天使で悪魔







ブラックウッド団の真意






  視点。
  それはそれぞれ異なる。
  立場や考え方によって視点は変わるし、それ以前に人はそれぞれの視点を有している。
  何故?
  そもそもの立っている場所が異なるからだ。
  
  地面を連想して欲しい。
  人は同じ位置には立てない。つまりはそういう事だ。見ているモノは同じでも立っている場所がそもそも異なるので視方はまた異なる。
  ブラックウッド団もまたそうだった。
  フィッツガルド・エメラルダにとっては皆殺しの対象であり、オレイン・モドリンにとっては許しがたい対象。
  別の人間だから当然視点は異なる。大同小異はありえるものの細部は絶対に折り合わない。

  これはブラックウッド側の視点の話。





  円卓を囲む面々。
  総勢20名。
  ブラックウッド団の幹部達だった。その幹部達の顔ぶれは2つに分かれる。アルゴニアンとカジートだ。2つの亜人系以外はここにはいない。
  これが当初からの顔ぶれ。
  そもそもブラックウッド団はブラックマーシュ地方にあるアルゴニアン王国から送り込まれた組織だった。
  最終目的は反乱。
  アルゴニアン達は王国から派遣された面々。
  対してカジート達は《ヘルズ・キャッツ》と呼ばれた傭兵団。傭兵団のリーダーであるリザカール、そしてその部下達だ。どうしてアルゴニアン王国
  の暗躍に傭兵団が関わっているかの理由は至極簡単だった。
  リザカールは凄腕の傭兵であり、そして極めて高い名声を得ている。
  つまり戦士ギルドにおけるヴィレナ・ドントンと同じ立場だ。ヴィレナは名のある戦士であり、その名声を慕って人が集まった。しかし組織を纏めるよ
  うな実務能力はない。
  ブラックウッド団の指令としての立場を得ているリザカールはある意味で人材集めの飾りでしかない。
  もちろんリザカールとその部下の傭兵達はそれを心得ている。
  彼らにとってアルゴニアン王国の策謀に乗る事は乱世を求めての事に過ぎない。
  戦争こそ彼らにとっての生き甲斐。
  さて。
  「それで新たな報告はあるか?」
  リザカールが幹部達を見渡す。アルゴニアンの1人が挙手をした。
  隣に座る副指令のジータム=ジーだ。
  故アジャム・カジンとともにブラックウッド団の知恵袋であり、アルゴニアン王国が派遣したブラックウッド団のお目付け役。
  「報告せよ」
  「はい、閣下。……ウォーターズエッジに派遣した新兵達が全滅しました」
  「何?」
  鷹揚そうな雰囲気を発していたカジートのリザカールが眉を潜める。
  ウォーターズエッジの襲撃は彼自身が発令した任務だった。
  「失敗?」
  「はい、閣下」
  「どういう事だ?」
  「新兵達は全員齧られたり妙な打撲痕がありました。調べた結果、馬に殺されたのではないかと」
  「……」
  これが平時なら笑い飛ばしただろう。
  しかしリザカールは笑わない。
  にこりともしない。
  その意味を心得ている副指令のトカゲは報告を続ける。
  「新人の1人であるフィッツガルド・エメラルダの死体はありません。彼女は馬に乗ってました。おそらく……」
  「奴は何者だ?」
  「戦士ギルドの女です。加盟と同時にガーディアンに任命された女です。ヴィレナ・ドントンに睨まれたらしく組織に居づらくなったとか……」
  「……」
  「ともかく刺客を派遣しておきました。おそらくは戦士ギルドの密偵だったのでしょう」
  「……」
  「閣下?」
  「問題はそこではないだろうが。ブルセフの剣はどうした?」
  じれったそうに言う。
  リザカールは傭兵であり戦士。戦士たる者、名剣を切実に求める。剣の質によって生死を分けるからだ。
  強力な魔力剣であるブルセフの剣。
  それを手にする為の《ウォーターズエッジの襲撃》だった。正規の団員ではなく加盟間もない新兵を使ったのは、万が一帝国軍に嗅ぎ付けられた
  場合にあっさりと切り捨てる為だ。ブラックウッド団を騙った盗賊団の仕業とする為だった。
  だからこそ団員としての正式装備は支給しなかった。
  「ご安心を閣下。入手しております」
  「大義」
  「ありがたきお言葉」
  「ブルセフの剣、それが俺のものか」
  満足そうに笑う。
  ただそれだけの為の襲撃。
  ただそれだけの……。
  「閣下」
  「ん?」
  「現在の我々の状況をお知らせします」
