天使で悪魔






見捨てられし鉱山のトロル





  戦士ギルドにとって大きな転機の依頼が舞い込んだ。
  大口の依頼だ。
  依頼主は鉱山ギルド。
  シロディールに点在する全ての鉱山の管理&運営をしている組織。潤沢なる資金を持つ鉱山ギルドの創始者は現役の元老院議員。
  各地方との融和を掲げる穏健派の首魁。
  大物だ。

  元来その元老院議員は戦士ギルドに好意を抱いていたらしい。
  急成長を遂げ売り出し中のブラックウッド団にではなく、衰退の一途を辿る戦士ギルドに依頼した。
  今までの丁寧な任務達成が功を喫したのだ。
  もちろんフィッツガルドさんの仲介で魔術師ギルドと提携出来たのも大きいだろう。
  神経質なまでに口うるさい(世間の評判です。あたしじゃないです)魔術師ギルドが戦士ギルドと提携に踏み切ったのも信頼性を示す事に
  なったのだ。あの魔術師ギルドが信頼した、それが戦士ギルドの株を上げる事になった。
  そして……。






  「全員整列。隊長のヴィラヌス・ドントンに敬礼」
  「皆、俺に命を預けてくれ」
  『はいっ!』

  レヤウィン南にある《見捨てられし鉱山》にあたし達戦士ギルドの精鋭(あたしも含む☆)は集結した。
  隊長ヴィラヌス。
  副長はあたし。
  あたし達の指揮下に入る戦士ギルドのメンバー20名。
  本部&各支部から選りすぐりのメンバーが今回選抜されている。
  ある者は剣術。
  ある者は魔術。
  ある者は……という感じでエキスパートのみが編成されている部隊。まさに精鋭。ヴィラヌスが総指揮を執り、あたしがその補佐。今回そのよう
  に任命してくれたのは叔父さんの後押しもあったものの、より純粋にギルドマスターの勅命だ。
  つまりヴィレナおば様。
  今まで任務に出る事すら禁じられていたヴィラヌスは嬉しそうだ。
  そりゃそうだよね。
  おば様に認められたって事だもん。
  ヴィラヌスは信用の置ける立派な戦士であると内外に示したのと同義。ヴィラヌスが嬉しいのは当然の事だ。
  あたしも嬉しい。
  副長になったのもそうだけど、幼馴染のヴィラヌスが認められて本当に嬉しい。
  もちろん喜んでばかりもいられない。
  信頼に添えるように努力しないと。
  「これより見捨てられし鉱山に突入します。各自命令を護って行動するように。……さあ、ヴィラヌス」
  「突入するっ!」
  『はいっ!』
  全員が全員、気勢を上げると同時に行動を開始する。
  今回が初顔合わせではない。
  コロールで演習をした。
  指揮系統もちゃんと確立されているしお互いに面識があるので意思の疎通もし易い。意思の疎通の有無が生死の境界線になる。容易にね。
  そういう意味ではあたし達は集団として成り立っている。
  戦士ギルドの精鋭。
  死角はない。
  「アリス、お先にね」
  「……」
  「つれないんだからアリスぅー♪」
  「……」
  集団の先頭に立って先行するのは、元盗賊で現役同性愛の使い手(?)であるフォースティナさん。
  アンヴィルから送り込まれてきた精鋭エージェントだ。
  元々は盗賊なんだけどアンヴィルの治安回復の為にアンヴィル支部長アーザンさんに拾われ、アンヴィルで活動していた盗賊団をいくつも摘発
  した凄腕でありその輝かしい成果により今回の任務に従事する事になった。
  専門は盗賊の技術。
  宝箱開けたりする技能は戦闘に役には立たない?
  彼女に求められる能力はそこではない。
  隠密性だ。
  熟練の盗賊は隠密に長けている。フォースティナが率いたは……まあ、どっちかというと強盗団ではあるものの、フォースティナ自身には盗賊とし
  てのスキルがある。その技能を生かせば斥候として充分に役立つのだ。
  今回の同行はそういう意味合いが強い。
  戦闘要員ではなくバックアップ。
  ……。
  ……そのはずなんだけど……。
  「貴女の叔父さんってなかなか姪想いよねアリス。夜のレッスンの為に私を出張らせるなんてさ♪」
  「……」
  「背徳と快楽の世界にようこそ。ふふふ♪」
  「……」
  うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
  せっかく副長で聞こえの良いポジションなのになんでフォースティナがいるのーっ!
  悪夢だー。
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。
  ヴィラヌスはヴィラヌスで……。
  「……お前、そんな趣味があったのか。なんか、寂しいな、お前が遠くに行ったようでさ」
  「……」
  「……俺は女に負けたのかー……」
  「……」
  意味不明な言動ですけど痛々しい目で見ないでください。
  フォースティナを見逃した代償が今のこの状態なわけか。確かに祟ってます。慈悲は仇となって返されてます。
  はぅぅぅぅぅぅぅっ。


