私は天使なんかじゃない







ライリー・レンジャー 〜決着〜






  再び立ち塞がる巨人ベヒモス。
  因縁再び。






  銃弾の連打。
  レンジャーの1人はミニガンを持っていた。そういう意味では火力は申し分ないんだけど……ベヒモスはまるで無痛かのように立っている。
  まあ実際に効いていないのだろう。
  キョロキョロと不思議そうにベヒモスは私達を見ていた。
  前回と一緒か。どうやらベヒモスは瞬時に状況を把握し切れないようだ。攻撃に移行するまでに時間が掛かる。
  貧弱な脳味噌だことで。
  もちろんそれならそれでいい。
  あいつに全力で来られたら私達なんてひとたまりもない。
  今のうちに。
  今のうちに少しでも弱らせないと。

  「
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!

  やばい。
  攻撃態勢に移行したらしい。
  その時。
  「おーおー。大変そうですなぁー。手を貸そうか?」
  「……?」
  声が降って来る。
  私達は周囲を見た。周囲……ああ、上だ。二階建てのビルの二階部分から男が手を振っている。
  オジサマというかおっさんだ。
  誰だあいつ?
  左手を相手は振っている。その腕にはPIPBOYが装着されていた。しかも最新型のPIPBOY DSだ。ゲーム機能のある最新型の1つだ。アマタは最新型の1つ
  であるPSPだった。私も旧型の3000じゃなくてアマタの持つPIPBOY PSPが欲しかったものだ。
  それにしても。
  それにしてもボルトの外でPIPBOYを手にするのは難しい。
  すると彼は……。
  「あんたボルト出身者?」
  声を張り上げて聞く。男は大声で返した。
  「そうだ。俺の名はケリィ。ボルト101の脱走者さ。今はアウトキャストに雇われてるスカベンジャーの1人だ」
  「ボルト101かぁ」
  世慣れた感じのおっさん。
  つまり私とパパの前に脱走したのだろう。
  ……。
  ……監督官め。
  なぁにがボルトで生まれた者はボルトで死ぬ、だ。もしかしたら結構頻繁に脱走事件はあるのかもしれない。
  ケリィは言う。
  「ヌカ・ランチャー持ってんだ俺。砲弾も3発ある。助けてやってもいいが条件がある」
  「条件?」
  ピピ。
  私のPIPBOYが音を発する。
  何かのメッセージを受信したらしい。言うまでもなくケリィが送信したのだろう。
  その間にもベヒモスはゆっくりとこちらに向かって来ていた。
  「クリスティーナ様。どうされます?」
  「どうって……」
  ベヒモス相手にスナイパーライフルもコンバットショットガンも大した意味は持たない。ここは是が非でもヌカ・ランチャーの援護が欲しい。
  だけど。
  だけどっ!
  「赤毛のお嬢ちゃん、死んじまうぞー?」
  「……」
  おっさんの声が降って来る。
  PIPBOYを通じてケリィは私にある言葉を要求している。
  セクハラだ。
  セクハラだけど……くっそぉーっ!
  私は声高に叫んだ。

  「ケリィ様っ! あなたの太く大きく猛々しいモノからほとばしる熱い思いを私にくださいっ!」

  ……セクハラだろこれ。
  要は『あんたが持つヌカ・ランチャーでミニ・ニュークを発射してくれ』なんだけどさ。こう発言する事で援助してやるとPIPBOYを通じてメッセージが来た。
  そしてそれを口にした私。
  ちくしょう。
  完全なるセクハラだ。
  後で殺すっ!

  「これで満足かぁーっ! とっとと撃てーっ! ちくしょうーっ!」
  「あいよ了解」
  汚された。
  汚された感じで一杯だーっ!
  ……。
  ……ちくしょうっ!
  生き延びる為とはいえ素晴しいまでに屈辱だ。
  後でこいつ殺してやる。
  必ずねーっ!
  ケリィはヌカ・ランチャーを発射した。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  ヌカ・ランチャーはアメリカ軍が開発した携帯用兵器。
  使用する砲弾はミニ・ニューク。
  小型核だ。
  当時の技術の粋を込められた兵器であり兵士が携帯する兵器の中では最強。旧文明でもヌカ・ランチャーはそう数は多くないはず。
  だが。
  だがベヒモスはまだ動いている。
  ケリィはさらに1発撃った。