  「うむ」
  「我々は既にブラック・ブルーゴ、アザニ・ブラックハートと小物とはいえ幹部を失っています。さらに秘密保持の為とはいえアジャム・カジンを我々
  は切り捨てました。特にアジャム・カジンを失った事は痛手であります。私は本国に新たな人材を求めましたところ、こう返答がありました」
  「うむ」
  「蜂起の日取りを早めるようにと」
  「現状でそれが出来るか?」
  「いえ。しかし強硬派であるグラックス宰相の権勢を封じ込めようと穏健派どもが本国で騒いでいます。宰相が国王陛下を擁していますがあくま
  で現在の状況ではです。帝国との融和を図る穏健派の巻き返しが大規模化しているのです。急がなければ身動きが取れなくなります」
  「知った事か」
  「しかし……」
  「関係ない」
  「……」
  魔力剣の時とは一転してリザカールは冷たく言い放つ。
  リザカールはカジート。
  カジートの本国であるエルスウェーア地方は今回の謀議に加担していない。ブラックウッド団に加わっているカジート達はあくまでリザカール率
  いる傭兵団。国家の利権云々はリザカールには関係なかった。アルゴニアン王国の内情もだ。
  純粋に戦争を起こしたいだけだ。
  ……。
  ……まあ、それを純粋に定義していいかは不明だが。
  「俺は傭兵上がりだ」
  「はい。存じております閣下」
  「状況分析は得意のつもりだ。現状の戦力では到底無理だ。まだ元老院から特権を委譲されてすらいない」
  「はい。ですがグラックス宰相閣下は早急に……」
  「無理なものは無理だ」
  「……」
  ジータム=ジーは内心で舌打ちした。
  いっそ戦争馬鹿で頭が悪ければ御し易かったのだがリザカールは頭は良い。やっている所業はともかくとして戦術眼を有している。
  座に白けたような空気が流れた。
  全てはアルゴニアン王国主導の下で行われて来た。ジータム=ジーやアジャム・カジンはそういう名目でシロディールに送り込まれて来た。
  ブラックウッド団の主力であるアルゴニアン達(シロディールで採用した者も多いが)もまた王国から送り込まれている。
  つまり王国の正規部隊が送り込まれているのだ。
  本国の命令でリザカールをリーダーとして立ててはいるものの、そもそも毛深い奴はジータム=ジーは嫌いだった。
  アジャム・カジンはリザカールを崇拝していたようだが。
  さて。
  「全ては特権が委譲され次第だ」
  「それは分かりますが……」
  特権。
  それは現在戦士ギルドに与えられている特権の事を指す。
  元老院に認められているからこそ戦士ギルドは衛兵と同じ権限(状況にもよるが司法権を有している)を持っている。ブラックウッド団は表向きは
  亜人版戦士ギルドではあるものの司法権が欲しいわけではない。欲しいのは公然と募兵出来る権限だった。
  特権さえあれば募兵出来る。
  際限なく人員を増す事が出きる。亜人版戦士ギルドは特権を得る為の建前だ。
  そして募兵もまた建前。特権を得たら《募兵して来た》という名目でアルゴニアン王国は兵力を送り込むだろう。
  それが手順だ。
  しかしアルゴニアン王国の内情がそれを許さない。強硬派と穏健派が王国内で争っている。早く戦端を開きたいのが強硬派の宰相一派の目的。
  ブラックウッド団をシロディール内で暴れさせて帝国軍を撹乱させ、国境を越えて兵力を送り込む。
  宰相一派の目論見がそれだった。
  リザカールは知っている。
  そうなった場合自分達がただの捨て駒として扱われる事に。
  送り込まれたトカゲ達も捨て駒にされるだろうがジータム=ジーは本国に逃げ帰るだろう。
  戦争好きではあるもののリザカールにしてみれば捨て駒にされるつもりはなかった。
  「俺がリーダーだ」
  「はい」
  「文句はあるか?」
  「いえ。しかし全ての支援はアルゴニアン王国から出されています。その辺も考慮して頂きたいのですが……」
  「分かっている」
  「でしたら……」
  「戦争にも手順がある」
  「それはそうですが……」
  「大規模兵力を越境させるのは確かに効果的だが効率的ではない。まずは敵地であるシロディールに戦力を作る事が前提だ。その上で兵力を
  集めて蜂起、さらにブラックマーシュから王国軍を越境させて挟撃すれば戦いは有利に進む」
  「……」
  「ジータム=ジーよ。お前は支援だけを取り付けていればいい。余計な事は考えるな。戦争は俺に任せておけ」
