天使で悪魔






城塞都市クヴァッチ







  そして時代は動き出す。
  この出会いはその為の布石となるだろう。





  城塞都市クヴァッチ。
  ゴールドワイン伯爵が統治する難攻不落の城塞都市。
  堅牢な城壁。
  精強な衛兵。

  帝都と同じく闘技場がある。
  雅さにおいては帝都に劣るもののその他の全ての点では帝都と同等、もしくは勝っているとされている。

  攻守完全な都市。
  それが城塞都市クヴァッチだ。





  「到着ー☆」
  あたし達は城塞都市クヴァッチに到着した。
  あたし達、それはあたし、カジートの老魔術師のノル爺、お荷物……じゃない、傭兵のマグリールさん。
  この3名がクヴァッチに到着。
  何しに来た?
  お仕事。
  ただ戦士ギルドの仕事ではない。というかそもそもクヴァッチには戦士ギルドの支部は存在しない。自警団的な戦士ギルドは屈強で勤勉な衛兵を有
  するクヴァッチには必要ないのだ。そこ帝都と同じ理屈。
  まあ、だからといって他の都市が不真面目というわけではないけどね。
  衛兵は国家目線で。
  私達は庶民視線で。
  それぞれに市民を助けている。それだけの話だ。
  ……。
  ……補足。
  クヴァッチには魔術師ギルドの支部も存在しない。
  何かの事故で壊滅したらしい(マリオネット編の皆殺しの旋律参照)。
  詳しくは知らないけど。
  「それでどうするんじゃ? まずは宿を取るかの?」
  「うーん。そうですね」
  「アリス金をくれーっ!」
  「……」
  次第に露骨になるウザリール……じゃない、マグリールさん。
  正直いらない子状態なんだけど付き纏ってくる。
  厄介な人だなぁ。
  ノル爺も自発的にだ。どうもあたしを気に入ったらしい。ノル爺もマグリールさんも組織には属していない。
  ノル爺は元魔術師ギルド、マグリールさんは元戦士ギルド&元ブラックウッド団。
  前回の邪神ソウルイーターの一件で共闘し今に至る。
  つまり戦士ギルド関係者というよりはあたしの個人的な仲間、という感じかな。
  「まずは依頼人に会いましょう」
  そうあたしは判断した。
  観光とかもしたいけどここには仕事で来たのだ。
  仕事をこなそう。
  「依頼をまずはこなすべきだと思います」
  「そうじゃのぅ」
  「まずは金払うのが先だろ。俺には家族がいるんだよっ! 払えよ今すぐによぉーっ!」
  ……。
  ……無視です。無視。
  段々とマグリールさんは守銭奴キャラが板についてきたなー。よくブラックウッド団は彼を引き抜いたと思う。そう考えると結構ブラックウッド団って大ら
  かな組織だったのかも知れないなと思う今日この頃。
  さて。
  「依頼人に会いましょう」
  「了解じゃ」
  「金ーっ!」



  今回クヴァッチに来た理由。
  仕事だ。
  だけど戦士ギルドの仕事ではない。あたしに対しての個人的な依頼だ。依頼人はコロールに住んでいた事もある農民で、そこであたしの名声を知って
  いた。そしてあたしの力量も。というか顔見知りだ。何度も依頼人の依頼を解決した。
  だからこそ。
  だからこそわざわざレヤウィンにいたあたしをご指名して来たのだ。
  それは……。




