天使で悪魔
ヒスト
ヒスト。
それは原初の木。大規模な気候変動により現在は唯一ブラックマーシュ地方にのみ原生している木。
その樹液には特別な効力がある。
亜人にとっては純粋に能力増強の効力があるものの、それ以外の人間やエルフが服用すると暗示効果がある、催眠剤。
ブラックウッド団はヒストをシロディールに持ち込んだ。
樹液を密輸?
いや原木そのものをシロディールに持ち込んだのだ。それはつまりアルゴニアン王国から全面的な支援を取り付けている事になる。
戦士ギルドに取って代わるのはあくまで段階的な事であり最終目的は帝国への蜂起。
それが目的だ。
尖兵であるブラックウッド団が亜人版戦士ギルドを名乗ったのはその方が募兵に効率が良いから。
その為に戦士ギルドとして争い、募兵を公然と出来るようにする為に戦士ギルドの持つ特権を奪おうとしていた。
だけどついてないわね。
結局は1人の女を敵に回したばっかりにその計画は潰えるのだから。
フィッツガルド・エメラルダ。この私を敵に回したものは等しく不幸になるのよ、私は喧嘩売られるの嫌いなの。
とことん祟ってあげる。
とことんね。
……本当、ついてないわね。
ウォーターズエッジの壊滅。
ヴィテラスとヴィラヌス、そして2人に従った精鋭部隊に対する虐殺。
アイリス・グラスフィルに対する仕打ち。
ブラックウッド団は直接的にそれらを全て不幸にして来た。間接的の効果を考えるとさらに被害は甚大だ。
私は悪党。
連中もまた悪党。
ならば食い合おうじゃないの。悪党と悪党はさ。
しかし残念ながら私はあんたらとは格が上なわけなのよ。悪意と善意を併せ持つ女。
天使と悪魔であるこの私がお相手して上げましょう。
「……」
ここはレヤウィン、ブラックウッド団本部前。
私は本部の前で自分の身を確かめる。
雷の魔力剣。
魔法でコーティングしてある鉄の武具(兜と盾は装備していない)。
魔力増幅&耐性増幅の装飾品。
魔力も体力も全開。
まさに絶好調なコンディション。
これでもかってぐらい完全に全開に絶好調だ。どれだけの数がいようと怖くない。何たって闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者を大量デストロイ
した実績の持ち主なのでね。ここにブラックウッド団の団員がどれだけいようと問題はあるまい。
誰も逃がしはしない。
誰もね。
「よし」
準備万端。
装備も能力も絶好調。
何も問題はない。
「よし」
空は漆黒。
空は闇夜。
襲撃にはまさに絶好よね。今回の私は暗殺者として行動してる。まさに絶好の機会。
……。
……ただいまの発言、撤回します。
私は暗殺者ではなく虐殺者。
虐殺好きなブラックウッド団への天敵として私はまさに最適な人材。
適材適所は好きな言葉。
さて。
「そろそろ狩るか」
今宵ブラックウッド団はこの世界から退場する。永遠にね。
闇の一党ダークブラザーフッドは私に喧嘩を売ったばかりに既に退場した。ブラックウッド団にもその二の舞を踏んでもらいましょうか。
嫌だと言えば?
強制してあげる。親切は押さえ付けてでもしなきゃね。
連中には生きてる価値はないのだから新設で全部殺してあげなきゃ行けない。
私って親切だなー☆
「こんばんはー」
ガチャ。
本部の扉を開いた。
「お前はっ!」
出迎えたのはトカゲ3人。
顔は知らんけど向こうは知ってるらしい。この間本部に来た時に顔を合わせたのかな?
少なくとも私は知らん。
まあいいさ。
例え誰だろうと長い付き合いにはならない。
あと数秒の付き合いだ。
「知ってるぞお前は既に我々の同志ではないっ! 戦士ギルドの犬め、この裏切り者めっ!」
「はぁっ!」
ザシュ。
叫ぶよりも剣抜けボケっ!