  「……」
  リザカールは知っている。
  皇帝が死に、皇族が皆殺しにはされたものの帝国の戦力に衰えはない事に。
  各地方の民族国家を押さえ込む為に有力な将軍と精強たる軍団を各地方に派遣している。各地方の抵抗がある為、各軍団は身動きが取れない。
  現在帝都であるシロディールには首都防衛の帝都軍がいるだけ。
  そしてブラックマーシュ地方は帝国人の住める環境ではなく唯一帝国の軍団は駐屯していない。
  アルゴニアン王国は動こうと思えば王国軍を動かす事が出来るのだ。
  今までは生来気弱な国王を穏健派が擁していたのでそのような領土的な野心はなかったものの、現在は異なる。強硬派のグラックス宰相が国王
  を擁しているからだ。しかしそれも長くは続かない。宮廷での陰謀劇は世の常。穏健派が巻き返しの為に動いている。
  だからこそ宰相一派は焦っているのだ。
  戦端させ開けば穏健派は強硬派に引き摺られるだけだ。戦争さえ起こせば強硬派は主流派として君臨し続けられる。
  ジータム=ジーはそう急かされているのだ。
  リザカールの理論は正しいとは思うものの、所詮自分以外は捨て駒でしかないというのが彼の考え方だった。
  いざとなったら捨てるつもりでいる。
  それが彼に与えられた任務。
  「ジャファジール」
  「何ですかボス……じゃない、リザカール指令」
  「大口の依頼がある。お前は第一級特務部隊ヘルズ・キャッツを率いて任務に向え」
  「了解っ!」
  リザカールとジャファジール。
  元々は傭兵団の隊長と副隊長の間柄だ。そして現在第一級特務部隊と称されている部隊はかつての傭兵団ヘルズ・キャッツが母体となっている。
  ブラックウッド団随一の精鋭部隊だ。
  「……」
  副指令のジータム=ジーは黙ったままだ。
  アルゴニアン王国から派遣されているもののここでの権勢はリザカールには勝てない。強力な部隊は全てリザカールの子飼いの傭兵達であり、王
  国から派遣された正規部隊では勝ち目がない。ここはリザカールに服するしかない。
  歯噛みしたまま無言を保つ。
  「では今回の会議はこれでお終いだ。皆ご苦労だった。下がっていい」
  「失礼しますっ!」
  その時、ボズマーが1人入って来た。最敬礼のボズマー。
  ブラックウッド団の団員マグリール。
  「会議中だぞっ!」
  トカゲの幹部の1人が叫ぶもののリザカールは手で制した。
  「どうした?」
  「報告します。ヴァルガ将軍閣下がお見えになっています」
  「何?」
  思わず副指令のジータム=ジーと見合わせる。
  ヴァルガ将軍。
  帝都軍の新進気鋭の将軍。隻腕の将軍(反乱ごっこの終焉参照。右腕はマラカティに再起不能にされた)。
  わざわざ帝国の将軍が来た理由。
  それは……。
  「会おう。ここに通してくれ」
  「はい」


  緊張した面持ちの幹部達。
  数分後、帝国から隻腕の将軍は会議室に通された。鎧は纏わずに平服だ。帝国からの正使としてではなく非番で訪れた、そんな感じだ。
  丁度円卓には1つ空きがあった。
  アジャム・カジンの場所だ。
  将軍がそこに座ると一旦は終了した会議が再開される。
  「わざわざの御来光を感謝します」
  ジータム=ジーは恐縮した面持ちで一礼した。
  将軍の来訪には意味がある。
  「これを元老院から預かってきた」
  テーブルに一枚の紙切れを置く。一枚の羊皮紙だ。
  「見ての通り元老院からの特権状だ。これで戦士ギルドから完全に、正式に権限が委譲された事になる。おめでとう」
  「おおっ!」
  ざわめく幹部達。
  特に喜んだのは言うまでもなくジータム=ジー。これで計画を早める事が出来る。
  先程の理論から行けば特権さえあればリザカールもすぐさま行動しなければならない。勝ち誇ったようにトカゲの副指令は笑う。
  「これで問題はありませんな、指令」
  「……ああ」
  計画は繰り上がった。
  先程の正論を覆されたようで内心ではあまり面白くはないものの、ともかくこれで募兵が容易になる。
  今までブラックウッド団は私設団体でしかなかった。
  それが今では元老院公認。
  喜んだりするブラックウッド団の幹部達とは対照的にヴァルガ将軍は平静なままだった。
  欲の皮の厚い元老院議員の思惑が甘い事を彼は知っている。
  戦士ギルドに取って代わる?