  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  立ち上がろうとしたベヒモスは再び倒れた。
  スーパーミュータントは放射能に強い。しかしミニ・ニュークの純粋な破壊力にその耐性は意味がない。
  クレーターが出来る。
  ベヒモスは力尽きつつある。
  ケリィは再度構えた。
  惜しげもなく全弾使う気らしい。ミニ・ニューク1発だけでも結構な値段だ。
  ……。
  ……まあ、もしかしたら後で請求する気かもしれないけど。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  決定的な一撃だった。
  ベヒモスはもう動かない。ピクリともだ。
  実に簡単だった?
  まあ、結果だけみればね。
  ただ現実問題としてミニ・ニュークは完全にロストテクノロジーだ。そうそう転がっていないし売りに出ても高過ぎる。それに武器としては物騒過ぎるのは確
  かだろう。砲身であるヌカ・ランチャーに不備があって誤爆したら?
  考えるまでもない。
  本人も形を残さずに吹っ飛ぶ。
  つまり。
  つまり普通の感性ならまず使わない兵器だ。
  自分を、仲間を、使用場所次第では街1つも危険に陥れる武器。使っていい武器ではない。
  ケリィは笑った。
  「赤毛の嬢ちゃん、やったぜっ!」
  「ありがとう」
  「さて次は俺様のリアル大砲で赤毛のお嬢ちゃんを……」
  「それ遠慮する」
  ドン。
  44マグナムを撃った。
  そのまま男は引っくり返る。私は空になった薬莢を1つ捨てて、装填し直す。
  「殺したのか?」
  レンジャーの1人が眉を潜めた。
  納得できないらしい。
  ごもっとも。
  私は首を横に振った。
  「頭すれすれに撃っただけよ。衝撃波で脳震盪起こして引っくり返っただけ。……多分死んでない。多分ね」
  「……」
  言葉とはいえセクハラされたんだ。
  これぐらいいいだろう。
  そもそも命を救われたから射殺するところを生かしておいてあげてる。
  その程度の思慮はある。
  問題ナッシング。

  「主」
  「……はいはい、見えたわよ」
  私は溜息。
  敵の部隊が現れた。
  スーパーミュータントの部隊だ。
  だがその数は小勢。
  偵察目的の小隊程度の数のスーパーミュータントだ。ただ指揮している奴が問題だ。
  深紅の将軍。
  スーパーミュータント・ジェネラルだ。
  厄介な奴が出てきたわね。
  もちろん。
  もちろん報復のチャンスではあるけどさ。
  復讐してやる。

  「まさかベヒモスを倒すとはな。それもこれで2体。……赤毛の小娘、今度は確実に殺してやる」
  「ジェネラル」
  再び。
  再び会えたわね。
  この広いDCの残骸の中で会えるだなんて……よほど因縁があるみたい。
  深めるつもりはないけどね。
  今度は前回よりは楽だとは思う。
  こちらもBOSがいないから人数は少ないけど相手も斥候程度の部隊でしかない。どうやらベヒモスの様子を見に来ただけのようだ。
  ついてないわね。
  それ故にここで死ぬ。
  だけど……。
  「ジェネラル」
  「何だ?」
  「お互いに決定打に欠けるわよね、人数ではさ。……だからどう? サシでの勝負ってのはさ」
  「何?」
  怪訝そうなジェネラル。
  グリン・フィスが囁く。
  「主。自分が決闘で倒します」
  「いえ。私がやるわ」
  「一兵卒、馬鹿な真似は……っ!」
  「いいえクリス、これは正しいわ」
  そう。
  正しい。
  相手も人数が圧倒的ではないのでまず負ける事はないけど……レンジャーは連戦&持久戦を体験済みなのだ。何人か死ぬ可能性がある。
  ライリーと約束した。
  死なすわけにはいかない。
  誰1人ね。
  「ジェネラル。まさか怖気付いてる?」
  「言ってくれる」
  「長い銃はなしでいきましょ。長引くから」
  「結構」
  私はアサルトライフルをグリン・フィスに押しやった。私の手持ちの銃は44マグナムが二挺だけ。
  相手が私の策に乗った理由。
  簡単ね。
  ジェネラルはジェネラルで小隊しか率いていなくて多少心許ないのだ。
  だから。
  だから決闘で決着を付けたいのだろう。そして自信がある。決闘に乗る以上は自信があるのは当然よね。ともかく私を決闘で倒せば士気に影響される。その後
  はレンジャーもクリス達も一網打尽に出来ると踏んでいるのだろう。
  甘い。
  その認識は実に甘い。
  何故?
  勝つのは私だからだ。
  「始めましょうか」
  「ああ」