真正面のトカゲの首を飛ばす。切断された箇所から血が飛び出すのと同時に私はさらに踏み込み2人を斬って捨てる。
ドサ。ドサ。ドサ。
死体は全て同時に床に転がる。
下らない。
「肩慣らしにもなりゃしない」
そう吐き捨てて私は奥に進む。
どれだけの数がいるかは知らないけど多ければ多いほど好都合。ここはブラックウッド団の中枢。いるだけ全て消す。しかも本部だからいるのは
指令もいるだろう。幹部どもも揃ってるはず。闇の一党で既に経験済みなわけよ。
潰すならまずは頭から。
これ鉄則。
それにしてももうちょっと強いのを揃えて欲しいわね。
これじゃあ私がまるで弱い者イジメしてるみたいじゃないか。
「やれやれ」
剣を振るって付着した血を跳ね飛ばしてから鞘に戻す。
他の連中が飛び出してくる気配はない。
耳を澄ますと笑い声や歌声が聞こえる。どうやら宴会の最中のようだ。末期の酒ってわけね。なかなか用意の良い連中だ。今から死ぬ準備出来
てるんだからさ。今の内に現世を謳歌するがいいさ。今のうちにね。
何故?
簡単よ。
「等しく明日の太陽は拝めない。お前らは微笑まれた」
死神たる私にね。
だから死ぬ。
今日ここで死ぬ。日付なんざもう関係ない立場になった。明日という言葉は永遠にさようなら。既にお前らの辞典から抹消された言葉だ。
さあ終わらせよう。
惨めな人生を。
「ふふふ」
さあ終わらせよう。
さあ。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
『……っ!』
ざわり。
その部屋にいたのは二十数名だった。
私がドアを蹴破って乱入すると酒宴をしていた連中全てが硬直する。
視線は全て私に集中した。
見つめられると照れちゃいますなー☆
「ハイ」
優雅に手を振る。
室内の面々は固まったままだ。
ここにいる顔ぶれは三つ。
カジート、アルゴニアン、そして珍しい事に1人だけインペリアルがいる。インペリアルは右腕がない、隻腕だ。
座の雰囲気から見て幹部同士の酒宴といったところか。
円卓を囲んで飲んでる。
「末期の酒はおいしい?」
「貴様何者だ?」
カジートの1人が口を開く。なかなか威厳のある口調だ。
ははあん。
こいつがおそらくこの中の頭か。
なるほど。
確かに威厳のある、余裕のある雰囲気だ。
だとするとこいつがリザカールか。名のある傭兵団のリーダー。確かにそれなりの遣い手のようだ。発する空気が常人とは異なる。
……。
まあ、ここで等しく全滅だけどさ。
「私はフィッツガルド・エメラルダ」
『……っ!』
ざわり。
再び室内はざわめく。
「裏切り者……戦士ギルドの犬かっ!」
リザカールの左隣に座っていてたトカゲが叫ぶ。ジータム=ジー、この間私にヒストを飲ませた張本人だ。どうやら私の顔を覚えていない……とい
うか見分けがつかないのだろう。私も声を聞くまでは分からなかった。
やっぱり人間と亜人は種族がまったく異なるから外観の見分けがつかないのは仕方ない。
あれ?
でも入り口で会った奴らは私を前に来た女と認識していた。
まあいいか。
……。
余談だけど仲良くなれば見分けは付くのが不思議なところなんだけどさ。
テイナーヴァとオチーヴァ、トカゲの双子の見分けが今ではつくし。ター・ミーナ、グッドねぇもまた然り。
家族だし。
さて。
「皆様楽しそうね。飛び入り参加だけど私も混ぜてくれない?」
微笑を含んだまま提案。
その際にトカゲは無視する。あくまで私はリザカールにのみ視線を向けていた。
この中で一番強いからだ。
少なくとも剣術で私を圧倒出来るのはこのネコだけだろう。
後は?
