天使で悪魔
新生フラガリア
冒険者としての人生。
それは常に危険が付き纏う職業。生と死の狭間もまた、付き纏う。
だが冒険者は思う。
冒険には代価に見合うロマンがあると。
異世界カザルトでの冒険を終えたあたし達フラガリアはシロディールに舞い戻った。
あれから。
あれからあたし達は冒険者として生きている。
闇の一党ダークブラザーフッドのクヴァッチ聖域の暗殺者のあたしが今では冒険者。過去が赦されているわけじゃないけど生き直そうとしてる。
人生は不思議が一杯。
この先、何が待っているのだろう?
帝都。
タムリエル中央部であるシロディール地方、そして帝都はその中心に位置する。
まさに世界の中心だ。
活気。
物資。
人口。
全てが世界一であり、全ての民族が集う最大の都市。
先帝ユリエル・セプティムの突然の崩御、三皇子が暗殺されたりと色々とあ帝都には影を落としているものの、それでも華やかだ。
暫定的ではあるものの元老院の全面的な統治は一応は功を喫しているようだ。
一応はね。
色々と裏では問題があり表面化してないだけな気がするけど。
……。
……だけど誰が皇帝と皇太子達を暗殺したんだろ?
あたしの古巣の闇の一党でも話題になってたなぁ。つまり闇の一党は関与していない。
暗殺犯か。
少し気になるなぁ。
「マスター」
「えっ? 何?」
「追加が来たようですぞ」
「あっ」
追加でオーダーしたステーキ(500g)が部屋に運び込まれる。……あと、ビーフシチューとシーフードサラダと山菜盛り☆
店員さんは一礼して部屋を出た。
「さあ、食べるぞー」
ここは帝都波止場地区にある酒場兼宿屋。
店の名前はブローテッド・フロート。
巨大な船をオーナーのオルミルさんが購入して改築した船上ホテルだ。
今のところあたし達の冒険拠点。
投宿して一週間になる。
借りている部屋にはあたしの仲間がいる。4人。あたし込みで5人だからさすがに手狭に感じるけど二部屋借りる余裕はない。
資金的には大丈夫。
だけど節約中だからどうしても二部屋は借りれない。
節約する理由。
それは家を購入する為だ。
カザルト行く前までは、フィーさんに拾われてスキングラードにあるローズソーン邸に住んでいた。だけどカザルトから帰還した際には仲間が4人も増えた。
ローズソーン邸にはシェイディンハル聖域の暗殺者の人達も住んでいるので、新規の4名はさすがに住めない。
新しい仲間を連れてフィーさんに再会した際の事を思い出す。
「おお。マスターのマスターですな。我輩はチャッピー、よろしくお願いしますぞ」
「我はケイティー。見ての通りドレモラ・ケイテフ。無骨な武人ではありますが主の為に尽くす所存。もちろん主の恩人である貴女様のお役にも立ちましょうぞ」
「俺様はパーパス。イケメンの黒犬だ。夜はいつだって空いてるぜー?」
「私はシスティナ。姫様の従者。以後よろしく」
「ふふふ」
思い出し笑い。
あの時フィーさんは大分驚いてたなぁ。
それもそのはず。
基本的にあたしの仲間は全て人外だからだ。
……。
……まあ、ドラゴニアンは正確にはタムリエルの住人だけどね。ただ伝説級の存在で滅多にお目に掛かれない稀少な存在。
フィーさんも見た事がなかったようだ。
あとの仲間は、魔王メルエーンズ・デイゴン配下のドレモラ・ケイテフ、魔王クラヴィカス・ヴァイル従者のパーパス、上位マリオネットのシスティナ。
あたし自身も人形姫だし。
改めて考えると濃いパーティーだなぁ。
ともかく。
ともかくあたし達が節約しているのはそういう理由だ。
一緒に暮らす為に家を買おう。
それも豪邸。
出来たらスキングラードで買いたいな。
あたしにとってフィーさんは恩人であると同時にお姉さんみたいな人だし。出来たら近くに住みたいな。
まあ、それはともかく……。
「いただきまぁす☆」
パクパク。
モグモグ。
追加で運ばれてきたステーキを頬張るあたし。
おいしいー☆
「……相変わらず悪食だなぁ、嬢ちゃん」
パーパスが呆れた口調で呟く。
パーパスは黒犬。
サイズは自身の意思で大小変えられる。今は小型犬サイズでベッドの上で伏せていた。これでも悪魔。そんなに強くないけど。
彼の呟きに憤る武人2人組。
チャッピーとケイティだ。
「貴様、マスターに対して今の暴言は何だっ! 悪食こそマスターのチャームポイントではないかっ! マスターを侮辱すると我輩が許さぬぞっ!」
「左様。主に意見する者は全て悪なり」
「……ケイティ殿。相変わらず気が合いますな。今宵も一献、やりますかな?」
「いいですな。チャッピー殿との酒は美味いですからな」
『はっはっはっ!』
相変わらず気が合う2人だなぁ。
まあ、チームワークが良いのは素晴しい事だけどね。
……。
……だけど悪食ってチャームポイント?