  街を歩く。
  観光目的ではないけど街並みを見て目移りしてしまう。
  珍しいモノばかりだ。
  この街には歴史がある。由緒ある歴史がだ。
  考えてみればクヴァッチには来た事がなかった。山の上にあるからあまり足を踏み入れない、というのもある。結構な距離だし。だから基本的に今まで
  クヴァッチには立ち寄らずに素通りだった。
  来たのは初めてだ。
  ……。
  ……ああ、そうそう。レヤウィンからここに来るまでに当然スキングラードも通った。
  だけど今回は素通り。
  フィッツガルドさんに会おうかとも思ったけど今のあの人は戦士ギルドのマスター。そう易々と会うのはどうかと思った。きっとフィッツガルドさんは気にし過ぎ
  と言うんだろうけど、けじめはつけておかないとね。それに今回のあたしはクヴァッチで仕事があったし。
  さて。
  「この近辺だと思うけど」
  「地図ではもう少し北西じゃな」
  「金ーっ!」
  クヴァッチの北西。
  そこは農業の盛んな地区だ。農業地区。……いやまあ、そこに農民達を集めているだけなんだろうけどさ。
  都会的な街並みは消え、次第に簡素な街並みが広がっていく。
  そして畑。
  この街の特産はジャガイモ。
  帝都とは異なりここの街は完全に自給自足が出来ている。それもまた城塞都市としての所以だろう。持久戦の為に自給率を高めているのだ。
  もっとも。
  戦争なんてもう起こらないだろうけど。
  そりゃ他の地方では今も内紛が勃発しているけどシロディールでは、帝都のあるこの中央地方では戦乱はない。
  それは世間一般的な価値観だ。
  あたしもそう思う。
  色んな意味で帝都軍が幅を利かせているからだ。
  色んな意味でね。
  良くも悪くも。
  だけど実際はどうなんだろうな、という考えもあたしの中に生まれつつある。
  黒の派閥とかいるし。
  何かが起こるのかもしれない。
  今のこの静けさは動乱の前触れなんじゃないかと思う時もあるのは確かだ。
  「ここじゃな」
  地図を広げて歩いていたカジートの老魔術師はそう言った。
  一軒の小屋……じゃない、家だ。
  ふーん。
  この街って結構貧富の差が大きいみたい。
  もちろん家の大きさが裕福さを示すものではないだろうけど……あまりにも小さいと思う。こうやって様々な地区に区切っているのは管理し易いというのも
  あるだろうけど街の見映えという意味合いも関係しているのだろう。
  観光客は普通ここまで来ないし。
  観光的ではない地区は奥に押し込める。意地の悪い見方だとそんな感じなのかなぁ。
  ……。
  ……ってつまりあたしって意地が悪いわけっ!
  自分で自分を追い込んだー。
  凹むなぁ。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「こんにちはー」
  コンコン。
  その家の扉をノック。たくさんの畑では農夫の人達がせっせと畑を耕している。依頼人も畑を耕している?
  それはないだろう。
  奴がいるからだ。
  そう、奴が。
  その退治の為にあたしは雇われたのだ。
  ガチャ。
  扉が開く。顔を出したのはシルデスというレッドガードの中年男性。コロールで何度か会った事がある。その際も仕事を受けた。
  その仕事とは……。
  「アイリス・グラスフィルです」
  「おお。来てくれただか」
  「はい」
  「モグラの女王、今回も頼みましただよ。オラ困ってただよ」
  「お任せを」
  今回の依頼。
  それは畑を荒らすモグラ退治。
  だけど問題ない。
  何しろあたしはコロールではちょっとした有名人だ。モグラ退治のエキスパートとして名を馳せている。
  人はあたしをこう呼ぶ。
  モグラの女王と。
  その名を聞けばその筋の人達は青くなるとかならないとか。あたしのその名声はコロールに留まらず各都市でも有名で結構依頼があったのだ。モグラ
  退治のね。一回だけ別の地方のヴァレンウッドからも依頼があったし。
  ともかく。
  ともかくモグラ方面の力量はフィツガルドさんよりも勝ってる。
  ふっふっふっ☆
  ……。
  ……うっわ、これってもしかしてもうすぐフィッツガルドさん超えるという啓示かも?
  やばい。
  やばいよこれはー。
  フィッツガルドさんに『モグラ退治お願いできますか? その、どうでしょう? 出来れば受けて欲しいんですけど』とか敬語使われちゃったりするかもっ!
  近い、越えるのは近いよー。
  やったー☆
  ヾ(〃^∇^)ノわぁい♪

  「……どうしたんじゃろうな、アイリス殿。完全に夢の住人の瞳じゃ。ドリーマーじゃなぁ」
  「さては報酬全部着服する気だろ。この守銭奴めっ! 俺には家族がいるんだよ、報酬の98.95パーセントは俺の取り分だっ!」