もちろん雑魚よ。
中には高位クラスの魔術師や魔法戦士も混ざっているのかもしれないけど魔法は怖くない。どんなに高等な魔法でもね。
私は全ての魔術師の頂点に立つ存在。
そう自負していますわ。
ほら、一応は闇の神シシスをも退けたわけだし。
ただの思い上がりではあるまいさ。
「戦士ギルドの犬めっ!」
「私が思うに……」
ザシュ。
剣を抜き放ちつつ肉薄してきた名も知らない幹部トカゲを一刀の元に切り伏せる。
居合い。
トカゲは確認するまでもなく死んでる。
『……っ!』
ざわり。
再三に渡り動揺する面々ではあるものの私は気にも留めずに続ける。
馬鹿め。
私の領域に踏み込んだ者は『死あるのみっ!』なのを知らないらしい。まあそりゃそうよね。そう宣言したわけじゃないし。しかし問題はあるまい。
今からそのルールを叩き込む。
今からね。
その後に飛び掛ってくる奴らはルールを知った上で敵対するわけだから自己責任でしょうよ。
今斬ったトカゲはどうするかって?
まあ、ルールを宣言する前だから今のは私のミスよね。
お悔やみ申し上げますわ。
「私が思うにあんた達のやりたい事はどうでもいいのよ。帝国を潰す? どうぞご自由に。何なら私がブラックウッド団を率いてあげてもいいわ」
『……』
「私に跪くなら考慮してやってもいい」
『……』
「でも残念ね。あんた達は禁忌を犯した。それは万死に値するわけよ」
『……』
身内を傷つけた。
私に喧嘩を売った。
既に2つも禁忌を犯している。残念ながら既に救いはありえない。
「何が言いたい?」
余裕を崩さずにリザカールは立ち上がる。
なるほど。
こいつはこいつで場数は踏んでるわけだ。死線をいくつも越えている。
だけどそれで私と対等だとでも?
一端の豪傑を気取ってるようだけどこいつは本当の死線を知らない。本当の意味でのサバイバルを知らない。
戦場を潜り抜けた?
だから何よ。
戦争。そんなのあくまでルールのある世界での事象に過ぎない。
私は悪魔の世界オブリビオンで生き抜いた。
人としての格。
人としての差。
誇るべき事ではないんだけど私はあんたよりもさらに深い深い死線を超えている。
敵じゃあないわ。
「まあ色々と言いたい事はあるけど、要約して一言で言おうかな。いいよね?」
「実に助かる」
「そりゃよかった。でまあ一言で言うわ」
「ブレトン。それで何だ?」
「お前ら殺すよ」
その一言がきっかけとなった。殺意の衝動が私を包み込む。
私の殺意と相手側の殺意。それが私を覆ったわけだ。
バッ。
トカゲ&ネコの幹部どもが剣を引き抜く。
その動作、遅い。
遅い。
遅過ぎるのよ。
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
円卓に放つ。
円卓を中心に雷の余波が幹部達を弾き飛ばす。直撃は問題じゃあないのよ。裁きの天雷は直撃&余波のダブルの攻撃力を有している。
だからこそ円卓を狙ったのだ。
当然ながら円卓は弾き飛び、直撃の際に生じた余波で幹部達は吹っ飛んだ。
バタバタ倒れる。
「殺せっ!」
ジータム=ジーの命令で背後に殺気が生じる。
幹部でも何でもない雑魚団員だ。
……。
雑魚だろうが幹部だろうが等しくデストロイだけど。
雑魚のと幹部の違い。それは死ぬ直前に役職があるかないかの違いに過ぎない。
まあ何でもよろしい。
副指令殿の命令で団員のトカゲ2人が斬りかかって来る。
煩わしい。
「はっはぁーっ!」
テンション高めつつ私は2人を斬り捨てる。血煙を上げて沈む。
雷の魔力剣、今宵も血を求めてるぜぇー。
雑魚団員を仕留めている間に幹部達は間合を保ったり、別の部屋に逃げたりしている。……まあ、戦略的撤退みたいなもんか。わざわざ幹部達
は命を粗末にするつもりはないらしい。とりあえずは雑魚団員をけし掛けて優位に立とうとしているようだ。
最初の一撃で幹部達は半減。
雑魚め。
「殺せっ!」
リザカールもジータム=ジーも別の部屋に引っ込んだ、インペリアルもね。叫んだのは名も知らないネコの幹部。
はいはい。シャラーップ。
「ぎゃっ!」
私はナイフを投げる。
一条の鋭い刃物がネコの喉元を貫く。はい、また1人始末。
その間に雑魚の団員達が群がってくる。
既に本部は蜂の巣を突っついた様な騒ぎだ。団員達は全員臨戦態勢。刃を引き抜いて会議室に殺到してくる。
……楽しくなってきたわ。
「煉獄っ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
雑魚数名を吹っ飛ばす。
さらに追加効果。
吹っ飛ばした際に炎が部屋を舐める。これで雑魚団員どもは迂闊に部屋に入って来れまい。
「逃がすか」
悠然とした足取りで幹部どもが逃げた部屋に向かう。
ひゅん。
ひゅん。
ひゅん。
「はっ!」
炎で足止めされている雑魚団員どもが矢を放ってくる。私は冷静に見極めて全て切り落した。
絶好調なのよ私。
この程度で私の足が止められるかボケ。
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
炎に遮られて身動きの取れない弓装備の雑魚3人を消し飛ばす。
格の差、お分かり?