  向かい合う。
  20メートルほどの距離を保って私とジェネラルは対峙した。
  私の腰には44マグナム二挺。
  それに対してジェネラルの武器はソードオフショットガンが二挺だ。あれが小型拳銃の類なのかは分からないけど威力の点では44マグナムを越える。
  ただし装弾数が2発。2つで4発。
  連発できない。
  そこが私にとっての狙い目ではある。だけど攻撃力には注意しなければいけない。
  もうお腹射抜かれるのは嫌だし。
  「……」
  「……」
  双方、銃はまだ腰のホルスター。
  ごくりと誰かが生唾を飲んだ音が聞こえた気がした。
  お互いの仲間はどちらも傍観。
  戦いは2人だけ。完全なる決闘の姿勢だ。
  さあ。
  雌雄を決しよう。
  「この間の借りは返すわ」
  「馬鹿な女め。ここで殺す。今度こそな。……ベヒモス2体を倒したお礼をせねばならん」
  「逆にお礼してあげるわ。女の子のお腹を撃った罪でね」
  「どちらも相手を殺す気でいる。人生とは上手くいかんな。そう思わんか?」
  「矛盾よね」
  ジリジリと。
  ジリジリとお互いにゆっくりと足を進める。
  前に?
  いいえ。
  弧を描くように。
  「……」
  「……」
  ゆっくり。
  ゆっくり。
  ゆっくり。
  まだお互いに銃に手を掛けていない。
  まるでマカロニウェスタンの決闘の一場面のように私達は相対している。
  連射の面では私が勝っている。
  威力の面では奴が勝っている。
  ただし銃の腕は互角とは言い難い。
  どちらが上?
  それは……。
  「食らえーっ!」
  ドン。ドン。ドン。
  左手で44マグナムを引き抜いて連射。ジェネラルは大きく横に飛び、地面を転がり、腰のショットガンを引き抜く。
  バァン。
  私に向って発砲。
  銃弾は魔法ではない、まっすぐにしか飛ばない。すぐさま移動すれば当たらない。銃撃戦で生死を分ける原理は極めて簡単だ。……まあ普通は回避なんざ
  は出来ないんだろうけどさ。
  だけど私には出来る。
  銃弾は極めてスローに見える。
  ……。
  ……もちろん実際にスローになっているわけではない。
  私の視覚がそう捉えるだけだ。
  結構疲れるけどその気になれば完全にストップさせる事も出来る。その際には完全に相手もストップする。私だけが動ける。そして周囲の人間には私が高速で
  動いたように見えるってわけだ。私はメタヒューマン。超常能力を有しているらしい。
  さて。
  「ちっ」
  ドン。ドン。
  今度は右手で44マグナムを引き抜き、発砲。
  だけど当たらない。
  相手は相手で並じゃない反応速度だ。
  ジェネラルはソードオフショットガンを構える。狙いは私の頭ってところかしら。銃撃戦に際して一番大切なのは余裕を持つ事。弾丸に身を晒しつつも余裕を
  保てれば自然と勝てる。ジェネラルは余裕だ。銃口の前に悠然と立つ事すら厭わない性格らしい。
  実に結構。
  そのまま死んでもらうっ!

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  時間が止まる。
  ショットガンの銃口を私に向けるジェネラル。
  奴の頭を……っ!

