語釈 ユ ノ ニ
(1)@扁 鵲 見 A蔡 桓 公。
ニ 一
ツコト リテ ク ハク リ リ ニ
1立 有 間、扁 鵲 曰、「君 有 疾、 在 B腠 理。
レ 二 一
ンバ セ ニ ラクハ カラント ハク シト
不 治 1將 恐 深。」桓 侯 曰、「2寡 人 無。」
レ 二 一
ヅ ハク ムヤ ヲ シテ ルヲ マ テ スト ト
扁 鵲 出。桓 公 曰「医 之 好 利、治 不 病 以 為 功。」
レ レ レ レ
ルコト タ テテ ハク
3居 十 日、扁 鵲 復 見 曰、
ハ リ ニ ンバ セ ニ カラント ヘ
「君 之 病 在 C肌 膚、不 治 將 益 深。」4桓 侯 不 應。
ニ 一 レ 二 ト 一
ヅ バ
扁 鵲 出、5桓 侯 又 不 ス。
レ
ルコト タ エテ ハク ハ リ ニ
居 十 日、扁 鵲 復 見 曰、「君 之 病、在 腸 胃、
ニ 一
ズンバ セ ニ カラント ゼ
不 治 將 益 深。」桓 侯 又 不 應。
レ 二 ト 一
ヅ バ
扁 鵲 出、桓 侯 又 不 ス。
レ
ルコト ミテ ヲ リ ル
(2)居 十 日、扁 鵲 望 桓 侯 2而 6還 走。
ニ ム ヲシテ ハ ニ ハク
桓 侯 故 3使 人 問 之。扁 鵲 曰、
ニ レ
ノ ルハ に ブ ルハ ニ
「疾 在 腠 理、D湯 熨 之 所 及 也。 在 肌 膚、
二 一 レ ニ 一
ブ ルハ ニ ブ
E鍼 石 之 所 及 也。 在 腸 胃、F火 齊 之 所 及 也。
レ 二 一 レ
ル ニ ル キ トモスル
7在 骨 髓、G司 命 之 所 H屬、無 4奈 何 也。
二 一 レ
リ ニ ヲ テ キ フ
今 在 骨 髓。臣 8是 以 無 9請 也。」
二 一 レ
ルコト ム ムルモ ヲシテ メ ヲ ニ ル ニ
居 五 日、桓 公 體 痛。使 人 索 扁 鵲 已 10逃 秦 矣。
三 二 一 レ
ニ ス
11桓 侯 遂 死。
ニ スル ヲ ム ヲ ニ
(3)故 12良 醫 之 治 病 也、攻 之 5於 腠 理。
レ ニ 一」
レ フ ヲ ニ ノ り ノ
此 皆 13爭 之 於 小 者 也。夫 事 之 禍 福 亦 有 腠 理
レ ニ
ノ ニ ハク ニ フ ニ
之 地、故 曰 「人 蚤 從 事 焉。」。
一 レ
(喩老 第二十一 五 扁鵲見蔡)
(注)@扁鵲 戦国時代の名医。A蔡 春秋時代の国名。長江中流の北にあった。B腠理 皮膚の表面。C肌膚 皮膚の内部。D湯熨 懐炉の類。E鍼石 金属針と石針。F火齊 薬湯。薬剤。G司命 人の生死をつかさどる神。H屬 扱う。
一 書き下せ。
二 口語訳
(1)
名医の扁鵲は蔡の桓公に拝謁した。立ったままでしばらくすると、扁鵲はこう言った。「わが君には肌筋に病気があります。治療致しませんと根が深くなりましょう。」と。桓公は「わしには病気はない。」と言った。
扁鵲が退出すると、桓公は「医者の物好きなこと、病気でもない者を治療して手がら顔をするのだ。」と言った。そのまま十日たって、扁鵲また拝謁するとこう言った。「わが君の病気は皮膚に達しました。治療をいたしませんと根は一層深くなるでしょう。と。桓公は返事をしなかった。扁鵲が退出すると、桓公はまた不機嫌であった。そのまま十日たって、扁鵲はまた拝謁すると、こう言った、「わが君の病気は胃腸にまでたしています。治療致しませんと根はますます深くなるでしょう。」と。桓公はまた返事をしなかった。扁鵲が退出すると、桓公はまた不機嫌だった。
(2)
また十日たつと扁鵲は桓公を遠くから見ただけで、向きを変えて逃げてしまった。桓公が人をやってたずねさせると、扁鵲はこう言った、「病気が肌理にあるうちは、お湯の湿布でなおせます。皮膚になると鍼で直せます。胃腸の場合は煎じ薬で治せます。しかい、骨髄にまで病根が達すると、生死をあやつる司命神の手のうちにあって、もはやどうすることもできません。いまや、骨髄に達しているのです。わたくしそれゆえに何も申し上げませんでした。」と。それから五日たつと、桓公の体は痛み出した。人をやって扁鵲を呼ぼうとしたが、すでに秦の国へ逃げていた。桓公はこうして死んだ。