雑魚どもは騒ぐ。
「炎を消せっ!」
「その上であいつを討ち取ろうっ!」
「あ、あいつを……?」
「びびるな俺達はブラックウッド団、たかだか1人にびびるなっ!」
「まずは火を消せっ!」
ご勝手にお騒ぎなさいな。
あとで全員等しく血祭りに上げてやるからさ。
誰も最初から逃がすつもりはない。
誰もね。
幹部どもの逃げ込んだ部屋に悠然とした足取りで入る。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
その途端に炎の魔法が私を襲う。
幹部の何人かは魔法を習得しているらしい。しかし複数ではなったにしてはお粗末な威力よね。
「煉獄っ!」
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
勝敗は決した。
今の一撃で焼きトカゲと焼きネコとなる。
私は肩を竦めた。
「この程度の事が出来てこその魔法でしょうに。あんたらの炎の魔法の出来、恥かしくないわけ?」
3名撃破。
しかしここにはリザカールとジータム=ジーはいなかった。
別の出口があるのか。
少なくとも扉はないけど2人はいない。抜け穴があるのかもしれない。
「くっ!」
この部屋に残るのはインペリアル、ネコ2人、トカゲ1人の合計4人。
ネコの1人が叫ぶ。
「ちくしょうっ! ジャファジール隊長さえいればっ!」
「はっ?」
ジャファジール隊長?
……。
……ああ、一番最初にこの本部で会ったあのネコか。
確か第一級特務部隊とかを率いている奴だったような覚えがある。
なるほど。
別件で今ここにはいないのか。
一応は亜人版戦士ギルドなわけだから仕事もあるだろうよ。多分任務でここにはいないのだ。
だとしたら残念。
どの程度《第一級》なのか試してみたかったのに。
まあ、試したら最後デストロイなんだけどさ。
さて。
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
問答無用で残りの幹部どもを吹っ飛ばす。
これで残るはリザカールとジータム=ジーだけ。随分と容易い幹部達ね。弱い、弱過ぎる。
……あれ?
「おのれブレトンっ!」
「へー」
片腕インペリアル、生きてます。
どんな手を使ったのかは知らないけどさ。魔法に耐えたのか、避けたのか。
まあいいさ。
ここで殺すだけだ。
「お前殺すよ」
「しゃらくさいっ!」
タッ。
隻腕の男、素早かった。唸る銀のロングソード。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
甘いっ!
銀製といえども雷の魔力剣とまともに刃を交えれば容易く刀身は斬り飛ぶ。魔力剣の性能の差が戦力の決定的な差なのよ。
そこに私の一流の剣術が組み合わされる。
敵じゃあないわ。
「くそっ!」
ブン。
使い物にならなくなった件を私に投げ付ける。私は後ろに飛んで回避、その間にインペリアルは部屋の隅に逃げた。
下らない真似を。
殺すっ!
「裁きの……っ!」
「待て私は帝国軍のヴァルガ将軍だ元老院の特命で内偵に来ているのだ待つんだブレトンの女っ!」
「……何?」
私は止まる。
帝国の将軍?