  「……っ!」

  ガタガタガタ。
  構える手が震えた。
  何?
  何なの?
  いつもと状況が変だ。時間が戻る。元の時間枠に。解除されるっ!
  「ちっ」
  ドン。ドン。
  両手に収まる44マグナムをそれぞれ発射。
  「ぐぁっ!」
  ジェネラルの右腕と腹に銃弾は吸い込まれていった。
  時間は元に戻っている。
  ……。
  ……それにしても何?
  こいつまさか私の能力を中和している?
  まあ私も自分で自分の能力を完全に理解しているわけではないけどさ。……むしろまったく知りませんっ!
  うーん。
  それはそれで問題かなぁ。
  「赤毛の小娘ぇーっ!」
  ジェネラルは吼えた。
  動けなくなってすらいない。タフな奴だ。
  バァン。
  ショットガンを放つ。
  私は回避。
  ドン。
  左手の44マグナムで反撃。正確な狙いで奴の銃を吹っ飛ばす。……まあ既に弾がない銃の方でしたけどね。
  タタタタタタタタッ。
  猛然と走って向ってくるジェネラル。
  私は左手の銃をホルスターに戻しつつ、右手に持つ銃を放つ。奴も撃つ。お互いに銃弾を交換し合う。
  バァン。バァン。
  ドン。
  相手は弾が尽きた。私の銃には残り1発。
  チャッ。
  突っ込んでくる相手に向って銃を構えた。次の瞬間、奴は空になったショットガンを私に投げる。
  「くっ」
  避けた。
  避けたけど体勢が崩れた。
  ガンっ!
  構え直すものの遅かった。ジェネラルにタックルされて私は吹っ飛ぶ。しかし素人じゃないの私はっ!
  「トドメっ!」
  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
  ドン。
  吹っ飛ばされながら最後の1発を放つ。
  ジェネラルの右足に直撃。奴はたまらず大声で呻いた。
  私?
  私はゴロゴロと転がった。
  なかなか痛い。
  転がった際に銃を落としたらしい。右手には銃がなくなっていた。
  「お前の負けのようだな、赤毛の小娘」
  「……」
  足を引き摺りながらジェネラルは近付いてくる。奴はソードオフショットガンを拾ったようだ。落ちてるところが分かってただけこいつはラッキーだ。
  私の銃はどこ?
  「赤毛の小娘、お前は改造して仲間にはしない。ここで殺す」
  「……」
  「言っておくが……」
  「言っておくがそこまで余裕ぶると傲慢よ?」
  「何だと?」
  ジェネラルはショットガンの装弾を終えていた。私に銃口を向ける。
  私は無手?
  いいえ。
  腰にはまだもう1つの44マグナムがある。
  「この状況でどうするつもりだ? 余裕だろうが傲慢だろうがここでお前が死ぬのは確定だ。……まさか決闘で仲間に哀願なんぞせんよな?」
  「それは自分に聞きなさいよ。不利になっても仲間に泣きつかないわよね?」
  「赤毛の小娘。お前の言いたい事はよく分からん」
  「そう?」
  「確かにまだ44マグナムが腰のホルスターにあるようだが……弾の交換をしている間にお前を殺せる立場にあるんだぞ。この状況は手詰まりだろう?」
  「でしょうね」
  相手は傲慢。
  どこまでも傲慢だ。それでいい。
  私はホルスターから銃を引き抜く。あまりにも悠然としている動作だから相手はあまり驚かなかった。
  そう。
  確かに44マグナムの弾を交換するのには時間が掛かる。
  相手の傲慢は妥当だ。
  ジェネラルでなくともそう振舞うだろう。
  ……。
  ……保険は大切ね。
  よかったぁ。
  まさかこうも役に立つとは思ってなかった。
  「ジェネラル」
  「何だ?」
  「バイ」
  ドン。
  「……な、何……?」
  44マグナムが火を噴いた。
  弾を交換した?
  してない。
  だってそもそも弾切れじゃないもの。1発だけ残しておいた。保険だ。こういう時の場合の。相手を出し抜くには思い込みを利用するに限る。
  ドサ。
  胸板を射抜かれてジェネラルはその場に崩れ落ちた。
  ショットガンは大地を転がる。
  「甘いわね。ホルスターに戻したからといって弾切れとは限らない」
  「……う、迂闊……」
  「確かにそうね」
  「……くそ」
  「傲慢に振舞う時、相手には隙が出来る。……もちろん隙が出来ようとも準備がなきゃ死ぬけどね。私には準備があった。それだけの事よ」
  「……口惜しや……」
  「ジェネラル、お終いよ」
  「貴様のような小娘にっ! 貴様のようなぁーっ!」
  私はソードオフショットガンを拾ってそのまま2連発。
  ジェネラルの頭を吹き飛ばした。
  ……。
  ……馬鹿め。
  問答無用で殺せばこの場に立っていたのはジェネラルだ。
  相手は私を嬲ろうとした。
  だから没落に繋がった。
  殺せる時に殺す。
  私なら躊躇わずにその場で殺す。
  それがここに立っていられる最大の理由だ。ジェネラルは最後の最後で思慮を失った。最大の敗因はそこにある。
  私はショットガンを投げ捨てた。
  「ジェネラル、これでGNRの事はチャラにしてあげるわ」





