語釈
ハク クシテ ル ハ ダ ス クスト
(1)孟 子 曰、「無 恆 產 而 有 恆 心 者、1惟 士 爲 能。
二 一 二 一 レ
キハ チ クンバ リテ シ
若 民、則 無 恆 產、1因 無 恆 心。
レ に 一
シクモ クバ キ ル サ
2苟 無 恆 心、放 辟 邪 侈、3無 不 爲 已。
二 一 レ レ
ンデ ルニ ニ ル ニ ヒテ ス ヲ レ スル ヲ
及 陷 於 罪、然 後 2從 而 刑 之、是 3罔 民 也。
レ 二 一 レ レ
クンゾ チ ル ニ スルコトヲ モ ケン ス
44焉 有 仁 人 在 位、罔 民 而 可 爲 也。
二 一 レ レ レ
ノ ニ ハ スルニ ヲ
(2)是 故 明 君 制 民 之 產、
二 一
ズ ム ギテハ リ テ フルニ ニ シテハ リ テ フニ ヲ
必 5使 5仰 足 以 事 父 母、俯 足 以 畜 妻 子、
下 三 二 一 三 二 一
ニハ キ ニハ レ を
樂 歳 終 身 飽、凶 年 免 於 死 亡、
中 上
ル ニ リテ カシム ニ フ ニ
然 後 6驅 而 之 善。故 民 之 從 之 也 輕。
レ レ
(第一梁恵王章句上七無恒産而)
(注)@放辟邪侈 勝手気ままな振る舞いをする。2 罔 網をしかけて陥れる。B仁人 人を愛する心の深い人。C制 取り決める。 D駆 励まし進める。
一 書き下せ。
二 口語訳
孟子曰く、
常なる産が無くして心定まるに至るは、学問修養せし士に於いて可能となります。
民衆に至っては常なる産の無くして心が定まることは無く、心が定まらねば如何なる悪事を働くかもわかりません。
されば罪を犯した民を刑法によりて罰することになりますが、これは喩えるならば民を網で取るようなものです。
どうして仁人が位に在って民を網で取るような行為を行なうでしょうか。
故に明君たれば民の産を不自由なく制定し、仰ぎ見てはその父母を安んじて事えるに足らせ、俯して見ればその妻子を安んじて養うに足らせ、豊作の年には食に飽き足り、凶作の年には死することの無き様に致します。
斯様にした後に民を善へと導くが故に、民は自然とその導きに従がうのです。
然るに今の諸侯の法といえば、仰ぎ見てはその父母を安んじて事えるに足らず、俯して見ればその妻子を安んじて養うに足らず、豊作の年には苦役に苦しみ、凶作の年には飢餓するに至る有様です。
死せぬために生活に追われ、それでも尚、死に至るほどの困窮に至るを恐れる、この様なことで、どうして民が礼義を心がける暇がありましょうや。
三 次の語の読みを記せ。
1 恒産 2 恒心 3 因 4 苟 5 放辟邪侈 6 鳶 7 楽歳 8 免
四 津gの語の意味を辞書で調べよ。
1 恒産
2 恒心
3 士
4 民
5 楽歳
6 終身
7 飽
五 二重線部1〜5の問いに答えよ。
1 惟
2 苟
3 無 不
4 鳶
5 使
六 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 「因」とは何によってなのか。
2 「従」とは何に従うのか。
3 「罔民」とはどうすることか、分かりやすく説明せよ。
4 「仁人」と同じ意味の語を一字で抜き出せ。
5 修辞法は何か。
6 とは要するに人々に何を身につけさせるということなのか、文中の一字で記せ。
解答
一
(1) 孔子曰く、恆の產無くして恆の心有ること、惟士のみ能くすることを爲す。民の若きんば、則ち恆の產無ければ、因って恆の心無し。苟も恆の心無ければ、放辟邪侈、せざるということ無からまくのみ。罪に陷るに及んで、然して後に從って之を刑[つみ]なうは、是れ民を罔[あみ]するなり。焉んぞ仁人位に在る有りて、民を罔すること爲す可けん
是の故に明君民の產を制して、必ず仰いで以て父母に事るに足り、俯して以て妻子を畜うに足り、樂歳には身を終うるまでの飽[あき]あり、凶年には死亡に免れしめて、然して後に驅って善に之かしむ。故に民の之に從うこと輕[やす]し。
三 1 こうさん 2 こうしん 3 よ 4 いや 5 ほうへきじゃし 6 いず
7 らくさい 8 まぬか
四 1 一定の生業。決まった職業。
2 一定不変の道徳心。
3 学識・徳行のある人。
4 一般の人。民衆。
5 豊年。
6 一年中。
7 腹いっぱい食べる。
五 1 限定 惟だ〜のみ ただ〜だけだ 2 仮定 苟も〜だ もし〜ならば
3 二重否定 ざるなし しないことはない 4 反語 鳶くんぞ〜や どうして〜か(いや〜ない)
5 使役 使AをしてBせしむ AにBさせる
六 1 恒産がないことによって。 2 犯した犯罪。
3 罪を犯すようにしておいて、犯したら処罰する。
4 「士」 5 対句 6 恒心
スルニ ヲ ギテハ ラ テ フルニ ニ
(3)今 也 制 民 之 產、仰 不 足 以 事 父 母、
二 一 レ 二 一
シテハ ラ テ フニ ヲ ニハ シミ ニハ ラシム レ ヲ
俯 不 足 以 畜 妻 子、樂 歳 終 身 苦、凶 年 不 免 於 死 亡。