ヴァルガとか名乗る将軍は私が止まったのを見て、途端に饒舌となる。
「これは帝国の特別任務だ。お前はその邪魔をしている。だからここは退け。俺は内偵を続ける。いずれブラックウッド団の悪行は明るみに出る」
「それまで待てと」
「そうだ」
「将軍だという証拠は?」
「ここに、特権状がある。元老院がブラックウッド団に移譲した戦士ギルドの特権だ」
「ふーん」
将軍はテーブルの上にあった羊皮紙をちらつかせる。
なるほど。
偽造かどうかはともかく元老院の刻印が羊皮紙には押されている。
……。
……ヴィレナめ。
特権状を元老院に返却したのか。それとも元老院がブラックウッド団に転んで特権状を取り上げたのか。自主的なのか強制的なのかは分から
ないけど戦士ギルドが有していた羊皮紙がそこにある。
だけどその程度でこいつを信じれるか?
「駄目よ」
私は首を横に振った。
「な、何?」
「そんな事では信用できない」
「だったらこいつをやるっ!」
バッ。
懐から手帳を取り出して私に投げた。私は受け取る。
「何これ?」
「調べあげた元老院とブラックウッド団の癒着の証拠だ。こいつをくれてやるっ!」
「おやおや」
こいつ馬鹿か。
内偵に入っていると言った。しかし今度は元老院との癒着云々を口にした。つまりこいつはブラックウッド団の内偵者ではなく、元老院の内偵者で
もあるのだ。誰がそんな命令を出すんだ。いずれにしてもこいつはそんな命令を受ける立場ではない。
軍人が内偵?
ありえない。
しかも送り込むなら皇帝の親衛隊であり諜報機関であるブレイズか元老院直轄諜報機関アートルムだろうさ。
わざわざ将軍を送り込む意味が分からない。
色々と意味がある?
まあそうかもしれない。
しかしそんな事が私に関係あるか?
関係ない。
「この手帳は頂くわ。だけどお前殺すよ」
「待てっ!」
「お前の眼は信用出来ない」
「それだけの理由かっ!」
「私は人の顔色窺って生きてきたから当てになるわ。だから断言出来る。お前信用出来ない。……それに生理的に無理。お分かり?」
何故だろう?
見てると腹が立ってくる。
何故に?
こいつは他人を蹴落としてのし上がるタイプに見える(実際にグレイランドを襲撃したりマラカティ達を食い物にしてのし上がった)からかな?
なんかムカつく。
「お前殺すよ」
「くっ!」
将軍は落ちている剣に手を伸ばす。
しかし遅いっ!
私はさらに素早い動きで踏み込み、将軍の左腕を切り落した。
「腕がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「ふん」
さらに私は止まらない。
回し蹴りを叩き込む。将軍は体勢を崩して数歩後退、その間に私は将軍が拾おうとしていた剣を左手で掴み繰り出す。
ザシュ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「うるさい」
そのまま押し切る。
ザン。
ヴァルガ将軍を突き刺したまま、木の壁を刃が貫通。
将軍は昆虫採集の昆虫のように貫かれて繋ぎ止められた。まだ死んでない。まだ。
「両腕なくなってようやくバランス取れるわね」
「……」
「痛い? だったら自分で抜けば良いじゃん。あっ、腕がないから駄目か」
「……くくく……」
「……?」
「……お前死ぬぞ……」
「はっ?」
「……スカイリム解放戦線を敵に回したぞ、たった今な。同志が必ずお前に惨たらしい最後を用意するだろう……」
「はっ?」
何をカミングアウトしてんだこいつ?
だけどまあいいさ。
悪事を働いていたのは確かなんだ、苦しんで死ねばいいさ。
特権状を懐にしまう。
ここにはもう用がない。次の相手に行くとしよう。
こいつのトドメ?
しないわ。
「バイバイ」
「……くくく。お前死ぬぞ……」
幹部達を一掃して私は会議室に戻る。
炎は消えていた。
なるほど。
水でも掛けたのか冷気の魔法で消したのかは知らないけどさ。しかし何故踏み込んでこない?
「ふーん」
意味は分かる。
死んでるからだ。誰かが斬り殺したらしい。
私が始末した以上の雑魚団員の死体が転がっていた。
「ふーん」
楽っちゃあ楽よね。
余計な事といえば余計な事だけど。
誰だ?