  見捨てられし鉱山。
  その名の通り今までずっと見捨てられていたらしい。何故かは不明。
  昔忌まわしい事件(グレイランド 〜安らぎへの道〜参照。見捨てられし鉱山はマラカティ達が鉱山ギルドに権利を売却した鉱山)があったとか
  なかったとか。結局真相は分からないけどその関係で鉱山はずっと打ち捨てられていたらしい。
  それが近年改善された。
  資本を投じて鉱山の補修をして採掘の足掛かりを作った。
  さあ軌道に乗った……というところで深緑旅団の残党のトロルが襲撃、結局は鉱山に巣食う形となった。
  今回の任務はトロルの排除。
  一匹残らずね。
  話では十数ではなく数十の数らしい。かなりの数がいると見た方がいい。
  そもそもその前提での今回の大規模動員。
  心して掛からないとね。
  『……』
  あたし達は沈黙を守ったまま鉱山の奥へと進む。
  鉱山に入ってまだ数分。
  本隊を離れ1人先行しているフォースティナさんからの反応はまだ何もない。斥候とは相手の動静を見極める役目。
  隠密製が高くないと務まらない。
  フォースティナさんが反応しない=まだトロルの領域からは遠い、と判断。鉱山内部の闇が邪魔して先行しているフォースティナさんの姿は見
  えない。心細くないのだろうかと思う一方で、少しは優しくしてあげた方がいいのかなとか考えたりしちゃってるあたし。
  優しくしたら付け上がる?
  ……。
  ……それはそれで困るなー。
  ともかく。
  『……』
  あたし達は無言のままゆっくりと進む。
  斥候など使わずにそのまま力押しすればいい?
  確かに。
  確かにここにいるのは精鋭。
  まともに野外……じゃなくてもいいか。広い場所での戦闘ならトロルがどれほどいようと(戦力十倍差とかは困るけど)さほど脅威ではないだ
  ろう。しかしここは鉱山の中。大立ち回りするには狭過ぎる。狭いという環境はトロルも同じだけど、突進力では向こうが上。
  命惜しまぬ戦士。
  命惜しまぬトロル。
  やはり意味合いが異なる。向こうはあたし達を食らうべく突撃してくる。
  あたし達が勇気ならトロルは蛮勇。
  雪崩れ込んでくるトロルの群れ相手にするには連携と戦略が要る。
  その為の斥候でありその為の用心深い行動。