  決着はついた。
  あの後スーパーミュータントの小隊は逃げた。頭脳であるジェネラルが死んだ以上勝機がないのを悟っての行動だ。
  ……。
  ……まあ、レンジャー達は逃げる連中を背後から撃ったけど。
  避難はしない。
  少なくとも分かり合える相手ではないのだから。
  そもそもスーパーミュータントとは『分かり合おうとする事すら喜劇』でしかない。どちらかが絶滅するまでこの関係は続くのだろう。
  ともかく。
  ともかく私達は勝利した。

  戦闘終了と同時に私達はアンダーワールドに移動。
  ライリーを迎えに行く為だ。
  ライリーの体調は悪くなっていたものの3日後には回復、護るようにDCを突っ切ってライリー・レンジャーの本部私設に私達は向った。ライリー・レンジャー
  の総勢は13名。少数精鋭の傭兵集団だ。
  本部私設には居残りを命じられていた面々が心配そうに待っていた。
  そりゃそうだね。
  随分と長い遠征だったわけだから。
  そして……。


  「私もライリー・レンジャーになれって?」
  「そうよ」
  緑色のコンバットアーマーを今回の報酬に手渡しながらライリーは言った。
  ここはライリーの私室。
  他の面々は部屋の外だ。
  「ライリー、嬉しいけど……」
  「別にここに留まれってわけじゃないわ。貴女がメンバーにいるというだけで私は立ち直れる、そういう意味合いよ」
  「……?」
  「今回の事で私は自分の弱さを知ったわ。もっと強くてタフな女と思ってた。だけどセオが戦死。自分は怪我で身動き出来ない。そんな状況で少し弱気になって
  るのよ。本当ならもっと凹んでる筈なの。でも貴女の、ミスティの勇姿を聞いて元気が出た。だからライリー・レンジャーになって欲しいの」
  「ここには留まらないわよ?」
  「構わないわ」
  ライリーは微笑んだ。
  少しガッツが戻ったようだ。
  「だけどライリー」
  「何?」
  「別にコンバットアーマーいらないんだけど」
  「何を言ってんの。そんな軽装でDCを歩き回る馬鹿を私は初めて見たわ。ライリー・レンジャー特製のコンバットアーマーよ。弾丸もある程度は弾くわ」
  「動き辛そうなんだけど……」
  「お腹穴開けられるよういいでしょうよ」
  「うっ」
  それを言われると辛い。
  アンダーワールド療養中にライリーには色々と話した。GNRの戦闘の事もね。私が半分死んでた事も話した。
  うーん。
  あの時の事を言われると痛いなぁ。
  まあいいさ。
  私はありがたく頂く事にした。
  どんなに卓越した戦闘能力があろうとも1発撃たれれば死ぬ。それが結局は真理だ。
  防御力は必要だしある程度の配慮と準備も必要だろう。
  ライリーの好意を受け取った。
  もちろんライリーにはライリーの思惑もある。
  ライリー・レンジャー特製のコンバットアーマーを着込むという事はライリー・レンジャーに所属するという事だ。少なくとも世間はそう見る。何故ならこれはあ
  る意味でユニフォームみたいなものだからだ。
  これを着て歩く。
  それだけで私は歩く広告塔。私のした事は全てライリー・レンジャーのした事になるだろう。
  もちろんそんな意地の悪い見方が全てではないけどさ。
  ライリーは私を人材として欲している。そこには好意すらある。そして信頼も。
  ならば。
  ならばありがたく頂こう。
  そして今日から私はライリー・レンジャーの末席。
  「よろしく隊長」
  「今後とも頼むわよ副長」
  副長なのか私は。
  意外に幹部?
  「ところで隊長、詳しい事を知らないので一応は聞いて置きたいんだけど」
  「何を?」

  「タロン社って何者?」
  既に関ってる。
  だけど何の前触れなく敵対したからあまりどういう組織なのかは分かっていない。
  ライリーは顔をしかめた。
  「忠告しておくけど出来るなら関らない方がいいわ。奴らは傭兵の名を汚したの」
  「どういう事?」
  「奴らはモラルも容赦もないわ。仕事なら無防備な人間の頭に弾丸を打ち込んだりするんだから」
  「遭遇した事は?」
  「ええ、何度かあるわよ。運良くお互い道を譲ったけどさ。ブーツにツバ掛けられてブリックが激昂しそうになったけど何とか止めたわ」
  敵には回さない方が得策。
  そういう事なのだろう。
  まあ私の場合は既に敵対……いやいや険悪なまでに敵対しまくってますけどねー。
  既に手遅れっ!
  おおぅ。
  「1年か2年ぐらい前に奴らはある集落の女子供を虐殺したわ。タロン社はそういう組織なのよ、お金にしか興味がないの」
  「隊長は?」
  「ライリー・レンジャーはモラルに基づいて行動するの。プロの殺し屋じゃなく、人助けの為に創設したの。……貴女もその精神を忘れないで」
  「分かった」
  「ミスティ」
  「何?」
  「貴女は仲間よ。大切な仲間。だから何かあったらすぐに連絡して。ライリー・レンジャーは赤毛の冒険者を全面的に協力するわ」











