私は天使なんかじゃない







ライリー・レンジャー 〜救出〜






  世の中、自分の都合だけでは進めない。
  義理人情も必要不可欠。
  見返り?
  別に欲しくない。

  だけど。
  だけど人と人との繋がりは構築されていく。確実に、そして強固に。
  いつかそれが『何か』に変わる。

  ……何かに。






  「カロン。要は貴方はクリスの部下ってわけ?」
  「クリスティーナ様に聞け」
  「はっ?」
  「クリスティーナ様に聞け」
  「……」
  奇妙な仲間、カロンとともに私達はステーツマンホテルに到着。
  ライリーからの依頼だ。
  彼女の部下であり仲間であるライリー・レンジャーの救出。ただライリーの情報では既に仲間の1人であるセオは戦死している模様。
  他の仲間は絶対に助けなきゃ。
  ……。
  ……カロン?
  さあ、私はよく知らない。
  私がライリーと話している間にクリスが仲間に組み入れていた。
  仲間といっても正確には私の仲間ではない……いや私がグールを嫌ってるとかそういう意味ではない。あくまでカロンはクリスに絶対的な忠誠を誓っており
  クリスが私と敵対すれば自動的にカロンも敵になる。
  つまりクリスと私が仲良くしている限りの同盟関係でしかない。
  そういう意味ではグリン・フィスと似ているかもしれない。彼は彼で、クリスが私と敵対すれば……考えたくはないが彼はクリスを躊躇いなく殺すだろう。
  さて。
  「行くわよ」
  ステーツマンホテルに突入。



  ステーツマンホテルはスーパーミュータントで満ちている。
  そう認識していた。
  ライリー・レンジャーを追ってスーパーミュータントの大部隊が入り込んでいると認識していた。
  それは確かにそうだった。
  ホテル内にはスーパーミュータントがゴロゴロいた。
  だけどそれは全て死体。
  歩くのに邪魔なぐらいに死体だらけ。
  ライリー・レンジャーが倒した?
  ……。
  ……それはないな。
  だってレンジャーはレディーの希望病院から伝って侵入した、上層にね。
  つまりステーツマンホテルには入り口から入っていない。
  なのにこの死体の山。
  どうやら別口の連中がいる可能性もある。
  「散開。防御体勢」
  『……』
  仲間達は頷き、武器を手にして散開。
  何者かがスーパーミュータントを強襲した可能性がある。
  そして……。

  「随分と久し振りだな、賞金首のミスティ」
  「久し振りだねぇ」

  バッ。
  私達は瞬時に構えて銃火器を声の主に向けた。
  グリン・フィスはいつでも切り込める位置で身構えている。数メートルの距離があるものの俊足の彼にとっては充分に間合だ。
  現れたのは2人。
  1人は黒いコンバットアーマー。タロン社の金髪男。……どっかで見た顔だなぁ。
  1人は赤毛の女。服装からしておそらくはレイダーだろう。うーん。こいつも見た顔だなぁ。
  素直に行こう。
  「あんたら誰?」
  「タロン社のカール中尉だっ! 依頼、再びを参照しろっ!」
  「虐殺将軍と呼ばれたレイダーのエリニース様よっ! 激闘スーパーウルトラマーケットを参照にするがいいわっ!」
  「うーん。ごめん知らん」
  『……』
  2人は押し黙る。
  この瞬間も仲間達は銃の照準を2人に合わしたままだ。しかし発砲はしない。相手が銃を抜いてすらいないからだ。
  敵?
  敵よ。それは確か。
  だけど相手の出方が興味深い。だからこそ誰も発砲しない。
  まあ妙な動きをしたら射殺するけどさ。
  さて。
  「それで? ここで何してるわけ?」
  「お前を待ってたのさ。10000キャップの賞金首さんよ」
  「10000? 1000じゃなくて?」
  「タロン社の傭兵を蹴散らした、奴隷商人のボスの1人息子を殺した。だから賞金が跳ね上がったんだよ。おめでとう」
  「三億ベリーの賞金首目指して頑張るわ」
  「三億ベリー?」
  「気にしないで」
  「ま、まあいい。……ともかく俺達はあんたらを待ってた」
  「どうしてここに来ると?」
  「金次第で情報は手に入るのさ。買収されれば喋る奴はいる。タロン社はあんたらの行き先の先回りをして待っていたってわけだ。……おおっと早合点して
  銃を撃つなよ。俺とエリニースはここであんたらに死なれては困るんだ。少なくともここではな」
  「その理由は?」
  「私情だ」
  「ふぅん」
  「俺達にとってライリー・レンジャーはどうでもいい。連中はまだ屋上でスーパーミュータントとドンパチしてる。しぶとい連中さ。タロン社の布陣だが三階まで制圧
  してある。そっから上は崩壊していて階段では無理だ。隣のビルから飛び移らない限りな。つまりこの建物はタロン社が制圧した」
  「私達を騙まし討ちする為に?」
  「そんなところだ。……ただタロン社の部隊はエレベーターが壊れていると誰もが思っている。実際に壊れていたんだが俺とエリニースで修理した。エレベーター
  で直接屋上に行き、レンジャーを連れて逃げろ。少なくともここで死なれては困るんだ」
  「何故?」
  「俺の出世の為さ。あんたが死ぬのは、俺の計画でそうと決めた時だ」
  「ふぅん」
  チャッ。
  アサルトライフルの照準を私は奴の頭に合わせる。
  「ここであんたを殺せば余計な面倒は消えると思わない?」
  「思わんな」
  「何故?」
  「発砲すれば、タロン社とここで敵対する事になる。……レンジャーはそろそろミュータントの猛襲に耐えられないかもしれないぜ?」
  「罠じゃない証拠は?」
  「どこにもないさ。あんたの信じる心次第ってわけだ」
  「ふぅん」
  どうする?
  殺すのは容易い。罠の可能性が高い。
  だけどそうじゃないかもしれない。
  いずれは敵対するのは確実だけど今は互いに利害が一致しているのかもしれない。その利害がよく分からないけど、わざわざ罠に嵌める必要があるだろうか?
  私達はタロン社がここにいる事すらそもそも知らなかった。
  もちろんわざわざ知らせて油断させて……という可能性もあるけど、憶測を展開させてばかりいては身動きが取れなくなる。
  ならば。
  「ここは中尉の案をありがたく頂いておくわ」
  「実に結構。……しかし味方じゃないぜ? 俺達はな。いずれは……」
  「言われるまでもない。私もあんたの眉間に鉛玉撃ち込みたくてウズウズしてる。再会期待するわ」
  「くくく」