「ふむ」
まあいいさ。
まだまだ消すべき相手はたくさん残ってる。獲物を横取りされたからといって怒るほどでもない。
「仕留めろ侵入者をっ!」
上から声が響く。
ホールに移動、上を見た。ブラックウッド団は三階建て。そして今の声はジータム=ジー。どうやら上に逃げたらしい。リザカールの声はしないも
ののおそらく奴もまた上だ。多分ね。団員どもが急いで降りてくる。
まだまだ獲物には困らない。
さて。
「煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄っ!」
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
煉獄三連発。
炎に巻かれながら団員達が降って来る。
「甘い」
私はそのまま階段を駆け上がった。
「止めろっ!」
「はあっ!」
ザシュ。
すれ違い様に団員を斬って捨てる。煉獄を逃れた団員達は私が上層に移動してるのを阻もうとするものの壁にすらならない。時間稼ぎも出来な
いまま私が死体を築きながら上を目指す。二階を通り過ぎる。親玉は最上階にいるのが鉄則だからだ(超思い込み☆)。
最上階の部屋。
ギィィィィィィィィィっ。
自然と開いた。
現れたのは完全武装のネコ。リザカールだ。
「相手してくれるわけ?」
「ああ」
すらり。
リザカールは剣を引き抜く。……あれ?
見たことがある剣だ。
「ブルセフの剣」
「博識だな。そうだ、ブルセフの魔力剣だ。腰の剣に全ての命運を預ける者には、是非とも欲しい代物だ。そうだろう?」
「……」
そういう事か。
ウォーターズエッジ襲撃はこの剣が目的か。多分ビーンが手にしたのをどこかから聞いたのだろう。だからこそ村を襲撃した、その魔力剣が欲し
いばかりにたくさんの死体を築いた。村を1つ潰した。
それだけの為にね。
それだけの……。
「リザカール」
「何だ?」
「聞けばあんたは剣の遣い手だとか。是非とも私にも一手ご教授願いたいわね」
「いいだろう。代価に何を払う?」
「命」
「実に結構」
「ああ誤解しないでね。命はあんたの命。代価はお前が払え」
「ほほう?」
「ふふふ」
相対する私達。
戦うには狭過ぎる。大暴れしたら階段から落ちる可能性もあるし、周囲は欄干に囲まれている。落下死もまたある。
まあ必ず死ぬのはリザカールであって私ではないけど。
「しゃあっ!」
奇妙な気合の声と同時にリザカールが斬りこんで来た。
速いっ!
……でもさぁー……。
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
私は弾く。
まだまだ甘い。
必殺の一撃を弾かれて動揺したのだろう。しかしそれもわずか一瞬で敵意と殺意を混じらせた瞳で私に襲い掛かる。
「しゃあっ!」
「ふん」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
突きを弾き、切り掛る刃を防ぎ、一閃を捌く。
防御一辺倒の私。
攻撃一辺倒の敵。
「しゃあっ!」
「……」
なるほど。
こりゃ強いわ。これならでかい顔してもおかしくない。でかい顔してくださいな。それだけの実力はある。
だけどね?
私はもっと強い。
それにリザカールはグレイプリンスのように全てを併せ持っているわけではない。リザカールの強みは敏捷性。自身の敏捷性と鋭い剣戟を組み
合わせてこその実力者なのだ。私にしてみればやり易い。豪腕じゃない限りはグレイプリンスの比じゃあない。
彼は強かった。
彼と比べるとリザカールは一等落ちる。
ならば。
「しゃあっ!」
「ふっ」
上段で放った一閃を腰を沈めて回避。そのまま私は踏み込みリザカールの腹を薙いだ。
仕留めたっ!
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
……。
……はっ?
リザカール、数歩よろめくもののすぐさま体勢を立て直して切り掛ってくる。
なるほど。
着ている鎧も魔力装備か。
私の雷の刃に耐えやがった。もっとも鎧にはひびが入っている。もう一度同じ箇所に繰り出せばこいつは死ぬ。
バッ。
私は踏み込む。
リザカールはぎょっとした。私が突然抱きついてきたからだ。
戦闘は相手の虚を衝く事にある。
「バイバイ♪」
「……っ!」
私はそのままリザカールを投げ飛ばした。
木製の欄干を突き破って三階からリザカールは真っ逆様に落ちて行った。ブルセフの剣を握ったままね。そのまま地獄まで持って行くといいさ。
そいつがあんたの没落の原因なんだからさ。
そして落命の原因。
「一丁上がり」
剣術で勝敗を決する?