(3)
だから、良い医者が治療する時は、病根がまだ肌理にあるうちになおすのであって、それはすべてものごとを小さいうちに処理するということである。そもそも、物事の禍福についても、やはり肌理のうちという最初の段階があるものだ。そこで、聖人は早いうちに事に当たるのである。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 扁鵲 2 桓公 3 復 4 肌理 5 腸胃 6 湯熨 7 鍼石 8 骨髄 9 奈何 10 請
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 医
2 功
3 骨髄
五 二重線部1〜5の文法問題に答えよ。
1 将
2 而
3 使
4 奈何
5 於
六 傍線部 1〜13の問いに答えよ。
1 扁鵲はその間何をしていたか。
2 意味を記せ。
3 意味を記せ。
4、5 理由は何か、分かりやすく説明せよ。
6 理由を説明せよ。
7 どういうことか説明せよ。
8 読みと意味を記せ。
9 誰に何を「請」うのか。
10 なぜ「逃」げたのか。
11 原因はどこにあったか。
12 良医の条件は何か。
13 どうすることか。
構成
(1) (2) (3) |
節 |
しばらく 十日後 十日後 十日後 五日後 |
時 |
「病有り 」 → 深くなる 「病有り 」 → 深くなる 「病有り 」 → 深くなる 見て逃げる @ 〜Cの対処法 A 温めて間に合う B 針で間に合う C 薬湯で間に合う D 治せない 秦の国へ逃げる 良医=病が小さいころに治す。 |
扁鵲 |
皮膚の表面@ ←「無い。病気で無い者を治して手がら にするのが医者だ。」 皮膚の内部A ←喜ばない 腸胃B ←喜ばない (骨髄C) ←人に聞かせる 痛み 死ぬ |
桓公 |
主題 災いは小さいうちにかたづけてしまわなければならない。
解答
一
(1)
扁鵲蔡の桓公に見ゆ。立ちて聞く有りて、扁鵲曰く、「君疾有り肌理に在り。治せずんば将に恐らくは深かrなと。」と。桓公曰く、「寡人無し。」と。扁鵲出づ。桓公曰く、「医の利を好むや、病まざるを治して矣て功と為す。」と。居ること十日、扁鵲復た見てて曰く、「君の病は肌膚に在り。治せずんば将に益益深からん。」と。桓公また応へず。扁鵲出づ。桓公又悦ばず。
(2)
居ること十日、扁鵲桓公を望みて還り走る。桓公上に人をして之を問はしむ。扁鵲曰く、「疾の肌理に在るは湯熨の及ぶ所なり。肌膚に在るは鍼石の及ぶ所なり。腸胃に在るは火斉の及ぶ所なり。骨髄に在るは司命の属る所奈何ともする無きなり。今骨髄に在り。臣是を以て請ふ無き也。」と。居ること五日、桓公体痛む。人をして扁鵲を策めしむるも已に秦に逃がる。桓公遂に死す。
(3)
故に良医の病を治するや、之を皮膚の表面に攻む。此れ皆之を小に争ふなり。
三 1 へんじゃく 2 かんこう 3 ま 4 きふ 5 ちょうい 6 とうい
7 しんせき 8 こうずい 9 いかん 10 こ
四 1 病気を治す人。 2 てがら。 3 骨の内部のやわらかな組織。
五 1 再読文字 将に〜んとす 今にも〜しようとする。 2 順接。
3 使役 使 A B AをしてBせしむ AにBさせる 4 疑問 いかん どのようか
5 対象
六 1 桓公の身体の様子を診察していた。2 私に病気はない。元気だ。
3 それから十日ほどして。
4、5 医者は金もうけが好きで、病気でもないのに治して手がらにしようと思っていると考えたから。
6 桓公の病気が重くて手の施しようが無かったから。
7 病気が骨髄に入ったら医者の力ではどうにもできず、神が生死を決めることになるから。
8 ここをもって こういうわけで 9 桓公に早く病気を治すことを。
10 このままいると治る見込みのない桓公の治療をさせられ、治せなかった責任を取らされるから。
11 病気を甘く見て、しかも医者を信用しなかったから。
12 病気が軽いうちに見つけ、之を直すこと。
14 災いがまだ初期の段階にあるうちに処置してしまうこと。