ちくしょう。



  「ふぅ」
  湯浴みを終えて私は部屋に戻る。この家の女主人である私の部屋は最上級。
  広い部屋。
  フカフカとした最高級のベッド。
  日当たり最高☆
  「フィー☆」
  「……」
  あとは、ベッドの上に寝転がるオプションがなければ言う事ないんだけどねー。
  アントワネッタ・マリーだ。
  彼女には彼女の部屋がある。
  ただまあ結構な高確率でここに遊びに来る。もちろん追い返す度合いも多いけどさ。寝るまでは一緒に雑談したりして過ごすけど寝る際には追い返す。
  エロエロな展開希望?
  う、うるさい。
  「フィー、これここに置いておくね」
  「……?」
  一冊の本を彼女はベッド置いて立ち上がる。
  薄い一冊の本。
  くしゃくしゃ。
  私はタオルで湿った髪を拭きながらその本を遠目で見ていた。
  「何の本?」
  「さあ? エイジャがくれるってさ」
  「エイジャ」
  何故だろう。
  意味が分からない。
  「あたしは知ってるよ、内容。勝手には読んでないけどさ、フィーが貰った本だからね」
  「……変なところで律儀よね」
  「淑女だもん☆」
  「……そ、それでどんな内容だと推測したの?」
  「きっとノルドのエロエロな妙技だと思うよ」
  「はっ?」
  「エイジャってばあたしとフィーの関係向上の為の秘策を提示してくれたと思うの☆ くっはぁー☆ やべぇ、こんなあたしってばフィーに壊されるかもー☆」
  「……」
  小躍りしながらアンは出て行った。
  何なんだ。
  何なんだあのエロはーっ!
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ作品終了までこのノリなのかーっ!
  まさに今年は厄年っ!
  全部アンコターの所為だ。
  ……ちくしょう。
  「はぁ」
  溜息。
  ともあれ1人になったので私はエイジャのくれたという本を開く。
  ベッドに寝転びながらね。
  ごろり。
  うーん、お風呂上りのゴロゴロは至福ですなー☆
  さて。
  「えっとー?」
  本を開く。
  それは直筆だった。つまり売り物の印刷された本ではなく、おそらくはエイジャが記したであろう一冊の本。
  内容は……。



  『スカイリム解放戦線』

  『元々はスカイリム地方のノルドの固有の文化を帝国の文化破壊政策から保護する為の組織として設立された』
  『慈善組織が前身となっており民衆の支持も高かった』
  『しかしグラーフという若者が次第に組織内部で足場を固め権力を握っていく。彼は今までの保護政策では甘いと断言、そして組織は過激路線へと転じ
  ていく事になる。ここにスカイリム解放戦線が誕生する事になる』
  『保守派は一掃』

  『組織の性質は一変した』
  『暗殺、破壊、放火。様々なテロをスカイリムに駐屯している帝国軍に対して行った』
  『そんな行動に対して支持をする民衆も多かった。帝国の圧政は住民にとっても害意でしかなかったからだ』
  『それに対して帝国駐屯軍は取締りを強化』
  『取締りを逆手にとってスカイリム解放戦線は帝国の圧政を批判。勢力を伸ばす』

  『過激路線を突き進むスカイリム解放戦線に1つの転機が訪れる』
  『帝国駐屯軍の軍団長の所在が判明したのだ』
  『スカイリム解放戦線は駐屯軍の司令官と幹部を一掃するべく1つの街を灰燼とした。街に放火したのだ。これらよりその街にいた全ての住民も死亡』
  『住民の支持を失ったゲリラ組織は基盤を失ったのも同義』
  『結局掲げてきた過激路線が仇となりスカイリム解放戦線は勢力を維持できず、帝国軍の反撃の前に壊滅』
  『生き残った幹部達はスカイリムを脱出』
  『首領は戦死』

  『国境を越境、シロディールに逃げ込んだ』
  『生き残りはわずかではあるものの組織の潤沢な資金力を逃亡の際に持ち出す事に成功』
  『再起を図って虎視眈々としている』