  エレベーターの扉が開く。
  直通で私達は屋上まで移動した。しきりにクリスは不満を口にしていたけど殺すのは得策ではないと思った。グリン・フィスなら音もなく始末出来ただろう
  けど幸先が悪いと私は判断した。協力を申し出られた場合はそれに相応しい振る舞いが必要だ。
  ……。
  ……まあ、始末してもよかったんだけどさ。
  ただあいつは、カール中尉は野心の権化だと私は思った。
  仲間すらも容赦なく殺すタイプだ。
  出世の為にね。
  推測だけど多分あいつは仲間をここで全て殺す気だ。
  実に結構。
  仲良く仲間同士で殺し合えばいい。
  余計な手間が省ける。
  エレベーターの扉が開いたと同時に私達は屋上で銃弾の交換をしていたスーパーミュータントの部隊の背後を強襲。
  一気に殲滅した。
  レンジャー達はまだ生き残っていた。

  重火器専門のブリック、医者のブッチャー、技術者のドノバン。

  3名生きてる。
  撤退の時もエレベーターを使用したけどまるで妨害はなかった。ただ一階のフロアには既にカールもエリニースもいなかった。
  何を企んでいるのか?
  よくは分からないけど私達は陰謀渦巻く建物を脱出した。




  ステーツマンホテルを脱出。
  当初予測していたタロン社の騙まし討ちはなかった。……とりあえず今のところはね。
  カールは何を考えている?
  ……。
  ……まあいいさ。
  いずれは祟って来るんだ。
  その時に叩き潰せばいい。しかし今はその時ではない。
  私達は撤退を急いだ。
  向かう先はアンダーワールド。ライリー・レンジャーの本部ではなくアンダーワールドだ。何故ならその街にはライリーが寝込んでいる。送迎部隊として
  レンジャーの生き残りには本部に帰るのでなくアンダーワールドに向ってもらわないとね。
  だけど。
  だけど来た道は戻れない。
  何故なら……。

