語釈
(1)
レ ハ ヘ ヲ ハ フ ヲ ヲ テ ル ノ ルヲ
夫 小 惑 @易 方、1大 惑 易 性。1何 以 知 其 然 邪。
レ レ ニ 一
リ ノ ゲテ ヲ テ シ ヲ シ ル セ
自 A虞 氏 招 仁 義、以 僥 天 下 2漠 不 奔―命 於 仁
下 二 一 中 上 レ 二 二
二 レ ザル テ ヲ フルニ ノ ヲ ニ ミニ ゼン ヲ
義。是 非 2以 仁 義 易 其 性 与。故 嘗 試 論 之。
二 下 二 一 中 上 レ
(2)
リ シ ル テ ヲ ヘ ノ ヲ
自 B三 代 以 下 者 、天 下 漠 不 3以 物 易 其 性 矣。
二 レ 三 レ 二 一
ハ チ テ ヲ ジ ニ ハ チ テ ヲ ジ ニ ハ チ
小 人 則 C以 身 殉 利 4士 則 以 身 殉 名 太 夫 則
レ レ レ レ
ヲ ジ 二
身 殉 家、
レ
ハ チ テ ヲ ズ ニ
聖 人 即 以 身 殉 天 下。
レ 二 一
ニ ノ ジカラ ニスルモ ヲ
故 5此 数 子 者、D事 業 不 同、 E名 声 異 号、
レ レ
ノ イテ ツケ ヲ テ ヲ ス ヲ
其 於 傷 性 以 身 為 殉 也。
二 レ レ 一レ
(第八駢拇編三 夫小惑易)
(注)@易方 進むべき方向を変える。A虞氏 古代の帝舜のこと。B三代 夏・殷・周の三代。C以身殉利 命がけで利益を追窮すること。D事業不同 することが違っている。E名声異号 名称が異なること。
一 書き下せ。
二 口語訳
(1)
小さな惑いは、方向を取り違える程度のものであるが、大きな惑いは自然の性を取り替えてしまうものである。舜が仁義を掲げて天下の人心を乱してからは、天下の人々は仁義に向かって狂奔しないものはなくなった。これこそ、仁義と人の自然の性を取り変えようとするものではないか。
(2)
夏・殷・周の三代以来、天下の人々は、が外物と自分の本性とを取り変えないものはない。小人は利のために身を犠牲にし、家老格の太夫は家のために身を犠牲にし、聖人は天下のために身を犠牲にしている。これらの人々は、その行為の内容は同じでなく、またそれによって得た名声の程度もそれぞれ異なっているが、しかしその本性を傷つけ、自分の身を犠牲にしていることでは」同じである。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 易 2 自 3 奔命 4 殉 5 太夫
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 性
2 仁義
3 奔命
4 小人
5 殉
6 士
7 太夫
8 聖人
五 二重線部1、2の文法問題に答えよ。
1 何 以〜邪
2 莫 不
六 傍線部 1〜5の問いに答えよ。
1 何を指すか、抜き出せ。
2 どういうことか。
3 どういうことか。
4 「士」が「名」に殉じるとはどうすることか。
5 (1)誰をさすか、抜き出せ。
(2)彼らに共通するものは何か。
構成
(1) 大惑=本性を変える。
天下の人 仁義≥本性
(2) 天下の人 外物≥本性
小人 利益≥身
士 名誉≥身
太夫 家≥身
聖人 天下≥身
故に すること・名称が異なる
本性を傷つけ、身を犠牲にする点で同じ
解答
一 (1)
夫れ小惑は方を易へ、大惑は性を易ふ。何を以て其の然るヲ知る。盧氏の仁義を招げて、以て天下を僥ししより、天下仁義に奔命せざる莫し。是れ仁義を以て其の性を易ふるに非ずや。故に嘗試みに之を論ぜん。
(2)
三代より以下は、天下物を以て其の性を易へざる莫し。小人は則ち身を以て利に殉じ、士は則ち身を以て名に殉じ、太夫は則ち身を以て家に殉じ、聖人は則ち身を以て天下に殉ず。故に此の数子は、事業同じからず、名声号を異にするも、其の性を傷り身を以て殉を為すに於いては一なり。
三 1 か 2 よ 3 ほんめい 4 じゅん 5 たゆう
四 1本性。生まれつきの性質。 2 仁と義。 3 忙しくかけまわること。 4 庶民。
5 あることのために身を捨てる。 殉教。殉職。 6 立派な人。学識。徳行のある人。
7 官位のある者。 8 知徳が優れて事理に通達した人。
五 1 疑問 何を以て〜んや どうして〜するのか。 2 二重否定 ざる莫し しないことはない。
六 1 仁義。 2 自然なる本性を、仁義を第一に考える性に易えてしまった。
3 自然なる本性を外物(義・利益・名誉・家・天下)を中心に考える性に易えてしまった。
4 知識人が名誉のために其の身を犠牲にする。
5 (1)小人・士・太夫・聖人。
(2)人間の本性をそこない身を捨てるところ。
(3)
ト ニ シ ニ フ ノ ヲ
1@臧 与 穀 二 人 相 与 牧 羊。而 倶 2亡 其 羊。
レ レ ニ 一
フニ ニ ヲカ トセント チ ミテ ヲ メリト ヲ フ ニ ヲカ トセント チ テ ベリト
問 臧 1奚 事、則 挟 A筴 読 書。問 穀 奚 事、則 以 遊。
二 一 レ レ ニ
ノ ハ ルモ ジカラ ノ イテ フニ ヲ シキ
二 人 者、3事 業 不 同、其 於 亡 羊 均 也。
レ レ レ
ハ シ ニ ニ ハ ス ニ