  命のやり取りは遊びではない。
  用心深く構えるのは必要不可欠だ。
  『……』
  進む。
  進む。
  進む。
  主に前衛には戦士、後衛には魔法戦士(魔法を専門的に使える戦士)を配している。トロルの群れと遭遇したらまず純戦士が迎え撃ち、後衛の
  魔法戦士が魔法で撃退する戦法だ。後衛には他に弓矢を装備した戦士もいる。
  とにもかくにもまず前衛が敵を阻む。
  その流れだ。
  あたし達?
  仕官であるあたしとヴィラヌスは真ん中。
  この位置なら把握し易い。
  「ヴィラヌス」
  「何だ?」
  呟きつつも五感を研ぎ澄ます。
  今回はただトロルを倒すだけじゃない。部隊を指揮するのも大事な役目だ。疎かには出来ない。
  私語はするべきではないけど、傍らを歩くヴィラヌスに声を掛ける。
  その声はあたし同様に震えていた。
  ……。
  ……よかった。
  緊張して入間はあたしだけかと思った。
  ヴィラヌスが任務禁止になっている間あたしは白馬騎士になったり色々と経験を積んできた。それでも震える。部隊を指揮するのってそのまま
  そこにいる全ての人達の命を預かるって事だ。どんなに経験を積んでも震えのが普通なのだろう。
  もちろん必要以上に怖がる事なんかない。
  そう。
  的確に振舞わなきゃね。
  「頑張ろうね、ヴィラヌス」
  「おう」
  頷き合う。
  お互いに指揮官としては初陣だ。頑張らなきゃ。
  抜擢してくれたおば様や叔父さんの為にもね。そしてそれ以上に信じて従ってくれている仲間の為にも、
  頑張ろう。
  「全体速度を緩めずに警戒態勢のまま移動。……隊長、よろしいですか?」
  「アリスの言葉通りだ。進むぞ」
  『はいっ!』
  指揮系統は確立されている。
  一番あたし達が若いけど他のメンバー達は不平を言うでもなく従う。
  そういう意味でもプロだ。
  『……』
  トロル達とはまだ遭遇していない。
  鉱山運営の為の私兵を有する鉱山ギルドがわざわざ戦士ギルドに依頼してきた以上、手に負えない数のトロルがいるのだろう。トロルは確か
  にモンスターの中でも中位に位置する、それなりに厄介なモンスターではあるものの特に怖いとは思わない。
  思い上がり?
  いや。そうじゃない。
  あたしは深緑旅団戦争の際に真っ只中にいた。首領ロキサーヌに操られた、統率されたトロル軍団を間近で見た。経験した。
  だから野生のトロルは怖くない。
  指揮系統がないのであればそれほど怖くない、そう思う。
  もちろんそれはあたしが特異の経験をしたからであって皆はそうではないだろうけど。
  『……』
  進む。
  進む。
  進む。
  松明の光が闇を削る。
  30分は進んでいるはずなのにトロルとは一匹も遭遇していない。よっぽど奥にいるのだろうか?
  小休止を提案しようとした時、足音を忍ばせて前方から来る1つの影。
  フォースティナだ。
  「報告。この先に開けた空間がある。そこにトロル達がいる。数は30」
  「ご苦労」
  鷹揚に答えるヴィラヌス。
  それにしてもフォースティナ、元盗賊ではあるもののアンヴィル支部で売り出し中のエージェントとして活躍していた彼女の物腰は柔らかい。
  ちょっと意外。
  ……。
  ……ま、まあ、あたしに対する物言いは柔らかいのではなく艶っぽいんだけどね。
  今あたしに向けている視線は犯罪者の視線です。
  暗がりに連れ込まれないようにしなきゃ。
  ガクガクブルブル。
  ともかく。
  「ヴィラヌス」
  「全員戦闘準備っ!」
  戦闘。



