語釈
ハ ナリ ノ ナル
(1)
人 之 性 悪、1其 善 者@偽 也。
マレナガラニシテ リ ム ヲ
(2)
今、人 之 性、生 而 有 好 利 1焉。
レ
フ ニ ニ ジテ ブ マレナガラニシテ
順 2是、故 争 奪 生、而 辞 譲 亡 焉。生 而 有 疾 悪
レ 二 一
焉。
フ ニ ニ ジテ ブ
順 3是、故 残 賊 生、而 忠 臣 亡 焉。
レ
マレナガラニシテ リ リ ムコト ヲ
生 而 有 耳 目 之 欲、有 好 声 色 焉。
レ 二 一
フ ニ ニ ジテ ブ
順 4是、故 淫 乱 生、而 礼 義 A文 理 亡 焉。
レ
ラバ チ ヒ ニ ハバ ニ
(3)
然 則 従 人 之 性、順 人 之 情、
二 一 二 一
ズ デテ 二 シテ ニ セン ニ
必 5出 於 争 奪、合 於 犯 文 乱 理、而 帰 於 暴。
二 一 二 一 ニ 一
二 ズ リ
故 B必 将 有 C師 法 之 化、礼 義 之 道、
ニ 一
ル ニ デ ニ シテ ニ セン ニ
然 後、 出 於 辞 譲、合 於 文 理、而 帰 於 治。
ニ 一 二 一 二 一
ッテ レヲ ルニ ヲ ラバ チ ハ ナルコト ラカナリ
(4)
用 此 観 之、然 則 人 之 性 悪 明 2矣。
ノ ナル は
其 善 者 偽 也。 (性悪編第二十六)
(注)@偽 修養、努力など、人為によるもの。A文理 「礼儀」の形式や筋道。「文」は外面的、「理」は内面的。B必将 必ず。「将」は強意の助字。C師法之化 先生の教えによる教化。
一 書き下せ。
(1)
(2)
(3)
(4)
二 口語訳
(1)人間の本性は悪である。人の善に見えるのは人為による者だ。
(2)今、人間の本性を見るに、生まれつき利益を好むものである。利を求めることに従うから、争って奪い合うことが起こって、辞退して他人に譲ることがなくなる。(また人間の本性は)生まれつきにくむものである。これに従うから、人を損ない殺すことが起こり、真心を尽くすことが亡ぶのである。(また人間の本性は)生まれつき耳や目の欲望があり、音楽と女色を好むことである。これに従うから色を好みみだらな行いをすることが起こり、礼儀や正しい道理が亡ぶ。
(3)そういうわけで、人間の本性のままに従い、人の心の動きのままに従がったならば哉rず争って奪い合うことが起こって、礼儀を犯し乱すことになり、暴力に終わることになる。だから、必ず先生の教えによって道に同化し、礼儀の道によるようにすれば、辞退して他人に譲ることになり、正しい道理が行われ、うまくおさまるようになる。
(4)以上のことから分かるように、人間本性が悪であることは明らかである。人の善に見えるのは人為二よるものだ。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 辞譲 2 疾悪 3 残賊 4 耳目 5 淫乱
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 争奪
2 辞譲
3 疾
4 残賊
5 忠臣
6 声色
7 淫乱
五 二重線部1〜の文法問題に答えよ。
1 焉
2 矣
六 傍線部 1〜5とAの問いに答えよ。
1 指示内容を記せ。
2 指示内容を記せ。
3 指示内容を記せ。
4 指示内容を記せ。
5(1)「山」、「合」「帰」の意味は何か、それぞれ記せ。
A(1)筍子は「人之性」としてどのようなものを考えているか、三つ列挙せよ。それらは一括して何と呼べ
ばよいか。
(2)筍子は悪なる「人之性」を何でどうしたらよいと言っているか。
構成
(1)人の世=悪 人為→善 結論
(2) 説明
好利→争奪
人の性 疾悪→残賊
耳目之欲→淫乱
(3)人の性・人の情→争奪・犯乱・文理・暴力 規制が必要
教育・礼儀 →辞譲・文理・統治
(4)人の性=悪 人為→善 結論
主題 人間の本性は悪であり、善であるのは矯正によってなっているだけだ。
解答
一(1)人の性は悪なり。其の善なる者は偽なり。
(2)今、人の性、生まれながらにして利を好むこと有り。是に従ふ、故に争奪生じて辞譲を亡ぶ。うま
れながらにして疾悪有り。是に従う故に残賊生じて、忠臣亡ぶ。生まれながらにして、耳目の欲有
り。声色を好むこと有り。是に従ふ故に、淫乱生じて、礼儀文理亡ぶ。
(3)然らば則ち人の性に従ひ、人の情に順はば、必ず争奪に出で、犯文乱理に合して、暴に帰せん。故に必ず師法の化、礼儀の道有り。然る後に辞譲に出で、文理に合して、治に帰せん。
(4) 此れを用つて之を観るに、師からb則ち人の性は悪なること明らかなり。其の善なる者は偽なり。
三 1 じじょう 2 しつお 3 ざんぎゃく 4 じもく 5 いんらん
四 1 争って奪い合うこと。
2 辞退して他に譲ること。
3 にくむ。
4 損ない殺す。
5 真心を尽くして偽りのないこと。
6 音楽と女色。
7 色を好みみだらな行いをすること。
五 1 助字 断定 2 助字 断定
六 1 人。 2 利を好むこと。 3 疾悪。 4 耳目之欲。
5「山」 はじまり 「合」 ということになり 「帰」に落ち着く。
A(1)利を好む。疾悪の心。耳目の欲。
(2)教育・礼儀によって後天的に矯正する。