  「索敵レーダーにスーパーミュータントの軍勢が見える。こっちの道だと大部隊に遭遇する。迂回しよう」

  そう、レンジャーの1人が言った。
  だから別ルート。
  どこを通ろうと別にいいけどさ。
  ただ当然ながら出来るだけ戦闘は回避したい。だって別に戦闘=報奨金が出る、わけではないからね。むしろ弾代が掛かる。それにわざわざ大部隊とぶつ
  かりたいとは思わないし。レンジャーの進言通りに私達は移動した。
  DCはどこを見ても廃墟。
  瓦礫しかない。
  復興しないのはここがスーパーミュータント&BOS&タロン社の三つ巴の戦場だからだけではないだろう。この瓦礫を撤去したりする労力が今の人類にない
  のも理由の1つだ。そして纏める存在がいないのも理由。
  まあ、仕方ないか。
  政府も核で吹っ飛んだわけだし。
  「おっ」
  私達は歩く。
  行き着いた先は放置された車群の場所。壮観だ。
  一台車欲しいなぁ。
  整備等の都合も考えれば面倒かもしれないけど移動には楽だ。……ただ車にはリスクも多いけどさ。
  その時。
  「しまったこのルートじゃなかったっ!」
  「はっ?」
  ザッ。ザッ。ザッ。
  雑踏が近付いてくる。
  無数に。
  無数に。
  無数に。
  車群の脇を通りながら横一列に向ってくる一団がいた。スーパーミュータントの軍勢だ。
  軽く50はいる。
  ……。
  ……面倒だなぁ。
  こちらの戦力は死に損ない……じゃない、傷付いたレンジャーの一団、私、グリン・フィス、クリス、クリスがアンダーワールドで雇ったカロン。
  うーん。
  この人数であまり大戦闘はしたくない。
  負けるから?
  いいえ。
  疲れるから。
  少数精鋭って言葉は格好良いけど、実際に戦闘をこなすとなると疲れるし面倒で仕方ない。
  ならば。
  「これでも食らえーっ!」
  私はピンを引き抜いてスーパーミュータントの軍勢に投げた。
  グレネード。
  そして……。


  ドカアアアアアアアアアアアアアンっ!

  無数に放置されていた廃車が連鎖爆発。
  轟音。
  高熱。
  爆風。
  その全てをとっても尋常ではない。
  そりゃそうだ。
  目の前に具現化したのは核爆発。  
  きっかけはたった1個のグレネード。しかし1台の車がそれで破壊され爆発した影響で隣の車も爆発、さらに隣、隣、隣へと爆発は連鎖していく。
  旧時代の人間が一体何を考えて物騒な核エンジン搭載の車を製造したかは分からないけど、今この世界に放置されている車は全て予備核爆弾と言っても
  過言ではない。
  だから。
  だから当時は交通事故は大惨事になったでしょうねー。
  ハイウェイで渋滞中に誰かが事故っただけでそこは消し飛ぶわけだから。
  ……。
  ……なんて物騒な世界なんだ。
  何となく世界が呆気なく滅んだ理由が分かる気がする。
  核搭載の車作れる技術あるならソーラーエネルギーで走る車作れよ。たまに旧文明の連中の考える事が分からん時がある。
  やれやれだぜ。
  「完勝ね」
  まあ、旧文明の連中の事は置いといてー。
  横一列に行軍していたスーパーミュータントの軍勢は一瞬で殲滅された。
  核ですよ。
  核。
  放射能に対する耐性があるスーパーミュータントでも爆発は防ぎようがないし耐えようがない。吹っ飛んだ。完璧に。
  まともに戦ってたら?
  まあ、勝てたかもしれないけど時間が掛かったのは確かだ。
  DCはスーパーミュータントの巣窟らしいしあまり悠長に同じ場所で戦闘するのは得策ではない。
  「主、見事です」
  「ありがと」
  「……見事じゃないだろ物騒な……」
  ブツブツとミニガン持った女がウダウダ呟いている。
  無視した。
  意味は分かるからだ。
  だけど戦闘に勝つにはあらゆる物を利用する必要がある。
  相手の数が多いのなら尚更だ。
  「ドノバン」
  「何だ?」
  「ここは通れなくなったから別のルートで行く必要があるけど……」
  「少し戻って迂回する」
  「分かった」
  私は頷く。
  とりあえずこの場にいたスーパーミュータントの大舞台は一瞬で灰燼と化した。しかし音が凄かったし盛大な狼煙が上がってしまった。別の舞台が集まって
  くる可能性は極めて高い。
  何をするにしてもこの場にいるのはまずいだろう。
  移動を開始するべく私達は回れ右をした。
  回れ右。
  『……』
  その途端、私達は沈黙。
  沈黙?
  沈黙です。
  クリスが唖然とした口調で呟く。
  「……一兵卒、少しまずくないか?」
  「……素直にまずいと思います」
  「……後でベッドの上で軍法会議だ。きっと極刑は免れないぞ。ネチネチとイジメて寝かしてあげないんだからね」
  「……それは困るけど、私が悪いですねー」

  「
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!

  私達の眼前に立つ、50メートル先に立つ『そいつ』は叫んだ。
  耳を塞がなければならないほどの声で。
  咆哮。
  怒号。
  そして私達に対する憎悪が伝わってくる。
  巨漢の化け物が、再び『そいつ』が私達の前に立ち塞がる。
  ベヒモスだ。
  この間倒したのにっ!
  何でーっ!