  攻撃開始っ!
  こちらの存在に気付いていなかったトロルの群れに対して魔法&矢で先制攻撃。奇襲を実行した。
  鉱山内の広い空間。
  ……いや。
  ここは既に鉱山ではない。天然の洞穴だ。どうやら鉱山と洞穴が繋がっていたらしい。大分広い。トロルがそこに30ほど屯っている。洞窟はどれ
  ほど広いのかは知らないけどまだ奥がある。まだ奥にいる?
  ……。
  ……トロルのおかわりは要りませんから。
  ともかくここは広い。
  大規模な戦闘が出来る。大立ち回りに最適ってわけ。
  ヴィラヌスの指示の元、攻撃開始っ!
  魔法戦士&戦士の弓攻撃。
  遠距離攻撃だ。
  「煉獄っ!」
  あたしも魔法で攻撃。
  トロルの群れの勢いを一気に封じる事になった。
  実際にはこの先制攻撃で三分の一も倒れず、仕留められたのはわずか数匹ではあったもののトロルの群れは完全に浮き足立ち、動揺し
  ていた。知能はゴブリンにも劣るものの《動揺》という概念はあるようだ。
  「突撃ーっ!」
  ヴィラヌスの声。
  一斉にあたし達は斬り込んだ。
  浮き足立つトロルの群れはまだ完全に立ち直っていない。当然立ち直るのを待つ義理もない。
  容赦なく刃振るう。
  「はあっ!」
  刃を一閃。
  フィッツガルドさんから貰った雷の魔力剣がトロルをあっさりと両断する。
  一匹目を屠ると同時に別の奴が突っ込んでくる。
  「やっ!」
  腰を低く沈め、そのまま刃を繰り出す。
  深緑旅団戦争の際とは既に状況が異なる。あたしはそれなりに強くなってるし武器も格段に強力になっている。それに対して深緑旅団残党の
  トロル達は既にロキサーヌの影響から離れている。つまりただの野生のトロル。軍隊化されていないトロルなんて怖くもない。
  「たあっ!」
  脳天に剣を叩き込み、三匹目のトロル撃破。
  さらに。
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァンっ!
  炎の魔法で四匹目撃破。
  フィッツガルドさんの煉獄の五分の一の威力であり効果範囲は単体限定ではあるものの、炎に弱いトロルには充分通用する。
  これも以前の時とは異なる点よね。
  今のあたしには魔法がある。
  「煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄っ!」
  三連発。
  これで既に合計七匹撃破。
  フォースティナさんの報告ではここにいるトロル達は30。しかし奥から来た連中がかなりいる。敵はまだまだ増えそうだ。
  深緑旅団とはトロルを軍隊としてヴァレンウッドを荒らし回っていた組織。
  トロルを従えるロキーサヌを始めとするボズマー達はレヤウィンで全員戦死したものの、兵力にされていたトロルの生き残りは各地に散って
  暴れている。正確な数は分からない。だけど見捨てられし鉱山に巣食ってるのが一番数が大いに違いない。
  まあいい。
  多ければその分倒せばいいだけっ!
  健闘しているのはあたしだけではない。魔法戦士達が大健闘している。
  魔法戦士は魔法が使える戦士。
  じゃああたしも?
  ……いいえ。あたしは含まれない。
  魔法戦士とは戦士としての腕を持ちながら魔術に対しての知識が深い者達。あたしはあくまでフィッツガルドさんに魔法を《教えてもらった》だけ
  で厳密には魔法の知識は皆無。魔法戦士は魔法を《理解》している面々なのだ。
  カテゴリーが異なるのは分かるでしょう?
  魔法戦士、それは戦士ギルドの虎の子ともいえるメンツ。
  さて。
  「たああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  喚声を上げて刃を振るう人物がいる。
  ヴィラヌスだ。
  豪快な太刀筋で次々とトロルを沈めていく。
  実際一番の撃墜王はヴィラヌスだったりする。豪快な剣法を見て戦士ギルドのメンバー達は感嘆の念を顔に浮かべた。
  多分中には《親の七光》だと思っていた人もいるだろう。ギルドマスターの息子だから隊長になれたのだと。それが今、全て払拭された。
  ヴィラヌスは強い。
  マグリールさんの告げ口であたしはしばらくアンヴィルに飛ばされてたけど……その間にヴィラヌスは格段に強くなってる。
  あたし負けた?
  ……いいえ。
  「やあっ!」
  むしろ燃えるっ!
  あたしは刃を構えてトロルの群れに突っ込む。
  そして……。





