天使で悪魔








仮面の暗躍者





  
  
  闇から闇に葬る者達がこの世界には存在する。
  その者達に見つかるな。





  ※今回の視点はハーツイズです。
  時間枠は『二階層 〜遺跡〜』と同時刻の展開です。





  冒険者の街フロンティア。
  珍奇な品物。
  高価な品物。
  シロディールにおいて旧文明の遺産の発掘量が多い街として有名。
  

  「ないですわねぇ」
  ペラ。
  閲覧テーブルについて本をめくるものの、探している内容は記されていなかった。
  本のタイトルは『仮面』。
  仮面を用いる組織や同志は多い。この本にはそれが記されているんですけど……記載されていない。だとすると未知の組織?
  「大学にはあったんですけど」
  アルケイン大学で読んだ本にはあの仮面の文様が記されていた。
  ただうろ覚え。
  どこの組織が用いている仮面かは覚えていない。
  大学に足を伸ばせばいい?
  ……。
  ……ま、まあ、それが出来れば一番なんですけどね。
  私は死霊術師。
  魔術師ギルド評議会の評議長でありアークメイジであるハンニバル・トレイブンが提唱した死霊術禁止令により死霊術師達はギルドと分派した。
  私はその際に分派したのではなく隠れ死霊術師であったのが発覚して追放された。
  その後、死霊術師の組織を率いるファルカーに拾われ同組織に合流。
  ただ私はより純粋に『怨霊使い』としての側面の方が強い。
  無意識の内に怨霊を具現化させてしまうわけだけど、その能力が結局死霊術師内でも嫌われて結局ファルカーに追放された。だけどそれはある意味で
  幸運でもあったとは思う。
  何故ならあの後に死霊術師による一斉蜂起『ファルカーの反乱』が勃発。
  魔術師ギルドのフィッツガルド・エメラルダとかいう女性の行動により反乱は未然に発覚、ファルカーの直轄組織も同盟組織も全て叩き潰された。
  幹部も一掃された。
  陰険なファルカーは依然逃亡中。
  高飛車な女だったレイリンは何者かに刺殺されて死亡。
  電波系のセレデインは虫の隠者化の最中にフィッツガルド・エメラルダに倒された。
  追放されなければ。
  追放されなければ私もそこに連座していただろう。
  一応は幹部待遇として死霊術師内では立てられていましたしね。
  まあ過去のカミングアウトはいいか。
  さて。
  「んー」
  冒険者の街フロンティアには帝都にあるアルケイン大学に次ぐ書物の量を誇っている。情報量は大学の次。にも拘らずここにはそれがない。
  そう考えると大学は知識の宝庫でしたわね、本当に。
  知識の最高峰。
  それがアルケイン大学の通称でしたけど、自称ではなかった模様。
  わざわざカガミ君とは別行動してあの仮面を調べようとは思ったけど……無駄足だったかしら?
  思い立ったらすぐ行動。
  それが私の信条。
  「んー」
  無駄足?
  無駄足かも。
  これでカガミ君達が第三階層に今日中に到達したら……まずいなぁ。
  まあ仕方ない。
  既に行動はしているわけだから、どうしようもない。
  ならば。
  ならば全力で調べまくりましょう。
  「仮面、仮面、仮面……ヤイルカメーン……?」