  それがただの建前でしかないのを知っている。
  議員達は献金されて喜んでいるだけだが将軍からしてみれば今の状況が危険なのを知っていた。
  「おめでとう、リザカール殿」
  「ああ。ありがとうよ」
  「魔術師ギルドのハンニバル・トレイブン議員、鉱山ギルドのファティウス議員をはじめとする面々は反対派ではあったが副議長のグラウ議員が
  有力議員であるトティウス議員、ロウゥス議員を味方につけた。その結果強行に今回の案件を通した。さらなら献金を求めてるぞ、議員達は」
  「それは当然でしょう。すぐさま用意するとお伝えください」
  慇懃に副指令は頭を下げる。
  しかし目は笑ってなかった。馬鹿どもめと思った。
  欲の皮を突っ張らせた結果がアルゴニアン王国の侵攻だと知らない馬鹿めと思った。
  欲得が帝国を滅ぼす。
  将軍は続ける。
  「自分はこの報告の為の特使としてやって来たわけだが、もちろん別に目的がある」
  「ほう?」
  興味深そうにリザカールは相槌を打った。
  「自分はインペリアルではあるが純血ではない。母方の先祖がノルドでね」
  「ほう。それで?」
  「実はスカイリム独立に力を貸して欲しいと思っている」
  静まる会議室。
  ブラックウッド団がアルゴニアン王国からの尖兵だとヴァルガ将軍は見越している。計画が露見した。そう思った幹部達が即座に剣を抜こうとす
  るもののリザカールが目で制した。
  ガタ。
  席を立つリザカール。
  「スカイリムの独立?」
  「そうだ」
  「そうか分かったぞ。ヴァルガ将軍、あんたはスカイリム解放戦線の人間だな?」
  「そういう事だ」
  スカイリム解放戦線。
  現在帝国の統治に頑強に抵抗しているのはスカイリム地方であり、スカイリム解放戦線はもっとも過激な反帝国組織だ。
  「リザカール、シロディールなんぞ知った事ではない。欲しければくれてやる」
  「俺は別に領土的な野心はどうでもいいのだが……それで? あんたは何を得る?」
  「シロディールはタムリエルの中央部。そこが欠ければスカイリムは独立を勝ち得るのに容易になる。帝国人は心の拠り所がなくなる。そうする事
  でスカイリム独立の悲願は成就されるってわけだ。シロディールを奪うのに関しては手を貸してもいい」
  「つまり?」
  「帝国軍の一部は自分の管轄にある。後は分かるだろう?」
  「急ぎの用事はあるか将軍殿?」
  「いや」
  「ならば飲んでいくといい。無礼講と行こうじゃないか」
  「いいだろう。タダ酒を断るのは人としての過ちだからな」
  「ははは」
  事態は一気に好転した。
  特権さえあれば公然と人員を増す事が出来る。ジータム=ジーはすぐさまその旨を本国に伝えるだろう。そしてブラックウッド団加盟という名目で
  王国正規軍を送り込む。いざブラックウッド団が戦端を開けば越境して大規模的に王国軍をシロディールに乱入させるのだ。
  帝国軍の一部が同調するならそれも容易い。
  さらにスカイリム解放戦線と話を詰めれば北方での撹乱も可能だ。
  南、北、さらにシロディール内部からの攻撃による三方面からの同時攻撃。
  戦争屋のリザカールは笑う。
  「勝てるっ! これで帝国に勝てるぞっ!」