 



  DC廃墟。
  そこを彷徨う一組の男女。
  タロン社のカール中尉と女レイダーのエリニースだ。
  2人はステーツマンホテルにいた仲間達をスーパーミュータントに売った。タロン社の地区指令、その部下、合計50名全滅。
  スーパーミュータント側に裏切る?
  そうではない。
  あくまでスーパーミュータントの軍事力を利用してタロン社の部隊を潰したに過ぎない。部隊を潰す際にはスーパーミュータントに無線で知らせた。
 
  「遊撃隊が背後を衝くぞ」と。

  丁度DCではタロン社とスーパーミュータントの軍勢が議事堂を巡って戦争していた。
  その戦争を利用して仲間を始末した。
  その意味?
  それは成り上がる為だ。
  上層部には既に地区指令の部隊が反乱を起こしたので殲滅した、と報告した。上層部は疑わなかった。
  地区指令が議事堂攻略の要請を蹴った(父を探して私は旅をする 〜スリードック〜参照)のはその為だったのか、そう上層部は信じた。
  結果。
  結果、カールは出世した。
  未然に反乱を潰したからだ。階級が少佐に格上げされた。
  「カール少佐、これからどうするんだい? そろそろミスティを狩るかい?」
  「まだだ」
  「まだ?」
  「まだ早い。もう少しあの女は泳がす。……ベヒモスとジェネラルとやり合える女だ、放って置いても勝手には死なんだろ。その間に俺はもっと上を目指す」
  「立身出世物語もいいけど、そろそろ金が欲しいねぇ」
  半ば皮肉る口調のエリニース。
  それはそうだろう。
  エリニースはレイダーであってタロン社ではない。つまり階級は関係ない。元々部外者だからだ。
  あくまでミスティの賞金目当ての行動であり提携であり協定だ。
  そろそろ彼女は飽きつつあった。
  その時……。
  「失礼。カール君とエリニース君だね?」
  「誰だお前は」
  「私はダニエル・リトルホーン。君達の行動に興味があってね。支援しに来た」
  「何?」
  エリニースが銃を構える。
  2人の前に立ち塞がったのはジェラルミンケースを2つ持った老人1人だけ。カールはエリニースに首を横に振って見せた。エリニース、銃を下ろす。
  「支援って何だ?」
  「こいつをあげよう」
  ごと。ごと。
  ケースを置く。老人は屈み込んでケースを2つ開けた。
  中には大量のキャップ。
  「ここにそれぞれ20000キャップずつある。つまり合計で40000キャップ。こいつで組織を立ち上げてもらいたい。……別にタロン社を辞める必要はないぞ。君
  達が追ってる賞金首を追う為の私設部隊という事にしておけばよい。もちろん組織の運用方法は任せる。本当に追撃部隊にしてもいい。好きにしてくれ」
  「……目的は何だ?」
  「私は表立って動けん。こちらの都合でたまにお願いをする。しかし基本はお前達の好きにすればよい」
  「……嫌だと言えば?」
  「これでこの話は終わりじゃ。それだけじゃよ。……ああ、金は好きにしたまえ。その程度のはした金、どうこう言わんよ」
  「つまり」
  「つまりそれだけの資金力が私にはあるという事じゃ。正確には私はただの代表に過ぎんがな」
  「……」
  「ではな。もしも組織を立ち上げるならレイダーを雇うといい。残忍で馬鹿だが、補充が簡単じゃしな。……ではな」
  老人はそう言い残しておぼつかない足取りで姿を消した。
  残されるのはカールとエリニース、そして大量のキャップ。合計で40000キャップ。
  エリニースが呟いた。
  「悪魔の微笑ってやつかねぇ。……相応のリスクはありそうだ。それでどうする?」
  「くくく」
  「カール少佐?」
  「リスクがない賭けなんてないさ。せいぜいこの金を利用させてもらう。……エリニース、昔馴染みのレイダーどもを掻き集めろ」
  「了解したよ」