  「うーん」
  何故エイジャはこんな事を知っているのだろう?
  彼女がまとめた内容だ。
  そしておそらく直筆。
  私の為にわざわざお風呂入っている間に作製したのではなく前々から記してきたものだろう。最初の方のページのインクは既に古い。
  ……。
  ……まさか『エイジャは実はスカイリム解放戦線の大幹部でした☆』というノリ?
  そんな流れ?
  それはそれで困るなぁ。
  だって彼女は有能なメイド。それを失うのは痛い。
  まあ、エイジャはノルドだからこの組織に対して興味があっただけかもしれない。少なくともスカイリム独立の為の組織だったわけだからね、スカイリム
  解放戦線はさ。そういう意味合いで信奉していてもおかしくはない。
  帝国の治世は面白いはずがないだろうし。
  基本的に平和も平穏も帝国の側の視点でしかないからね。勝手に帝国の勢力下に組み込まれている他の地方はそれに対して不満を持ってる。そこ出身の
  人達もそんな考えがあってもおかしくはないだろう。
  それにこの過激派は有名だしね。
  「ふぅ」
  パタン。
  本を閉じる。
  何が関わってこようが問題はないけど、やはり面倒だなぁ。闇の一党も合流してるっぽいし。残党同士だと仲良く出来るのかな?
  にしてもどんな繋がりだ、闇の一党とスカイリム解放戦線。
  残党同士が手を組む。
  まあ、勝手に合併だろうが合流だろうが好きにしたらいい。
  潰すだけだ。
  ただ……。
  「面倒だなぁ」
  「面倒ですわね、ご主人様」
  「うわっ! びっくりしたっ!」
  「申し訳ありません」
  一礼するエイジャ。
  気配がまるでしなかった。
  「スカイリム解放戦線に関しては問題ありません。現在の本拠地も確認済みです。そこから出張しているみたいですね、ここまで」
  「エイジャ」
  「はい」
  「あんた何者?」
  妙な感じがした。
  普段の感じではない。それにスカイリム解放戦線に関して詳しいのは何故?
  気になる。
  ……。
  ……敵か?
  それならば処方箋はただ一つ。
  エイジャは手を上げた。
  私の気勢を殺ぐかのように手を上げた。
  「お待ちください。素性は明かします」
  「へぇ?」
  「私はアートルムの捜査官です。フィッツガルド・エメラルダ、あなたは先帝崩御の際に側にいた謎の女性です。故に私は内偵していました」
  「……」
  アートルム。
  元老院直轄の諜報機関、その捜査官か。エイジャが?
  世の中意外性に満ちている。
  「改めてお雇くださいませんか? メイドとして」
  「はっ?」
  「アートルムは壊滅しました。アンヴィルで打撃を受け、帝都の本部では長官の乱心により組織は壊滅。私は失業したのです。お雇くださいますか?」
  「すいません展開速過ぎるんですけど」
  「もちろん代価は支払います」
  「代価?」
  「アートルムは獅子身中の虫として討伐されました。しかし情報網はまだ生きています」
  「それで?」
  「帝都軍と連絡を取る事ができます。軍部にスカイリム解放戦線の始末を頼みます。いかがですか?」
  「悪くないわね。ちなみにそいつらの本拠地はどこ?」
  「山彦の洞窟。ブルーマ近辺ですわ」















  「何て様だっ!」
  男は叫んだ。
  ノルドの男性だ。頬には深い剣の傷跡がある。それが戦闘経験がある事を容易に想像させた。
  スキングラードの下町にある古びた宿。
  その宿の地下室を貸し切る形で彼らは投宿していた。
  地下に群れるのは20名。
  大半はノルド、その他大勢の面々はインペリアルもいればカジートもいる。ブレトンもいるとアルトマーもいる。様々だ。
  「俺の弟を死なせておいてよく1人だけおめおめと逃げ帰れたな、聞こえし者」
  「そんな言い方はないだろうがっ!」
  インペリアルの男が叫び返す。
  黒い法衣を纏っている。
  それは最凶最悪の暗殺者組織である闇の一党ダークブラザーフッドの幹部集団ブラックハンド専用の法衣。
  つまり彼はブラックハンド?
  ……。
  ……いや。そうではない。
  幹部集団ブラックハンドはブラヴィルにおいて完全に壊滅した。
  任命する人物も既にいないので存在すらしない。
  つまり彼は騙りだった。
  あくまで自称『聞こえし者』に過ぎない。もっとも闇の一党の構成員なのは本当だ。
  実際彼のような自称幹部が最近は増えている。
  それはつまり闇の一党の統制が完全に崩壊している事を意味している。組織としての統制は既に存在していない。今回彼ら闇の一党の残党の一派
  はフィッツガルド・エメラルダを殺す事を目的としていた。目的は名を上げる事。
  闇の一党の宿敵であるあの女を殺して他の残党に睨みを利かす為だ。
  だがそれは失敗。
  従えている部下のほとんどが全滅した。
  さて。
  「それでお前は何故逃げた? てめぇの部下も俺の弟も見殺しにして何故逃げた?」
  「失敬だな。逃げたのではなく奴の隙を狙っていたのだ」
  「そうか。その結末は?」
  「す、隙がなかった」
  「ふん。闇の一党と言うからどれほど有能かと当てにしてみればとんだ茶番だな」
  「グラーフっ!」
  「勝手にお前らと暴れたあいつも悪いがお前らの無能さがよく分かったよ。もうお前らは当てにはせん。地理不案内の為に指揮を任せていたがもう任せら
  れん。人数も能力もこちらが上だ。今後は我々が指揮を執る。文句はあるか?」
  「い、いや」
  「今後は我々スカイリム解放戦線が主導権を握らせてもらおう」