  はっ!
  いかんいかん。
  輝かしい未来が見えたので我を忘れてた。
  ……。
  ……てかマグリールさんに守銭奴と言われるのが一番嫌です。しかも取り分意味不明過ぎだし。
  それにしても何でこの人ついてくるんだろ?
  それも意味不明。
  まさかあたしに寄生してる?
  やだなぁ。
  はぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
  「それではシルデスさん。畑に案内してください」
  「分かっただよ」
  先導してもらう。
  最近畑を荒らすモグラの被害で農作物が駄目らしい。あたしにお任せを☆
  何しろその筋では尊敬を浴びているわけだし、あたし。
  モグラの女王。
  その称号を慕ってある貴族は召抱えようとしたという噂があったりなかったりするくらいだもの。
  さて。
  「ここかぁ」
  「モグラがいるだよ」
  畑に到着。
  モグラというのは結構しぶとかったりする。それに日光を浴びたら死ぬ、というのはあくまで都市伝説であり日光でショック死はしない。
  結構賢いし倒しづらい相手ではある。
  だけどあたしは誰?
  モグラの女王。
  あたしの前に敵はなし(モグラ限定)っ!
  その時……。
  「はぐうおぉーっ!」
  バタリ。
  マグリールさん、白い泡を吐いて倒れた。
  はい?
  脈を診るノル爺。静かに首を横に振った。
  「脈はない」
  「何でっ!」
  「禁断症状じゃろう。守銭奴もここまで来ると哀れじゃな」
  「……」
  とりあえず蘇生処置。
  息吹き返すマグリールさん。……すいませんキャラ性そのものが既にうざい領域なんですけど。
  嫌だなぁ。
  さて。
  「よし。やろうかな」
  ウザリールさんも復活したしそろそろモグラ退治をするとしよう。
  害獣退治だ。
  モグラの女王にお任せを☆
  その時……。

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  「うひゃあっ!」
  激しく土煙を上げて、畑を突破って何かが飛び出して来た。
  それは巨大だった。
  それは巨体だった。
  それは……。

  「
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

  鎌首をもたげて威嚇する巨大な蛇っ!
  またかっ!
  またなのかーっ!
  邪神ソウルイーターとは異なり羽根はないもののサイズはそう変わらない。そいつが畑を突破り出現したっ!
  ……。
  ……あー、前回の蛇と決定的に異なるのは鱗がない事かな。
  形状こそは蛇だけど蛇っぽくない。
  土で出来てるみたい。
  体長がどれだけあるかは分からない。半身が土に埋まっているからだ。
  これを見て仲間は……。

  「ふぅ。今日は極楽行けそうじゃのぅ」
  「アリス俺には家族がいるんだっ! 退職金を即金で払ってくれーっ!」

  ノル爺は悟った感じの顔だ。人生に未練がないらしい。
  でもあたしは未練ありまくりなのーっ!
  死ねないよー。
  マグリールさんは……退職金貰って逃げそうな感じだなー。まあ、最初から当てにしてないけど(断言っ!)。
  咄嗟に背負っていた魔剣ウンブラを抜く。
  雷の魔力剣ではない。
  ウンブラの方だ。
  前回の邪神ソウルイーターの同類かどうかは知らないけど……魔剣ウンブラじゃないと対処出来なさそうな敵だと思う。実際にまだ戦ったわけじゃない
  から力量は知らないけど見映えは強そうだ。
  あたしって厄年?
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。
  依頼人をあたしは非難する。
  「ここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここれのどこがモグラなんですかーっ!」
  「はあ?」
  「モグラって言ったじゃないですかっ!」
  「モグラ……土竜だろ? 土の中の竜は全部モグラだ。オラはそう思っただよ。じゃあ、退治よろしくだよ」
  「……」
  無茶苦茶な理屈だーっ!
  そして……。














  「どこに逃げても逃がさないよ、アリス」
  フードの女はクヴァッチにいた。
  そして……。