  「やっぱりだっ! 俺達の情報は正しかったっ!」
  「これは高く売れる情報ねっ!」
  「確かにっ!」


  ……?
  エキサイトするライリー・レンジャーの面々。
  何故に?
  「何を盛り上がってるの?」
  ドノバンに聞く。
  「俺達は随分前にベヒモスが5体いる事を確認していたんだ。BOSに高く売れるぜこの情報は」
  「早く売ってよそういう情報はーっ!」
  何て迷惑な連中なんだ。
  出し惜しみする情報じゃないだろうが。DCを安全に歩くにはそういう情報は早く売ってくれ。
  ともかく。
  ともかく私達の前にベヒモスが立ち塞がる。
  「こいつだけか」
  クリスは安堵にも似た溜息を洩らした。幾分が不安も混ざっているけど。
  とりあえず敵はベヒモスのみ。
  他の雑魚はいない。
  銃火器を使う兵隊がいないのはやりやすいけど……ベヒモスに肉薄されたらそんな事も言ってられない。一撃で私達は叩き潰されるだろう。
  さらに厄介なのは……。
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ逃げ道がないーっ!」
  『お前の所為だろうがーっ!』
  グリン・フィスを除くその他大勢は声をはもらせて私を非難した。
  皆嫌いだーっ!
  ……。
  ……そ、そりゃ私の所為だけどさ。
  スーパーミュータントの軍勢を一発で壊滅させる為に放置された車群を爆破した。私のお陰で敵軍は一網打尽。
  余計な戦闘は回避された。
  だけど。
  だけど今はそれが障害になっていたりする。
  逃げるに逃げれないのだ。
  だって車群まだ燃えてるし放射能発してるし。あそこを突破するのは無理。
  前門のベヒモス、後門の放射能地帯。
  どうする?
  どうするのーっ!
  「一兵卒っ!」
  「な、何?」
  「お前の所為だ。今すぐここでスッポンポンになって土下座せよっ! 1人1人に丁寧に誠意を込めて詫びるのだふはははははー」
  「なっ!」
  『いやっほぉー☆』
  盛り上がる面々。グリン・フィスは除きます。
  すいませんここは18禁の裏ページの入り口を作らなければならないそういう流れですか?
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこいつら現実逃避してやがるーっ!
  特にクリス人格崩壊してる(泣)。
  逆境に弱いようです。
  ならば。
  「ええいっ!」
  バッ。
  私は二丁拳銃を引き抜く。44マグナムだ。
  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
  全弾発射。
  『……』
  しーん。
  一同、真剣な表情になりました。
  何故?
  だって私は仲間に向って撃ったもん。もちろん外したけどさ。ともかくこれで妙なおふざけの時間はお終い。
  「クリス☆ 私に、何しろって言った? もう一度言ってみ☆」
  「調子に乗ってすいませんでしたっ!」
  よろしい。
  これで一同の集中はベヒモスに……じゃないか、私に対しての畏怖に変わった。ともかくこれで皆の神経が1つになったのは確かだ。
  静かに宣言する。
  「ベヒモスを倒すわよ」
  『了解ですっ!』

  ベヒモス戦、開始。
















  その頃。
  ステーツマンホテル。

  「地区指令っ! スーパーミュータントの軍勢がホテルに侵入しましたっ!」
  「な、何だと? ここは安全地帯では……」
  「誰かがスーパーミュータントの無線を使って呼び寄せたようですっ!」
  「カール中尉を呼べ。奴に討伐隊の指揮をさせろっ!」
  「そ、それが中尉と女レイダーは姿を消しています。……これは私見ですがスーパーミュータントを誘き寄せたのは中尉だと……」
  「カールめ、諮ったなっ!」
  「ほ、報告。二階が突破されましたっ! ここに到達しますっ!」
  そして……。



  勝敗は決した。
  タロン社の部隊はスーパーミュータントの軍勢には到底及ばなかった。半数は殺され、半数は施設に送られる事になった。
  施設。
  それはスーパーミュータントの本拠地であり人間をスーパーミュータントに改造する場所。
  人間を改造する事で彼らは数を増やしているのだ。
  「ジェネラル、ココハセイアツシマシタ」
  「よし」
  「アノ」
  「何だ?」
  「ベヒモスガボウソウシタヨウデス。スグチカクヲウロツイテイマス」
  「またか」
  「イカガシマスカ」
  「小隊でいいから編成しろ。俺が直接指揮をする。ベヒモスにお仕置きをしてやらんといかんな。……編成を急がせろ」
  「リョウカイシマシタ」



  ジェネラル、動く。
  再び赤毛の冒険者との戦いに向って展開は動きつつ……。