レ 三 二 一 レ 二 一
レ ダ フコト ヲ モ ル ルヲ ラ ゾ アラン ムルニ ヲ
此 惟 救 死 而 恐 不 贍。1奚 暇 治 禮 義 哉。
レ レ レ レ 二 一
セバ ハント ヲ チ ゾ ラ ノ ニ
王 欲 行 之、則 21蓋 反 其 本 矣 。
レ レ レ 二 一
ウルニ ニ テセバ ヲ ノ シ テ ル ヲ
(4)五 畝 之 宅、樹 之 以 桑、五 十 者 可 以 衣 帛 矣。
レ レ 二 一レ
クバ スト ノ ヲ ノ シ テ フ ヲ
雞 豚 狗 彘 之 畜、無 2失 其 時、七 十 者 可 以 食 肉 矣。
レ 二 一 二 一レ
クンバ フコト ノ ヲ シ テ カル ウルkト
百 畝 之 田、無 3奪 其 時、八 口 之 家 可 以 無 飢 矣。
レ 二 一 二 一レ
ミ ヘヲ ブルニ ヲ テセバ ヲ ノ セ
謹 庠 序 之 ヘ、申 4之 以 孝 悌 之 義、頒 白 者 不 負―戴
ニ ヲ ヒ ヲ ヱ カラ リ 二
於 道 路 矣。老 者 衣 帛 食 肉、黎 民 不 飢 不 寒、然 而
一 レ レ レ レ
ザル ハ ダ ラ ト
不 王 者、3未 之 有 也。」
レ 二 一
ル
一 書き下せ。
二 口語訳
今の諸侯は人民の生業を取り計らってやるのに、上は父母に仕えることも満足にできず、下は妻子を養うにも事欠く始末で、幸いに豊作が続いても一生涯苦しみ通し、もしひとたび凶作に出会えば餓死するというありさま。これでは明けても暮れても死なずにすむようにとあくせくするばかり、とても礼儀など収める暇もない。王がもし本当に仁政を行なおうとするなら、なぜ、根本に立ち返らないのか。
五畝の宅地の周りに桑を植えて養蚕をさせると五十過ぎの老人は普段でも絹物が着られる。また、鶏・豚・犬・雌豚などお家畜を飼わせて子をはらんだり育てているときいは殺さないようにさせると、七十過ぎお老人は肉食ができる。農繁期には力役や軍事などにかりださねければ百畝の田で八人くらいの家族ならば火も辞意日には合わない。学校での教育を重視して特に大切な親への孝行目上の人への悌の道徳をよく教えて、その精神を引き締めれば、白髪混じりの老人が路上で重い荷物を頭に載せたり、背負ったりする風景はなくなる。老人が絹物を着てうまい肉を食べ庶民が飢えも凍えもしない。こういう政治を行って遂に天下の王者とならなかった人はまだ一度もない。
三 次の語の読みを現代仮名遣いで記せ。
1 奚 2 畝 3 帛 4 庠序 5 謹 6 孝悌 7 頒白 8 負―戴 9 黎民
四 次の語の意味を辞書で調べよ。
1 孝悌
2 負戴
3 黎民
五 二重線部1〜3の文法事項に答えよ。
1 奚〜哉
2 蓋
3 未
六 傍線部1〜4の問いに答えよ。
1 「反基本」とは具体的にどうすることか。
2 どういうことか。
3 どういうことか。
4 「之」の指示内容を記せ。
構成
主題 王道政治=民衆の生活の安定
(1) (2) (3) (4) |
節 |
王道政治の根本 明君 現在 王道政治の具体策 |
事項 |
刑罰に処す → 法罔にかける 恒産(経済生活の安定) 恒産の調整上手 → 善にすすませる → 恒産の調整下手 → 政治の根本に帰れ 1五畝の宅地に桑 2鶏豚犬飼育 3百畝の田に農耕 4学校教育 |
為政者 |
王 恒産無し →恒心あり 民 恒産無し →恒心無し→悪事 恒心(動議真の向上) @ 父母妻子を養える 豊年 凶年 可 A 善 ←従う @ 父母妻子を養えない 豊年 凶年 不可 A 礼儀が身に付かない |
民衆 |
解答
一
(3)今民の產を制するに、仰いでは以て父母に事るに足らず、俯しては以て妻子を畜うに足らず、樂歳には身を終うるまで苦しみあり、凶年には死亡を免れず。此れ惟死を救うだも贍[た]らざらんことを恐る。奚んぞ禮義を治むるに暇あらんや王之を行わまく欲せば、則ち盍[なん]ぞ其の本に反らざる。
(4)五畝の宅、之に樹うるに桑を以てせば、五十の者以て帛を衣る可し。雞豚狗彘[くてい]の畜い、其の時を失うこと無くば、七十の者以て肉を食らう可し。百畝の田、其の時を奪うこと勿くば、八口の家以て飢うること無かる可し。庠序のヘを謹み、之に申[かさ]ぬるに孝悌の義を以てせば、頒白の者道路に負戴せじ。老者帛を衣肉を食らい、黎民飢えず寒からず、然して王たらざる者は、未だ之れ有らず、と。
三 1 なんぞ 2 ほ 3 きぬ 4 しょうじょ 5 つつし 6 こうてい 7 ふたい
9 れいみん
四 1 親に孝行を尽くし、長兄に仕えて従順なこと
2 荷物を背負ったり頭に載せたりして運ぶ。
3 白髪混じりの頭髪。
五 1奚〜哉 反語 奚ぞ〜ん どうして〜か(いや〜ない)
2 再読文字 蓋ぞ〜ざる どうして〜ないのか(いや〜すればよいではないか)
3 未 再読文字 未だ〜ない まだ〜ない
六 1 民衆の生活安定のため職をあたえてやること
2 家畜が繁殖生育する時期
3 国が労役などに民衆を挑発して農耕の時期を妨害すること。
4 学校で習得した成果。