私はそんな事を言った覚えないけどねぇ。思い込みが行けないのよ、リザカール君。
私は敵。
嘘も欺きもするに決まってるじゃない。
「結局あんたは二流なのよ。そんな奴が私に勝てるか」
砕けた欄干から下を見る。
リザカール君は遥か下に転がって動かない。
その時……。
「ちっ」
ドタドタドタ。
階段を駆け上がってくる団員達。
どれだけいるんだここには。
まだ副指令のジータム=ジーは残ってる。まあここにはいないけど。おそらく多分奴が指揮しているのだろう。団員の数は30。
階段を駆け上って向ってくる。
「んー」
さてどうするか?
魔法で吹っ飛ばすのはいいんだけど、そればかりでは芸がない。
どうすっかなぁ。
……。
よし。召喚で行くか。
「デイドロス」
悪魔の世界オブリビオンから二足歩行のワニ型を召喚。
トカゲがワニに勝てるか?
「ゴーっ!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
雄叫びを上げる。
耐久力&攻撃力は格段に高い。
ヒストで能力増強してるのかは知らんけど負けるはずがない。
……。
……まあ、ヒストで増強していようが私には勝てないわけだけどさ。
そもそも雑魚過ぎ。
ヒスト?
はっ。ナンボのもんじゃあーっ!
「デイドロス容赦なく完膚なきまでに食い殺せっ!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
ゴロンゴロンゴロンっ!
「はっ?」
デイドロスは階段を転がっていく。
そ、そりゃそうよね。
デイドロスの足ってでかいもん。普通の階段に足を踏み出したら踏み外しに決まってる。
ゴロンゴロンゴロンっ!
『うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』
団員達を巻き込みながらデイドロスは転がっていく。
予測していなかったのだろう。
団員達は律儀に全員弾き飛ばされた。……ま、まあ、予測は出来ないでしょうね。
ドゴォンっ!
そのままデイドロスは1階の壁に激突。
……しーん……。
何の物音もしなくなる。
デイドロスは完全に果ててるし団員たちもただではすまなかった模様。全員死亡は確定だ。
「よしっ!」
私はガッツポーズ。緻密な計算通りで敵を粉砕っ!
フィーちゃん冴えてるー☆
「がっ!」
「ぎゃっ!」
「……」
ドサ。ドサ。ドサ。
とっとと逃げればよかったのに律儀にも襲い掛かってくる団員3名を始末。本部は次第に静かになりつつある。
幹部はジータム=ジー以外は全て始末した。
指令のリザカールは墜落死。
2階は結局調べなかった。副指令が隠れている可能性は当然あったけど、まあいいさ。脅威にはならない。まずはヒストの原木を始末しよう。
ドゴォォォォォォォォォンっ!
魔法で扉を吹っ飛ばす。
この先はまだ行った事がない。扉を吹っ飛ばして中に入ると、私は気持ち悪さに襲われた。
「うっ」
生暖かい空気。
それを肺に吸い込んだ途端に気分が悪くなる。
湿度が高い。
それに酸素濃度も高い。
なるほど。
これがブラックマーシュの気候なわけだ。確かにこんな気候では帝国の軍団も駐留出来まい。
「……」
ヒストの原木は部屋の中央にあった。
一見するとただの木。
しかしその木には様々なチューブのようなものが突き刺さり、歯車などがついた見た事のない機械にせっせと樹液を吸いだされている。
これがヒストの樹液の製造方法か。
異端の魔法と機械で樹液を抽出している。
ブラックウッド団はここでヒストを製造しているわけだ。反乱組織?