悪口な気がするなぁ。
何気にあたしの事が嫌いだったり?
はぅぅぅぅぅぅっ。
「姫様、お気になさらずに」
「ありがとう」
システィナさんがあたしを慰めてくれる。
綺麗な人。
だけど人ではない。マリオネット。それも人格を有する上位マリオネットで、マリオネットナンバーズ(全12体)のNO.4。ナンバーズは番号が若いほど強い。
つまりシスティナさんは強力な力を有している。
「ところで姫様」
「はい?」
「我々は姫様のお心を満足させる為に新たな編成を考えました」
「……?」
お心を満足させる?
どういう意味だろ。
編成?
うーん。よく分からないけど気にはなる。
「それって何です?」
「あなた達っ!」
鋭い声で仲間達を促すシスティナさん。
同時に仲間達は動く。
何なの?
「赤き巨星、ドラゴニアンのチャッピーっ!」
「蒼き魔人、ドレモラ・ケイテフのケイティー推参」
「黒き猟犬、パーパス様だっ!」
「白き魔女、マリオネットのシスティナです」
『我らフォルトナ四天王っ! フォルトナ様の刃であり盾、フォルトナ様の命によりここに登場っ!』
……。
……か、格好良いっ!
ポーズをとる仲間達を見てあたしは心が震えた。凄いーっ!
「ど、どうしたんです皆っ!」
「姫様の為に考案しました。どうです?」
「素敵ですっ!」
正義の味方もいいけど悪の組織っていいよね。悪の大幹部揃い踏みみたいな感じで格好良いっ!
あたしは首領。悪の女首領。
くっはぁー☆
「姫様の為に考案しました」
「最高ですっ!」
「我々は正義の味方ではないですけど、お約束の合体技や巨大ロボも考案しています。我々に一存してくださいますか?」
「お願いしますっ!」
「ではそのように」
冒険者もいいけど悪の組織もいいかもなぁ。
その時……。
コンコン。
扉がノックされた。
追加注文はさっきのでお終い。一応はね。食べ終わるまで次を注文する気はない。
だって冷めるもん。
つまり今のノックは店員さんではないだろう。
扉の向うにシスティナさんが声を掛けた。
「誰ですか?」
「失礼。フラガリアの皆様ですか?」
女性だ。
女性の声だ。
「そうですけど」
「依頼があるのですが」
システィナさんはどうしますかとあたしに目で問いかける。あたしは頷いた。
ガチャ。
システィナさんは扉を開くとダンマーの女性が一礼して部屋に入って来た。
依頼か。
どんな依頼なんだろ。
「あたし達がフラガリアです。どのようなご依頼ですか?」
丁寧にあたしは言う。
冒険者は冒険して財宝を得たりするけど、依頼儲けて報酬を得る事もする。ある意味で何でも屋であり世間もそのように認識している。
だから依頼の持ち込みは珍しい事ではない。
さて。
「私はラルザ・ノルヴァロ。実は夫のギレンから貴女を見かけたので、探すように言われてたんです」
「そうですか。それで依頼の内容は?」
帝都に来てから一週間、それなりに名を売っているあたし達だからご指名も別に変な事ではない。
多少は名声が出来てるらしい。
嬉しい限り。
「実は夫は少々妄想癖があるんです。でも今回のは、どうも違うみたいなんです。取り乱し方が違うんです。フラガリアの皆さん、、あなた方の助力が
なければ帝都は闇に落ちると言うんです。話半分でも、恐ろしくて」
「帝都が闇に?」
「以前も同じ台詞を別のブレトン女性(高潔なる血の一団参照)にも言いましたけど……まあ、夫の妄想ですわね、また」
「妄想の持込はちょっと……」
依頼じゃないの?
というか別のブレトンって誰だろ。
「一応、夫に会ってくださいませんか?」
「まあ、依頼になる可能性があるのであれば向いますけど」
「よかった。セリデュールという貴族が昔、神殿地区に住んでいました。今はローランドという人物が住んでいます。夫は彼の元によく出入りしてるんです。そこで
何か重大な話を貴女にすると。ぶしつけで大変申し訳ないのですが、一度足を運んでいただけませんか?」
「分かりました。フラガリアにお任せを」