  パチパチパチ。
  焚き火の中で木材が燃える音がする。
  屋外?
  屋内。
  正確には洞穴内。
  見捨てられし鉱山の地下に広がっていた天然の洞穴内だ。
  あの後。
  あの後トロルの群れを一掃した。少なくともこの場にいたのはね。何匹か倒し損なった奴が奥に逃げ込んだ。逃げた連中が最後なのかそれとも
  まだ奥にいるのか。そこのところははっきりとしないものの戦士ギルドの任務は全てのトロルの排除。
  追撃する必要がある。
  だけど激しい戦闘をこなした後だ。
  今は洞穴内にベースキャンプを設営して休憩中。
  一掃は明日。
  今日はここにキャンプを張って1日終了お仕事終了。隊長であるヴィラヌスの提案であり指示だ。あたしは副長として支持した。死者は誰も出な
  かったものの皆消耗している。万全を期す為に休息は必要だと思った。
  もちろん対策はしてある。
  ベースキャンプの四方にも焚き火を焚き、トロルを牽制すると同時に洞穴内を明るくしている。
  ……まあ、薄明るい程度だけどさ。
  それに見張りも立ててる。
  トロルが近付けば簡単に分かる。
  簡単にね。
  「……」
  あたしは焚き火の側で本を読んでいる。
  トロルとの激戦で疲れているものの横になるよりも趣味に没頭する方が気分転換になると思った。だから本を読んでる。あたしの趣味は読書。
  冒険小説大好き☆
  魔術王ウマリルを倒した勇者ベリナル(……実際にはペリナルらしいですけど今更後には引けないのだー)は好きだし勇者ギャリダンも大好き。
  だけど。
  だけどーっ!
  グランドチャンピオンの自叙伝はもっと大好き☆
  あたしの家宝です☆
  グランドチャンピオン。それは無敵を誇っていた前グランドチャンピオンであるグレイ・プリンスを激戦の末に倒したレディラックの事だ。
  レディラック=フィッツガルド・エメラルダ。
  そう。
  今読んでいる本はあたしの尊敬するフィッツガルドさんの自叙伝なのだ。
  作者はラミナスって人みたいだけどさ。
  あたしは夢中で読み勧める。
  何度も読んだ。
  何十回も。
  それでも何度読んでも面白い。今、読み勧めている部分はあたしが一番好きな場面だ。
  死霊術師との戦いの場面。

  『ラミナスっ!』
  『先に行けフィッツガルドっ! ここは私に任せろっ!』
  『だけどっ!』
  『行け』
  『だけどこの数を相手に1人じゃ無理よっ!』
  『行け』
  『ラミナスっ!』
  『未来を頼むーっ!』

  「……はぅ」
  格好良いよー☆
  このラミナスって人も格好良い。死霊術師の集団に1人突っ込んでフィッツガルドさんの為の時間稼ぎするんだもん。
  戦士ギルドで満足してるけど、魔術師ギルドも良いなー。
  「アリス」
  「……」
  「アリス」
  「あっ、何? ヴィラヌス?」
  「隣、いいか」
  「いいよ」
  どうしてわざわざ断るんだろ。
  幼馴染なんだから遠慮なんていらないのに。
  あたしの横に座る。
  「……」
  「……?」
  沈黙。
  話があるから隣に座ったんじゃないの?
  んー、緊張してるのかな?
  そうだよね。
  隊長だもんね。
  階級が上だと嬉しいし励みになるけど、責任は当然付き纏う事になる。総指揮は当然精神的にも疲れるだろう。
  「大丈夫?」
  「……」
  「ヴィラヌス?」
  「……なぁアリス」
  「何?」
  「この任務終わったら俺と付き合ってくれないか?」
  「……? 今話に付き合ってるけど?」
  「そうじゃねぇーっ!」
  吼える。
  何故に?
  男の子って分からない。
  「ちっ」
  ヴィラヌス舌打ち。
  何故に?
  「もういい。この話はお終いだちくしょうめっ!」
  「はっ?」
  「それにこういう切り出し方は……『〜が終わったら』云々を口にすると死亡フラグ立つしな。なかった事にしてくれ」
  「……? 分かった」
  意味不明。
  とりあえず頷いておく。
  「アリス」
  「何?」
  「お前も今の内に寝とけよ。明日はまた激戦だぜ?」
  「そうだね」


  明日は激戦。
  明日は……。