ふん。こりゅ麻薬組織も同然だ。
『……』
黙々と抽出作業に従事している法衣のトカゲ達。作業者というよりは魔術師か。
しかし私のような魔術師ではなくアンコターのように魔道実験に専念するタイプだ。私に関心がないのか、それとも……。
……。
まあいいさ。
私を無視するんらそれはそれでいい。
「煉獄っ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
ヒストの原木に叩き込む。
爆ぜる炎。
研究員達を巻き込み炎は炸裂した。
「ちっ」
しかしそれだけだった。
ヒストの原木はビクともしない。そういう性質なのか火災などで焼失しないように何らかの処置が施されているのかは知らない。だけどこの程度
の魔法では炎上させる事は叶わないだろう。
だったら別の手を使うまでだ。
ヒストの樹液製造の効率を高める為に魔法と機械を使用しているのだろうけどそれが仇となる。
私は落ちていた鉄パイプを手にする。
多分機械の予備の部品なのだろう。使わせてもらおうじゃないの。
鉄パイプを歯車に突き刺す。
ギギギギギギギギっ。
嫌な音を立てて歯車は止まる。鉄パイプが歯車の回転を止めているからだ。
順調に回ってこそのシステム。
それが阻害された時、力場が狂って次第に機械は小爆発を起こす。
そして……。
ドカアアアアアアアアアアアアンっ!
しばらくの間の後、連鎖爆発。
チューブを通じて爆炎はヒストの内部に到達。炎通じぬ大木は内部から炎上していく。
装置は方々で爆発し研究員達は消火出来ずに吹き飛ぶ。
さすがに巻き込まれて死ぬのは嫌なのか逃げようとする者もいるものの扉には私が立ちはだかっている。
「ぎゃっ!」
切り伏せる。
誰一人逃がすものか。
誰一人ね。
「ち、ちくしょうっ!」
「ん?」
私は振り返る。
全身傷だらけのジータム=ジーがいた。私の背後で燃えるヒストを見つめたまま、怒りに燃える。
「やってくれたなっ!」
「ええ。やっちゃった」
「よくもヒストを、ヒストをーっ!」
「ヒストが大事なら一緒にヒストの原木とともに果てればいいさ。でしょう?」
「お、お前のような女に我々アルゴニアン王国の悲願を潰されるとはっ! お前のような女2人にっ! お前なんかの為にっ!」
「2人?」
「ちくしょう殺してやるぞちくしょうっ!」
ジータム=ジーは飛び掛ってくる。しかしその行動が最後の行動だった。
飛び掛った瞬間には副指令は死んでいた。
「これまでですっ!」
ダンマーの戦士に斬り殺されたのだ。
私はその少女を知っている。
「アリスっ!」
「お久し振りです。フィッツガルドさん」
復活したのか。
そしてブラックウッド団に建物に突撃。……さすがは私の戦友。やる事が過激だわ。
「ヒストの原木は燃えた。連中はもうお終いよ」
「はい」
「悪夢はこれで……」
「悪夢は終わらないっ!」
ちっ。
まだ無粋な奴が残ってたか。満身創痍のリザカールだ。3階から落ちたにしては元気ね。
「ここはあたしがやります」
私の言葉を待たずにリザカールと相対するアリス。
そして……。
「はあっ!」
「下らぬっ!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
三合切り結ぶもののリザカールの腕はアリスを越えていた。まだアリスでは倒せる相手じゃないか。
私が一歩前に出る。
相手は私がやるしかないか。
リザカールは間合を保ちながら笑った。
「悪夢は終わらんぞふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
「……」
その顔には狂気が浮かんでいる。
正気じゃない。
「戦乱は確実にやってくるっ! くくくっ! 真に強い者だけが生き延びる戦争が始まるっ!」
「……」
「そうさっ! 真に強い者だけの世界が来るんだっ! 真に強い者だけが生き延びる世界がそこまで来ているっ! 分かるかぁーっ!」
「じゃあお前は不可能だなリザカール」
「えっ?」
それが。
それがリザカールの最後の言葉だった。首を刎ねられて死骸が転がる。炎を背に私とアリスは驚愕を覚えた。
現れた男達2人はリザカールを越える殺気を発していたからだ。
特にその内の1人が。
「わざわざ俺様が出向いてみりゃヒストは焼失かよ。使えんネコだったぜ。……まあいいさ。第一級特務部隊とやらは俺様が貰い受けてやる。それ
にしてもヴァルダーグ。使えん奴ほど腹立たしい事はないな。そうだろう?」
「御意に」
「くくく。さて女ども。今度は黒の派閥の総帥自ら相手をしてやろう。この俺様デュオス直々にな」