C伯 夷 死 名 於 首 陽 之 下、D盗 拓 死 利 於 E東 陵
ニ 一 ニ
ニ
之 上。
一
ノ ハ ハ スル ルモ ジカラ ノ イテハ ヒ ヲ ルニ ヲ シキ
二 人 者、4所 死 不 同 其 於 5残 生 傷 性 均 也。
レ レ レ 一レ
ゾ ズsモ ニシテ ナシ
2奚 必 伯 夷 之 是 而 盗 拓 是 非 乎。
(4)
ハ ク ノ ズル 二 チ フ ヲ ト
天 下 尽 殉 也。 彼 其 殉 仁 義 也、則 俗 謂 之 君 子。
二 一 ニ 一
ノ ズル ナレバ チ フ ト ノ ハ ナルニ
其 所 殉 貨 財 也、則 俗 謂 之 小 人。其 殉 一 也、
ニ 一
チ リ リ キハ ノ ヒ ヲ ナフガ ヲ
則 有 君 子 鳶、有 小 人 鳶。若 其 残 生 損 性、
二 一 ニ 一 ニ レ 一レ
チ モ ナル
則 6盗 拓 亦 伯 夷 已。
クンゾ ラン ヲ ノ ニ
又 3悪 F取 君 子 小 人 於 其 間 哉。
ニ 一
(注)@臧与穀 召し使い。男を「臧」、女を「穀」という。B筴 竹簡。すなわち書物のこと。B博塞 すごろくのたぐいで、かけごとをする。C伯夷 殷松の狐竹君の子。D盗拓 古代の大盗賊の名。E東陵 今山東省済南市の東の丘。F取君子小人於其間 君子と小人の間に差別を設ける。
一 書き下せ。
二 口語訳
(3)男と女の下働きのものが、一緒に羊の番をしていたが、二人とも羊を見失ってしまった。下働きの男に尋ねると本を抱えて読書していたといい、下働きの女に尋ねると双六をして遊んでいたと言う。二人のやっていたことは違っているものの、羊を見失ったとうことでは同じである。
伯夷は名を残すために首陽山の下で餓死したが、盗拓は利のために東陵の上で死んだ。二人が死んだ理由は違っているものの、生命を損ない本性を傷つけたことでは同じである。どうして伯夷が正しく、盗拓が悪いと決めつけることができようか。
(4)
天下の人々はこぞって外物のために自分の身を犠牲にしているといってよい。ところが仁義のために身を犠牲にすれば、世間ではこれを君子と呼び、貨財のために身を犠牲にすれば世間ではこれを小人と言う。自分の本性を犠牲にしていることでは同一であるのに、君子と小人の区別をつけるのであっだが、どうして其の間に君子と小人との区別をつける必要があろうか。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 与 2 奚 3 筴 4 博塞 4 筴 5 伯夷 6 盗拓
7 謂 8 貨剤 9 則 10 悪
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 俗
2 君子
3 貨済
五 二重線部1〜3の文法問題に答えよ。
1 奚
2 奚〜乎
3 悪〜哉
六 傍線部 1〜7の問いに答えよ。
1 次のア〜オの人間は「臧」と「穀」のどちらのタイプに分類できるか。
ア 伯夷 イ 小人 3 聖人 4 盗拓 5 君子
2 何を例えたものか、五字以内で抜き出せ。
3 どういうことか。
4 どういうことか。
5 どういうことか。
6 なぜか。
七 構成
(3) 臧 読書 ≥羊
穀 かけごと ≥羊
することが違う 羊を失う点で同じ
伯夷 名誉 ≥命
盗拓 利益 ≥命
死に方は違う 生命を損ない、本性を傷つける点で同じ
(3) 天下の人
外物 ≥身
仁義 ←君子
貨財 ←小人
呼び方が異なる 自己を犠牲にする点で同じ
君子と小人を区別できない
主題 人間の本性は自然によるものであり、外物によって損なわれてはならない。
解答
一(3)臧と穀二人相与に羊を牧し、倶に其の羊を亡く。臧に問うに奚をか事とせんと、則ち筴を挟みて書を読めりと。穀に問ふに奚をか事そせんやと、則ち 博塞して以て遊べりと。二人の者は、事業同じからず、其の羊を亡くに於いて均しき。伯夷は名に首陽之下に死し、盗拓は利に東陵の上に死す。二人の者は、死する所は同じからざるも、其の生を残ひ性を傷るに於いては均しきなり。奚ぞ必ず伯夷の是にして盗拓の非ならん。
(4)天下は尽く殉なり。彼其の仁義に殉ずるや、則ち俗是を君子と謂ふ。其の殉ずる所貨財なればなり、則ち俗之を小人と謂う。其の殉は一なるに、則ち君子有り、小人有り。其の生を残ひ性を損なふが、則ち盗拓m亦伯夷なるのみ。又悪クンバ君子小人を其の間に取らんや。
三 1 とも 2 なに 3 さく 4 はくさい 5 はくい 6 とうせき 7 い
8 かざい 9 すなわ 10 いず
四 1 一般の人。 2 学徳のある立派な人。 3 貨幣と財物。
五 1 疑問 何をか 何を〜か 2 反語 奚ぞ〜や どうして〜か(いや〜ない)
3 反語 悪くんぞ〜せ どうして〜か(いや〜ない)
六 1 ア 臧 イ 穀 ウ 臧 エ 穀 オ 臧
2 死生傷性(残生損性)。 3 していることはそれぞれ異なっているとうこと。
4 死にかたは同じではないこと。
5 自然な本性に従った安らかな生活をすごすべきであるのに、世人は外物のために生命を失い本性を傷
つける。
6 その「生を残し性を損なっ」た点では同じだから。
」