  「……というわけですの」
  「なるほど」
  結局。
  結局、図書館には何もなかった。
  わざわざ仮面に関する本の目録を調べてもらったけど……なかった。もしかしたら仮面系の本ではなく別の本なのかもしれないけどそこまでは分か
  らない。大学時代に読んだ際もバトルマージの彼氏の勤務が終わるまでの時間潰しで読んだだけだし。
  時間潰しの後?
  ……。
  ……まあ、彼はアブノーマルだった、とだけは言って置きましょうかね……って誰にカミングアウトだ?
  「どうした?」
  「い、いえ」
  ここは冒険王ベルウィック卿の屋敷。
  広大な屋敷。
  他の都市の領主とは異なり城という形態は取らずに屋敷だ。まあ木造オンリーの城はシロディールでは流行らないしね。
  冒険者の街フロンティアの建物は全て木造。
  街を造る際に森を切り開いた→その際に生じた木材を建物の建造に使用したわけですわね。それにここはレヤウィンほどではないにしても亜熱帯の気候
  だから木材の方が通気性がいい。
  さて。
  「お力添えを願えないでしょうか?」
  「ふむ」
  頼んでいる相手。
  冒険王ベルウィック卿だ。
  既に一度面識があるし迷宮の調査を請け負っている。依頼主という関係でありまったくの面識ない状態ではない。それに、それなりに緊密ではある。
  迷宮は危険。
  ベルウィック卿が周囲に公言していない情報を私達はその口から聞いた。
  そういう意味では緊密だと思う。
  それに。
  それに世界の全ての不思議を見てきたというベルウィック卿だ。色々な情報を有しているわけだから、聞きに来たのは過ちではない。
  「仮面か?」
  「仮面です」
  「ふぅむ」
  スケッチを見ながら冒険王は唸る。
  スケッチには仮面。
  私が学者殺しの2人組の仮面男が被っていた仮面を記したものだ。文様が独特だから一度見たら忘れない。
  冒険王と呼ばれるぐらいだから彼もまた記憶力が良いはずだ。
  何故?
  だって冒険は情報が命。
  情報は記憶するもの。
  結果として記憶力が良くないと務まらない……と思う。
  「確かペルソナ2の仮面党のトレードマークだったな」
  「はっ?」
  「冗談だ」
  「……」
  意外にお茶目らしい。
  剛毅な外観に似合わないですわー。
  「何度かこいつらとは会ったな」
  「本当ですか?」
  「うむ」
  「何者ですか?」
  「組織の名称までは分からんが……闇の一党ダークブラザーフッドのように暗殺も辞さない組織だ。破壊活動、脅迫、暗殺、放火……色々とやって
  いる。私も何度か襲われたしな。こいつらは過去の遺産に関して過敏に反応して行動する連中だ。学者を殺した、つまりは……」
  「アルディリアの迷宮絡み」
  「そうなるな」
  「……」
  「これは少々展開が面倒になってきたな。こちらも何らかの手を施すべきだな」
  「はい。そう思いますわ」
  「連中は連中で何らかの思惑があり確固たる思想があるのだろうが……ふぅむ、秘密志向の多い連中とは厄介だな。仮に連中が正しいにしても我々はそ
  れを理解出来ない。もちろんどんな理由があれ連中の行動は無視出来ない」
  「はい。そう思いますわ」
  ドンドンドン。
  その時、扉のドアが激しくノックされた。
  「何用か?」
  「も、申し上げますっ!」
  ガチャ。
  扉を開いて転げるように部屋に飛び込んで来たのは若い冒険者だ。ある意味では元冒険者ですわね。ベルウィック卿に私淑して、彼の私兵として仕える
  者も多い。実際この若者は守衛として門の前に立っていた。
  「どうした? まずは落ち着け」
  「報告しますっ! 図書館が、図書館が放火されましたっ!」
  放火っ!
  知識が全て灰になったって事ですのっ!
  それにさっきまで私はそこにいた。もしかしたら巻き込まれていた可能性もある。
  内心では激しく動揺する私とは異なり簿封建王は悠然としていた。
  「……動き出したか」
  そう。
  そうなのだ。
  おそらくは『仮面』の連中だ。どうして放火したのかは分からないけど……アルディリア関係ではないだろう。アルディリアは発見されて間もないし何の本
  にも載っていない未知の迷宮。放火による情報の抹消の真意は迷宮ではなく自分達に関してだろう。
  正体が露見するのを嫌っている?
  そうかもしれない。
  図書館には自分達に関する情報があるかもしれない、その理屈で放火した可能性が濃厚だ。
  もしかしたら私?
  仮面の男達と接触した私が連中の正体を嗅ぎ回ってたから?
  「被害情報を報告せよ」
  「何らかの細工が建物に施されていたらしく火の勢いは止まりませんっ!」
  「消火に専念しろ。それと冒険者達に触れを出せ。特に街の東区に集中させよ。この屋敷にいる者達も全て動員させて構わん」
  「承知しましたっ!」
  一礼して駆け去る若い私兵。
  「東区?」
  「東区は以前焼け落ちてな(マリオネット編ヴァンピールを参照)。まだ復興がままならん。いかがわしい連中はそこに潜んでいる可能性がある」
  「だけどそれは……」
  安易過ぎないか。
  私はそう思った。冒険王は豪快に笑った。
  「仮面の連中もそう思うだろう。屋敷から戦力を丸裸にしたと私を笑うだろうな。……そこが狙い目よ」
  「あっ」
  「分かったようだな。正体がばれるのを嫌って放火したのであれば私も狙うだろうよ。正体こそは知らんが何度か遭遇しているしな」
  「お嬢さんは……」
  「娘の心配はない。娘は私の部下と共に迷宮に潜っている」
  「ではここには……」
  「私とお前だけだ。さて傭兵集団『旅ガラス』のハーツイズ。私と一緒にお客を出迎えてやらんか?」
  「ええ。ご一緒しますわ」
  「実に結構っ! 楽しむとしようぞっ!」
  「ふふふ」


  冒険王、動く。






















  「冒険王、か。なかなか粗忽な部隊展開をする。容易いな、この任務」
  「あまり甘く見るな。奴は我々『狩神』を何度も退けた奴だぞ」
  「左様。油断は禁物だ」